【弁護士解説】キャンセル料の請求方法。トラブルを防ぎ損失を生まないためにできる対策とは

【弁護士解説】キャンセル料の請求方法。トラブルを防ぎ損失を生まないためにできる対策とは

飲食店や宿泊施設にとって、無断キャンセルを表す「No show」は死活問題です。予約客が事前連絡なしに現れない事態は当日の運営に支障をきたすばかりか、キャンセル料を回収できなかった場合、大きな痛手となります。今回は、キャンセル料の請求方法やキャンセルを未然に防ぐ方策について、法的見地を交えながら解説していきます。

ホテルや飲食店などにおける予約キャンセルの現状

近年、飲食店や宿泊施設の予約はオンラインが主流です。オンライン予約システムの活用は、店側にとって業務効率化につながる反面、予約手続きの手軽さから無断キャンセルが後を絶ちません。

2019年にIT企業が実施した「飲食店の無断キャンセルに関する消費者意識調査」によると、無断キャンセルの最多理由は「場所確保のためにとりあえず予約」でした。2018年に経済産業省が取りまとめた「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」によると、無断キャンセルによる被害額は年間約2,000億円と推計されています。宿泊業界でも無断キャンセルによる年間被害額は90億円以上と言われており、No Show問題は各業界において喫緊の課題です。

参考:株式会社TableCheck「第3回 飲食店の無断キャンセルに関する消費者意識調査」

店側はキャンセル料を請求できるのか?

予約がキャンセルされた場合、店側には売上機会だけでなく、準備にかかる材料費や人件費、光熱費などさまざまな損失が発生します。お客様に対してキャンセル料は請求できるのでしょうか。

飲食店や宿泊施設の予約は契約行為にあたり、予約手続きが完了した時点で客側は予約内容を履行する義務を負います。そのためキャンセルは、民法415条に定められた債務不履行にあたり、損害賠償責任が発生します。たとえ席のみの予約や少人数の予約であっても、客側には支払い義務が生じるため、キャンセル料を請求することができます。

【民法第415条 条文第1項】

(債務不履行による損害賠償)
1.債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

ただし、条文でも触れられているように客側を責めることができない理由によるキャンセルの場合は、請求できないことになっています。例えば、自然災害や交通機関の麻痺、身内の緊急事態などが考えられます。

飲食店/宿泊施設における損害賠償額(キャンセル料)の考え方

キャンセル料は、業態や予約内容、何日前にキャンセルの連絡が入ったかによって、段階的に設定する考え方が一般的です。キャンセル後に損害を補てんできる可能性がどの程度あるかが各事情によって異なるためです。

飲食店における当日キャンセルの場合、コース予約は全額請求となるケースがほとんどですが、席のみの予約であれば平均的な客単価から転用可能な原材料費や人件費、賃料などの固定費を差し引いて算定する方法が一般的です。宿泊施設における無断キャンセルの場合は、概して全額請求となります。とくに団体予約やスイートルームの無断キャンセルは損害が大きくなるため、キャンセル料も高額になります。

昨今は、飲食店の場合、キャンセルの連絡が当日に入ったとしても、SNS等を活用して新たな客を呼び込める可能性がありますが、どの程度補てんできるかはわかりません。また、宿泊施設における当日キャンセルは、キャンセル分を補てんすることは通常容易でないことでしょう。

このように、業態を問わず各事業者の事情に応じたキャンセル料の設定が考えられますが、事業者は根拠を持って算定することが必要です。なお、消費者契約法第9条で損害賠償額の予定の上限が定められており、超過部分は無効となるため注意が必要です。

損害賠償額(キャンセル料)の上限について

損害賠償額の予定又は違約金(以下「違約金等」という。)を定めた場合、その額が一定の限度を超えるときに、その限度を超える部分の契約条項は無効とされています。また、遅延損害金は年利14.6%が上限です。

例えば、事業所によってはキャンセルに対し違約金を定める場合がありますが、平均的な損害額が4万円と考えられる事例において、損害賠償額を3万円、違約金を2万円に設定すると、損害賠償額と違約金の合計が平均的な損害額を上回るため、超過部分は無効となります。キャンセルポリシーを定める際も、損害賠償額の予定の上限に留意しなければなりません。

また無断キャンセルを不法行為と捉えると、法律上は慰謝料請求も可能ですが、実際に認められることは難しいでしょう。

参考:消費者庁「消費者契約法第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)」

故意の場合は罪に問える可能性がある

故意に行われた無断キャンセルは営業妨害にあたり、刑事責任を問うことを検討する場合があります。「偽計業務妨害罪」(刑法233条)が認められれば、3年以下の懲役、または50万円以下の罰金が科せられます。

また、軽犯罪法1条31号で「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害」する行為が禁止されており、無断キャンセルも処罰の対象となる可能性があります。軽犯罪法違反の法定刑は、1日以上30日未満の拘置、または1,000円以上1万円未満の科料です。

参考:法務省「軽犯罪法(昭和二十三年法律第三十九号)」

キャンセル料の請求方法

キャンセル料請求には消滅時効があります。宿泊料の債権は1年という短期消滅時効が定められていましたが、2020年に施行された改正後民法で、他業種同様、原則5年に統一されました。5年の猶予はありますが、相手側が即時請求に応じるケースは少ないため、早めの対応をおすすめします。なお、2020年4月以前に発生した宿泊施設のキャンセル事例は、1年の短期消滅時効が適用される点に注意が必要です。

<方法1>キャンセルした相手と交渉する

キャンセル料が発生した際に必ず相手と連絡をとれるよう、予約受付時に電話やメールなどの連絡先を押さえることが大切です。請求の際は履歴が残るよう、電話だけでなくメールでの連絡をおすすめします。予約が入った日時や内容を記載するとともに、請求額や支払方法、支払期日を伝えましょう。キャンセル事例が多い事業者であれば、相手との連絡や交渉を弁護士に依頼するという選択肢もあります。

<方法2>法的手続きをとる

直接連絡しても支払いの意思が見られない場合、弁護士に相談して交渉や法的手続きに移行することも検討しましょう。可能な限りで相手の住所や連絡先等の調査を行い、内容証明郵便を送付するなど、債権回収の手段を講じます。相手が内容証明郵便の受取を拒否したり、再三の催促に応じなかったりした場合、最終手段として訴訟などの法的手段を講ずることになります。この場合、賠償を求める金額と回収に要するコストを勘案し、どこまでの手段を講ずるかは弁護士に相談して決めることになるでしょう。

キャンセルを防ぐためにできる対策

キャンセルへの対応は時間と労力がかかるだけでなく、強硬に請求する姿勢を見せると悪評につながる恐れもあります。そのような事態を避けるためにも、キャンセルはできるだけ未然に防ぐ必要があります。対策として、下記のような方法が有効です。

<対策1>キャンセルポリシー(キャンセル規定)を定める

キャンセルポリシーとは、予約のキャンセルに関するルールのこと。キャンセルポリシーは無断キャンセルの抑止につながるだけでなく、請求の根拠や証拠として役立ちます。また、キャンセルポリシーに則って請求できるため、事例ごとに請求額を算定する必要がなく、手続きの簡素化を図れるでしょう。

キャンセルポリシーの記載事項に法律の定めはなく、事業者が独自に策定できますが、事業者側と客側の双方にとって公平な内容にする必要があります。主な記載事項は、キャンセルの受付期限、キャンセル料金、キャンセルの方法、キャンセル料の入金方法などが一般的です。また、無断キャンセルを行った場合の利用制限を定めることも、キャンセルの抑止力になります。内容としては、予約回数や予約期間の制限などが考えられます。

キャンセルポリシーに定めるキャンセル料は、飲食店の場合、席のみの予約かコース予約か、少人数かパーティかなど、条件に応じた設定が求められるでしょう。宿泊施設におけるキャンセル料は、地域性や季節を加味しながら、同業他社の平均的な損害額を超過しないよう設定する必要があります。弁護士に相談の上、業態や事業者の実情に即したキャンセルポリシーを策定してください。

また、定めたキャンセルポリシーは、客の目にとまる場所に表示することが重要です。オンラインで予約を受け付ける場合、「キャンセルポリシーに同意する」というチェックボックスの入力を条件にする、予約確認メールにキャンセルポリシーを記載するという方法もあります。

<対策2>予約の日時をリマインドする

予約の数日前や前日にリマインドメールを送信することで、「うっかり忘れ」が原因の無断キャンセルを防止できます。多忙な相手を気遣いつつ、来店を心待ちにしている旨の一言を添えると、ホスピタリティ向上にも役立つでしょう。自動リマインドメール配信機能や、SMS送信サービスなどを活用する店も増えています。

<対策3>「デポジット制度」を設ける

デポジットとは、「保証金」や「預かり金」のことで、予約時に前受金を預かるシステムです。事前決済やデポジット制度の導入によって、キャンセルを予防し、また、キャンセルによる損害を補てんすることができます。導入によって予約数の減少を招く可能性はありますが、利用者に特典や付加サービスなどのインセンティブを設定すれば、利用促進につながるでしょう。

キャンセル料の請求に悩んだら、信頼できる弁護士に相談しよう

キャンセル料の請求を行う場合、請求額の上限などに法的な定めがあるため、法的見地を交えて手続きした方がトラブルを招きにくいでしょう。また請求の際は、弁護士名義で通知した方が相手に事の重大性を認識してもらいやすいため、回収がスムーズに運びます。キャンセル料の請求に疑問や悩みが生じたら、信頼できる弁護士法人に相談することをおすすめします。

弁護士法人ブライトが提供している「みんなの法務部」は、事業者の法律にまつわるさまざまな問題をサポートするサービスです。債権回収のご相談だけでなく、キャンセルを未然に防ぐ対策を講じるお手伝いも可能です。キャンセル料請求や回収代行に関する悩み事は、「みんなの法務部」までご相談ください。

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