この記事でわかること
- M&Aで「従業員をどうするか」を決める判断軸
- 売却後に起きやすい人材トラブルの回避策
- 弁護士に相談すべきタイミングと相談のポイント
この記事のポイント
- M&Aは「売却手続き」だけでなく経営資源の再設計である
- 従業員は「残す/引き継ぐ/整理」を役割ベースで切り分ける
- 早期に弁護士を入れると、後工程の揉め事と迷走が減る
M&Aを検討しはじめると、どうしても「いくらで売れるか」「契約条件はどうか」に意識が寄ります。ところが現場で頻発するのは、売却後に残る資源、そのなかでも従業員の扱いでつまずくケースです。実際、ある地方の中堅企業では、事業の一部を譲渡する話が進む一方で、「残す人」「引き継ぐ人」「整理が必要な人」が曖昧なままになり、経営者が強い不安を抱えていました。
この記事では、M&Aを“経営資源(ヒト・モノ・カネ)の見直し機会”として捉え直し、従業員問題をどう整理するかを具体的に解説します。比較検討の材料として、弁護士に相談すべきタイミングも明確にします。
目次
M&Aで最初に見落とされる「売却後の会社像」という盲点
M&Aを検討し始めた経営者の多くは、「どの条件で売れるのか」「スキームはどうするか」といった論点に意識が集中します。しかし実務の現場では、そこよりも前に致命的な盲点が潜んでいます。それが、「売却後、自社はどんな会社になっているのか」という問いです。
ある中堅企業の経営者は、主力事業の一部を譲渡する話が順調に進む一方で、売却後に残る組織について明確なイメージを持てていませんでした。従業員から「この先、自分たちはどうなるのか」と聞かれても、答えが曖昧なまま時間だけが過ぎていく。売却の話は前に進んでいるのに、経営判断としては足が止まっていたのです。
M&Aは成立した瞬間がゴールではありません。むしろ、その瞬間から新しい経営フェーズが始まります。にもかかわらず、売却後の会社像を描かないまま進めると、後から「人が余る」「役割がない」「説明ができない」といった問題が一気に噴き出します。この段階で必要なのは、法務の話以前に、経営としての設計です。
「なぜその従業員が必要なのか」を問わない危険性
売却後に残る従業員について考える際、経営者の判断を曇らせるのが感情です。「長く働いてくれた」「急に切るのは忍びない」「説明が大変そうだ」。こうした思いは自然ですが、経営判断とは別のレイヤーにあります。
実際にあったケースでは、経営者が「この人は残すつもりだ」と考えていた従業員について、よくよく整理してみると、売却後の事業における具体的な役割が定義できませんでした。本人の能力が低いわけではありません。ただ、新しく注力する事業では、その経験が直接活きない構造だったのです。
「なぜ必要なのか」を説明できない人材は、残した瞬間にリスクになります。 これは解雇の是非の話ではなく、組織設計の話です。役割が曖昧な人が増えるほど、マネジメントコストは上がり、組織の空気は重くなります。とはいえ、感情を完全に切り捨てる必要はありません。重要なのは、「役割の有無」と「処遇」を分けて考えることです。
私ならこうする──判断軸は「売却後に役割があるか」
ブライトがM&A初期相談で必ず行うのは、「売却後の会社に、この人の役割はあるか」という一点に立ち返る整理です。能力評価や過去の貢献は、その後の話です。
別の相談事例では、経営者が「この人は何でもできるから残したい」と話していました。しかし詳しく聞くと、“何でもできる”は裏を返せば“専任の役割がない”という意味でした。売却後に組織をスリム化し、次の成長に向かう局面では、これは大きな足かせになります。私たちが提示したのは、「残す/引き継ぐ/整理する」を先に分類し、その後に本人の意向や法的実現性を積み上げるプロセスです。
とはいえ、頭では分かっていても踏み切れないのが人の問題です。そんなあなたに必要なのは、「感情を否定する助言」ではなく、経営判断として整理できるフレームです。弁護士が関与する価値は、まさにここにあります。
「辞めてほしい社員」がいる場合の現実的な整理方法
M&Aの相談で必ず出てくるのが、「この機会に整理したい人がいる」という本音です。ただし、これをM&Aの条件に直接乗せるのは得策ではありません。
実際、譲渡対象外の別部門にいる従業員を整理したいと考えていた経営者がいました。もしそれをM&A条件に含めると、買い手側から「人件費はどうなるのか」「引き取る義務があるのか」といった論点が派生し、交渉が一気に複雑になります。
私なら、M&A本体と人の整理は切り分けます。M&AはM&Aとして成立させ、人の問題は別立てで、合意形成・タイミング・説明順序を設計する。この線引きができるかどうかで、成立リスクとその後の混乱は大きく変わります。ここは、局所的な労務ではなく、全体戦略として判断すべき領域です。
新規事業に移るなら、人材はそのまま使えるとは限らない
売却後、多くの経営者は新規事業や別領域への展開を考えます。しかしそこで見落とされがちなのが、「求められる能力は変わる」という現実です。
ある企業では、売却後に新しい分野へ挑戦する計画がありましたが、残す予定の従業員は旧事業向けのスキルに最適化されていました。本人も悪気はなく、経営者も期待していましたが、役割が噛み合わず、結果的に双方が疲弊しかけていました。
M&Aは、必要なリソース(ヒト・モノ・カネ)を再定義する機会です。人材についても例外ではありません。配置転換が合理的か、それとも整理が必要かを、感情ではなく事業構造から判断する。その判断を支えるのが、経営目線を持った法務です。
なぜ契約直前では遅いのか──弁護士が設計する「順序」
「条件が固まってから弁護士に頼む」。この考え方が、従業員問題を難しくします。
実際、ある経営者は先に社内説明を進めてしまい、その後に条件が変わって説明を修正せざるを得なくなりました。期待させてから話が戻る。この状態は、信用コストが非常に高い。
ブライトが重視するのは、契約書そのものよりも順序の設計です。何を先に確定させ、どこまで説明し、どの時点で外部合意を取るのか。万が一成立しなかった場合の撤退線をどこに引くのか。これらは契約書ではなく、プロセスの問題です。だからこそ、早期相談が意味を持ちます。
FAや仲介だけでは足りない理由とブライトの立ち位置
FAや仲介、税理士は、M&Aにおいて重要な役割を担います。ただし、「売却後の従業員設計」まで踏み込める専門家は多くありません。
実際に、経営者が複数の専門家と話した結果、「人の話は誰もしてくれなかった」という声をよく聞きます。ブライトが担うのは、法務×経営の交差点です。契約の可否ではなく、「この判断が経営として合理的か」「混乱しない進め方か」を主語を持って助言する。だからこそ、経営者の視界が一気に晴れる瞬間が生まれます。
まとめ
- M&Aは売却手続きではなく、経営資源の再設計プロセス
- 従業員は「残す/引き継ぐ/整理する」を役割ベースで判断する
- 感情と経営判断は切り分けて考える
- 人の整理はM&Aと切り離すことでリスクを下げられる
- 早期に弁護士を入れることで、順序と撤退線を設計できる
迷いがある段階こそ、整理すべき論点があります。考えが固まってからではなく、考えるために相談するという選択が、結果的に最も安全です。
FAQ:よくある質問
Q1. M&Aでは従業員は全員引き継がれるものですか?
一律ではありません。譲渡事業に強く紐づく人材は引き継ぎが合理的な場合が多い一方、売却後の自社に役割がある人材は残す判断もあります。重要なのは、売却後の会社像から逆算して役割を定義することです。
Q2. 辞めてほしい社員がいる場合、どこまで弁護士に相談できますか?
人の整理をM&Aとどう切り分けるか、どの順序で進めるか、どこまで説明すべきかまで含めて相談できます。契約条件に乗せるか否かの判断も含め、戦略的整理が重要です。





