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会社の機密情報漏えいやバイトテロなど、従業員によるSNS炎上の事例は後を絶たず、テレビや新聞でも大きく報道されています。従業員によるSNS炎上はその従業員個人の問題にとどまらず、社会的信頼の失墜や事業への影響など会社にとっても大きな痛手になります。従業員のSNS炎上による損害を最小限に抑えるための対策や、従業員のSNS炎上を予防するため、会社が日頃から行っておくべき方策について解説します。
近年、従業員のSNS炎上が企業に不利益を招く事例が増えています。「SNS炎上」とは、LINEやTwitter、Facebook、Instagramなどのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の投稿に対して私的な批判が殺到し、収拾がつかなくなる状態のこと。デジタル関連企業の調査によると、従業員のSNSを含め、国内の炎上件数は2022年だけで1,570件に上ります。
炎上を招きやすい投稿として、下記のような例が挙げられます。
●機密情報の漏えい(顧客情報、未公開情報、内部事情の告発、知的財産関係など) ●会社や競合他社、個人等に対する不当な論評や批判、名誉棄損 ●第三者のプライバシー侵害 ●バイトテロ ●ヘイトスピーチ(人種・国籍・性差などに対する差別的発言) ●第三者の炎上投稿に対する不適切なコメント ●フェイクニュース |
SNS炎上は「火種の投下」→「炎上開始」→「拡散」→「メディア掲載」→「さらなる大炎上」というプロセスをたどります。投稿に対する一部のユーザーの指摘、コメント等が発端となり、ネット上に拡散。多くのユーザーの目に触れることとなり、炎上が広がります。最悪の場合、ネットニュースや大手メディアで取り上げられ、広く世間の批判を浴びることもあります。
従業員のSNSが炎上した場合、企業はステークホルダーや市場からの信頼の低下・失墜、事業への影響、サービスの停止など、甚大なダメージを被りかねません。また、第三者に損害を与えてしまった場合、会社も使用者として損害賠償責任を負う可能性があります(民法715条)。会社は、従業員のSNS炎上の予防を徹底しつつ、火種が発生した時は小さな段階で早急に対処するとともに、再発防止策を打ち出す必要があります。
参考:シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所「デジタル・クライシス白書2022」
SNS炎上の主な原因として、投稿者のネットリテラシーやモラルの欠如が考えられます。故意に火種が投下される場合もあれば、無自覚かつ安易な投稿が炎上を招いてしまう場合も少なくありません。実際の炎上事例を見てみましょう。
ホテル従業員が、自身が勤務するホテルに有名俳優が宿泊している旨をTwitterに投稿。守秘義務に反する行為としてホテルに対しても批判が相次ぎました。投稿者によってTwitterアカウントが削除されたものの、ネット上で個人情報が特定されるなど、騒ぎが拡大。ホテルは、投稿者を厳罰に処分するとともに、公式に謝罪する事態に至りました。
メーカー従業員が、取引先の未発表製品を撮影し、自身のTwitterに投稿。守秘義務違反を犯した投稿者だけでなく、撮影を許してしまった会社の体制も批判を受けました。投稿者は、不正競争防止法違反(営業秘密侵害)と偽計業務妨害の疑いで書類送検されています。
飲食店のアルバイト従業員が、ゴミ箱に廃棄された食材を、まな板に再び乗せて調理する様子を動画撮影し、Twitterに投稿しました。ネット上で炎上しただけでなく、店舗に抗議の電話が殺到し、会社の株価は下落。投稿者は懲戒解雇されたほか、偽計業務妨害罪で書類送検されています。
従業員のSNSが炎上した場合、事態の収拾に向けて速やかな対処が求められます。対処の流れを紹介しましょう。
まず炎上の元となっている投稿内容を証拠保全します。投稿内容をスクリーンショット撮影やプリントアウト、PDF化によって保存してください。元データが投稿者によって削除や改ざんされる可能性がありますので、PDF化する際、ヘッダやフッタに投稿日時やURLも記録しておくと、証拠価値が高まります。
次に、事実関係を確認するため、投稿者を特定しヒアリングを行います。アカウント特定に特化した調査会社への依頼も考えられます。投稿が本人によるものか、「なりすまし」に注意しながら事実関係を確認した上で、本人から事情をヒアリングします。その後の対応方針に関わってくるため、ヒアリングでは投稿した理由や経緯について事細かに聴取しましょう。どのタイミングで、何をどの順序でどのようにヒアリングするか、専門家の意見も踏まえ、慎重に検討すべきです。
また、SNS炎上のスピードは年々加速しており、火元である投稿の速やかな削除が重要です。投稿した従業員に対して、投稿と個人アカウント自体の削除を要請しましょう。ただし削除依頼に強制力はなく、個人的な投稿の削除は任意交渉となります。削除請求を業者が代行することは法律上認められておらず、会社か弁護士が行わねばなりません。交渉が決裂した場合、SNSの運営元に対して削除請求を行わねばならないケースもあります。
従業員のSNS炎上は、クライアントや従業員、株主といったステークホルダーにも、被害や動揺を与える場合があります。投稿者への対応と並行して、ステークホルダーに状況を説明し、対応を協議しましょう。ネット炎上は曜日や時間を問わず発生するため、SNS利用ガイドラインを策定し、ステークホルダーとの連携方法についてもマニュアル化しておくことをおすすめします。SNS利用ガイドラインについては、次章で詳しく説明します。
事実関係の公表や謝罪は、タイミングを見計らう必要があります。事実関係を十分に確認せず、方針を決めないまま謝罪しても、「ポイントがずれている」「誠意が感じられない」「対応がぶれている」などと世間の反感を買い、炎上が拡大します。従業員や会社の非が明らかになったら速やかに対応方針を確定し、謝罪など適切な対応をすべきです。謝罪する場合は、タイミング、場所、文面など、弁護士や第三者の視点を通すことをおすすめします。事実関係の公表や謝罪に加え、今後の会社としての対応方針を示し、いち早く信頼回復に努めましょう。
従業員のSNS炎上は問題収束に時間を要するだけでなく、会社が風評被害を被る恐れがあります。従業員のSNS炎上を未然に防止するには、複数の方策を重畳的に行う必要があるでしょう。万一、炎上が再発した際も、社外への説明材料や懲戒処分の裏付けとして未然防止策が役立ちます。
従業員のネットリテラシー意識向上を図るには、社長等トップによる呼びかけが重要です。会社にとって重要なことだということを従業員、スタッフ一同に呼びかけ、全社での取り組みだとの意識向上を図ります。その上で、自社の事業・サービス内容に即した実践的な研修が有効です。研修後に、理解度を測るテストやアンケートなどのフォローアップを行うと、理解の浸透に役立ちます。
従業員の意識向上を図った上で、これを実効化するため、就業規則やSNS利用ガイドラインを整備します。まず、SNS利用ガイドラインにおいて利用ルールを整備するとともにトラブル発生時の対応について規定しましょう。その上で、就業規則において、機密情報の漏えいや信用失墜、名誉棄損等の行為を禁止し、違反した場合は懲戒処分の対象とする旨を明記します。
意識向上とともに、就業規則違反の場合、社内処罰のみならず民事責任・刑事責任が科され得ることを周知することが重要です。研修や規則説明の際に理解を促すとよいでしょう。
また、SNS利用ガイドライン、就業規則等は策定して終わりではなく、定期的な整備と正しく公平な運用、研修や周知が大切です。適切なプロセスを踏んでおくことが、企業の姿勢を示し、不当な炎上やダメージ拡大を防ぐことにもつながります。
就業規則やSNS利用ガイドラインを整備していても、炎上を招いた従業員が「目を通していなかった」「存在自体を知らなかった」と抗弁することも考えられます。就業規則やガイドラインを遵守することの重要性を従業員全員に改めて知ってもらうためにも、入社時や、研修、規則改定のタイミング等に誓約書を提出してもらうとよいでしょう。
職場環境や待遇に対する不満が、SNS上での内部告発や名誉棄損につながるケースも少なくありません。待遇や評価制度の見直し、企業ビジョンの共有によって従業員エンゲージメントを高めることが、従業員によるSNS炎上防止に一定の効果があります。また、内部通報制度を機能させることで、外部への告発による炎上リスクを軽減します。
SNS炎上を招いた従業員への対応として、戒告や減給、懲戒解雇といった懲戒処分の他、法的な措置が考えられます。
本来、従業員の私生活における言動に懲戒処分を科すことはできません。しかし、炎上を招いた投稿内容が、機密情報の漏えいや第三者、使用者に対する名誉棄損であれば、就業規則上の懲戒事由に該当します。被害の程度や行為の悪質性などを考慮に入れながら、懲戒処分を検討します。
会社が被った損害の程度や行為の悪質性によっては、投稿した従業員に対する法的措置を検討することになります。民事の損害賠償請求、刑事告訴のいずれか、もしくは両方の法的措置をとることが考えられます。いずれの場合も、どのような法律構成で誰に何を請求するのか、刑事告訴の具体的方法等については、弁護士等専門家の意見が必要になるでしょう。
従業員のSNS炎上を予防し、炎上した際の対策を考える際は、その先の対策からさかのぼった法律的な見地からの検討が必要です。誤った対策によって企業の利益とイメージを損なわないためには、弁護士の助力が必要となります。
炎上の未然防止のために、各社の事業内容や企業文化に即したガイドライン、就業規則を定め、必要な研修をすることが重要です。また、炎上が生じてしまったときは、ステークホルダーへの影響を見定め、素早く効果的な対応をしなければなりません。そして事後には、従業員に対する処分も必要となります。これらの予防、対応、処分にスピード感をもって対応できるためには、事後に相談を受けるのではなく、予め各社の事業内容や企業文化を知っている弁護士が望ましいと言えます。
弁護士法人ブライトが提供する「みんなの法務部」は、各社の事業内容を普段から把握しておき、ITツールを利用して、チームでスピーディに対応します。従業員のSNSに関する疑問や悩みは、「みんなの法務部」までご相談ください。
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