労災認定基準に追加されたカスタマーハラスメントによる精神的被害とは

労災認定基準に追加されたカスタマーハラスメントによる精神的被害とは

カスタマーハラスメントによる精神障害の労災認定基準について詳しく解説します。 本記事では、認定のための具体的な基準や事例を紹介し、企業がどのように対応すべきか紹介します。

カスタマーハラスメントが労災認定された背景

カスタマーハラスメント(カスハラ)は、近年、社会的問題として急速に注目を集めています。これは顧客や取引先からの不適切な言動や要求が、従業員に対して深刻な精神的および身体的負担をもたらすためです。

2023年9月、厚生労働省はカスタマーハラスメントにおける心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました。この背景には、カスタマーハラスメントの増加とその深刻な影響が関係しています。

労働環境の変化と社会的認識の向上

サービス業を中心に、顧客第一主義が強調される風潮が長らく続いていました。従業員は、顧客の無理難題や過剰な要求に対して対応し続けることが求められ、結果として精神的・身体的なストレスが蓄積されていきました。

特にコロナ禍以降、社会全体がストレスを抱える中で、カスタマーハラスメントの問題が顕在化しました。

著しい迷惑行為や過剰な要求が従業員に与える影響は深刻です。これには、施設利用に関する無理な要求や、顧客の著しい迷惑行為等が含まれます。

従業員が適切な対応を取るためには、労働環境の改善と社会的認識の向上が不可欠です。

また、施設利用時のルールやマナーについても顧客に教育し、カスタマーハラスメントを防止する取り組みが求められます。

厚生労働省のガイドラインと法的整備

2023年9月に厚生労働省が発表した改正では、カスタマーハラスメントによる心理的負荷が精神障害を引き起こすことを明確に労災認定基準に含めました。

この改正は、従業員を保護するための措置を企業に強く求めるものであり、具体的な事例や対応方法も示されています。これにより、企業は従業員保護のための体制を強化し、適切な対応を取る義務が明確になりました。

労災認定の基準と具体例

労災認定のための基準として、従業員が精神障害を発症する原因が職場にあるかどうかを詳細に調査することが求められます。

具体的な例としては、顧客からの暴言や脅迫、過剰なサービス要求が挙げられます。

これらが原因で精神的苦痛を受けた場合、医療機関の診断に基づき労災認定が行われます。2022年度には、2,683件の精神障害による労災請求があり、そのうち1,986件が認定されており、過去最高件数となっています。

社会的影響と企業の対応

カスタマーハラスメントの労災認定が増加する中で、企業は従業員のメンタルヘルスケアを強化し、職場環境の改善に取り組む必要があります。

具体的な対策としては、明確なポリシーの策定、従業員教育、効果的な報告システムの構築、迅速な対応が求められます。また、従業員自身もハラスメント行為に対する認識を高め、適切な報告や相談を行うことが重要です。

カスタマーハラスメントが原因の労災の事例

以下に、実際に日本で起きたカスタマーハラスメントが原因の労災事例を紹介します。

食品会社の社員自殺事件

大阪市の食品会社で働いていた男性社員(当時26歳)が、顧客からのカスタマーハラスメントが原因で精神的に追い詰められ、自殺に至ったケースがあります。

遺族はこの自殺がカスタマーハラスメントによるものとして労災認定を求め、提訴しました。この男性社員は、頻繁に無理難題を押し付ける顧客対応に追われており、そのストレスが原因で精神的に追い詰められたとされています。

窓口対応職員への脅迫

とある公的機関での事例では、窓口対応をしていた若い女性職員が、推定60代の男性顧客から脅迫を受けました。この男性顧客は「身元を調べるぞ!」といった脅迫めいた言葉を繰り返し、窓口での対応を妨害しました。

結果として、この女性職員は精神的ストレスを抱え、労災認定を申請しました。

長時間にわたる拘束や威圧的な言動が原因とされ、このケースも労災として認められました。

飲食業界での過剰なクレーム

ある飲食店で働く店長が、常連客からの過剰なクレーム対応により精神的に追い詰められた事例です。特に忙しい時間帯に無理な要求をされることが多く、業務の遂行に支障をきたしていました。

このストレスが原因で店長はうつ病を発症し、医師の診断を受けて労災申請を行いました。この場合も、顧客からの過剰な要求が直接の原因と認められ、労災として認定されました​​。

コールセンターのオペレーターへの暴言

コールセンターで働くオペレーターが、顧客からの繰り返しのクレームと暴言により適応障害を発症した事例です。この顧客は、対応するたびに怒鳴り声を上げ、解決策を提案しても拒否することが常態化していました。

オペレーターは精神的なストレスで病気になり、労災申請を行いました。労働基準監督署は、この顧客からの暴言が主な原因であると認め、労災認定されました​。

労災の認定要件

労働災害(労災)保険は、日本における労働者が業務上または通勤途上で負傷、疾病、障害、死亡などの災害に遭った際に、その労働者や遺族に対して給付を行う制度です。

この保険は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づいて運用されています。※

労災の定義

労災は大きく分けて「業務災害」と「通勤災害」に分類されます。業務災害とは、労働者が業務を遂行中に受けた負傷、疾病、障害、または死亡を指します。一方、通勤災害とは、労働者が通勤中に遭遇した災害のことです​ ​。

労災の認定要件

労災として認定されるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 業務遂行性

労働者が災害に遭遇した時点で、その労働者が業務を遂行している状態であることが必要です。これは、業務の指揮監督下にあるか、業務の一環として行動している場合を指します。

  1. 業務起因性

災害が労働者の業務に起因するものであることが求められます。

具体的には、業務と災害との間に因果関係が存在し、業務が災害の原因となっていることが必要です。例えば、工場作業中に機械に巻き込まれて負傷した場合や、顧客対応中に精神的ストレスを受けた場合などが該当します。

労災申請の手続き

労災の申請手続きは、労働者自身またはその遺族が行うことができます。申請には以下のステップが必要です。

  1. 医療機関での診断

労災に該当する負傷や疾病について、医療機関で診断を受け、診断書を取得します。

  1. 申請書類の作成

労働基準監督署から提供される労災保険給付の申請書類を作成します。事故発生の状況や原因を詳細に記載した報告書、診断書、証拠写真などが必要です。

  1. 労働基準監督署への提出

完成した申請書類を、最寄りの労働基準監督署に提出します。提出後、監督署は申請内容を審査し、労災として認定するかどうかを決定します。

  1. 審査と決定

労働基準監督署が審査を行い、業務遂行性と業務起因性が確認されると、労災認定が下され、適切な給付が行われます。

労災保険の申請過程では、ホームページ上の情報収集や、出来事の詳細な報告が重要です。各労働基準監督署のホームページには、必要な情報や手続きの流れが掲載されており、迅速な対応が求められます。

カスタマーハラスメントに関する法律

日本では、カスタマーハラスメント行為に対する法的措置が進んでおり、カスタマーハラスメントの予防と対応のためにいくつかの法律やガイドラインが存在します。

労働基準法

労働基準法は、労働者の労働条件を規定し、労働者の保護を目的としています。

この法律の中で、従業員が安心して働ける環境を確保するために、企業は従業員の安全と健康を守る義務があります。具体的には、顧客からのハラスメント行為が労働者の健康に悪影響を与える場合、企業はその対策を講じる必要があります。

労働安全衛生法

労働安全衛生法もまた、労働者の安全と健康を保護するための法律です。

この法律では、企業に対して労働環境の改善やリスクの予防措置を義務付けています。カスタマーハラスメントによる精神的ストレスも労働災害の一種として認識されており、企業はこれに対する適切な対策を講じなければなりません​​。

労働者災害補償保険法

労働者災害補償保険法(労災保険法)は、業務上の事由または通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡に対して補償を行う制度です。

この法律により、カスタマーハラスメントが原因で精神的障害を負った場合でも、労災として認定され、適切な補償が受けられます。

2023年9月に改正されたガイドラインでは、カスハラによる精神障害の労災認定基準が明確化されました​。

民法

民法の不法行為に関する規定に基づき、カスタマーハラスメント行為が不法行為として認められる場合、被害者は損害賠償を請求できます。

不法行為とは、故意または過失により他人に損害を与える行為を指し、カスタマーハラスメントもこれに該当する可能性があります。企業や個人が不法行為によって被害を受けた場合、加害者に対して法的責任を追及できます。

厚生労働省のガイドライン

厚生労働省は、カスタマーハラスメントに対する具体的な対応策を示した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発表しています。

このマニュアルでは、カスハラの定義や具体例、企業が講じるべき対策について詳細に説明されています。企業はこのガイドラインに基づき、従業員の保護と職場環境の改善に努める必要があります​。

カスタマーハラスメントに対する行動指針

企業はカスタマーハラスメント問題に対処するために、明確な行動指針を策定し、従業員の安全と健康を守る必要があります。以下に、効果的な行動指針を紹介します。

1. 明確なポリシーの策定

企業はカスタマーハラスメントに対する明確なポリシーを策定し、これを全従業員に周知徹底することが重要です。このポリシーには、カスハラの定義、具体的な事例、報告手順、対応方法などを含めましょう。

また、顧客にもこのポリシーを公表し、企業がカスタマーハラスメントを許容しない姿勢を明示します。

2. 従業員教育とトレーニング

全従業員に対して、カスタマーハラスメントの認識と対処方法についての教育とトレーニングを定期的に実施します。具体的なシナリオを用いたロールプレイやシミュレーションを通じて、従業員が実際の状況に対処できるように訓練することが効果的です。

また、ハラスメントを受けた場合の適切な報告方法を徹底させることも重要です。

3. 報告システムの整備

従業員が安心してカスタマーハラスメントを報告できるシステムを整備することが求められます。匿名での報告を可能にし、報告後のフォローアップ体制も整えることで、従業員が報復を恐れずに問題を共有できる環境を作ります。

また、報告された内容を迅速かつ適切に処理するためのプロセスを確立します。

4. 迅速な対応とサポート

カスタマーハラスメントの報告があった場合、企業は迅速かつ適切な対応が求められます。具体的な対応策には、問題の調査、加害顧客への適切な対応、被害を受けた従業員へのカウンセリングやサポートの提供などがあります。また、再発防止策を講じることも重要です。

5. 定期的な評価と改善

カスタマーハラスメント対策の効果を定期的に評価し、必要に応じてポリシーや対応手順の見直しが不可欠です。

従業員からのフィードバックを基に、継続的な改善を図ります。定期的なアンケートや面談を通じて、従業員の意見や感想を収集し、対策の実効性を確認します。

まとめ

企業がカスタマーハラスメントに対して適切な対策を講じることは、法的リスクの回避だけでなく、従業員の士気と生産性を高めるためにも不可欠です。

ブライト法律事務所では、厚生労働省のガイドラインに基づいたハラスメント対策ポリシーの策定から、具体的な教育プログラムの設計、そして報告システムの構築まで、幅広いサポートを提供します。特に、カスタマーハラスメントによる精神的ストレスが労災として認定されるようになった今、企業はこの問題に対して一層の注意を払う必要があります。

また、当事務所では、労災認定を受けるための申請手続きや、労災保険の給付に関するアドバイスも行っています。顧客からの不当な要求や暴言に対して、企業が適切な対応を取ることで、従業員のメンタルヘルスを守り、健全な職場環境を維持できます。

カスタマーハラスメント問題でお困りの際は、ぜひブライト法律事務所までご相談ください。

本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。
  • 記事カテゴリ
  • 成功事例
    インタビュー
契約
人事労務
債権回収
消費者
炎上
会社運営

準備中