取締役会の適切な運営方法。会社法上の規定や議事録作成の注意点など

取締役会の適切な運営方法。会社法上の規定や議事録作成の注意点など

取締役会は、会社の業務執行に関わる意思決定機関であり、適切な運営によって経営改善を図ることができます。しかし、運営方法を誤ると、取締役の責任問題につながりかねません。取締役会の運営については、会社法や会社法施行規則の定めに従う必要があります。また、実地での開催からオンライン開催へと移行する昨今、デジタル化に向けた知識も求められます。そこで今回は、法的見地に立った取締役会の運営方法と、オンライン開催のポイントについて取り上げます。

取締役会を運営する上で押さえておきたい基礎知識

そもそも取締役会の意義やあるべき姿とはどのようなものでしょうか。必ず押さえておきたい基礎知識を紹介します。

取締役会とは

取締役とは主に会社の業務執行を担う機関であり、すべての取締役によって組織する合議体を取締役会と呼びます(会社法362条1項)。取締役会を設置するには3人以上の取締役と監査役(もしくは会計参与)が必要とされ、代表取締役の選定が求められます(会社法331条5項、362条3項)。

取締役会の役割として、主に下記が挙げられます(会社法362条2項)。

●業務執行の決定
●取締役の職務執行の監督
●代表取締役の選定・解職

2006年の会社法改正以降、取締役会の設置義務はなくなり、設置するかどうかは会社の自由意思に委ねられています。ただし、以下の会社には取締役会の設置が義務づけられています(会社法327条1項)。

●公開会社
●監査役会設置会社
●監査等委員会設置会社
●指名委員会等設置会社   
 ※公開会社とは、株式の譲渡制限がない旨を定款で定めている株式会社のこと

取締役会が正しく機能すれば、さまざまなリスクを考慮しながら戦略策定や財務管理を行えるため、コーポレート・ガバナンスの強化につながるでしょう。また、取締役会は職務執行を監視する役割を担い、透明性の高い事業統制を可能にします。このようなことから、取締役会設置会社は健全な企業として社会的信用を得やすいと言われています。

ただし、取締役会非設置だからといって取締役の監督義務がなくなるわけではありません。取締役が監督義務を怠り、他の取締役の不適正な行為によって会社が損害を被った場合、賠償責任を負う可能性があります。

また、上場するには公開会社であることが求められるため、必然的に取締役会を設置する必要があります。2022年に改訂されたグロース市場の新規上場ガイドブックには、「上場審査基準において、取締役会の設置期間は定めておりませんが、上場審査では取締役会が適正に機能しているか等を確認することから、取締役会設置後、一定の運用期間を設けたうえで、申請いただくことが必要です」とあります。上場を検討している会社は、早めに専門家と相談の上、設置準備を進めましょう。

出典:日本取引所グループ「2022 新規上場ガイドブック(グロース市場編)改訂概要」

開催の頻度・時間・場所

取締役には、3カ月に1回以上、自己の職務の執行状況を取締役会に報告する義務があることから、必然的に取締役会は3カ月に1回以上開催しなければなりません(会社法363条2項)。スケジュール管理の効率化に向けて、曜日や時間を定め定例的に招集するケースも少なくないでしょう。ただし緊急事態発生時は、上記の頻度にかかわらず臨時の取締役会を開催して対応策を協議します。

取締役会を招集する際は、1週間前までに各取締役と監査役に通知する必要があります(会社法368条1項)。招集場所や時間に規定はありませんが、招集通知の欠如があった場合や、出席が困難な設定だった場合、決議が無効になる恐れがあります。

決議事項

会社法には、取締役会決議が必要な事項が定められており、決議を経ないまま執行した場合、決議無効や取締役の責任追及等の恐れがあります。会社法で定められている取締役会の決議事項は以下の通りです。

会社法362条4項で定められている決議事項

1.重要な財産の処分・譲受
2.多額の借財
3.支配人その他の重要な使用人の選任・解任
4.支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止
5.募集社債に関する重要な事項
6.内部統制システムの整備に関する事項
7.役員等の一部責任免除

362条4項では「その他の重要な業務執行の決定」も取締役会の決議事項と定めています。たとえば、年間事業計画の立案、年間予算の策定、資金調達方法、社内規定の制定・変更等は取締役会で決議する必要があり、取締役への委任は認められていません。

また、362条に限らず個別の条文にも、取締役会決議が必要な事項について定めがあり、株式・株主総会招集に関する重要な事項、代表取締役の選任・解任等は、取締役会の決議が必要です。

目下の懸案事項が取締役会の決議事項に該当するか否か迷った時は、責任問題に発展しないためにも、弁護士などの専門家の判断を仰ぐとよいでしょう。

円滑な運営に役立つ、取締役会規則と取締役会事務局

原則として、取締役会は取締役によって招集や決議が行われます。しかし、より円滑な運営のためには、「取締役会規則」の規定と「取締役会事務局」の設置を検討するとよいでしょう。

会社の実情に合わせて定める、取締役会規則

会社法にも取締役会に関する規定はありますが、会社ごとに取締役会規則を定め、会社法や定款を補完することがあります。取締役会規則の制定は法律上義務づけられているわけではありませんが、会社の実情に合わせたルールを定めた方が、取締役会を円滑に運営できるでしょう。開催頻度や決議の方法、議長の選任方法等、細かなルールを定め、内容に疑義が生じた場合も取締役会で改定します。

運営に関する実務を担う、取締役会事務局

取締役会は各取締役によって構成され、招集や議論も取締役が主体となって行います。しかし、実際には各取締役が、会の招集や運営をゼロから行うのは現実的ではないでしょう。そこで、取締役会事務局と呼ばれる部署を設置することで、取締役に業務が集中しないよう取締役会の運営をサポートすることができます。

取締役会事務局が担う実務として、下記が考えられます。

●年間スケジュール作成・日程調整
●当日のタイムテーブル作成・管理
●招集通知の作成・発出資料の作成・発出
●議事録の作成・保管
●実効性評価

取締役会事務局には会社法の知識が求められるため、法務が兼務するケースが多くみられます。2021年のコーポレートガバナンス・コード改定によって社外取締役の割合が急速に増加するなど、取締役会のあり方が変化する中、取締役会事務局が果たすべき役割はますます大きくなっています。

【フローに沿って紹介】取締役会の運営方法

取締役会は法律に則った方法で運営する必要があります。

取締役会の運営方法

各フローに沿って、事前・事後の手続きも適切に行ってください。

フロー①:招集の決定

原則として各取締役は取締役会を招集できますが、取締役会や定款で招集権者を定めることができます(会社法366条1項)。招集権を持たない取締役も、取締役会の目的事項を示し、取締役会の招集を請求することが可能です(会社法366条2項)。請求日から5日以内に招集通知が発出されない場合、当該請求をした取締役は自ら取締役会を招集できます(会社法366条3項)。

取締役に限らず、監査役や株主も取締役会を招集できる場合があります。たとえば、取締役の行為が会社の目的や法令等に反する恐れがある時は、取締役会招集の請求が可能です(会社法367条1項~3項、383条2項・3項)。ただし、社員が取締役会の招集を要求することはできません。

フロー②:招集通知

原則として、招集通知は開催日の1週間前までに取締役全員に発出しなければなりません。監査役に業務監査権限がある場合は、監査役にも通知が必要です(会社法368条1項)。

株主総会のように招集通知に議題を記載する必要はなく、開催日時と場所の記載があれば問題ありません。招集通知の不備や定足数の不足等、手続きや内容に瑕疵があった場合は決議無効となりうるため、注意が必要です。しかし、審議の充実を図るためには、事前に議題・議案の告知と資料配布を行うことが望ましいでしょう。招集通知は書面や電話に限らず、メールやチャットツールを利用しても問題ありません。ただし、取締役と監査役全員の同意がある場合、招集手続きを省略して開催することも可能です(会社法368条2項)。

フロー③:取締役会の開催

取締役会開催に向けて、選任された議長が議題の最終調整を行います。議長の選任方法や、当日の議事進行・決議については以下をご参照ください。

議長の決定方法

議長の決定方法について特段の規定はありません。代表取締役が議長を務めることが一般的ですが、取締役会の決議や定款によって選任が可能です。ただし判例上、特別な利害関係がある人は議長を務めることができません。

たとえば、取締役会で代表取締役の解職を決議する場合、代表取締役は特別な利害関係人とみなされる場合があります。また、取締役が会社の利益に相反する取引をしようとする時、その取引を承認する取締役会において、該当取締役は利害関係人とみなされます。

議長選任の優先順位を定めておく場合もあります。たとえば、第1順位・代表取締役、第2順位・専務取締役、第3順位・常務取締役、第4順位・取締役間の互選で定める、などの順位づけが考えられます。

決議方法

取締役会は、特定の場所で行う実地開催のほか、電話会議やテレビ会議、Web会議等のオンライン開催が認められています(会社法第369条3項、会社法施行規則101条3項)。

議題には以下の2種類があります。

●決議事項:取締役会での決議が必要な事項
●報告事項:取締役会での報告で足る事項

決議事項については前章で取り上げましたが、報告事項は下記のような例が挙げられます。

●取締役による自己の職務の執行状況の報告(会社法363条2項)
●株式会社等との取引に関する重要な事実(会社法365条2項)
●監査役による取締役の不正行為等の報告(会社法382条)

議事進行について特段の定めはなく、一般的な会議同様、議題の提示→審議→決議という流れとなります。

決議に求められる要件は以下の通りです(会社法369条1項)。

●議決権のある取締役の過半数が出席
●出席した取締役による過半数の賛成
 ※これを上回る割合を定款で定めることも可能です

ただし、取締役全員が議題に対し書面等で同意の意思表示をした場合、取締役会を招集せずとも、決議があったものとみなすことができます。これを「書面決議(みなし取締役会)」といい、あらかじめ定款で書面決議が可能な旨を定める必要があります(会社法370条)。

また、6人以上の取締役が在籍し、その中に社外取締役が1名以上いる会社の場合、下記の決議を特別取締役に委ねることができます(会社法362条4項、373条1項)。

●重要な財産の処分・譲受
●多額の借財

フロー④:議事録の作成

取締役会では、議事録の作成が義務づけられています(会社法369条3項)。正当な理由なく議事録を作成していなかったり、作成や保管方法に不備があったりすると、100万円以下の科料に処せられる可能性があります。

議事録には、出席した取締役と監査役の署名もしくは記名押印が求められます(会社法369条3項)。実印である必要はなく、認印による押印も有効です。議事録の詳しい作成方法は次章をご参照ください。

フロー⑤:議事録の保存

取締役会議事録は開催日から10年間、会社本店に保管し、株主や債権者からの閲覧・謄写の請求に応じる必要があります(会社法371条)。

取締役会の議事録を作成する際の注意点

取締役会議事録の作成方法と記載事項について解説します。デジタル化が進む中、取締役会議事録の作成方法にも変革の波が訪れています。

作成方法

議事録は書面のほか電磁的記録による作成が認められています。これまでも電磁的記録による議事録の作成や電子署名は認められていましたが(会社法369条4項)、クラウド型のような電子署名サービスの利用は適法とみなされていませんでした。しかし、2020年5月、法務省が取締役会議事録におけるクラウド型電子署名を認める見解を示したことから、議事録のデジタル化が進んでいます。

記載事項

取締役会議事録の記載事項は法律上で定められており、不備がないよう記載する必要があります。主な記載事項は下記の通りです(会社法施行規則101条)。

●取締役会の開催日時・場所
●全取締役と全監査役の人数
●出席取締役・出席監査役・議長の氏名
●議題・議事の経過・決議の結果
●リモート出席者がいる場合の参加方法(テレビ会議、Web会議等)
●議題に関して特別の利害関係を有する取締役の氏名

議事録には出席者が行った発言の要旨を記載しますが、決議に対する異議があった場合は特に注意が必要です。議事録に異議をとどめない者は、その決議に賛成したものと推定されるため、反対意見を正確に記録しなければなりません(会社法369条5項)。誤った判断によって企業や株主に損害が生じた場合、取締役に対し損害賠償請求が行われる可能性もあります。当該議題に自ら異議をとどめた場合にはその旨の記載を残しておくべきでしょう。

取締役会をオンライン開催する際のポイント

感染症流行を機に、書面決議による方法のほか、取締役会のオンライン化が進行しています。オンライン開催のポイントを解説します。

オンラインでの出席者であっても、その場ですぐに意見を交換できる環境を確保しなければなりません。つまり、出席者の音声と画像が即座に他の出席者に伝わり、出席者が一堂に会している状態と同じ環境が求められます。条件が整えば、一部の出席者のみオンラインで参加するという形式も有効です。

オンライン開催の場合、議事録には下記の記載が必要です。

開催場所全員リモート参加の場合も開催場所の記載が求められるため、
議長の所在場所等を指定します
出席場所「個人宅」等
出席方法「テレビ会議」「Web会議」等
出席方法の要件「即時性と双方向性を満たしていた」旨の記載

参加方法を招集通知に記載する

オンライン開催の場合、招集通知に参加方法を記載しなければなりません。利用するサービス(Zoom等)とアクセスするためのURL、ID、パスワードを出席者全員に通知します。

インターネット環境を整える

オンラインでの審議が成立するには「即時性」と「双方向性」を満たす必要があり、開催場所と出席場所のインターネット環境が整っていなければなりません。通信トラブルが発生した場合、決議が無効になる可能性もあります。トラブル発生時は、いったん審議を中断して別のシステムに切り替えるか、通信の復旧を待つ必要があるでしょう。審議の中断が難しい場合は、復旧後、出席者全員に議事の経過を伝えた上で意見を求めるという対応が考えられます。

セキュリティ対策を徹底する

オンライン開催の場合、パスワードの漏えいによって第三者の入室を許したり、パソコンの画面を第三者に見られたりするリスクがあります。取締役会には会社の重要な内部情報が含まれていることを念頭に置き、システムや出席場所のセキュリティを見直す必要があるでしょう。万全のセキュリティ対策を整え、流動的な社会状況に即応できる柔軟かつ瑕疵のない取締役会を運営しましょう。

取締役会の運営に関する困りごとは、弁護士に相談を

取締役会は、会社法の定めに従った適切な運営が求められます。さらに昨今、社外取締役の人数・割合が増加するなど取締役会のあり方が変わりつつあり、取締役会の運営は複雑化する傾向にあります。今後、取締役会事務局にコミットメントを求められる場面が増え、役割や負担が大きくなることが考えられます。しかし、会社によっては取締役会の運営に十分なリソースを割けないということもあるでしょう。そのような場合、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

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