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従業員などから未払い残業代を請求された場合、企業は速やかに対応することが大切です。
しかし、未払い残業代と言っても、残業していたのに単に支払われていないケースだけでなく、会社としては制度を整えていたつもりだったのに、意図したものになっていなかったために請求されてしまうケースも少なくありません。
「請求は正しいのか」「請求された全金額を支払う必要があるのか」「どのような対応がベストなのか」などを知りたい法務担当の方もいるでしょう。今回は、未払い残業代が請求された場合の具体的な対応や、確認すべき項目などを紹介します。
企業の従業員や元従業員から未払いの残業代を請求された、という事案が増えています。未払い残業代を請求されたら、なぜ速やかに対応しなければいけないのでしょうか。
企業が従業員に残業代を支払うことは義務であり、事業所の規模や、従業員の雇用形態(正社員、派遣社員、アルバイト、パートなど)に関係なく、一律に適用されるものです。残業代を支払わないことは、企業の債務不履行に該当します。
未払い残業代とは、企業が法律上支払義務があるにもかかわらず、支払いをしていない残業代のことを指します。具体的には、法定労働時間である1日8時間、1週間で40時間(労働基準法32条1項、2項)を超える超過労働に対して、本来支払われるべき時間外割増賃金が支払われていない、もしくは支払われていても不足している場合に発生する賃金債権のことです。
未払い残業代への適切な対応を怠ると、労働基準監督署からの指導対象となったり、退職者から残業代請求訴訟を起こされたりすることがあります。訴訟に発展すると、遅延損害金や付加金などのペナルティが課せられるケースがあり、本来の残業代の倍額以上の支払いを命じられるリスクも生じます。
【遅延損害金制度】 ・未払い残業代が債務不履行に該当するとし、残業代の支払いが遅れたことに対する損害賠償金のこと。 ・在職中は3%、退職後14.6%の遅延損害金が課せられる。 【付加金制度】 ・従業員から請求された未払い残業代が、裁判所で悪質と判断された場合、未払い残業代に加え付加金の支払いが命じられるもの。 ・最大で未払い残業代と同額の範囲までが請求可能。 ・企業の賃金などの未払いが悪質であると裁判所に認定されることから、企業への制裁の意味合いが強い。 |
このような事態を避けるためには、速やかな対応が重要です。
「未払い残業代」と言っても、残業していたのに単に支払われていないケースだけでなく、会社としては「固定残業時間制」など制度として整えていたつもりでも意図した運用がされていなかったために請求されることも少なくありません。未払い残業代を請求されたら、まずは事実関係を確認し、原因究明に努めるとともに、それに則った対応を行いましょう。
また、未払い残業代を請求されるということは、従業員全体に対し、会社の制度や労務管理に問題がある可能性があります。企業としては給料体系や就業規則、時間管理など制度自体に不備がないか見直し、未払い残業代が発生しないようにしておくことが大事です。
従業員や元従業員から未払い残業代を請求された場合、必ずしも請求額全額を払わなければならないとは限りません。請求されたことに驚き、しっかりと確認せずに支払う約束をしてしまうと、本来なら支払う義務がないケースだったということにもなりかねません。
そのため、請求された場合はまずその内容を確認し、正しく対応するのがポイントです。手順をみていきましょう。
請求者の言い分通りの「未払い残業代があるのか」を確かめるため、その従業員の労働時間の体系を確認します。就業規則や雇用契約書などにどのように定められているのか、当該従業員の雇用形態と照らし合わせて確認しましょう。
固定残業時間制、変形労働時制といった制度が適用される従業員の場合は、残業時間の考え方が通常と異なります。ポイントは、これらの制度を適用することが就業規則や雇用契約書などにきちんと記載されているか、の点です。
例えば、固定残業時間制のつもりで定額の手当を出していたが、就業規則上にその手当てが固定残業代を意味する定めがない、固定残業制を従業員と約束していないといったケースでは、企業の意図に反して支払いを求められることが考えられます。
請求している従業員の労働時間と就労実態を把握します。そのための資料は主に以下が挙げられます。
・賃金台帳
・就業規則(賃金規程)
・労働契約書や労働条件通知書
・勤務表(タイムカード、退勤記録、日報など)
・PCのログイン/ログオフの記録
・業務用メールアカウントの送受信記録履歴
・上司からの指示書、指示メモ、メール
・交通ICカードのデータ、タクシーの領収書
・手帳(勤務時間の記録メモ)
労働時間の体系と労働時間を照らし合わせ、整合しているか確認し、労働時間に見合った賃金が支払われていたかについて検討します。
事実関係を確認した結果、残業代を支払うべき義務があったのに支払っていないと判明した場合は、支払に応じることが必要です。
企業側として検討すべき項目は、主に以下の5つが挙げられます。
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことです。従業員が主張する労働時間が、会社側の指揮命令下に置かれている時間として認定できるかが争点となります。
タイムカードやPCのログインログオフの記録上では労働していることになっていたとしても、当該従業員が仕事ではなく私的な作業を行っていたり、長時間の休憩をとっていたりする場合は、労働時間として認められません。
「定額残業代」「みなし残業手当」などの名称で、基本給に加えて固定残業手当を毎月支給している企業については、時間外労働に相当する残業代が固定残業手当の金額を超えない場合には、「固定残業手当の支給によりすでに残業代が支払い済みである」と判断できます。企業としては適用していても、従業員が認識できてないこともあります。
ただしこの場合、固定残業代と残業時間を明確に書面に記載するなど、固定残業代制度が適用されることが就業規則などで定められ、制度が法律上有効でなければなりません。
企業が従業員に対し、残業禁止令を出していたかどうか確認します。ただし、残業を禁止する命令だけでは、有効ではありません。
残業禁止令は、残業を禁止することに加え、労働時間内に業務が終わらなかった場合は管理職に引き継ぐよう命じるなど、残務に対しての具体的な対策まで講じる必要があります。労働時間と仕事量の適切なバランスがとれていることも前提です。また、不要な残業は禁止するようにしなければなりません。
残業について許可制を採用している場合、無許可での残業を黙認していると請求者の主張が認められ、未払い残業代の支払いが命じられることがあります。
残業代の支払いは、全ての従業員が対象となるわけではありません。労働基準法41条では、「監督若しくは管理の地位にある者」(一般に「管理監督者」と言われます)については、割増賃金の対象としないことを定めているため、管理監督者に該当する場合は法律上、残業代は発生しません。ただし、深夜労働については該当しないため、深夜労働の割増賃金は支払う必要があります。
注意点として、管理監督者に該当するかは名目で判断されるのではなく、実質的に管理監督者としての実務があったかどうかがポイントになります。管理監督者の判断基準については、次章で詳しく解説します。
残業代の支払いには消滅時効が決められています。残業代は、給与支払日の翌日から起算して当面は3年で消滅時効が成立します。
請求された未払い残業代において消滅時効が完成している場合、時効の援用が必要です。時効の援用は、相手に口頭で伝えるだけでも成立しますが、時効の援用を行った事実と日付を客観的に証明するために、内容証明郵便で時効援用通知書の送付が望ましいでしょう。
一例として、「管理職」の従業員から請求された場合をみていきましょう。
まずは、「管理職」が「管理監督者」に該当するかどうかがポイントになります。
前述の通り、労働基準法では「監督若しくは管理の地位にある者」、すなわち管理監督者に該当する場合は、労働基準法上の労働時間の制限や休憩・休日に関する規制などが適用されないとされています。つまり、「管理職」のうち、「管理監督者」に対しては、そもそも残業代を支払う必要がないのです。
ただし、管理監督者でも深夜の時間帯の労働(深夜業/22時から翌日5時まで)の割増賃金は支払う必要があります。管理監督者が適用されない規定に深夜業に関する規定が含まれないことになっているためです。
管理監督者に該当するかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様などの実態によって判断します。具体的な判断基準は主に以下の4点です。
管理監督者は、労働条件の決定などの労務管理について、経営者と一体的な立場にあることが前提であり、全体を統括するような重要な職務内容を有していることになります。
労務管理において経営者と一体的な立場にあるというためには、経営者から重要な責任と権限を委ねられている必要があります。
形式的に部長や課長、リーダー、店長といった肩書があっても、自らの裁量で行使できる権限が少なく、多くの事項について上司に決裁を仰ぐ必要があったり、上司の命令を部下に伝達するだけだったりする従業員は、管理監督者とは言えません。
管理監督者は、いかなる時でも経営上の判断や対応が要請され、労働時間などの規制の枠を超えて活動せざるを得ません。労務管理においても一般労働者とは異なる立場が必要です。労働時間について厳格な管理をされているような場合は、管理監督者には該当しません。
管理監督者は、その職務の重要性から、定期給与、賞与、その他の待遇において、一般労働者より好待遇である必要があります。
厚生労働省による『令和元年賃金構造基本統計調査の概況』によると、多くの企業で管理監督者に該当すると考えられる「部長級」の毎月の賃金は、男性が66万6,800円、女性が61万5,800円となっています。非役職者の毎月の賃金は、男性が31万4,000円、女性が26万100円となっており、男女とも30万円以上高い結果になっています。
以上の点から、請求者が管理監督者と判断されれば、残業代の請求に応じる必要はありません。
従業員から未払い残業代を請求されるリスクを回避するためには、従業員の勤務実態を客観的に把握できる、労働時間管理の仕組みを導入する必要があります。
具体的には、PCによるログ管理システム導入、残業命令の明確化と残業の申請制の採用など、未払い残業代を請求される前に、トラブルの芽を摘むことが大切です。
労働時間の管理をする方法として、例えば、外回り営業職などについては携帯電話のGPSによる位置情報を取得する方法もあります。これについては、正当な目的と妥当な方法で運用する場合は適法ですが、使い方によっては違法になったり、社員が反発したりすることも考えられます。そのため、導入には慎重な判断が求められます。
また、就業規則や雇用契約が、実際の労働時間に適した定めになっているかも大事なポイントです。この定めと運用が適切であれば、未払い残業代の問題は起きづらいとも考えられます。しかし、内容が複雑なうえ、企業の業種や働き方などが複雑に絡んでくるので、弁護士などの専門家にアドバイスを求め、制度設計をすることも大切です。
従業員や元従業員から、未払い残業代を請求されたら、何よりも速やかな対応が不可欠です。今回紹介したポイントをふまえて、まずは事実関係をしっかり把握し、労働時間と就業規則の整合性、従業員との認識の相違などを確認しましょう。もし請求が正しければ真摯に対応することが必要です。とはいえ、迅速で適切な対応には、専門的な知識やポイントを見極めた対処が必要になります。全てを自社で対応しようとするのではなく、トラブル回避のために弁護士を活用することも検討しましょう。
弁護士法人ブライトは、企業法務サービス「みんなの法務部」を展開しています。「企業が安心して、本業に専念できる環境を持続的に提供する」をコンセプトに掲げ、登録企業に対して専任の弁護士チームがかかりつけ医のような持続的なサービスを提供してくれます。就業規則や雇用契約内容といった未払い残業代の未然防止につながるさまざまなアドバイスも受けられますので、「みんなの法務部」の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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