工場での業務中にけがや病気をした場合、「労災になるのか」「けがの程度で補償は異なるのか」「仕事が続けられない場合の補償はあるのか」と気になる方もいるでしょう。本記事では、労災認定を受ける基準や労災となる事故事例、対象となる保険給付とあわせて、損害賠償の請求が可能なケースについて解説します。
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労災認定には2つの基準を満たす必要がある
工場での勤務が原因となってけがや病気をした場合、労災認定を受けるには「業務災害」と認められる必要があります。業務災害とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害、または死亡のことです。業務上の死傷病であることの認定には、以下の2つの基準が使われます。
<業務遂行性>会社(事業主)の支配下ないし管理下にあったか
<業務起因性>業務と傷病等との間に一定の因果関係があるか
業務遂行性
業務遂行性とは、「労働者が労働契約に基づいて事業主の支配管理下にある状態であること」と定義されています。業務災害と認定されるには、工場で起こった死傷病に対して業務遂行性が認められること、つまり事業主の支配管理下で起きた死傷病であることが必要です。
所定労働時間内や残業時間内であり、事業場施設内において業務に従事している場合は、特段の事情がない限り、業務災害と認められる可能性が高いです。また、担当業務を行うのに付随して必要な行為や、作業中の用便、飲水などの生理的行為も業務遂行性が認められる可能性が高いでしょう。
一方で、休憩時間の工場外への外出中や、工場内にいても就業前後であるといった私的な行為に起因する事故などは、業務災害とは認められない可能性が高いと考えられます。
業務起因性
業務起因性とは、「業務が原因となって死傷病が発生したこと」。業務と傷病等の因果関係が問われます。労災認定には、業務遂行性に加え、業務起因性が認められる必要があります。
なお、業務上の疾病を認めるには、原則として以下の3点が満たされる必要があります。
(1)労働の場に有害因子が存在していること
(2)健康障害を起こしうるほどの有害因子にさらされたこと
(3)発症の経過および病態が医学的にみて妥当であること
ただし、就業中であっても、労働者の私的行為(私用)や、労働者が故意にけがを負った場合などは、業務起因性がないものとして、労災と認められない可能性が高いといえます。
工場で労災となる事故の事例
工場内で起きた事故のうち、どのような死傷病が労災となるのでしょうか。厚生労働省の「労働災害事例」をもとに解説します。
作業場が暑くなり熱中症になった
機械器具製造業の労働者Aは、補助業務作業者として3日前に採用され、塗装が終わった製品をチェックして塗装不良のものは塗装の作業場所へ戻す業務に従事していた。当日(8月)も朝8時から勤務して、この作業を行っていた。
作業場所は乾燥設備や製品からの放熱により暑熱になっているため、周りの者が休憩時に水分補給を勧めたが、労働者Aは十分に摂っていなかった。また、工場内には換気装置が設けられているものの、労働者Aが作業を行う乾燥設備付近では十分な換気、通風が行われていなかった。 |
回転中のローラーに手の指が巻き込まれた
化学工業のB社では、上下に対向するローラーを用いたゴム形成用のロール機を使用していた。従業員Cは、このロール機の清掃業務を同僚と2人で行っていた。
労働者Cは同僚が停止スイッチを押したことを確認した後、ローラーが完全に停止したことを確認せずに、ローラー上部の部品に付着したゴムを取ろうと手を伸ばした。その結果、惰性で回転していたローラーに手が巻き込まれ、手の指を切断。 なお、このローラーには対向するローラーの隙間に挟まれる危険に対して、安全カバーや安全柵が設けられていなかった。また、清掃時にロール機を停止させる際の作業手順や、ヒューマンエラーに留意した非定常作業を労働者に周知できていなかった。 |
カビが付着した粉じんを吸い込んだ
食料品製造業のD社では、おがくず製の栽培培地を使用しており、当日は栽培培地にカビが多量に生えていたため、粉砕機で当該培地を粉砕して農家に肥料として提供する予定だった。
培地の粉砕作業開始から数分後に給気ファンと排気ファンを稼働させたが、視界が悪くなるほど粉じん濃度が高くなったため作業を中止。その後、労働者に発熱・咳などの症状が現れ、各自で病院を受診したところ、作業に従事していた12名が粉じんにばく露したことによる「過敏性肺炎」と診断された。 なお、粉砕機はベルトコンベアで培地を自動投入できる仕組みだったが、災害発生時は人力で投入しており、排気装置や注水設備は添えられていなかった。また、作業員は簡易マスクを着用していたが、防じん機能があるものではなかった。 |
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工場で起きた労災で対象となる保険給付とは
工場の業務災害で傷病があり労災が認定された場合、労災保険の対象となりうる給付は以下の5つがあります。
療養(補償)等給付
療養(補償)等給付は、業務災害等により療養を必要するときに給付されます。給付の対象となるのは治療費、入院料、移送費など、通常療養のために必要なものです。給付は傷病が治ゆ(症状固定)し、療養を必要としなくなるまで行われます。
症状固定とは
治療などの医療措置後に、傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果ができなくなった状態(その傷病の症状の回復・改善が期待できなくなった状態)のことです。
休業(補償)等給付
休業(補償)等給付は、業務災害等による傷病の療養のため、労働することができず、賃金を受けられないときに対象となります。休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額が給付されます。
あわせて、休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の20%相当額が「休業特別支給金」として給付されます。
給付基礎日額とは
給付基礎日額とは、事故が起きる直前の3カ月間に支払われた給料をその期間の日数で割った金額のことです。
実際に働いた日数で割るのではなく、休日も含めた日数(暦日数)で割ります。ボーナスなど、臨時的に支払われた賃金は計算に含みません。
障害(補償)等給付
障害(補償)等給付は、傷病が治ゆ(症状固定)と診断されたときに、残存している障害の程度(障害等級)に応じて申請により支給される給付のことです。下の図のように、障害等級に応じて「障害(補償)等年金」「障害特別支給金」のほか、「障害特別年金」または「障害特別一時金」が給付されます。
遺族(補償)等給付
遺族(補償)等給付は、業務等が原因で亡くなった労働者の遺族に対して行われる給付のことです。下の図のように、「遺族(補償)等年金」と「遺族特別支給金」のほか、「遺族(補償)等一時金」または「遺族特別一時金」が給付されます。
出典:『遺族(補償)等給付 葬祭料等(葬祭給付)の請求手続』厚生労働省
葬祭料等(葬祭給付)
葬祭料(葬祭給付)とは、業務災害等により死亡した人の葬祭を行うときに給付されるものです。通常は葬祭を行うにふさわしい遺族に対して、315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額が給付されます。なお、その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分となります。
出典:『労災保険制度の概要』『給付の請求手続等』厚生労働省
【関連記事】労災の後遺障害(後遺症)とは?認定方法や補償金額、手続きを解説
会社に安全配慮義務違反などがある場合は損害賠償が請求できることも
工場内での業務により労災事故に遭った場合、労災に認定され必要な申請を行えば、上記のような補償を受け取れます。しかし、労災保険からの給付は、労災により被った全損害を補償するものではありません。特に、死傷病を受けたことへの精神的苦痛に対する補償である慰謝料は、労災から給付されません。
そこで検討したいのが、会社への損害賠償請求です。安全配慮義務違反など会社に事故の責任があれば、損害賠償の請求ができます。
安全配慮義務とは
企業の安全配慮義務とは、労働者の生命や身体の安全、健康を確保することです。すなわち、企業は雇用する労働者の心身や業務環境において、危機発見とその事前排除を行う義務を負っています。これは、労働契約法5条および労働安全衛生法第3条にて定められています。
労働契約法5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。 労働安全衛生法第3条 |
安全配慮義務の範囲は、健康面だけでなく、職場環境面にもおよびます。企業では安全配慮のため、実際に以下のような対策を行わなければなりません。
- 機器の導入やメンテナンス、操作方法の指導
- 施設の安全対策など管理
- 従業員の労働時間の管理
- 従業員の健康診断やストレスチェックの実施
- 産業医やカウンセラーの配置 など
安全配慮義務違反による損害賠償の請求とは
上記の安全配慮義務について違反があると立証できれば、会社から損害賠償を受け取ることが可能となります。違反となるのは、「リスクの放置や対策の未実施など、労働者の心身の健康を害すると予測できた可能性があったにもかかわらず、配慮を怠った」と判断される場合です。
損害賠償として請求できるのは、慰謝料のほか、労災保険の対象外となる治療費や休業損害、逸失利益などがあります。しかし、安全配慮義務違反を個人で立証するのは難しいため、弁護士に早めに相談することが望ましいでしょう。
【関連記事】労災事故で怪我をした場合に慰謝料は請求できる?
労災でお困りの場合は、弁護士法人ブライトに相談を
工場での業務中にけがをした場合、業務災害であることが認められると労災と認定されます。けがの程度や後遺症の有無によって保険給付の種類は異なるため、自身が該当する補償に申請しましょう。また、会社に安全配慮義務違反がある場合は、損害賠償の請求が可能です。会社がこうした義務に反する場合や労災と認めない場合は、早めに弁護士に相談することが賢明です。
弁護士法人ブライトでは、労災問題に特化した「労災事故専門チーム」を擁しています。相談は3回まで無料(0円)で行っているため、安心してご相談ください。相談の結果、ご依頼いただかなけば、費用はかかりません。また、原則として完全成功報酬制を採用しているため、着手金も無料(0円)です。
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