この記事でわかること
- 原状回復費用が高額になる構造
- 弁護士に相談すべきかどうかの判断基準
- 指定業者条項があっても検討できるポイント
この記事のポイント
- 「金額」ではなく「契約構造」で判断する
- 指定業者=言い値ではない
- 次の契約で同じ失敗を防ぐ視点が重要
オフィス退去時に提示された原状回復費用が、想定より大きく膨らんでいた。そんな経験をした企業担当者は少なくありません。
「高いとは思うけれど、指定業者の見積もりだし仕方ない」
「この金額で弁護士に頼むのは大げさかもしれない」
そう考えて判断を先送りにした結果、本来負担しなくてもよい費用まで支払ってしまうケースは、実務の現場で繰り返し見られます。本記事では、実際にあった相談事例をベースに、原状回復費用を「弁護士に相談すべきかどうか」を見極めるための現実的な判断基準を整理します。
目次
「500万円なら仕方ない」という最も危険な判断
オフィス退去時に提示された原状回復費用が500万円前後だった場合、多くの企業はこう考えがちです。「数千万円ならともかく、この金額で弁護士を立てるのは大げさではないか」「指定業者の見積もりなのだから、ある程度は妥当なのだろう」と。
実際、ある中小企業でも同様の判断がなされました。管理会社から提示された見積額は約500万円。社内では「高いとは思うが、争っても数十万円下がる程度だろう」「早く退去手続きを終えたい」という空気が強く、担当者は自力での価格交渉を試みました。しかし返ってきたのは、「これ以上の調整は難しい」という一言だけでした。
ここに、最も大きな盲点があります。500万円前後という金額帯は、実は“最も判断を誤りやすいゾーン”なのです。金額が中途半端であるがゆえに、「弁護士を入れるほどではない」と思い込んでしまう。しかし実務の現場では、このレンジこそ、契約構造次第で結果が大きく変わるケースが頻発します。
とはいえ、すべての500万円請求が争えるわけではありません。重要なのは、金額ではなく、その請求がどのような契約構造の上に成り立っているかです。この視点を持てるかどうかが、支払うか、適正化できるかの分かれ道になります。
自力交渉が「数万円調整」で終わってしまう理由
原状回復費用について、まずは自社で交渉してみる。これは多くの企業が取る自然な行動です。実際、先ほどの企業でも、見積書の内訳を見ながら「ここは不要ではないか」「もう少し下がらないか」と交渉を重ねました。
しかし結果として調整できたのは、ごくわずかな金額でした。理由はシンプルです。管理会社や指定業者にとって、借主からの交渉は“想定内”だからです。多少の調整には応じても、前提となる考え方――「全面的に原状回復する」というスタンスは一切崩れません。
この段階で行われている交渉は、「高いから安くしてほしい」という感情的・価格的な話にとどまっています。一方、相手方は契約書を盾に、「契約上こうなっている」という一点張りです。この構図では、借主側が有利に立つことはほとんどありません。
そんなあなたに知っておいてほしいのは、原状回復費用の交渉は“価格交渉”ではなく、“契約解釈の交渉”であるという点です。ここを取り違えたままでは、どれだけ粘っても結果は限定的になってしまいます。
指定業者条項が生む「思考停止」
契約書に「原状回復は指定業者に従う」と書かれている。この一文を見た瞬間、多くの担当者は思考を止めてしまいます。「業者を変えられないなら、見積もりも受け入れるしかない」と。
ある企業でも、まさにこの状態に陥っていました。指定業者が出してきた見積書には、天井・床・壁すべてを新品に戻す工事が並び、担当者は「指定業者だから仕方ない」と受け止めていたのです。
しかし、指定業者条項が意味するのは「誰が工事をするか」であって、「いくらでも請求してよい」という白紙委任ではありません。問題は、その指定業者が、どの基準で見積もりを作っているかです。
指定業者は、賃貸人側と継続的な関係を持つ立場にあります。そのため、最もトラブルになりにくい、借主に最も厳しい基準――「すべて新品に戻す」前提で見積もりを作る傾向があります。ここに疑問を持たずに受け入れてしまうことが、原状回復費用高騰の第一歩です。
原状回復費用が高騰する本当のメカニズム
原状回復費用が跳ね上がるケースには、明確な構造があります。それが、指定業者条項と、原状回復仕様要項(特別ルール)の組み合わせです。
先の事例でも、見積もりは「オフィス全体を新品同様に戻す」前提で作られていました。しかし、契約書本体をよく見ると、「原状とは何か」「どこまで戻す義務があるのか」が、実は曖昧なままだったのです。
ここで重要なのが、「新品に戻す」というルールは、契約書に明確に書かれていなければ成立しないという点です。多くの場合、その根拠は契約書本体ではなく、別紙や仕様要項に記載されています。そして、この仕様要項が存在しない、あるいは内容が不十分なケースは決して少なくありません。
とはいえ、契約書を一読しただけで、この構造に気づくのは容易ではありません。だからこそ、ここが「法的な穴」になりやすいのです。
「仕様要項がない」ことで何が変わるのか
ある相談事例では、契約書を精査した結果、「借主が変更・交換した部分を復旧する」との記載にとどまっていることが判明しました。つまり、借主が工事をしていない天井や床まで新品に戻す義務は、契約上どこにも書かれていなかったのです。
この瞬間、交渉の前提が一変します。なぜなら、「何も変えていない箇所は、そもそも原状回復義務がない」という法的ロジックが成立するからです。
多くの管理会社が「新品に戻せ」と主張する際、その根拠を明確に説明できないのはこのためです。仕様要項が存在しない、あるいは新品交換を定めていない場合、議論は国のガイドライン――通常損耗・経年劣化は貸主負担、という原則に立ち返ります。
この一点に気づけるかどうかが、500万円をそのまま支払うか、適正化できるかの分水嶺になります。
弁護士が入った瞬間に起こる現実的な変化
ここで多くの企業が疑問に思います。「本当に弁護士が入るだけで変わるのか」と。結論から言えば、変わります。
先の事例でも、弁護士が代理人として契約構造を整理し、「この条文では全面新品の義務は導けない」と論点を示したことで、相手方の対応は明らかに変化しました。賃貸人側は、「このまま争えば、必ず勝てるとは言えない」ことを理解したのです。
重要なのは、裁判を起こすことではありません。「裁判になった場合の見通し」を現実として突きつけることです。これができるのは、弁護士という立場だからこそです。コンサルタントや個人では、この段階で本気の交渉に引き出すことは困難です。
今回の経験を「次の契約」にどう活かすか
原状回復費用の問題は、今回の支払いだけで終わらせてしまうと、また同じことが繰り返されます。実際、何度もオフィスを移転している企業ほど、「毎回同じようなトラブルに遭っている」という声は少なくありません。
本当に重要なのは、次の賃貸借契約で、原状回復の範囲・新品交換の有無・通常損耗の扱いを明確にしておくことです。今回のような苦労を経験したからこそ、契約段階で有利な条件を盛り込む視点が生まれます。
ブライトが重視しているのは、単発の減額交渉ではなく、こうした予防法務への橋渡しです。トラブルをきっかけに、企業全体の契約リスクを見直す。そのパートナーとして関わることが、最終的に企業を守ることにつながります。
まとめ
- 原状回復費用は「金額」ではなく「契約構造」で判断すべき問題
- 500万円前後は、弁護士を入れないことで最も損をしやすいゾーン
- 指定業者条項と仕様要項の有無が、結果を大きく左右する
- 何も変えていない箇所に原状回復義務は生じない
- 次の契約に活かす予防法務の視点が不可欠
「仕方ない」と支払う前に、一度立ち止まり、構造を確認することが、最も合理的な経営判断です。
FAQ:よくある質問
Q1. 原状回復費用が500万円程度でも、弁護士に相談する意味はありますか?
はい。むしろ500万円前後は最も判断を誤りやすい金額帯です。指定業者条項や仕様要項の有無など、契約構造に争点がある場合、結果が大きく変わる可能性があります。
Q2. 指定業者の見積もりは必ず受け入れなければならないのでしょうか?
指定業者であることと、その見積もりが契約上妥当かどうかは別問題です。原状回復の範囲が契約でどう定義されているかを確認することで、調整余地が生まれるケースがあります。





