パワハラに対する損害賠償。企業の責任や裁判例に基づく慰謝料の相場を解説

パワハラに対する損害賠償。企業の責任や裁判例に基づく慰謝料の相場を解説

パワハラ被害者からパワハラに対する損害賠償を請求された場合、企業は適切な対応を迅速に進め、訴訟やさらなるトラブルを回避する必要があります。「慰謝料はどの程度の金額が妥当なのか」「示談に至らず、訴訟に発展した場合、どう対応すべきか」などを知りたい法務担当者の方もいるでしょう。今回は、パワハラに対する企業の責任や裁判例に基づく慰謝料の相場、訴訟に発展した場合の企業の対応などを紹介します。

そもそもパワハラとは?

パワハラとは、「パワーハラスメント」の略称で、職務上の地位や人間関係といった職場内の優位性を背景に職場内で行われる嫌がらせ(ハラスメント)のこと。パワハラについて、これまでは法律上の定義がありませんでしたが、2019年に改正された労働施策総合推進法30条の2第1項において、以下のように定義されました。

労働施策総合推進法 30条の2 第1項
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるもの
であり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。

参考:労働施策総合推進法

なお、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示・指導は、パワハラに該当しません(上記②参照)。パワハラは許されない言動ですが、パワハラだと指摘されることを過度に恐れて客観的に必要な業務上の指導ができないという状況にならないよう、慎重かつ適正に判断するべきと言えるでしょう。

パワハラの6類型

パワハラは、6つの類型に大別することができます。6つの類型とそれぞれの代表的な言動は、以下の通りです。

類型と代表的な言動該当すると考えられる例該当しないと考えられる例
①身体的な攻撃
(暴行、傷害)
●殴る、蹴る
●相手に物を投げつける など
●誤ってぶつかる
②精神的な攻撃
(脅迫・名誉棄損・侮 辱・ひどい暴言)
●人格を否定するような言動をとる
●必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う
●人前で、大声での威圧的な叱責を繰り返し行う
●相手を罵倒する内容のメールなどを当該相手を含む複数の労働者に送信する など
●遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をする
●その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をする
③人間関係からの切り離し
(隔離・仲間外し・無視)
●自分の意に沿わない労働者を仕事から外し、別室に隔離する
●同僚が集団で一人を無視し、職場で孤立させる など
●新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施する
●懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせる
④過大な要求
(業務上明らかに不 要なことや遂行不可 能なことの強制・仕事 の妨害)
●長時間、過酷な環境下において、勤務に直接関係のない作業を命令する
●必要な教育を行わないまま、新卒採用者に到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことを厳しく叱責する
●業務とは関係のない私的な雑用の処理を強いる など
●労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる
●業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せる
⑤過小な要求
(業務上の合理性なく 能力や経験とかけ離 れた程度の低い仕事 を命じることや仕事を 与えないこと)
●管理職の労働者を退職させるため、誰でもできる業務を行わせる
●気に入らない労働者に対し、嫌がらせのために仕事を与えない など
●労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する
⑥個の侵害
(私的なことに過度に 立ち入ること)
●職場外で継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする
●性的指向や性自認、病歴などの機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する など
●労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行う
●労働者の了解を得て、当該労働者の機微な個人情報(左記)について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促す

参考:職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!(厚生労働省)

パワハラ相談者が「パワハラ」と主張する行為が「本当にパワハラに該当するのか」判断しづらい場合には、弁護士に相談するとよいでしょう。

パワハラに対する企業の責任

相談内容がパワハラに当たると認定された場合、パワハラに対する責任は、①パワハラ加害者および②企業の双方が負います。①パワハラ加害者が被害者に対して負うべき損害賠償の法的根拠は、民法709条で定められている「不法行為」です。不法行為とは、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」することです。

またこの場合、②企業は「使用者責任」又は「職場環境配慮義務違反」を根拠に損害賠償を請求される可能性があります。それぞれについて、見ていきましょう。

使用者責任

使用者責任とは、従業員が他人に損害を発生させた場合に、使用者(会社)もその従業員と連帯して被害者に対する損害賠償の責任を負うことを言います(民法715条)。従業員が違法なパワハラ行為をしたと認められるときは、その従業員を雇用して事業遂行していた使用者も責任が問われるわけです。

職場環境配慮義務違反

会社は、従業員に対して「働きやすい職場環境を維持する義務(職場環境配慮義務)」を負っているとされています。そのため、加害者の特定が困難など、何らかの理由で加害者に対する不法行為責任や会社に対する使用者責任を追及できない場合でも、この職場環境配慮義務違反を根拠に、会社に対して直接責任追及される可能性があります。

パワハラの慰謝料とは?

パワハラ被害に対する損害賠償の対象は、「財産的損害」と、精神的苦痛に対する「精神的損害」に大別されます。

「財産的損害」には、あったものが失われた「積極損害」と本来得られるはずだったものが得られなくなった「消極損害」があります。具体的には、パワハラによって入院・通院した場合の「治療費」や、仕事を休まざるを得なくなった場合の「休業損害」などが、財産的損害に該当します。「精神的損害」とは、すなわち慰謝料のことです。

パワハラ事案で請求される損害賠償の多くは慰謝料ですが、必ずしも「損害賠償=慰謝料」となるわけではありません。どのような項目がどのような理由で請求されているのか、注意深く検討する必要があります。

パワハラの慰謝料相場は、事案の内容・性質次第

パワハラの慰謝料については、「一律にいくら」という金額が決まっているわけではありません。

パワハラと言っても、暴行・傷害といった身体的な攻撃や、脅迫・侮辱といった身体的な攻撃、過小または過大な仕事の要求、違法な退職勧奨など、その種類はさまざまです。そのため、パワハラの慰謝料も事案の内容・性質によって異なります。大まかな傾向として、パワハラが単発行為だったり被害も大きくない場合では数万円から数十万円程度、他方、精神疾患など大きな被害が生じたり継続的に加害行為が行われたりした場合は数百万円となることもあります。

また、以下では詳説しませんが、パワハラ被害者が自殺に追い込まれた場合には、数千万円単位と非常に高額の慰謝料となり、さらに「財産的損害」のうちの消極的損害として、パワハラを受けたことによる自殺がなければ被害者が得られたであろう将来の利益である「逸失利益」も、損害項目になる場合もあります。

以下、先ほど紹介した「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」というパワハラの6類型に分け、慰謝料の支払いが命じられた裁判例をいくつかご紹介します。

身体的な攻撃に対する慰謝料

身体的な攻撃に対する慰謝料は、パワハラ行為の程度によって相場に差があります。

比較的軽微な暴行や被害者自身にも大きな問題がある場合、慰謝料は低く抑えられます。一方、パワハラ被害者が怪我をした場合や継続的な暴行が行われた場合には、慰謝料が高額になる傾向があります。長距離トラック運転手として雇用されていた被害者が、①帰社が遅れたことに立腹した上司から、頭を丸刈りにされたり高圧洗浄機で水を噴射させられたりした、②ロケット花火や投石により暴行を受けた、③土下座を強要された、④これらについての写真が会社のブログに掲載された、という事案について、被害者の身体的及び精神的苦痛に対する慰謝料額として、会社に対して100万円を支払うべきことが命じられました【福岡地裁判決平成30年9月14日(高裁で控訴棄却)】。

精神的な攻撃に対する慰謝料

侮辱的暴言などの精神的な攻撃に対する慰謝料については、パワハラの悪質性や継続性などにより、相場が変わってきます。特に、パワハラが原因で被害者が「うつ病を発症した」「休職に追い込まれた」といった事情がある場合には、慰謝料が高額となる傾向にあります。①深夜や夏季休暇中の元従業員に対して、上司が、留守電に「ぶっ殺すぞ」などと強い言葉で脅し文句を録音したり、②断りにくいことや酒に弱いことを知りながら、被害者に対して飲酒を強要したことなどにより体調の悪化をもたらし、翌日、短時間とはいえ自動車運転を強要した等の事案について、その上司と会社に対して、元従業員の肉体的・精神的苦痛を慰謝するための金額として150万円を連帯して支払うべきことが命じられた事案があります【東京地裁判決平成24年3月9日、東京高裁判決平成25年2月27日】。また、被告店長が原告店員に対して暴言を吐いたという事案では、慰謝料5万円の支払いが企業に命じられました【東京地裁判決平成24年11月30日】。

人間関係からの切り離しに対する慰謝料

人間関係からの切り離しに対する慰謝料は、切り離しの内容や期間によって、賠償額も変わってきます。転籍先で営業部に配属された被害者が、営業部に空いた席があるにもかかわらず別室に配置され、同部の共有フォルダにアクセスできなかったり、会議に出席できなかったりするなど様々な嫌がらせを受けたという事案について、精神的損害の慰謝料として150万円が認定された事案【大阪地裁判決平成27年4月24日】や、私立高校の教諭に対して、授業・担任等の仕事外しや職員室内での隔離、4年6か月間におよぶ別室への隔離やその後5年以上にわたる自宅研修の命令などのパワハラ行為が認定された事案では、高等学校を経営する学校法人に慰謝料600万円の支払いが命じられました【東京高裁判決平成5年11月12日】。

過大な要求に対する慰謝料

過大な要求に対する慰謝料は、パワハラ加害者が被害者にどのようなことをするよう要求していたのかによって、賠償額が変わってきます。土木建築会社に養成社員として入社した従業員に対して、連日の深夜残業や休日出勤を余儀なくさせていた事案では、他のパワハラ行為も加味し、慰謝料150万円の支払いが企業に命じられました【津地裁判決平成21年2月19日】。

過小な要求に対する慰謝料

過小な要求に対する慰謝料は、パワハラ加害者が被害者にどういった要求をしていたのかによって、相場が変わってきます。結婚式場に職場復帰した従業員に対し、従前に従事していた衣装・包装の業務ではなく、門の開閉や草取り、ガラス拭き、床磨きなどの業務に従事させた事案では、慰謝料30万円の支払いが企業に命じられました【最高裁判決昭和62年10月16日】。

個の侵害に対する慰謝料

個の侵害に対する慰謝料は、名誉毀損やプライバシーの侵害の程度によって、相場が変わってきます。従業員がある政党の党員であることを理由に徹底的な監視・調査や私物の写真撮影などのパワハラ行為がなされた事案では、一審判決において慰謝料80万円の支払いが企業に命じられました。企業は最高裁に上告しましたが棄却され、判決が確定しています【最高裁判決平成7年9月5日】。

パワハラの損害賠償に関する裁判例

実際、過去の裁判例ではパワハラ事案に関してどのくらいの損害賠償を認めているのでしょうか。パワハラの損害賠償に関する判例を紹介します。

自殺した従業員の遺族が、会社に対して損害賠償を求めた事件

事件の概要と争点
従業員が上司からのパワハラを受けて自殺したとして、その遺族が会社に対して使用者責任または雇用契約上の安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求した事件。使用者責任に関しては「上司らの叱責がパワハラに該当するか」が、安全配慮義務については「会社の取るべき対応は何だったか」が争点となった。【徳島地方裁判所平成30年7月9日判決】
判決の概要と理由
「使用者責任」は認められなかったものの、「安全配慮義務違反」があったとして、裁判所は会社に対し、遺族への約6,142万円の賠償を認めた

使用者責任に関しては、日常的に強い口調の叱責の繰り返しや呼び捨てるなどがあり、指導としての相当性に疑問がある。しかしながら、部下にもミスがあり、それを指摘して上司として改善を求めることは上司としての業務であり、具体的な発言内容は人格的批難に及ぶものとまでは言えないことなどから、上司は不法行為責任を負うものとまでは認められないとした。

安全配慮義務違反に関しては、係長は当該社員の体調不良(1年間で15kgの体重減少)や周囲の社員への自殺願望の吐露を知っており、その原因が直属の上司(主査)との人間関係にあることを把握できていたのだから、その上司である課長としては異動も含めて対応を検討すべきだった。しかし、一時的に一部業務を軽減させただけでその他には何らの対応もしなかったため、安全配慮義務違反が認定された。
今回の判決についての、弁護士の見解
・個別の事案においてパワハラと認定されるかどうかは、当該事案における様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無、当該言動が行われた経緯・状況、当該言動の態様・頻度・継続性、当該言動により労働者が受ける身体的・精神的な苦痛の程度など)を総合的に考慮して、個別に判断されることとなります。
・本件でも、「使用者責任」については、叱責して指導することは疑問があるとされながらも、上司の業務範囲内とされました。業務内容や指導対象の内容も踏まえて、必要性や危険性、重要性が高い事項については厳しく指導することも一定程度許される場合があります。ただ、大声を出したり、物理的暴力をふるったりすることは、業務範囲内とは言えないでしょう。
・「安全配慮義務」については、会社が何ら具体的アクションをしていなかった点が、義務違反ありとの認定につながったものと考えられます。会社として適切なプロセスや体制づくりをしておくことが重要と言えます。厚労省指針を踏まえて、自社に具体的にどのように落とし込み、現場で対策を講じていくのかを検討することが重要です。
今回の判決を受け、考えられる未然防止策
●「使用者責任」に関して
会社全体の意識改革が必要です。具体的な方法としては、「社長がトップメッセージを出す」「研修を何度も実施し、従業員のマインドを変えていく」「必要な業務上の指導のラインを社内で考える」などが効果的でしょう。

●「安全配慮義務」に関して
厚労省の「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(※)を具体化することが重要です。相談窓口(外部も可)を設置し、相談に広く対応する方法等が考えられます。また、相談があったときは、事実関係を迅速かつ正確に把握し、適正な対応を講じなければなりません。調査の結果「パワハラ」とまで評価されない場合でも、背後にある会社の事情を勘案して予防策を講じることが必要です。

※なお、この雇用管理上講ずべき措置は、2022年4月1日から、中小事業主にも義務化されています。各社の実情に応じて、具体的に「何をすべきか、何ができるか」は弁護士にご相談ください。
今回の判決を振り返ってのまとめ
中間管理職としては、部下との日常的な接触の中で、日々の言動や体調変化に気づき、それを上司に報告すべきです。また、報告を受けた上司としては、事実関係を確認し、迅速かつ適正な対応を取ることが重要と言えます。

慰謝料を請求された場合、まずは専門家の視点から事実関係の確認を

慰謝料を請求された場合、まずは「本当にパワハラ行為があったのか」事実関係を確認することが必要です。パワハラの相談者や行為者とされる従業員、パワハラ行為を見ていた可能性がある周囲の従業員に、それぞれヒアリングを行い、事実関係を把握しましょう。その上で、法律の専門家である弁護士に、パワハラ行為に該当するか確認を仰ぐことを推奨します。

慰謝料請求の解決策としては、まず、被害者と交渉し、双方が話し合いで合意できる点を探すこととなります。

この和解的協議(示談))には「秘密保持条項や口外禁止を規定できる」「公開の法廷では審理されず、当事者間の協議で対応できる」というメリットがあります。訴訟に発展してしまうと、次項のような注意点があるため、パワハラ行為があったと事実認定できる場合には、被害者と協議の上、示談で解決することも効果的といえるでしょう。示談交渉を企業自ら行うのは容易ではなく、社内の担当者の負担も大きいため、弁護士に対応を依頼するのが望ましいです。

示談に至らず、訴訟等に発展した場合の注意点

示談による合意に至らなかった場合、被害者の選択により調停や審判、民事訴訟に発展することがあります。この場合、以下のような点に注意が必要です。

  • 手続対応に際し、多くの社内担当者の労力・弁護士費用が必要になる。
  • 解決までに1年以上かかることも多く、トラブルを長期間抱えなくてはならない。
  • 敗訴してしまうと、企業に対するイメージや社会的信用が低下するリスクがある。
  • リクルートサイトやSNSに、企業のイメージを低下させるような投稿を書き込まれる可能性がある。
  • 訴訟の場合、公開の法廷で審理されてしまう。

いずれも、企業経営にとって影響が大きいものです。こうした事態を招かないよう、慰謝料を請求され、パワハラの事実認定ができた際は、まずは示談交渉を進めることを検討しましょう。

示談書を作成する際、明確にすべき3つの事柄

示談を成立させる際には、企業側とパワハラ被害者との間で「示談書」を取り交わすことが必須です。「書面」にて取り決めを交わしておかないと、「慰謝料を支払ったのに、パワハラ被害者から慰謝料を再度請求された」「示談で取り決めた内容について、相互の認識に食い違いがあった」といった事態を招く可能性があるためです。

また、示談書の作成にあたっては、さらなるトラブルを防ぐために明確にすべき事柄が3つあります。それぞれについて、見ていきましょう。

支払う金銭の名目

まず注意したいのが、支払う金銭の「名目」です。「慰謝料」とすると、パワハラを認めたと言われる恐れもあります。

企業としても「パワハラである」と認識している場合、名目を「慰謝料」としても問題はないでしょう。一方、「パワハラに該当するのか」疑問がある場合には、「慰謝料」ではなく「解決金」といった名目にすることも考えられます

解決の対象となる範囲

解決対象の範囲についても、明確にする必要があります。紛争の蒸し返しを予防するためにも、解決は「特定のパワハラ行為」についてではなく、「パワハラの加害者・被害者間の一切のパワハラ行為」についてのものであることを明記しましょう。この点が不明確となっていると、「別のパワハラ行為についての慰謝料は支払われていない」と、慰謝料を再度請求される可能性があります。

なお、パワハラ被害者が既に退職している場合には、支払いを約束した慰謝料は特定の加害者によるパワハラ行為についてのものではなく、在職中の一切のハラスメント行為についてのものである旨を記載することが望ましいです。そうすることで「別の加害者からのパワハラ行為についての慰謝料は支払われていない」と、慰謝料を再度請求される事態を防ぐことができます。

慰謝料支払い後の再請求を認めない旨

慰謝料の支払いを受けた後は、「企業に対する請求」および「パワハラ加害者に対する請求」をしないことも、明確にすることが必要です。この点が不明確となっていると、企業から慰謝料の支払いをした後も、パワハラ加害者に対する慰謝料請求が行われる可能性があります。紛争の継続や訴訟への発展を防ぐためにも、慰謝料支払い後の再請求を認めない旨を忘れずに記載しましょう。

これらの他、「守秘義務(口外禁止)」「誹謗中傷の禁止」「SNSへの書き込みの禁止」「役職員との不必要な接触の禁止」なども、重要な事項ですので、示談書に規定すべきでしょう。

訴訟に発展した場合の企業の対応

訴訟に発展した場合の企業の対応として考えられるのが、以下の2つのケースです。

  • 原告従業員が主張するパワハラの事実が存在しないと反論するケース
  • 原告従業員が主張する言動が不法行為に該当しないと反論するケース

企業としてどのような対応が必要かを、ケースごとに見ていきましょう。

ケース1:原告従業員が主張するパワハラの事実が存在しないと反論するケース

会社として、そもそも原告が主張するような事実関係はなかったとか、事実関係が違うと考えている場合には、こちらの対応となります。原告従業員が主張するパワハラの事実が存在しないと反論するために、社内調査結果をまとめた調査報告書を裁判所に証拠提出することを検討しましょう。客観的事実の調査、確認が極めて重要です。

ケース2:原告従業員が主張する言動が不法行為に該当しないと反論するケース

会社として、事実関係の存在は一定程度認めつつ、それが業務上必要な指導であったことや違法性のない行為であったと認識している場合には、こちらの対応となります。

例えば、原告従業員が「過度な叱責」と感じたとしても、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません」(職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!(厚生労働省) p2より引用)。

このようなケースでは、「不法行為には該当せず、慰謝料は発生しない」と反論をすることとなります。

パワハラを未然に防ぐために企業としてすべきこと

これまで紹介したように、パワハラが発生すると示談交渉や慰謝料の支払いなどが発生し、問題解決には多くの時間・労力を要します。そのため、「起きてしまったパワハラ問題を解決したあとは、「パワハラが発生しない状態を目指す」のが望ましいでしょう。

労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)に基づき、企業はパワハラの未然防止のために以下のような対応を実施すべきとされています。

参考:職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!(厚生労働省)

パワハラを未然に防ぐために企業としてすべきこと

  • パワハラ防止に関する社内方針の策定と従業員への周知・啓発
  • パワハラ行為者への対処方針の策定と従業員への周知・啓発
  • パワハラへの罰則を就業規則に規定
  • パワハラ防止に向けた社内研修の実施
  • 相談窓口の設置
  • 社内アンケートの実施 など

いずれもパワハラ防止のために不可欠なものであるため、確実に実行しましょう。

関連記事:社内パワハラへの初期対応。パワハラ相談対応で失敗しないためのポイントを解説

パワハラや損害賠償の未然防止に効果的な「みんなの法務部」

パワハラやパワハラによる損害賠償を未然に防ぐには、弁護士に相談できる体制を築き、パワハラ問題が発生する可能性を低くしておくことが重要です。

弁護士法人ブライトでは、「企業が安心して、本業に専念できる環境を持続的に提供する」をコンセプトとした「みんなの法務部」というサービスを提供しています。「みんなの法務部」に登録すれば、専任の弁護士チームと「かかりつけ医」のような持続的なやり取りが可能です。外部の弁護士に依頼することで、社内の担当者の負担を軽減し、本業に集中できるようになる効果も期待できます。パワハラ問題の未然防止策についてのアドバイスも受けられますので、「みんなの法務部」の活用を検討してみてはいかがでしょうか?

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