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東京都で全国初の「カスハラ防止条例」の制定が検討され、具体的な行為や基準の方針が提示されたことがニュースで話題となりました。三重県でも(2024年6月13日現在)条例制定に向けて動き出しています。今回は、カスタマーハラスメントについて解説します。
カスタマーハラスメント(以下カスハラ)は、顧客や取引先から従業員に対して行われる不適切な行動や要求を指し、企業や従業員に深刻な影響を与える問題です。
具体的には、暴言や暴力、不当な要求、過度のクレーム、差別的な発言などが該当します。これらの行為は、従業員の精神的・身体的な健康を損なうだけでなく、職場全体の士気や生産性を低下させる可能性があります。
カスハラの具体的な影響は、精神的なストレス、身体的な健康問題、職場環境の悪化、さらには企業全体の士気や生産性の低下など、多岐にわたります。
カスハラの主な影響の一つは、従業員に対する精神的なストレスです。
顧客からの暴言や脅迫、過度なクレームに対処することで、従業員は強い心理的プレッシャーを感じます。このようなストレスが蓄積されると、うつ病や不安障害などのメンタルヘルス問題を引き起こす可能性があります。
また、精神的な疲弊が進むと、職務への意欲や集中力が低下し、業務パフォーマンスに悪影響を及ぼします。
精神的なストレスは、身体的な健康にも悪影響を与えることがあります。
長時間のストレス状態にさらされることで、頭痛、胃痛、不眠症などの身体的症状が現れることがあります。さらに、極端な場合には、心臓病や高血圧などの深刻な健康問題を引き起こすこともあります。カスハラによる身体的な影響は、従業員の長期的な健康に重大なリスクをもたらします。
カスハラは、職場全体の環境にも悪影響を及ぼします。
特定の従業員が頻繁にカスハラの対象となる場合、その職場全体の士気が低下することがあります。従業員同士の信頼関係や協力意識が損なわれると、チーム全体の生産性や業務効率が低下します。また、カスハラが横行する職場では、従業員の離職率が高まる可能性があり、優秀な人材の確保が難しくなることもあります。
カスハラが頻発することで、企業全体の評価やブランドイメージにも影響を与える可能性があります。顧客からの信頼を失うことはもちろん、従業員からの信頼も失われると、企業の競争力が低下します。
さらに、カスハラ対策が不十分な場合、労働問題として法的な責任を問われることもあり、企業の財政的負担が増加するリスクもあります。
近年、カスハラの問題が深刻化し、特にサービス業や小売業での被害が増加しています。
これに対し、全国初の「カスハラ防止条例」が東京都で制定される流れとなり、他の自治体でも同様の取り組みが検討されています。
東京都は2023年に全国初となる「カスタマーハラスメント防止条例」の制定を目指した「カスタマーハラスメント防止対策に関する検討部会」を立ち上げ、検討を開始しました。
この条例は、カスハラ行為を具体的に定義し、企業が取るべき対策を、ガイドラインで明確に示すことを目的としています。条例の主な内容は以下の通りです。
2024年6月時点では、東京都のカスハラ防止条例に、法的な罰則規定を設けないことが示されています。しかし、ガイドラインを通じて具体的な禁止行為を明示し、企業が遵守すべき行動基準を示すことが検討されています。
東京都に続き、他の自治体でもカスハラ防止に向けた動きが進んでいます。
特に、三重県では同様の防止条例の制定が検討されています。三重県は、東京都の取り組みを参考にしながら、自県の実情に合わせた対策を模索しています。
東京都はカスハラ防止条例の制定に際して、カスハラと判断される行動の基準を例示することも検討しています。以下は、厚生労働省の提示するカスタマーハラスメントにおける具体的な判断基準です。※
顧客や取引先からの要求が妥当であるかどうかを評価することが重要です。
具体的には、その要求が業務の範囲内として合理的であるか、契約に基づいて正当なものであるかを確認します。
例えば、製品やサービスの不具合に関する合理的な修正要求は妥当とされますが、過剰な値引きや不当に高い補償を要求する場合は、その妥当性が問われます。このように、要求内容の合理性を検討することが、カスハラの判断において重要なポイントとなります。
要求を実現するための手段や態様が社会通念に照らして相当な範囲内かどうかも重要な判断基準です。具体的には、顧客が提供する情報に基づいて適切な対応を求めるのは妥当ですが、従業員に対する威圧的な態度や不適切な言動、無理な時間帯の連絡などは、その手段が不適切であると判断されます。
例えば、長時間にわたる電話や執拗な訪問、暴力的な言動や脅迫などがこれに該当します。
従業員に対する暴行や傷害、言葉による脅迫や侮辱、名誉毀損、差別的な発言など身体的な攻撃や精神的な攻撃もカスハラと判断されます。
これらの行動は、従業員の健康と安全を直接的に脅かすため、カスハラとして厳しく取り締まる必要があります。
繰り返される嫌がらせや執拗な要求もカスハラの基準に該当します。
例えば、同じ要求を何度も繰り返す、不必要に長時間拘束する、同じクレームを繰り返すなどの行動がこれに該当します。このような行為は、従業員の精神的な負担を増大させ、職場環境を悪化させる原因となります。
差別的な発言や性的な嫌がらせもカスハラとして認定されます。
例えば、従業員の人種、性別、年齢、宗教などに基づく差別的な言動や、性的なコメントや行動がこれに該当します。これらの行為は、従業員の尊厳を傷つけるものであり、厳しく取り締まるべきです。
以下に、実際にあった具体的な事例を挙げて、カスハラに該当する行為を紹介します。
ある小売店での事例です。男性顧客が購入した商品に不具合があるとして店員にクレームを入れました。店員が返品手続きを案内した際、その顧客は突然激昂し、商品を店員に投げつけました。さらに、店内で大声を上げて「こんな店、潰れてしまえ!」と脅迫的な言葉を浴びせました。
店員はこの行為に恐怖を感じ、その後も精神的なストレスから業務に集中できなくなりました。
飲食店で働く女性店員が経験した事例です。女性店員があるテーブルの注文を取りに行った際、男性客が彼女に対して「こんな店でしか働けないのか」「もっとまともな仕事に就け」と侮辱的な発言を繰り返しました。
さらに、その顧客は他の客の前で女性店員を大声で叱責し、彼女の自尊心を傷つけました。このような行為は、明らかにカスハラに該当し、店員の精神的な健康に悪影響を及ぼしました。
不動産業界での事例です。ある顧客が賃貸物件を契約した後、契約内容には含まれていないサービスを無償で提供するよう繰り返し要求しました。
具体的には、引越しの手配、インターネットの無料設置、家具の搬入などです。
さらに、これらの要求が断られると、顧客は「契約を破棄する」と脅迫し、不動産会社の担当者に対して過剰なプレッシャーをかけ続けました。
カスタマーサポートセンターでの事例です。ある顧客が製品の技術的な問題でサポートセンターに連絡し、担当者に対応を求めました。
担当者が問題解決のための手順を説明している最中、その顧客は頻繁に話を遮り、解決策を一方的に否定しました。さらに、複数の担当者に同じクレームを何度も繰り返し、サポートセンター全体の業務を妨害しました。最終的に、担当者たちはこの顧客からの電話を恐れるようになり、業務効率が大幅に低下しました。
医療機関での事例です。外国人看護師が働く病院で、ある患者がその看護師に対して「外国人だから信用できない」「言葉が通じないから嫌だ」と差別的な発言を繰り返しました。
さらに、その患者は他のスタッフに対して「彼女を担当から外せ」と何度も要求し、看護師の業務遂行に支障をきたしました。
このような行為は看護師の尊厳を傷つけ、職場環境を悪化させました。
2024年6月現在、カスハラ条例には罰則規定が設けられない予定です。その代わりに、具体的な禁止行為はガイドラインで明示することが検討されています。
ガイドラインは、厚生労働省の基準をもとに、具体的な禁止行為として以下のようなものが挙げられることが予想されます。
これらのガイドラインは、企業が従業員を保護し、健全な職場環境を維持するための指針を提供することになります。罰則規定がないからといって、カスハラ行為が容認されるわけではありません。企業は、これらのガイドラインを遵守し、カスハラ行為が発生した場合には迅速かつ適切に対応する義務があります。
企業は、カスハラ防止のために以下の取り組みを行うことが推奨されています。
カスハラに対して、直接的に対応する特定の法律は現在のところ存在しません。
しかし、カスハラに関連する行為は、複数の既存の法律や条例によって取り締まることが可能です。
労働基準法では、労働者の労働条件の最低基準を定めています。
この法律は、労働者が安全で健康に働ける環境を提供することを義務付けており、カスハラが労働者の健康を害する場合、企業はこれに対処しなければなりません。※1
労働契約法には、労働契約に基づく労働者の権利と義務が規定されています。
この法律の第5条では、使用者は労働者に対してその生命、身体及び健康を保護するよう配慮する義務を負っています。カスハラが発生した場合、企業は労働契約法に基づき、労働者の健康と安全を守るために必要な措置を講じる責任があります。※2
民法においても、カスハラに関連する行為は取り締まることができます。
例えば、民法第709条の不法行為に基づく損害賠償請求が適用される場合があります。
顧客からの暴力行為や名誉毀損などが発生した場合、被害を受けた従業員は損害賠償を請求できます。※3
各地方自治体が制定する迷惑防止条例も、カスハラに対する有効な対策となります。
これらの条例は、公共の場での迷惑行為や嫌がらせ行為を禁止しており、顧客による暴言や威嚇行為が該当する場合、警察による取り締まりが行われることがあります。※4
刑法においても、カスハラに該当する行為が取り締まりの対象になる場合があります。
具体的には、暴行罪、傷害罪、脅迫罪、強要罪などが適用される場合があります。
これらの刑法規定に基づき、顧客の不法行為に対して刑事責任が問われることがあります。※5
ブライト法律事務所では、これから全国に広がると予想されるカスタマーハラスメント防止条例に対する法的支援を予定しています。
私たちは、企業が新たな条例に適切に対応し、従業員を保護するための効果的な対策を講じるためのアドバイスを行います。
具体的には、ハラスメント防止ポリシーの策定、従業員教育プログラムの設計、報告システムの構築、法的リスクの管理と対応をサポートいたします。カスハラ防止に関する最新の情報と専門知識を活かし、企業が安全かつ健全な職場環境を維持できるよう全力でサポートします。詳細はブライト法律事務所のウェブサイトをご覧ください。
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