ホテル・旅館が知っておきたいキャンセル料の回収方法や未払いの防止策

ホテル・旅館が知っておきたいキャンセル料の回収方法や未払いの防止策

ホテルや旅館をはじめとする宿泊業界にとって、避けては通れない問題が「キャンセル料の未払い」です。予約キャンセルにより、オペレーションが混乱したり、売上に悪影響が出たりしますが、さらにキャンセル料が入金されないとなるとホテル・旅館にとって大打撃となるでしょう。そこで今回は、ホテル・旅館を運営する方に向けて、キャンセル料回収についての基礎知識や回収方法、未払いを防ぐための方策を解説します。

ホテル・旅館業界を取り巻く「キャンセル料未払い」の現状

国内の研究機関が2020年に発表した調査結果によると、過去3年間にホテル・旅館をキャンセルした対象者の中で、「キャンセル料を支払わなかった」と回答した人は45.2%でした。その理由としては、「請求がなかった」「事情を説明して免除してもらった」といった回答がありました。しかし、他の調査結果によると「請求があったが無視した」という回答も一定の割合を占めており、キャンセル料の未払いに宿泊施設が苦慮している現状がうかがえます。

近年、予約者がキャンセル料の支払いを軽視する傾向にあり、その背景として挙げられるのが、インターネット予約システムの普及です。インターネット予約システムを介して予約することで、予約者は宿泊施設と直接コミュニケーションを交わすことなく、予約・キャンセル手続きができるようになりました。そのため、宿泊施設と予約者の関係性の希薄化が、キャンセル料の未払いを招く要因の一つになっていると考えられます。

また、宿泊業界では、いわゆる無断キャンセルを意味する「No show問題」も大きな問題になっています。No showの予防策としては、予約者が滞りなくキャンセルを行えるよう導線を改善する方法が考えられます。「予約確認メールにキャンセルの受付窓口を明記する」「公式ホームページの目立つ場所に電話番号を記載する」といった対策により、予約者にキャンセル事由が生じた場合のスムーズな連絡を促すことができるでしょう。

参考:予約ラボ「宿泊キャンセルに関する調査レポート」

キャンセル料を回収するために知っておきたい基礎知識

どのようなケースであれば、キャンセル料を請求できるのでしょうか。キャンセル料の考え方や、請求すべきか否かの判断基準を解説します。

キャンセル料は回収できるの?

利用者が宿泊申し込みを行い、ホテル・旅館がこれに同意した時点で宿泊契約が成立し、利用者には支払い義務が生じます。たとえ予約者が宿泊しなかったとしても支払い義務は消失せず、キャンセル料未払いは債務不履行にあたります(民法第415条)。

ただし、予約者の責によらない事情がある場合、キャンセル料免除の対象となり得ます。

キャンセル料免除の対象となり得るケース

  • 自然災害や交通機関の麻痺などによって当該宿泊施設への移動が困難な場合
  • 予約者が、旅行前に怪我や病気を患った場合
  • 予約者の身内に、不幸や緊急事態があった場合

上記の場合も、まずは各施設が経営方針や事情に照らし合わせて、請求の可否を判断します。

平均的損害を超えるキャンセル料は請求できない

キャンセル料金の設定について、法的な定めは明確にはありません。「キャンセルによって失う粗利益」や「別の予約が入る確率」などをもとに、各施設の実情に合わせて設定します。

ただし、消費者保護の観点から「平均的な損害の額を超える」キャンセル料金の定めについては、超過部分の請求が無効となるため、注意が必要です(消費者契約法第9条第1号)。設定しているキャンセル料が平均的な損害額かどうかを確認したい場合は、弁護士への相談を推奨します。

参考:消費者庁「消費者契約法」

キャンセル料を回収する方法

キャンセル料が発生したら、まず予約者に連絡し支払を促した上で、それでもキャンセル料が支払われない場合には、未払いが発生した経緯や自社の請求システムを説明した上で弁護士に相談します。

<フロー1>予約者への連絡

キャンセル料が発生したら、電話やメール、郵便などで予約者に連絡を取り、料金の内訳や入金方法、入金期限等を伝えます。予約サイト経由の宿泊予約のキャンセルについても、キャンセル料の請求はホテル・旅館側が行うのが一般的です。

支払う意思を示さない予約者にはキャンセル料とともに遅延料を請求し、期限内の入金がなかった場合、法的措置を行うことも検討しましょう。

<フロー2>請求通知、訴訟等

期限内に入金が確認できなかった場合には、法的手続きを行う必要があるでしょう。方法としては、内容証明郵便や簡易裁判所による支払督促、少額訴訟制度等の利用が考えられます。いずれも法的な知識が必要とされるため、債権回収の経験豊富な弁護士に相談し、対応を進めてもらいましょう。

なお、故意の無断キャンセルは威力業務妨害罪(刑法第234条)にあたる可能性があります。業務を妨害する目的で無断キャンセルを繰り返すような悪質なケースが発生した場合には、法的措置を視野に入れ、弁護士と対応策を協議しましょう。

なお、2020年改正の民法によって、宿泊料の消滅時効は5年と定められています。時効期限を過ぎると損害賠償請求ができません。そのため、キャンセル料の未払いが生じたら、なるべく迅速に弁護士に相談するのが望ましいでしょう。

キャンセル料の未払いを防ぐための対策

キャンセル料の督促には時間・手間がかかりますし、キャンセル料を支払わない予約客が増えると経営を圧迫します。そのため、キャンセル料の未払いを極力防ぐことも非常に重要です。キャンセル料の未払いを防ぐには、以下の3つの対策が有効です。

  • キャンセル規定(キャンセルポリシー)の策定
  • 事前決済やデポジット制度の導入
  • リマインドメールの送信

それぞれについて、見ていきましょう。

<対策1>キャンセル規定(キャンセルポリシー)を定める

広く導入されている対策として、キャンセル規程(キャンセルポリシー)の策定があります。キャンセル規定を定めておくことで、キャンセル発生時には迅速に対応を進められます。

規定方法に定めはありませんが、すべての予約者に対する公平性を保ちつつ、宿泊施設の実情に即した規定を整備します。主に下記について定めておくことが望ましいでしょう。

  • キャンセル可能な期間
  • キャンセル料規定表
  • 緊急事態発生時の対応

キャンセル料の設定は、キャンセル時期に応じたものとするのが一般的とされています。なぜなら、利用日まで数週間ほど前のキャンセルであれば新たな予約を獲得できる可能性が高いですが、直前キャンセルの場合には予約を獲得できる可能性が低く、材料費や人件費のロスが生じやすくなるからです。一例として、利用日の8日前までは無料、7日~4日前までは宿泊料の20%、3日前は宿泊料の50%、2日前は宿泊料の80%、利用日当日は宿泊料の100%という設定が考えられます。

なお、キャンセル規定は、予約者の目につきやすい場所に記載することが大切です。インターネット予約の場合、「キャンセル規定に同意する」というチェックボックスを設け、予約者の確認を促すとよいでしょう。予約確認メールへの記載も有効です。

<対策2>事前決済やデポジット制度を導入する

デポジットとは、チェックイン時に一定額を請求しチェックアウト時に返金する「預かり金」のこと。宿泊予約においては、宿泊料金の一部を事前に入金する前払い制度を指します。

当日決済でなく事前決済システムやデポジット制度を導入すると、キャンセル料未払いの防止に有効です。なお、予約サイトや旅行代理店での宿泊予約は、事前決済が主流となっています。

<対策3>予約日の前にリマインドメールを送る

手軽に宿泊予約できるようになったがゆえに、「予約したことを忘れてしまった」という事由のキャンセルも少なからず発生しています。こうしたキャンセルを防ぐのに有効なのが、リマインドメールです。

宿泊日の数日前と前日にリマインドメールを送信し、再度、宿泊の意思確認を行いましょう。キャンセルポリシーを添付すれば、キャンセル料の未払いリスクをさらに軽減できます。

ホテル・旅館のキャンセル料未払いに関するご相談は、信頼できる弁護士へ

キャンセル料未払いの予約者に対する督促や法的措置には時間と手間がかかり、通常業務を圧迫しかねません。未払い問題を放置すれば、年を追うごとに損害額が膨らむ一方でしょう。また、そもそもキャンセル料の未払いを防ぐための措置を講じることが大切です。キャンセル問題にお悩みの場合は、予防法務にも取り組み、かつ債権回収の経験が豊富で信頼できる弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士法人ブライトが提供している「みんなの法務部」は、企業の組織体制や企業文化を十分理解し、継続的なアドバイスを提供できる企業法務サービスです。企業法務に強い専門チームが、それぞれの企業に合わせた適切な企業運営の提案・サポートを実施しています。

日常的なサポート体制を通じて企業理解を深めているため、キャンセル料未払い問題が発生した場合も、各宿泊施設の実情に応じた債権回収策の策定・実施が可能です。施設規模や予約システムに応じたキャンセル料未払い防止策についても、アドバイスを受けられます。キャンセル料未払い問題の解決・未然防止に向け、「みんなの法務部」の活用を検討してみてはいかがでしょうか?

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