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資金決済法と規約の落とし穴|決済フローの法務整理【前編】

この記事でわかること

  • プラットフォーム型サービスで発生しやすい「契約主体の誤設定」
  • 決済フローと資金決済法の関係
  • ポイント制度が“債権”として扱われる理由
  • 規約と運用のズレがトラブルを招く構造

この記事のポイント

  • プラットフォーム運営で最も誤解が生まれやすい“契約主体”を明確に理解できる
  • 資金決済法・収納代行スキームの基礎と実務リスクがわかる

プラットフォーム型サービスが増える一方、決済フロー・ポイント制度・契約主体 といった基盤設計が曖昧なまま運営されているケースは少なくありません。
とくに資金決済法や収納代行の扱いは一見複雑で、「どこからどこまでが自社の責任なのか?」を正確に把握できていない事業者も多いのが実情です。

とはいえ、法律知識がないまま規約を作ることは珍しくありません。
テンプレートを流用し、サービスの成長に合わせて追加されてきた運用を「後から付け足す」形で対応した結果、規約と実態がズレてしまうことはよくあります。

この記事の【前編】のテーマは、プラットフォームに潜む「5つの法的落とし穴」です。プラットフォーム型サービスの根幹を揺るがしかねない5つの法的リスクを徹底解説します。まずは現状の仕組みに“違反の芽”がないか、冷静に点検していきましょう。

1.プラットフォーム運営で起きがちな「契約主体の誤解」

多くのプラットフォーム運営者が陥る典型例として、契約主体の「誤」設定があります。

あるWebサービスでは、利用者がアプリから飲食物を注文できる仕組みを提供していました。しかし規約を確認すると、商品の売買契約が「プラットフォーム事業者とユーザー」の間で成立するように読める構造になっていたのです。

実態としては、

  • 注文:ユーザー ⇒ 店舗
  • 承諾:店舗 ⇒ ユーザー

という“店舗とユーザーの直接契約”で成り立っています。

にもかかわらず、規約上プラットフォームが販売者であるように見えてしまうと、瑕疵(契約不適合)・返金・トラブル対応がすべてプラットフォーム側の責任に収束してしまいます。とはいえ、プラットフォーム運営者がここで混乱するのは自然なことです。複数の事業者が関わるサービスでは、「契約の当事者が誰か」が直感的に判断しづらいためです。

このようなケースでは、“媒介者としての立場”を規約で適切に明記することが不可欠です。そうすることで、責任範囲を適切に整理でき、紛争リスクを大きく減らすことができます。

2.決済代行を使う場合に避けられない「資金決済法」との関係

プラットフォームが外部の決済代行を利用する場合、資金決済法・収納代行スキーム・前払式支払手段といった法律との関係を避けて通れません。

例えば、あるサービスでは、

1.決済代行 ⇒ プラットフォーム
2.プラットフォーム ⇒ 店舗

という流れで売上金が動いていました。一見よくある流れですが、この構造は“マーケットプレイス型の資金移動”として扱われ、

  • 売上金の預かり
  • 分配の方式
  • タイミング

などが資金決済法の対象となる場合があります。

とはいえ、すべてのプラットフォームが資金決済法の対象になるわけではなく、「代金の受領主体」「保有期間」「分配方式」で大きく変わります。だからこそ、仕様変更のたびに法的観点からの点検が求められます。実際、決済フローを精査すると、売上金の流れを規約で正しく表現できていないケースがよく見られます。たとえば「カード情報をプラットフォームが保有しているように読める表現」などもその一つです。

サービス運営者としては、自社が保持する情報の範囲を正確に明示し、「誤解を与えない構造」に整えることが極めて重要です。

3.規約と現場運用のズレが生む「トラブルの温床」

プラットフォーム運営で特に多いのが、「規約はカード決済のみ」なのに、現場では現金も対応しているという状況です。

あるサービスでは、当初「アプリ内決済のみ」を想定していたものの、

  • 店舗が独自で外部決済端末を使い始めた
  • 現金にも柔軟に対応するようになった

という理由から、運用が規約を上回ってしまった事例がありました。

とはいえ、サービスが成長すれば現場が先に動くのは自然なことです。むしろ健全な証拠でもあります。しかし、ユーザーとのトラブルは常に“書面に残っている規約”が基準となるため、運用と規約の乖離は放置できません。

理想は、“仕様変更にも耐えられる抽象度で規約を書く”こと。「現金は今後廃止予定だが、当面は許可する」といった、将来の設計変更にも耐えうる文言を持たせることで、長期的な整合性を保てます。

4.ポイント制度の「債権性」が引き起こす新しいリスク

ポイント制度における大きな見落としが、ポイントは民法上“債権”として扱われる、という点です。

あるサービスでは、ポイントの譲渡を規約で禁止していました。
しかし民法改正により、原則として債権の譲渡は自由とされるため、単純な禁止規定では十分な効力を持てません。

そんなあなたに伝えたいのは、「譲渡禁止=絶対に譲渡されない」ではないという事実。
実務上は、

  • 譲渡時の手数料設定
  • 無効化条件

などを追加し、“違法ではない形で実質的にコントロールする”必要があります。

とはいえ、こうした制度設計は専門家でも難易度が高く、サービスの性質やビジネスモデルによって最適解が変わります。だからこそ、運営者はポイント制度を甘く見ず、“金融法務に近い領域”として扱う必要があります。

5.UGC(口コミ・投稿)の扱いで見落とされる権利関係

プラットフォーム型サービスでは、ユーザー自身が投稿するレビューやコメント、いわゆるUGC(User Generated Content)が重要な役割を果たします。しかし、このUGCを適切にコントロールできているサービスは意外と多くありません。

あるプラットフォームでは、ユーザーの投稿が外部サイトに無断転載される事態が起こり、利用規約の不備が問題になりました。投稿はあくまでもユーザーの著作物であり、事業者はそれを勝手に削除したり再編集したりできるわけではありません。とはいえ、サービス運営上、一定範囲で利用や表示調整が必要になるケースもあります。

このような状況を整理するためには、「著作権はユーザーに残るが、サービス提供に必要な範囲で利用を許諾する」という考え方が基本となります。また、外部媒体に投稿された口コミはプラットフォーム側では削除権限がないため、“削除要請の仕組み”を規約上で定義することも重要です。

とはいえ、UGCの扱いは著作権だけでなく、名誉毀損・プライバシー侵害など複数の法律が絡むため、一般的なテンプレート規約では対応しきれません。サービスの特性に合わせた精密な設計が求められます。

プラットフォーム運営に潜む5つの落とし穴、現状のシステムはクリアできていたでしょうか。これらの法的リスクは、放置すれば「経営の爆弾」となりますが、正しく対処すれば競合他社に対する「信頼の参入障壁」へと変わります。 では、具体的にどう対策を講じればよいのでしょうか。ここからは思考を「リスクの発見」から「解決策の実装」へと切り替えます。 【後編】では、事業成長を止めずに法規制をクリアする「スキーム構築」と、仕様変更に強い「規約設計」のノウハウを解説します。

FAQ:よくある質問

資金決済法の対象になるかどうかは、どこで判断できますか?

ポイントの付与方法、売上金の流れ、分配のタイミングなどを総合的に見て判断します。特に「誰が代金を受け取り、どのタイミングで誰に渡すか」が重要なポイントです。

専門家があなたの規約をチェックします

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  • この記事を書いた人

笹野 皓平

弁護士法人ブライト パートナー弁護士: あなた自身や周りの方々がよりよい人生を歩んでいくために、また、公正な社会を実現するために、法の専門家としてサポートできることを日々嬉しく感じています。

本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。

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顧問弁護士担当弁護士

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    笹野 皓平

    2008年

    京都大学 法学部(Kyoto University Faculty of Law)卒業

    2010年

    司法試験合格・立命館法科大学院修了

    2011年

    弁護士登録(大阪)

    2019年

    大阪弁護士協同組合 総代

    法人向け・個人向けを問わず、幅広い業務に取り組んできました。その場しのぎの単なる助言だけで終わるのではなく、最終的な局面を見据えた「真の問題解決」を目指す姿勢を大切にしています。

    プロフィールを詳しく見る

事務所概要

事務所名 弁護士法人 ブライト(大阪弁護士会所属)
開 業 平成21年(代表弁護士独立開業)
設 立 平成24年11月設立、平成27年1月に法人化
所在地 〒530-0057 大阪府大阪市北区曽根崎2丁目6番6号 コウヅキキャピタルウエスト12階
TEL 0120-931-501(受付時間9:00~18:00)
FAX 06-6366-8771
事業内容 法人向け(法律顧問・顧問サービス、経営権紛争、M&A・事業承継、私的整理・破産・民事再生等、契約交渉・契約書作成等、売掛金等の債権保全・回収、経営相談、訴訟等の裁判手続対応、従業員等に関する対応、IT関連のご相談、不動産を巡るトラブルなど)、個人向け(交通事故・労災事故を中心とした損害賠償請求事件、債務整理・破産・再生等、相続、離婚・財産分与等、財産管理等に関する対応、不動産の明渡し等を巡る問題など)

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