この記事でわかること
- 脅迫的な問題社員への法的かつ現実的な対応策
- 労務対応と刑事対応を組み合わせる理由
- 警察を動かすための具体的な考え方
この記事のポイント
- 脅迫は「労務問題」ではなく「危機管理問題」
- 弁明書や診断書精査は戦略的対応手段
- 刑事告訴は警察を動かす実務的スイッチ
「復讐してやる」「ただでは済まさない」。従業員から、そのような言葉を向けられたとしたら、経営者としてどう対応すべきでしょうか。解雇規制が厳しい日本では、感情的に動くことはできません。では、労務対応だけで会社と従業員の安全は守れるのでしょうか。
実際に、パワハラを理由に休職中の従業員が精神疾患の診断書を提出しながらも、脅迫的言動を繰り返す、という事案への対応に苦慮した企業があります。本記事では、そのような事案をもとに、労務と刑事を組み合わせた実務戦略を解説します。危機管理の視点から、企業が取るべき現実的な選択肢を整理します。
脅迫する問題社員は「労務問題」ではない
ある企業で、休職中の従業員が「会社を訴える」「仕返しをする」と繰り返し連絡してきた事例がありました。その従業員は、精神疾患の診断書を提出していましたが、その一方で攻撃的なメールを送信し続けていました。経営者は「解雇したいが不当解雇になるのでは」と迷い、警察に相談しましたが「実害が出てから」と消極的な対応でした。
ここで重要なのは、脅迫は単なる「労務問題」ではないということです。会社の秩序だけでなく、従業員の安全にも関わります。つまり、法令遵守の問題ではなく、リスク管理の問題なのです。とはいえ、感情で解雇すれば逆に不利になります。だからこそ、冷静な戦略設計が必要です。
診断書の矛盾は戦略的に扱う
短期間で異なる診断が出た場合の対応
実際にあった事例では、最初は長期療養が必要とされる診断書が提出されました。しかし、数週間後には「就労可能」との別の診断が示されました。会社としてはどちらを前提に判断すべきか分からなくなります。
このような場合、「判断不能」として産業医面談を求めることが可能です。診断書の整合性確認や医師への照会を通じて、会社として合理的判断を行う体制を整えます。
弁明書提出がもつ心理的効果
その問題社員に対して「脅迫発言の真意について弁明書を提出してください」と求めた結果、本人は提出を拒み、その後自主退職に至りました。
弁明を求めることは単なる形式ではありません。自らの行為を説明し、謝罪し、再発防止を誓うというプロセスは、問題社員にとって大きな心理的負担となります。合法的な枠組みの中で、退職を選択させる環境を整えることができるのです。
警察が動かない理由を理解する
警察は「相談」だけでは積極的に動きません。実際、脅迫メールを提示しても「具体的な被害が発生していない」として様子を見るよう助言された事例があります。
警察には職務権限の範囲があり、任意相談では捜査義務は生じません。そのため、会社としては「動いてもらえない」という印象を受けがちです。しかし、ここで視点を変える必要があります。
刑事告訴が持つ実務的意味
告訴受理と捜査義務
弁護士名義で刑事告訴を行うと、警察には法的な捜査義務が発生します。脅迫を受けていたその企業では、告訴受理後に警察が本人へ警告を行い、その後、問題行動が止まりました。逮捕が目的ではありません。警告や事情聴取だけでも抑止力となります。
企業単独と専門家対応の違い
一般の企業が被害届を出しても受理されないケースがあります。一方で、専門家による法的構成を整理した告訴状は受理されやすくなります。これは警察内部の手続構造に基づくものであり、感情論ではありません。とはいえ、告訴は慎重に判断すべきです。関係悪化のリスクもあります。だからこそ、専門家とともに戦略として設計する必要があります。
外国人社員対応とテクノロジー活用
日本語でのやり取りを理由に責任を回避する従業員もいます。ある事例では、日本語での説明に対し「ニホンゴワカラナイ」と主張されましたが、AI翻訳を活用し、英語で正式文書を送付しました。結果、言語の壁を排除し、証拠として残る形でやり取りを行うことで、主張の曖昧さを封じることができました。
外国人を雇用している労働環境では、テクノロジーの活用も重要な戦略です。
経営判断としての「守り」
問題社員対応は、勝つか負けるかではありません。会社と従業員の安全をどう守るかという判断です。
近隣に住む問題社員から「見ている」と示唆されたケースでは、従業員の不安が高まりました。刑事対応を含めた介入により、物理的リスクの低減が図られました。法的正当性と安全確保を同時に設計すること。それが危機管理型のアプローチです。
まとめ
- 脅迫は労務問題ではなく危機管理問題
- 診断書や弁明書は戦略的に扱う
- 刑事告訴は警察を動かす法的手段
- 言語や国籍の問題は技術で補完可能
とはいえ、どこまで踏み込むべきかは個別判断です。放置はリスクを高めます。自社だけで抱え込まず、専門家とともに戦略を設計することが安全確保への近道です。
FAQ:よくある質問
Q1. 精神疾患の診断書が出ている場合でも解雇できますか?
直ちに解雇することは困難ですが、診断内容の整合性確認や産業医面談を通じて合理的判断を行うことが可能です。脅迫行為がある場合は別途評価されます。
Q2. 警察に相談しても動いてもらえない場合はどうすべきですか?
任意相談ではなく、法的要件を整理した刑事告訴という手段があります。受理されれば捜査義務が生じ、対応の質が変わります。
| 著者:代表弁護士 和氣 良浩 |
| 企業法務(契約書レビュー、労務問題、M&A・株主対応など)から個人の相続・離婚・交通事故まで幅広く対応。経営のスピード感に応える迅速な助言と、感情面に配慮しクライアントが納得できる解決を重視しています。専門用語を避けた具体的な説明で、安心してご相談いただけるよう、利益の最大化を目指し最後まで伴走いたします。 |