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会社運営にとってSNSは有効なマーケティングツールですが、常に炎上という危険性をはらんでいます。高い情報拡散力やコミュニケーションの即時性といったSNSのメリットが、時に諸刃の剣となり、炎上を誘因します。会社のSNS炎上のニュースが新聞やテレビを賑わせていますが、どの会社にも起こりうるSNS炎上を、対岸の火事と楽観視することはできません。今回は、会社のSNSの炎上事例や有事の対処法、予防策について具体的に解説します。
会社のSNS炎上とは、公式SNS(ソーシャルネットワークサービス)に対して、批判的なコメントが殺到する現象のことです。国内のSNS普及率が80%を超える今、企業にとってSNSはマーケティングに必要不可欠なツールの一つですが、その反面、常に炎上のリスクが伴います。
その原因は、マナー違反やコンプライアンス違反、ステルスマーケティング疑惑などさまざま。社会通念と照らし合わせて問題のない投稿であっても、ごく一部のユーザーにとって不快な要素を含んでいたために「不適切投稿」として拡散されるケースや、同業他社の炎上が飛び火する「巻き込まれ炎上」も散見されます。さらに、プライバシーや肖像権の侵害(民法709条)、機密情報漏えい(不正競争防止法2条1項4号以下)のように、法律違反疑惑による炎上事例も少なくありません。2023年10月からは、ステルスマーケティングも景表法の規制対象となりました。
炎上に至るフェーズは、「投稿」→「ユーザーからの批判」→「拡散」→「ネットニュースやまとめサイトへの掲載」→「サジェストへの表示」→「メディアへの掲載」→「さらなる拡散と不特定多数の人からの批判」という流れが一般的です。SNS総合代理店の調査によると、SNS炎上が収束するまでの平均日数は31日と報告されていますが、火種の早期発見と的確な対応によって短期間での鎮静化を図りたいところです。
SNS炎上が大きくなると、クレームのみならず、不買運動や営業自粛、ブランド力の低下、さらには株価の下落などを招く可能性があり、最悪の場合は倒産につながることも考えられます。炎上の火種が事実無根の場合でも、風評被害によって企業イメージ低下を招くリスクもあるでしょう。そのような事態を防ぐために、会社はSNS炎上に対してどのような対応や予防策を講じるべきでしょうか。以下でご紹介します。
参考:ICT総研「2022年度SNS利用動向に関する調査」
参考:株式会社コムニコ「2021年SNS炎上レポート」
会社のSNS炎上は、商品・サービス自体の問題やマーケティング手法、文章の表現方法、ヒューマンエラーなど、さまざまな要因で起こります。実際の炎上事例を検証してみると、思わぬ場所に火種が潜んでいることが伺えます。
全国展開する飲食チェーン店が自社のSNSアカウントで離乳食の無料提供を発表したところ、子どもの声やベビーカーで店内環境が変化する懸念を抱いたユーザーから、公式Twitterにネガティブコメントが相次ぎました。ネガティブコメントに対する批判も火に油を注ぐ形となり、炎上が拡大。しかしこれを受けて会社側から出された公式コメントには、あらゆる層に広く食を届けたいという企業理念が綴られていました。安易に謝罪せず、企業理念を貫く姿勢が賞賛を集め、炎上は鎮静化に向かいました。
あるベンチャー企業は、SNS上で自社商品のインフルエンサーマーケティングを展開していましたが、サプリメントの紹介に効能をうたうようなキャッチフレーズが用いられていたことから炎上が起こりました。医薬品ではないサプリメントについて、効果効能を標ぼうする広告を行うと、薬機法に抵触する可能性があります。また、インフルエンサーによる商品紹介の投稿数があまりにも多かったことからステルスマーケティング疑惑がささやかれ、炎上の一因になったものと考えられます。
大手飲食チェーン店のX(旧Twitter)公式アカウントに、従業員の会社業務に対する愚痴が投稿され、フォロワーを騒然とさせる事例がありました。担当者がプライベートアカウントと間違えて企業公式アカウントに投稿してしまうというケアレスミスでしたが、会社側が公式に謝罪する事態に至りました。不適切な投稿は即刻削除されましたが、スクリーンショットが世界中に拡散してしまい、企業イメージを損なう結果となっています。
SNS炎上が発生した場合、速やかな初動対応が望まれます。しかし、担当者の独断やその場しのぎの対応を行うと、事態の悪化を招く可能性があります。炎上を最小限に食い止められるよう、フローに沿った適切な対応を行いましょう。
会社のSNSが炎上した際、何の説明もなく投稿を削除するのは得策ではありません。事実隠蔽や責任逃れと受け取ったユーザーによって、投稿のスクリーンショットが拡散し、二次炎上を招く可能性があります。以後の投稿を必要最小限にとどめ、SNS活動を一旦休止するのが賢明です。
SNS活動を一時停止したのち、速やかに事実確認と原因究明に着手しましょう。発生日時や炎上の程度と範囲、炎上を招いた要因などを調査します。どのような層のユーザーがどの点に着目して批判しているのかを、冷静に分析し、対処方針に活かすことが重要です。
SNS炎上に対する会社の対応が二転三転すると不信感を与えたり反感を買ったりする恐れがあるため、企業理念を踏まえ一貫性のある対処方針を固めましょう。投稿の削除や謝罪、事実の公表について、各々のタイミングや内容を精査します。この時点で舵取りを誤ると炎上拡大を招いてしまうため、慎重な判断が必要です。
会社のSNS炎上は、ステークホルダー(利害関係者)に多大なご迷惑とご心配をかける事態です。顧客や取引先、株主、従業員など、ステークホルダーと情報を共有する必要があります。SNS発生の状況や対処方針、収束までのコミュニケーション方法などを伝え、ステークホルダーの意見も参考に、対応策を進めましょう。
企業理念や対処方針に照らし合わせ、炎上した投稿を削除すべきかどうか検討します。削除の場合は、適切な時機を見計らい、ユーザーへの事実説明を行った上で行いましょう。なお、ひとたび拡散された投稿を完全に削除することは不可能ですが、まとめサイトへの削除請求を行うことは可能です。
SNS炎上に対して会社が謝罪すべきか否かはケースバイケースです。以下で主な3つのケースについて解説します。
会社または従業員に非があってSNS炎上を招いたケースでは、より迅速かつ誠実な対応が求められます。問題部分が明らかな場合は、速やかな謝意の表明と、原因究明の経過報告が望ましいでしょう。事実調査が終了次第、改めて公式の場で謝罪するとともに、事実関係の報告と解決策の提示を行います。謝罪が言い訳や逆ギレととられ悪手になるか、真摯な姿勢がユーザーの共感を呼ぶか、企業の本質が問われます。覚悟を持って信頼回復に努めることが大切です。
炎上事例①のように会社に非がないケースや、肯定的な意見も数多く寄せられているケースにおいては、むやみに謝罪せず、事実説明に留めた方がよい場合があります。企業理念も踏まえて自社の正当性をていねいに説明しながら、必要に応じて限定的な謝罪を行う方法もあるでしょう。
迅速な事実確認が困難な状況にあっても、SNS炎上を放置することは望ましくありません。世間を騒がせていることに対しては一定の謝罪やコメントを発信し、事実究明の意思を表明します。事実関係が明らかになってから、上記の「非がある場合」「非がない場合」、いずれかの対応を行います。
企業には再発防止策の徹底が求められます。再発防止策は一定期間、公式ホームページなどで開示し、会社の方針を示しましょう。再発防止策の詳細については後述します。
会社のSNS炎上が誹謗中傷に発展した場合、削除請求を求める必要があります。悪質な書き込みに対しては、「発信者情報開示請求」という制度を用いて、プロバイダに発信者の情報を求めることが可能です。2022年10月に施行された「改正プロバイダ責任制限法」によって、以前よりスムーズな開示請求が可能になりました。
誹謗中傷によって会社が大きなダメージを受ける場合は削除請求にとどまらず、弁護士に相談の上で法的措置を視野に入れる必要があるでしょう。虚偽の書き込みや会社の名誉を傷つける行為は名誉棄損(民法710条・709条)にあたり、損害賠償請求が可能な場合があります。民事のみならず、信用棄損罪(刑法233条)や偽計業務妨害罪(刑法233条)として、刑事責任を問える可能性もあるでしょう。悪質な事案については、警察に相談し、刑事告訴を視野に入れて対処法を検討する必要があります。
参考:総務省「プロバイダ責任制限法Q&A」
参考:政府広報オンライン「あなたは大丈夫?SNSでの誹謗中傷 加害者にならないための心がけと被害に遭ったときの対処法とは?」
不意に起こるSNS炎上に対して完璧な未然防止策はありません。しかし、適正かつ継続的な対策によって、炎上リスクを大幅に軽減できるでしょう。6つの未然防止策を紹介します。
SNS投稿を担当する従業員は厳正に選出し、使用権限を制限することをおすすめします。投稿のクオリティ担保につながるとともに、誤投下リスクも軽減できるでしょう。関係メンバーの緊急連絡網を作成し、夜間や休日でも迅速に情報共有できる体制づくりも望まれます。
炎上のリスクを軽減し、企業のブランディングに沿ったSNSを運用するためには、マニュアルの作成が必須です。企業理念と広報戦略に即したSNS発信の目的と運用方針を明確に定めたうえで、禁止ワードや運用ルール、チェックフローなどのルール化を徹底します。勉強会などを通じてルールの周知を図ることや、社会や時代の移り変わりを踏まえてマニュアルを定期的に更新することも大切です。
SNS運用担当者には、高いネットリテラシー意識が求められます。SNS運用やセキュリティに関する知識だけでなく、人権、社会通念、法制度(知的財産含む)など体系的な知識と実践が必要でしょう。自社の企業理念はもとよりマーケティングやブランディング、CSR(社会的責任)への理解も大切です。また、SNS炎上の事例や火種となりやすいワードを研究すると、炎上のメカニズム解明に役立つでしょう。
研修プログラムの整備を機に、担当者のみならず全社員を対象にした研修を行うと、私的SNS活動における会社情報発信のあり方を周知できます。マニュアル作成や研修実施には法的な知識も必要となるため、日頃から自社の事情に精通した弁護士などの専門家の助言を得られるよう、関係性を構築しておくことをおすすめします。
SNSの投稿は、運用マニュアルのフローに従い、内容の真偽やコンプライアンス、モラルの面で問題がないか、ダブルチェック・トリプルチェックを重ねる必要があります。SNSは不特定多数の人の目に触れることを念頭に置き、多様な視点から複数で精査するとよいでしょう。ただし、リスクをゼロにするために複数名によるチェックを重ねた結果、独自性やキャラクター性を失わせ、他企業との差別化を実現しにくくなってしまうことも考えられます。チェックを行う際や迷った際は、企業理念や広報戦略に立ち返り、バランス感覚を持つ意識が大切です。
SNS炎上の予防策として、ソーシャルリスニングとSNS監視が有効です。ソーシャルリスニングとは、オンラインユーザーの声を収集・分析し、ビジネスに活かすマーケティング手法のこと。常にSNSの動向を追っているため、火種検知にも役立ちます。
また、SNS監視とは、自社に関するネガティブな情報がSNS上に流れていないかをチェックするリスクマネジメント手法です。従業員による24時間体制の監視は現実的ではないため、専用のSNS監視サービスの活用が一般的でしょう。
デジタル関連企業の分析によると、2022年SNS炎上トレンドの一つとして「コンプライアンス違反」があげられています。「コンプライアンス」は法令遵守を意味しますが、法令だけでなく企業倫理や社会規範に反する行為も広い意味でのコンプライアンス違反と言えます。SNS上でも違反行為が発生しないよう、研修などを通じてコンプライアンスへの理解を促す必要があるでしょう。コンプライアンスを強化し健全な企業体質を醸成することが、SNS炎上リスクの軽減につながります。
SNS炎上対策として、SNS運用に法律的な見地が求められる場面が増えています。広告に関する法務や労働法務だけでなく、炎上が発生するとプロバイダ責任制限法や、民法、刑法の知識が必要になってきます。SNS炎上リスクに不安を抱いている方は、弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
弁護士法人ブライトが提供している「みんなの法務部」では、会社のSNSが炎上した場合の対処法をご提案いたします。炎上の原因を見極め、会社の実情に応じた方針決定をサポートするとともに、コメントの削除依頼や損害賠償請求などの手続きもお手伝いいたします。しかし、事後の対応よりも事前の予防策が何より大切です。炎上リスクの低いSNS運用に向けて、予防策の検討立案や社内ルールの策定など、会社の実情に応じた方策を提案いたします。会社のSNS運用に関して疑問や不安をお持ちの方は、「みんなの法務部」までご相談ください。
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