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ホテルや旅館でのクレーム対応は、初動が重要です。しかし、「ホテルとして対応方法に不安がある」「そもそもクレームを未然に防止するための対策を講じたい」と感じる方もいるのではないでしょうか。本記事では、ホテルや旅館で起きたクレームの事例とあわせて、クレーム対応の初動で確認したい3つの項目や、再発防止に向けて施設が取るべき対応などを紹介します。
ホテルや旅館で起こるクレームには、さまざまな原因があります。ホテル・旅館といった旅館業では、接客対応だけでなく予約や安全・衛生、施設の管理など、運営を適切に行うよう求められる事項が多岐にわたります。裏返せば、それだけ多くの場面でクレームとなり得る種が潜んでいるといえるでしょう。では、実際にどのようなクレームが発生しているのでしょうか。ホテルや旅館におけるクレームの原因を、全国生活衛生営業指導センターの資料より事例を抜粋して紹介します。
施設や設備・備品の不備・不足は、クレームの原因の一つです。「清掃が行き届いていない」「備え付けられているはずのアメニティがない」「あると思っていたのにエレベーターがない」といったクレームを受けたことがある施設もあるのではないでしょうか。
例を見てみましょう。
露天風呂の湯船に入るため足元の低い階段を下っていたところ、最後の段を踏み外して転倒した。右手首が痛み、旅館に話すとシップ薬をくれたが治らず、帰宅後に受診したところ手首捻挫と診断された。旅館側には何も問題がないのか。 |
この場合、旅館はただちに医師の診断を勧め、転倒した階段の構造や状況に不完全な点がないかなどを確認します。もし、「床が滑りやすい」「照明が暗い」など建物やその一部に不完全な点があり、そのために利用客に損害が及んだ場合には、治療費など旅館が顧客に対して該当する損害の賠償責任を負うことがあります。
接客対応やサービスの質も、クレームの原因となりやすい点です。スタッフの対応一つで、気づかないうちに悪印象を与えていることもあります。「接客態度が悪い」ことだけでなく、「予約内容を間違えている」「退室を急かす」など、従業員の行動が原因でクレームが発生するケースもあります。
また、料理に関するクレームも発生しやすいです。「冷めた料理が提供される」「見た目が悪い」など料理のクオリティに関するクレームだけでなく、「髪の毛や虫が入っている」といった異物混入が原因となってクレームが発生する場合もあるでしょう。異物混入があれば、債務不履行(民法412条・415条)や製造物責任(製造物責任法第3条)などの法的な責任を問われることもあります。
次の例を見てみましょう。
グループでの宿泊の際、宴会の席で乾杯用のビールを注文したものの、なかなか運ばれて来なかった。催促後もしばらく待たされ、不愉快な思いをしたことを会計時に伝えたものの、「複数の宴会があり忙しかったから」と言い訳のみで謝罪の言葉もなく、不満が残った。 |
旅先での夕食を楽しみにしていたお客様の気持ちに鑑み、真摯な姿勢で謝罪することが対応の基本です。注文された飲み物や食べ物をいつまでも提供しないことは、「履行遅滞」(※)とも考えられます。この場合、注文(契約)を解除されても仕方ないばかりか、施設側に故意または過失がある場合は損害賠償(慰謝料)を請求される可能性もないとはいえません。従業員の教育を徹底する、混雑時の従業員配置を再考するなどして、再発防止に努めましょう。
※履行遅滞:債務不履行の類型の一つ。履行が可能であるにもかかわらず、債務者が履行期を徒過して履行しない場合。(民法412条・415条)
参考:(財)全国生活衛生営業指導センター『旅館業の苦情対応の手引き』
クレームへの対応は、初動が肝心です。対応が遅れると、相手の不満が募るだけでなく、対応者の業務パフォーマンスの低下や、事業者の時間的・金銭的負担、施設の評判や価値の低下など、影響がさまざまな面に波及することが懸念されます。
では、クレームが発生した場合、どのような初動を取るべきなのでしょうか。クレームを受けた場合に押さえておくべき3つの項目を解説します。
クレームの初動対応で押さえておくべき項目 |
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①起きた事象を正確かつ具体的に確認する ②クレームに対して限定的に謝罪する ③相手が望んでいる対応を確認する |
まずは、顧客が主張する事象を具体的に確認しましょう。事実やクレームに至った経緯を聞き出し、「不満を抱えるきっかけは何か」を把握することが大切です。相手の主張を聴いてから、相手の主張内容と認識が一致しているか、施設側が知りたい事実に不足はないかを確認しましょう。情報が不足している場合には、質問を交えながらより明確にしていきます。事象を確認する際は、話をしながら「施設側に責任があるか」も見極めていく必要があります。
相手に勘違いがあった場合でも、最初から否定はせず、まずは相手の話を傾聴することが大切です。一通り事情を確認したのちに、正しい情報を伝えましょう。ただし、初動の段階で正しい情報がわからない場合には、安易に回答することは避けることが賢明です。 |
相手に不快感を与えてしまったことに対して、謝罪の意を伝えることも大切です。しかし、正確な事実や施設側の責任有無が把握できていない時点で、施設側が全面的な非を認めるような謝罪は避けるのが賢明です。クレームを入れる手間を取らせてしまったことや、不満を持たせてしまったことに限定して謝罪しましょう。
このとき、クレームの対応者が意識したい点は、相手の気持ちに寄り添うことです。すぐに解決策を提示されるだけでは、不満の解消には至りません。まずは、「ご不便をおかけして申し訳ありません」といった心情を理解した言葉を伝えて、相手の思いに共感を示しましょう。 |
事象が確認できたら、相手が望んでいる対応を把握しましょう。たとえば、「禁煙ルームなのにタバコのにおいがする」といったクレームの場合、「部屋を替えてほしい」「値引きをしてほしい」など、さまざまな要求があります。質問を交えながら、相手が解決してほしいことを聞き出していきましょう。
起きた事象の具体的な内容や相手が望む対応が把握できたら、その後はどのような対応を取るべきでしょうか。施設側に非があるか否かやクレームの内容が不当要求に該当するかなどによって、必要な対応は異なります。ケースごとに対応方法を確認しましょう。
クレームへの基本的な対応は、基本的には施設側に非がある場合でもない場合でも誠意を伝えることが大切です。では、詳しい基本的な対応をお伝えします。
クレームの内容や問題点が明確になったら、原因を調査したのちに事象への対応を検討しましょう。施設側に非がある場合は、相手の意向も踏まえた対応が必要です。先ほどの「禁煙ルームでタバコのにおいがする」という例から見ると、施設側の非を詫びた上で別室への移動や宿泊料金の割引を提案するなど、いくつかの対応が考えられます。
「施設内で起きたケガなどにより、医療機関の受診が必要となった」など、後日あらためて対応が必要になる場合もあります。施設側に非があったために受診が必要になった場合は、治療費や休業補償などの賠償責任が生じます。具体的な対応日程の提示や電話番号の交換など、相手と状況を共有できる体制を整えることを忘れずに行いましょう。
相手の誤解があったなど施設側に非がないと判断する場合には、要求に対応できない旨を伝える必要があります。その際は二次クレームに発展しないよう、相手の心情を考えた慎重な言葉選びが大切です。安易な謝罪はせず、丁寧に説明を行いましょう。「私たちは悪くない」といった内容の発言は避け、相手が不快や不満を感じた点に対する謝罪や共感の意を伝えます。
施設側に非がないにもかかわらず、相手がなかなか納得しないケースもあるでしょう。一次対応者の時点で解決に至らない場合は、場所や時間、対応者を変え改めて対応することも検討します。対応が長引きそうな場合は、弁護士への依頼も検討するとよいでしょう。
中には、対応している従業員に土下座を求めたり、大声で怒鳴りつけて業務を妨害したりと、不当な要求を行う人もいます。このようなケースでは、毅然とした態度で理由とあわせて、対応できない旨をはっきりと伝えることが必要です。
不当要求の対応は必ず複数名で、万が一を考えて助けを求めやすい場所で行います。要求の内容や態度によっては、早めに弁護士など第三者を介入させましょう。また、ほかの利用客や従業員の身に危険があると判断した場合には、警察に通報するなどして利用客および従業員の安全を確保することが最優先です。
不当要求に対しては、「絶対に屈しない」という基本姿勢を組織全体に示しておきましょう。なお、2023年6月に成立し、同年12月に施行される改正旅館業法によりますと、対応困難な不当要求、いわゆるカスタマーハラスメントが繰り返されるケースにおいては宿泊拒否が認められることとなりました。
接客を伴うホテルや旅館へのクレームは、対面や電話で伝えられる場合もあれば、口コミサイトに投稿される場合もあるでしょう。口コミサイトはネット上に公開されるため、クレームの内容と対応が不特定多数の人の目に触れる可能性があります。対応が施設全体の評判に影響することも考えると、できるだけ早く、慎重・適切な対応が必要です。
口コミサイトに投稿されたクレームへの対応は、本人の特定に時間や手間を要するため、投稿に対して返信する場合やDMを送る場合などがあります。基本的に文字でのやり取りとなりますので、誤解を生じやすく、のちの訂正が難しいです。そのため、文面は必ず複数名でチェックを行いましょう。さらに、口コミの内容によって返信のタイミングが異なることがないよう意識することや、利用者名や従業員名など、個人が特定できる表現を避けることも重要です。
なお、ホテルや旅館の口コミサイトでは、事実無根の書き込みをされるといった被害も発生しています。その場合は、該当サイトのホームページ管理者へ書き込みの削除を依頼しましょう。また、こういった書き込みは名誉毀損や業務妨害に該当する場合もあるため、削除に応じない場合は弁護士へ相談することが望ましいです。
いずれのケースでも、専門的な視点が入ることでより適切な対応につながるため、早めに専門家へ相談して早期解決を目指しましょう。
では、クレームを未然に防ぐには、ホテルや旅館ではどのような対策ができるでしょうか。施設側が講じるべき策を解説します。
まずは、クレーム内容を従業員全体で把握することが大切です。たとえば、「アメニティが人数分補充されていない場合」には、「宿泊者人数が共有されていなかったのか」「清掃に十分な時間が確保できていなかったのか」など、さまざまな原因が考えられます。これまでに同様のケースが発生したが、クレームとして伝えてくる人がいなかったために表面化していなかったという可能性もあるでしょう。詳しく原因を探り、改善するためにはどのような措置を取るかの共有や、従業員全体に周知させることが重要です。
また、発生したクレームはすべて記録に残しましょう。従業員が事例から学び、クレームの傾向を把握することにつながります。
先述したようにホテルや旅館のような宿泊施設は、接客対応だけでなく、予約や安全・衛生、施設など管理を求められる範囲が広いです。施設側の管理責任ごとに、起こりやすいクレームにも一定のパターンがあるものです。予測できるクレームは、あらかじめ対応をマニュアル化しておきましょう。また、従業員の対応方法を統一できるよう、施設側としての考え方および対応方針の共通理解を深めることが重要です。
しかし、自社に不足している接客スキルや、法律が関わる範囲は、施設側のみでは判断が難しいこともあります。あらかじめコンサルタントや弁護士などの専門家に相談し、第三者視点からアドバイスを受けることで、適切な育成方法や研修内容が整備できるでしょう。
自社で行われている従業員の育成方法を見直すことも重要です。よりよい接客やサービスを提供するためには、従業員がどのような接客やサービスを行う必要があるかを検討しましょう。旅館業では人手不足が深刻化しており、季節労働者や外国人労働者も増加しています。これらの労働者は、一時的な勤務や日本の風土と異なる環境にいたため、ただちに各施設の組織風土やルールに適応することが難しい場合も考えられます。接客業であり、快適さを求めるサービスであるからこそ、「従業員によって差がある」「以前利用したときと対応が違う」など対応の個人差が施設全体の評価に影響しやすくなります。「自らの振る舞いや業務に対する姿勢がホテル・旅館の顧客満足度につながる」という当事者意識を育てることが大切でしょう。
ホテルや旅館でクレームが発生した場合は、二次クレームへの発展を防ぐためにも、初動が大切です。旅館業のクレームは、接客への不満だけでなく、施設や設備、料理に対する不満などさまざまな場面で発生し得るため、起きた事象や原因を適切に捉えましょう。本記事を参考に、従業員の育成や基本対応のマニュアル化を行い、再発防止策の周知徹底を図ってみてはいかがでしょうか。
また、誤った判断とならないよう、早めに弁護士に相談することは大切です。弁護士法人ブライトでは、「みんなの法務部」にて、法務部や顧問弁護士をもたない企業でも相談・解決が行えるリーガルサービスを展開しています。専任の弁護士チームが「かかりつけ医」のような存在となり、法律に基づいた解決はもちろん、「接客サービスに関する事前相談」や「従業員研修の内容」「対応フローの形成」など、事前に問題点の洗い出すことによりクレームの未然防止をサポートします。ホテルや旅館でのクレームを防ぎたい場合や、クレーム対応にお悩みの場合は、ぜひ登録を検討してみてはいかがでしょうか。
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