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不正行為をする社員への対応は、企業にとって慎重な判断が求められる課題です。適切な証拠収集や事実確認ができていないと、後の法的手続きに支障をきたしたり、逆に不当解雇として訴えられるリスクもあるからです。 本記事では、不当解雇にならないための注意点や具体的な対応手順、法的手続きの選択肢とその進め方について説明します。
金銭的な不正、取引先との癒着、情報に関わる不正などを行っている問題社員がいた場合、どのような対応をするかはどのように検討したらよいでしょうか。
問題社員への対応としては、以下のような手続きの選択肢があります。
懲戒処分民事手続き (損害賠償請求等) 刑事告発 |
どの法的手続きを選択するか、複数を併用するかは、さまざまな要素を基に慎重に検討する必要があります。なぜなら、不正をしているという明白な証拠がなかったり、対応を誤ったりすると、不当解雇として逆に会社側が訴えられるリスクもあるからです。
こうした事態にならないためにも、問題社員に対してどのような手だてを取るかは弁護士などの外部の専門家と相談すると安心です。以下の要素を考えながら法的手続きについて検討していきましょう。
不正行為が故意なのか、過失によるものか、継続的なのか一時的なものだったのかを見極めましょう。そして、被害金額の規模や組織的な関与、本人の反省度合いも考慮します。
客観的な証拠はあるのか、その内容はどのようなものかという証拠の確実性が重要です。
直接的な金銭的損害の程度に加え、会社の信用への影響、他の従業員のモラルへの影響、取引先や顧客との関係への影響なども考慮する必要があります。上場企業の場合は、加えて株主への説明責任も考慮します。
法令違反の重大性や社会的責任の程度、ステークホルダーへの説明責任など、会社の社会的立場に応じた対応が求められます。特に、公共性の高い事業を行っている場合は、社会的影響への配慮が重要です。
損害の回復可能性、法的手続きにおける時効の制限、費用対効果なども考慮する必要があります。特に民事手続きを検討する際は、相手方の資金力を踏まえた実効性の判断が重要です。
不正行為を行う問題社員がいる場合、法的手続きを検討する上で以下の手順で対応していきましょう。必要に応じて弁護士など専門家に相談することで法的リスクを最小限に抑えることができます。
1. 証拠の収集・記録 2. 事実確認 3. 不正行為をしている社員との面談 |
電子メールやデータログ、関連書類などの証拠を速やかに保全します。デジタルデータはバックアップを作成し、改ざんされないように対処します。
また、関係者への聞き取り調査は日時・場所・内容を詳細に記録し、可能な限り複数の関係者の証言を得られるといいでしょう。
これらの証拠を経緯や時系列を明確にして整理・保管して、第三者が検証可能な形で文書化します。また、証拠収集の過程自体も記録に残し、後の法的措置や再発防止策の検討に活用できるようにしておきます。収集した記録や証拠は厳重に管理します。
証拠収集にあたっては、個人情報保護やプライバシーに十分配慮し、必要以上の情報収集は避けなければなりません。また、証拠収集は必ず複数人で行い、噂や憶測ではなく客観的な事実のみを記録するようにします。
事実確認のためのヒアリングは、情報漏洩のリスクを最小限に抑えて周辺関係者から開始します。ヒアリングする際は複数人で実施し、質問内容と回答を詳細に記録します。
誘導する質問は避けて「5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)」を意識して、事実を引き出します。その際は、ヒアリング対象者のプライバシーや人権にも十分配慮してください。
次に、収集した証拠とヒアリング内容を総合的に分析します。客観的事実と供述内容の整合性を慎重に確認して、不正の手口や期間、動機、関与者、影響額などを特定していきます。
矛盾する情報がある場合は、追加のヒアリングを行うなど確実な証拠に基づいて判断しましょう。
調査結果は、法的措置の手続き時にも活用できるように時系列で整理して、証拠との紐付けや結論に至った根拠を明示して論理的な構成でまとめます。調査で判明した事実と推定にとどまる事項を区別して、不明な事項も明記しておきましょう。
注意点としては、関係者以外への情報漏洩を防ぐことです。さらに、調査の公平性・中立性が重要であるため利害関係のある人は調査チームから除外しましょう。弁護士などの専門家を活用することも有効です。
面談はプライバシーが確保できる会議室で必ず複数人で実施して、記録者も同席させます。面談をする際は、調査目的と面談記録を作成することを不正行為を行う社員に説明し、録音を行う場合は事前に同意を得るべきケースに当たるか否かを検討します。
質問は、事実確認で明らかになった客観的な証拠に基づいて行います。そこから少しずつ詳細な事実関係の確認を行います。思うところは色々あると思いますが、威圧的な態度は避けて、冷静に事実確認を進めることが重要です。
面談中は、供述の任意性を確保することが重要です。脅迫や誘導的な質問を避け、本人が自発的に話すのを待つ姿勢で臨みます。また、回答を強要しないように注意して、不正行為の動機なども本人の言葉で話してもらいましょう。
面談の最後には、供述内容を本人に確認してもらい、必要に応じて修正や追記します。また、今後の手続きについても説明し、本人の不安を必要以上に煽らないよう配慮しましょう。
特に注意することは、面談内容の機密保持、本人の人権やプライバシーの尊重、必要があれば本人の心身の状態にも配慮し、産業医や専門家への相談を促すことも検討します。
問題社員への対応方法について、以下の記事でケース別の具体例や想定されるリスクなどを詳しく解説しています。ぜひ合わせてご確認ください。
不正行為を行った問題社員に対してとりうる手続きは、懲戒処分と民事手続き、刑事告訴などがあります。
懲戒処分は、就業規則に基づく戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇などがあります。不正行為の程度に応じて適切な処分を選びます。
民事手続きには、損害賠償請求、不当利得返還請求、証拠保全申立て、民事保全申立て(財産保全)などがあります。おおむね会社が被った損害を回復し、又は回復するための準備を目的とする手続きです。
刑事告訴は背任罪、横領罪、窃盗罪、詐欺罪などの犯罪として告訴する手続きです。
問題社員に対する問題社員に対してとりうる手続きと民事手続き、刑事告訴それぞれの実施手順について説明します。
懲戒処分は以下の手順で実施します。
就業規則の懲戒事由に該当するかを確認 懲戒委員会のメンバーを選定 問題社員に弁明の機会をつくる 懲戒委員会を開催する 処分を通知する |
懲戒処分を検討する際は、まず就業規則の懲戒事由に該当するかを慎重に確認します。不正行為の具体的な内容と、就業規則に定められた懲戒事由を精査して、適用すべき処分の種類と程度を検討しましょう。この際、過去の類似事案における処分例との均衡性も重要な考慮要素となります。
懲戒委員会のメンバー構成を検討し、人事部門、法務部門、該当する事業部門の管理職などから適切な委員を選定します。その際、対象者との利害関係がなく公平性があるかに留意しましょう。必要に応じて弁護士など外部の専門家から助言を得ることも検討しましょう。
懲戒委員会の開催に先立って、対象者に弁明の機会を与えます。書面などによって、不正行為の内容、懲戒処分を検討している理由、弁明期日や方法などを明確に伝えます。対象者の受領確認を取れる形で行いましょう。
弁明は原則として口頭で行いますが、必要に応じて書面での提出も認めることができます。口頭で行った場合でも、対象者の発言を正確に記録し、後日確認できるように、対象者の確認印や署名を得ておきます。
懲戒委員会では、収集された証拠や対象者の弁明内容を総合的に検討します。不正行為の程度や動機、結果、反省の状況などを考慮して、適切な処分内容を決定します。処分の内容については、社会通念や過去の事例とも照らし合わせて慎重に判断する必要があります。
処分決定後は、対象者に処分内容と理由を書面で通知します。処分に不服がある場合の申立方法についても説明を加えます。処分通知の交付は対象者の受領確認を取り、証人の立会いのもとで行うことが望ましいです。
民事手続きは以下の手順で実施します。
弁護士への相談 問題社員への事情聴取 内容証明郵便を送る 民事訴訟等の手続き |
まず、収集した証拠を基に弁護士への相談を行います。弁護士との協議により、損害賠償請求や退職勧告などの具体的な法的手段の選択、請求額の算定、和解の可能性について専門的な助言を得ることができます。
対象者への事情聴取の際は複数の管理職が立ち会い、質問内容と回答を詳細に記録した議事録を作成します。本人の署名も得ておくことが望ましいでしょう。事情聴取の際は感情的にならず、客観的な事実確認に徹することが重要です。
損害賠償請求や是正要求を、内容証明郵便で送ります。不正行為の内容、請求する損害賠償額、支払期限などを明確に記載します。内容証明郵便による請求に応じない場合は、民事訴訟を提起します。
民事訴訟を提起する際は、弁護士と緊密に協力して、訴状作成、証拠の整理、請求額の確定などの準備を進めます。訴訟においては、不正行為の事実と因果関係、損害額の立証が必要です。
また、訴訟には時間と費用がかかることから、状況に応じて示談での解決も検討します。示談の場合も合意内容を書面化し、法的な効力を持たせましょう。
刑事告訴は以下の手順で実施します。
要否の判断 告訴状の作成 告訴状の提出 刑事裁判 |
刑事告訴の場合は告訴・告発の要否を慎重に判断します。注意点としては、刑事告訴は一度受理されると原則として取り下げることはできません。また、虚偽告訴は刑事罰の対象となるため、告訴内容は客観的な証拠に基づいている必要があります。
告訴状には、告訴人と被告訴人の氏名・住所、犯罪事実の要旨、告訴に至った経緯などを明確に記載します。少なくともこの段階では、弁護士への相談を強くお勧めします。弁護士に相談すると、告訴状の作成支援だけでなく、証拠の法的評価や今後の手続きについても専門的なアドバイスを受けることができます。
告訴状が完成したら、犯罪が行われた地域を管轄する警察署または検察庁に告訴状を提出します。提出の際は証拠も併せて提出します。警察署に告訴状を提出する場合は、事前に警察署に連絡を取り、担当部署や必要書類について確認しておきましょう。
告訴状が受理されると、警察による捜査が始まります。捜査の過程で、警察から事情聴取や追加の証拠提出を求められたら誠実に協力し、正確な情報を提供しましょう。
捜査の結果、十分な証拠が集まれば検察官が起訴を行い、刑事裁判に進みます。裁判になると告訴人は証人として出廷を求められる可能性があります。また、告訴した結果、証拠不十分などの理由で不起訴になることもあります。不起訴処分に不服がある場合は、検察審査会に審査を申し立てることができます。
企業の従業員による不正行為とは、故意に会社に損害を与える行為や、自己の利益を不当に得る行為を指します。直接的な金銭的被害を伴うものから、会社の信用や業務遂行を妨げるものまで、幅広い不正行為があります。
金銭的な利益を得ようとする不正行為は以下のようなものがあります。
・架空請求 ・横領 ・経費の不正請求 ・在庫の着服 ・取引先との癒着 |
架空請求とは、取引先と共謀し、実際は提供を受けていない商品やサービスの請求書を取引先に発行させ、自社の経理担当者に架空の請求書を提出する不正行為です。振り込みがあったら、取引先と分配しているケースがあります。自らが直接の分配を受けるか否かにかかわらず、犯罪行為として処罰の対象になり得ます。
横領とは、他人から預かった金銭や物品、会社の資金などを正当な理由なく使用・処分する不正行為です。例えば、会社の経理担当者や銀行員などが、管理している財産を私的に流用するなどの手口があります。刑法上は重大な財産犯罪として扱われ、懲役刑が科されることもあります。
経費の不正請求とは、実際には使用していない経費や、個人的な支出を会社の経費として虚偽の申告を行い、不正に金銭を得る不正行為です。架空の領収書の作成、私的な飲食を業務上の接待費として請求するなどの手口があります。
在庫の着服とは、会社や店舗が保有する商品や在庫を正当な手続きをせずに持ち出し、私的に転売したり使用したりする不正行為です。在庫管理システムの数値を改ざんしたり、棚卸の際に数量を操作したりしているケースが多いです。懲戒解雇や刑事告発の対象となります。
取引先との癒着とは、取引先と私的な関係を築き、会社の利益を損なうような取引をする不正行為です。高額な接待を受けたり、キックバックを受け取ったりする見返りに、不当に高い金額での発注、品質の劣る商品の購入を承認するなどの不正を行います。
企業の機密情報や顧客情報を漏洩したり、持ち出したりすることも不正行為に当たります。
・機密情報の漏洩 ・顧客情報の持ち出し ・競合他社への情報提供 |
正当な権限や手続きなく会社の重要な情報や顧客データなどを外部に開示・提供する不正行為です。競合他社への営業秘密の売却や、個人情報の不正な持ち出しなどが該当し、会社に重大な損害を与えるため、民事・刑事両面での責任が問われる可能性があります。
会社が管理する顧客の個人情報や取引履歴などを、正当な理由や許可なく社外に持ち出す不正行為です。転職先で利用する目的や名簿業者への売却を意図して行われることが多いです。
自社の機密情報や営業秘密を、正当な権限なく競合企業に開示・提供する不正行為です。製品やサービスの開発情報や戦略、顧客リストなどが対象となり、金銭的な見返りや転職を有利に進めるために行われることもあります。不正競争防止法違反の対象となる行為です。
勤怠情報を改ざんしたり、無断で休んだり、勤務時間中に私的な活動をすることも不正行為に当たります。
・タイムカードの不正打刻 ・無断欠勤 ・私的活動 |
実際の勤務時間と異なる出退勤時刻を記録する不正行為です。早退や遅刻の隠蔽、残業代の不正請求などを目的としています。就業規則違反として懲戒処分の対象となる行為です。
事前の届け出なく会社を休むことです。上司に連絡せずに突然休んだり、虚偽の理由を申告したりするケースも該当します。繰り返される場合は就業規則に基づく懲戒処分の対象となります。
私的活動とは、勤務時間中に業務とは関係のない個人的な行為を行うことです。私用のWeb閲覧、SNS利用、個人的な電話やメール、副業などが該当します。労働時間を無断に流用し、会社の規律を乱す行為なので就業規則違反になる可能性があります。
不正行為は業界によって特徴があります。不正行為は業界特有の商習慣や業務プロセス、取引構造と密接に関連しているためです。主な産業別に起こりやすい不正行為について説明します。
製造業では、品質データの改ざんや検査の省略といった品質に関する不正が特徴的です。製造工程における検査結果の偽装や、材料・部品の規格外使用、製造原価の付け替えによる利益操作なども発生しています。
金融業では、架空口座の開設や顧客資産の流用、マネーロンダリングへの関与などが挙げられます。特に、従業員による顧客預金の着服や、融資審査書類の改ざんなども発生しています。
小売業・サービス業では、売上金の着服や商品の横領などが起きやすいです。POSシステムの不正操作による売上除外や、架空の返品処理による現金の着服、経費の水増し請求や取引先へのリベート要求なども発生しています
建設業の代表的な不正行為は、施工品質に関する不正や入札談合です。建材の使用量操作や施工記録の改ざん、下請業者への不当な支払い遅延、工事原価の付け替えによる利益操作などのケースもあります。
IT業界では、個人情報や機密情報の不正取得・流出、ライセンス違反などの不正行為が起こりやすいです。システム開発における工数の水増しや、外注費の架空計上、納品検収時の品質データ改ざんなどの例もあります。
私たちブライトでは、不正行為をする社員の対応について企業からご相談をいただく機会が少なくありません。顧問契約に基づき長期的にお付き合いをしている場合、その会社の事情を深く理解しているからこそ、適切な法的手続きをスピーディーに検討できることも多いです。そして、該当業種で起こりやすい不正行為をふまえた予防策や社内体制を作ることで、不正行為を未然に防ぐこともできます。もちろん、新規でご依頼いただくことも可能です。まずはお電話・メール・LINEでご相談ください。
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