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運送業での完全歩合給制度

経営者のアタマを悩ませる、残業代の未払いに関する問題。残業代の支払いに関して、使用者が個別に従業員との間で確認・合意をしたり、就業規則や賃金規程等で定めを設けていたとしても、いざ裁判となれば、使用者に対して高額な未払い残業代の支払いを命じられることもあるように思います。

特に運送業は、その業務の性質上、長時間の労働になることが多く、多額の残業代が発生することもあります。最近では、様々な法律事務所が、この運送業を対象にし、未払い残業代を請求しています。

令和2年4月の民法改正に伴い、賃金債権の消滅時効が2年から3年に延長されたことで、今後はますます未払い残業代の請求が増えることが予想されます。このまま未払い残業代問題に対して、きちんと対策しなければ多額の残業代を支払うことを余儀なくされ、結果として倒産ということも現実に起こり得ます。

したがって、使用者としては、残業代に関する問題についてどのように対応するのかを検討する必要があります。

どのような対策を行うべき?

標準の給与モデルを「月額給与=基本給(固定給)15万円+歩合給23万円+各種手当(所定労働時間150時間、残業時間80時間)」として考えていきましょう。

運送業での未払い残業代対策の現状

運送会社の給与体系について、典型的なものは以下のようなものではないでしょうか。従業員が長時間労働に従事しているが、使用者としては時間と生産性管理が難しいために割増賃金の支払いを歩合給で代替するものです。
 
給与=基本給+歩合給+無事故手当など各手当

もちろん、この給与体系では従業員が時間外労働を行った場合に、使用者が割増賃金の支払いをしていないとして、未払い残業代が発生する可能性が高いといえます。
 
そのため、対応策として、労働時間を基礎に算出される割増賃金額(残業代)と歩合によって算出した金額(歩合給)を比較し、その多い金額を運行時間外手当などの名目で割増賃金(残業代、時間外手当)として支払っている会社もあるかと思います。このような給与体系を採用しているのは、使用者としても従業員に対して残業代(割増賃金)は支払う必要があることは認識しているものの、運送業という性質から使用者としても労働者としても歩合給が馴染むと考えていることなど様々な原因があるかと思います。
 
給与=基本給+運行時間外手当(割増賃金)

上記給与体系に関して、従業員から割増賃金請求がされた事案があります。具体的には、運送会社において、運賃収入の70%に一定の率を掛けた金額(いわゆる歩合給)を運行時間外手当として支払っていた事案において、従業員から運行時間外手当として支払われたものは実質には歩合給であるなどとして、同手当の支給により割増賃金を支払ったということはできないと主張して争われました。

上記事案において、東京高等裁判所は、要旨、運行時間外手当の額は、労働基準法37条所定の計算方法に算出される割増賃金を下回らない、また、交付される給与明細書等によって内訳を確認することができ、割増賃金にあたる部分と割増賃金の基礎となる基準賃金に当たる部分との判別をすることができるとして、従業員の主張には理由がないと判断しました(シンワ運輸東京事件・東京高裁平成30年5月9日付け判決)。

最高裁判決により歩合給を割増賃金から控除する賃金体系が否定された!

クシー会社を舞台に賃金体系についてが争われた事案があります。

具体的には、タクシー会社が歩合給を計算するにあたって、売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当や深夜手当等に相当する金額を控除していた事案において、従業員から上記歩合給の計算を定めた規定は無効であるなどと主張して争われました。

上記事案において、最高裁判所は、要旨、上記賃金体系は、割増賃金を必要経費とみた上でその全額を従業員に負担させるに等しいものであって労働基準法37条の趣旨に反する、その実質において出来高払制の下で元来は歩合給として支払うことが予定されている賃金を時間外労働等がある場合には、その一部につき名目のみを割増金に置き換えて支払うこととするものになっているなどとして、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができないことになるとして、労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたということはできないと判断しました。

そのため、同様の給与体系を採用している場合には上記最高裁判決に照らして否定される可能性があるものと考えられます。

給与=固定給+歩合給(売上高等の一定割合に相当する金額ー割増賃金)+割増賃金
 
上記標準の給与モデルにおいて割増賃金を計算すると以下のとおり未払い残業代は月12万円、2年で288万円ほどにのぼります。今後は3年分の未払い残業代を請求されることになりますので上記金額を上回る金額となります。

基本給部分 15万円÷150時間×1.25×80時間=10万円
歩合給部分 23万円÷230時間×0.25×80時間=2万円

定額(固定)残業代制度も無効と判断されてきている!

未払い残業代対策として、定額残業代制度を採用している会社も多いと思いますが、80時間などの長時間労働を前提とする定額残業代制度は無効であると判断される可能性が高いといえます(イクヌーザ事件 東京高裁平成30年10月4日判決)。他方で、短時間の定額残業代制度であっても、実際の労働者の時間外労働の割増賃金と定額残業代の金額の差額の精算をしていない場合には定額残業代制度が無効であると判断される可能性が高いといえます(日本ケミカル事件 最高裁平成30年7月19日判決)。

定額残業代制度の場合であって差額を精算支払わなければならないことからすると、効率よく業務に従事して労働時間が短い従業員よりも、効率が悪く業務に従事して労働時間が長い従業員の方が賃金が高くなり、従業員間で均衡を保つことが困難であり、従業員の意欲低下にもつながりかねません。

したがって、定額残業代制度についても、使用者としてはその制度設計には慎重にならざるを得ません。

完全歩合給制度とは

使用者としては、運行時間外手当等による支払いや定額残業代制度の他にも、完全歩合給制度を採用することも検討することも一つであるといえます。

完全歩合給制度とは、全ての賃金を従業員の歩合、成果に応じて支払うものになります。もっとも、成果がなければ一切の賃金を支払わなくても良いというわけではなく、労働時間に応じ一定額の賃金を保障する必要はあります(労働基準法27条 出来高払制の保障給)。

歩合給は残業時間も含めた総労働時間に対する対価と捉えられているため、割増賃金の算定と基礎となる賃金(時給)の計算にあたっても総労働時間(すなわち残業時間も含めた合計の労働時間)で割ることになり(労働基準法施行規則19条1項6号)、その時間単価(時給)が低額になり、さらに、割増賃金も通常の時間外労働(1.25倍)とは異なって0.25倍した金額で足りることになります。

上記標準の給与モデルの金額が全て歩合給である仮定すると(歩合給38万円+各種手当)、割増賃金は月額3万3043円(38万円÷230時間×0.25×80時間≒3万3043円)、3年分でも120万円程度であり、その金額からしても訴訟等にはなりづらいとはいえます。

以上のとおり、完全歩合給制度によって割増賃金の支払額が減る見込みが高いとはいえます。

 
完全歩合給の給与計算方法
・出来高給の時間給=出来高給÷当月の総労働時間(残業時間含む)
・出来高給部分の割増賃金=出来高給÷当月の総労働時間(残業時間を含む)×0.25×残業時間

完全歩合給制度の導入はどうすれば良いの?

完全歩合給制度は割増賃金を減らすことができる可能性はありますが、その導入は就業規則や賃金規程の変更など労働条件の変更を伴うものでもあるため、制度を導入するのか、またどのような制度にするのかなど、使用者としては慎重な手続きをとるべきであるともいえます。

正しく設計・導入するためにぜひご相談ください!

運送業の皆様におかれましては、完全歩合給制度の導入を含めて、賃金体系の見直しについてご検討頂ければと存じます。弊所は、運送業の皆さまに対して、完全歩合給制度導入を含めて賃金体系の見直し、制度設計に関して積極的に支援しています。

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