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2025年4月から施行される東京都カスタマー・ハラスメント防止条例に対応するための企業向けガイドラインを徹底解説。カスハラガイドラインに基づく基本方針の策定から相談窓口の設置、従業員保護対策まで、企業が今すぐ実践すべき具体的な対応策をわかりやすく紹介。事例を交えながら、法的責任を果たしつつ従業員と顧客の良好な関係を構築するためのポイントを網羅しています。
カスハラ対策が企業の喫緊の課題となっています。2025年4月から東京都でカスハラ防止条例が施行され、企業には従業員を保護するための具体的な対策が求められるようになりました。本記事では、カスハラガイドラインの最新情報と企業が今すぐ実践すべき対応策を徹底解説。従業員を守りながら顧客満足度も維持する、効果的なカスハラ対策の全てをご紹介します。
カスハラは近年社会問題として注目を集めています。しかし、正当なクレームとカスハラの境界線が曖昧なケースも多く、企業や従業員が対応に苦慮しているのが現状です。ここでは、カスハラの定義と正当なクレームとの違いを明確にし、問題の本質を理解しましょう。
カスハラとは「カスタマーハラスメント」の略称で、顧客や取引先などから従業員に対して行われる不当な要求や嫌がらせ行為を指します。厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策マニュアル」では、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されています。
カスハラとクレームの最大の違いは、要求の妥当性と表現方法にあります。クレームには「正当クレーム」と「不当クレーム」があり、正当なクレームは商品やサービスの改善を目的とした建設的な意見です。一方、不当なクレームにあたるカスハラは「嫌がらせ」が本質であり、「正当なカスハラ」という概念は存在しません。例えば、商品の不具合指摘は正当なクレームですが、理不尽な謝罪要求や暴言はカスハラに該当します。カスハラには要求を伴わない嫌がらせも含まれ、従業員の尊厳や人格を傷つける行為全般を指します。
カスハラ対策が企業の法的義務として明確化される動きが加速しています。厚生労働省による法改正と東京都の条例制定により、企業には従業員を保護するための具体的な対策が求められるようになりました。
厚生労働省は2024年12月、カスハラ対策を企業に義務付ける案を労働政策審議会で示し、了承されました。2025年3月11日にカスハラ防止を義務付ける労働施策総合推進法の改正案を閣議決定し、国会に提出しました。2026年度中に施行となる予定です。(2025.03.19現在)
カスハラの定義は「(1)顧客等が行うこと、(2)社会通念上相当な範囲を超えた言動、(3)労働者の就業環境が害されること」の3要素を満たすものとされています。
企業に求められる対策は、
労働施策総合推進法の改正により、カスハラ対策は法的な強制力を持つ義務となります。
東京都は2024年10月、全国初の「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を可決・成立させ、2025年4月から施行予定です。
条例では「何人も、カスタマーハラスメントを行ってはならない」と定め、カスハラの一律禁止を明記しています。罰則規定はなく、抑止効果を期待するものです。
基本的な考え方は、以下です。
企業はカスハラに対して「安全配慮義務」を負っています。これは労働契約法第5条や労働安全衛生法第3条に基づくものです。
企業はこれらのリスクを回避するため、具体的なカスハラ防止措置を講じることが求められています。
2025年4月から東京都カスタマーハラスメント防止条例が施行されるなか、企業にはカスハラ対策が求められています。効果的なガイドラインを作成することで、従業員を保護しつつ適切な顧客対応を実現できます。
カスハラ対策ガイドラインを作成する際は、5つのステップで進めることが効果的です。まず、基本方針や取り組み姿勢を明確にし、従業員に伝えることから始めます。「迷惑行為は顧客であっても許容しない」という毅然とした態度と、不当な要求に対する組織的な対応方針を示しておきましょう。次に、カスハラに対応できる体制を整備し、相談窓口を設置します。第三のステップとして対策マニュアルを作成し、第四に社員研修を実施します。最後に、状況を確認できる環境を整えることで、継続的な改善が可能になります。特に基本方針の策定では、カスハラの定義、企業としての姿勢、対応方針などを明確にし、トップダウンで従業員に安心感を与えることが重要です。
厚生労働省は2022年2月に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公開しました。このマニュアルでは、カスハラ対策の基本的な枠組みが示されており、企業が取るべき具体的な対応策が記載されています。主なポイントとしては、事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、相談に応じるための体制整備、カスハラ発生時の迅速かつ適切な対応が挙げられます。特に重要なのは、マニュアルを経営層や法務部門だけで作成するのではなく、カスハラ被害を直接経験している現場の声を反映させることです。これにより、「現場で実際に使えるマニュアル」を作成することが可能になります。厚生労働省のマニュアルはあくまで基本形であり、各企業が自社の状況に合わせてカスタマイズしましょう。
業種や営業形態によって顧客の特性や職場環境は大きく異なるため、カスハラ対策ガイドラインは業種別にカスタマイズすることが重要です。例えば、飲食・小売業では接客マナーの観点から、医療・介護業では患者・利用者への配慮が求められるなど、業種ごとの留意点を明記する必要があります。また、対面、電話、訪問、インターネットなど、顧客とのコミュニケーション形態に応じた対応方針も盛り込むべきです。業界特有の事情・背景を分析し、客観的な統計データや具体的なアンケート調査を基に、実効性のあるガイドラインを作成することが求められています。
カスタマーハラスメント(カスハラ)から従業員を守るためには、適切な社内体制の整備が不可欠です。2025年4月から施行される東京都カスハラ防止条例に対応するためにも、企業は早急に対策を講じる必要があります。
カスハラ相談窓口には、信頼性があり機密情報を守ることができ、危機管理の観点で即時に正しい判断と行動がとれる担当者を配置することが重要です。可能であればメンタルヘルスの基本知識を持つ人材で、関連法律に熟知した担当者を選定します。
相談窓口は物理的・心理的に距離が近い役職者を最初の窓口とすることで、迅速な初動対応が可能になります。相談手順を明確にし、全従業員に周知することも重要です。社内イントラネットやポスターを活用し、アルバイトやパート社員、遠方で勤務する従業員にも利用しやすいよう周知しましょう。
カスハラ研修では、クレームとカスハラの見極め方や具体的な対応方法を学ぶと良いでしょう。研修内容としては、カスハラの基礎知識、不当な要求への対処法、発生時の対応方法などを習得できるプログラムを構築します。
特に重要なのは、ロールプレイングを取り入れた実践的な訓練です。実際のカスハラ場面を想定した対応練習を通じて、従業員の対応スキルを磨くことができます。研修は定期的に実施し、新入社員研修でもカスハラに関する教育を行うと効果的です。
管理職向けの研修も実施し、上席者が従業員をサポートし適切にエスカレーションを行う方法も指導します。
カスハラ対応を1人の従業員に任せると負担が大きく、心身の不調を起こす原因になります。そのため、複数人で対応し、負担が偏らないようにするべきでしょう。
具体的には、カスハラ発生時の役割と責任を明確にします。一般従業員は初期対応と状況報告、リーダー職は現場での判断とエスカレーション判断、管理職は対応方針決定と関係機関との連携など、職位ごとの役割を定義します。
また、エスカレーション体制も明確にしておくことが重要です。報告・相談先の明確化、報告・相談方法の明確化、外部機関との連携体制の構築などを事前に定めておきましょう。カスハラ対応中は別の従業員が隣に控え、すぐサポートできる体制をとることで、対応している従業員に安心感を与えることができます。
従業員を守るための対策を講じることは、企業の法的義務となりつつあります。ここでは、効果的なカスハラ対策を紹介します。
カスハラ防止の第一歩として、注意書きやポスターの活用が効果的です。厚生労働省は『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』と併せて、周知・啓発ポスターを作成しており、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。これらを窓口に掲示するなどして活用することで、カスハラ防止の意識啓発につながります。
また、名古屋市では2024年12月にカスタマーハラスメントのない健全な社会を目指すため、オリジナルの啓発ポスターを作成しました。このようなポスターはPDFでダウンロードして利用できます。
注意書きやポスターを店舗の入口や窓口に掲示することで、「カスハラは許されない行為である」という社会的メッセージを発信し、潜在的なカスハラ行為を抑制する効果が期待できます。特に「この通話は応対品質向上のため、録音しております」といったアナウンスや注意書きを表示することで、従業員の退職率が減少した事例もあります。
カスハラは従業員の心身に深刻な影響を与える可能性があるため、適切なメンタルヘルスケアが非常に重要です。カスハラを受けた従業員は心身の不調を招き、最悪の場合、休職や退職に至るリスクがあります。
メンタルヘルスケアの具体的な対策としては、以下のような取り組みが効果的です。
特に上司による「ラインケア」が従業員の精神的負担を軽減する可能性が示唆されています。上司が部下と気軽に話せる、相談しやすい関係性を築くことが、カスハラ経験による従業員のメンタルヘルスの悪化を防ぐポイントとなるでしょう。
家電量販店では、監視カメラとAIを組み合わせることで、カスハラの兆候を早期に検知する取り組みが行われています。店舗内のカメラ映像をAIがリアルタイムで解析し、異常な行動やトラブルが発生した場合にアラートを発信することで、従業員は迅速に対応し、カスハラの被害を最小限に抑えることができます。
また、AIチャットボットの導入により、顧客の問い合わせを自動的に処理することで、従業員の負担軽減と業務効率化を図る取り組みも進んでいます。デジタルサイネージを活用して、店舗内に明確な案内や注意事項を提供することで、顧客の理解を深め、カスハラの発生を未然に防ぐ効果も期待できます。
さらに、カスタマーハラスメント事例を基にした「カスタマーハラスメント体験AI」を活用し、従業員教育に生かす取り組みも始まっています。これにより、実際のカスハラ場面を想定した対応練習を通じて、従業員の対応スキルを磨くことができます。
ここでは、2025年4月から施行される東京都カスタマーハラスメント防止条例や2026年度中に施行予定の労働施策総合推進法の改正に対応するための企業向けガイドラインを解説しました。カスハラの定義から法的義務化の動向、企業が負う安全配慮義務とリスク、対策ガイドラインの作成方法、社内体制の整備、従業員を守るための具体的対策まで、企業が今すぐ実践すべき対応策を網羅的に紹介しました。
弁護士法人ブライトは、企業の法務リスクに対して能動的・自発的にアプローチする法律事務所です。従来型の顧問契約とは異なり、複数の弁護士とパラリーガルによる専門チームが貴社をサポート。チャットツールを活用した気軽な相談体制や、「企業の法務リスク診断」による予防的アプローチが特徴です。カスハラ対策を含む企業法務の課題に対して、月額5万円からのプランで、まるで社内の法務部のようにサポートします。貴社の事業内容や組織文化を理解した上で、具体的な解決策を提案・実行します。
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