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ホテル・旅館は、「土日や祝日が忙しい」「深夜勤務がある」「同じ施設にさまざまな職種の労働者がいる」など、労働環境が特殊な業界で、就業規則も一般企業と異なります。労働者が安心して働けるように労働環境を整備した上で、実態に即したルールを定め、就業規則に反映することが重要です。今回は、ホテル・旅館について、法改正による働き方・休み方への対応と、就業規則を見直す際にチェックすべきポイントなどを解説します。
就業規則とは、労働者の給与や勤務時間、休日など、就労上のルールを定めた文書です。労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者がいる事業所には、就業規則の作成および労働基準監督署への提出が義務付けられています。また、労働基準法第89条第1項〜第3項に基づき、就業規則には始業および終業時刻、休日、賃金の計算や支払方法といった「絶対的必要記載事項」を記載する必要があります。
就業規則は事業所ごとに必要とされているため、複数の施設を運営しているホテル・旅館は、企業全体ではなく各施設それぞれで就業規則が必要です。なお、労働者数が常態として10人未満のホテル・旅館については、就業規則を作成する義務はありませんが、無用な労使トラブルを予防するために作成しておくことが望ましいです。
就業規則は労働基準法の定めで作成する規則集です。労働基準法第92条は、就業規則と法令及び労働協約との関係について定めており、労働基準法などの条件を満たしていない部分は無効となります。
就業規則に関係するルールは、優先度が高い順に「法令(労働基準法など)」「労働協約」、その次が「就業規則」です。ホテル・旅館の就業規則は、営業実態や法改正を踏まえつつ、労働基準法や労働協約などの範囲内で作成する必要があります。
ホテル・旅館の就業規則では、業界ならではの細かなルールを決めておく必要があります。なぜなら、休日が忙しい、深夜や早朝も対応が必要、業務の時間が限定されるなどの業界特有の事情により、一般的な企業と同様の就業規則では実態との乖離が生じてしまうためです。
実態とかけ離れていては、就業規則としての機能を果たさないだけでなく、労使間のトラブルの原因にもなります。労働基準法の範囲内であることを前提に、営業実態と乖離がないか確認することが重要です。社内の担当者のみで見直すのが難しい場合は、弁護士に営業実態を説明した上で、就業規則を確認してもらうのもよいかもしれません。
2019年4月1日から順次施行されている「働き方改革関連法」(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)により、ホテル・旅館も、働き方や休み方について見直しが必要になりました。宿泊業においては「休日の確保」「労働時間の把握と『ムダ』の削減」「働き方・休み方を改善するための環境づくり」の3つが、効率的な働き方の実現に向けた、施策の柱とされています。
出典:「働き方・休み方改善ハンドブック 宿泊業(旅館・ホテル業編)」厚生労働省
ホテル・旅館における働き方改革を進めるためには、業界の事情を踏まえた上で休日や賃金体系などを見直し、改定後のルールを就業規則に反映します。就業規則ありきでルールを考えるのではなく、まずルールを見直した上でそれらを就業規則に規定することが大切です。ホテル・旅館の働き方が法の定める範囲内か、変更後の就業規則が法改正に対応できているか不安な場合は、弁護士に相談してみましょう。
ホテル・旅館で、労働者がより働きやすい職場を実現するために、宿泊業ならではの事情を考慮した上で、労働環境を整えることが重要です。ここでは「働き方改革」の3つの柱を基に、ホテル・旅館の働き方を見直すためのポイントを紹介します。
出典:「働き方・休み方改善ハンドブック 宿泊業(旅館・ホテル業編)」厚生労働省
休日の取得が困難な状況が続くと、従業員の体調不良や休職・退職、ひいては労使トラブルにもつながります。宿泊業は時期により繁閑があるため、忙しいときには休日返上で対応したり、年次有給休暇が取りにくかったりすることもあるでしょう。そのため、労働者が確実に休日を取得できる環境にすることが重要です。近年は、休館日を設定する、休日を前提にシフトを組む、業務の属人化を解消するなどの工夫により、休日は確実に休めたり、連続休暇をとりやすくしたりしているホテル・旅館もあります。自社で取り入れることができそうな制度を検討してみましょう。
また、有給休暇については年10日以上の年次有給休暇が付与されている労働者には、年5日は有給休暇を取得させることが企業に義務付けられています。労働者が有給休暇を取得しやすいよう、管理職が率先して有給休暇を取得する、時間単位年休を導入するなどに取り組んでみることも考えられます。なお、労働者が年5日の有給休暇を自ら取得しない場合は、使用者が労働者と相談のうえで、時季を指定して5日間の有給休暇を取得させる必要があります。
参考:「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」厚生労働省
GWやお盆休み、年末年始といった繁忙期には、やむを得ず、労働者に休日出勤してもらうこともあるでしょう。休日出勤を命ずる可能性があるホテル・旅館は、その旨を就業規則で明示することも重要です。休日が確実に取得できることを前提に、休日に出勤した場合の振替休日や、休日出勤の割増賃金などを就業規則で定めておきます。
休日に関わる制度を見直したら、就業規則に反映するとともに、労働者に内容を周知しましょう。
労働時間と休憩時間を明確にしてムダな時間を削減するために、各自の労働時間を把握する仕組みが必要です。出勤・退勤・休憩をしっかり記録する、各作業の改善を図り所要時間を短縮する、時間外労働は許可制にして不要な残業を減らすなどの取り組みを行うとよいでしょう。
ホテル・旅館では、労働時間内に「電話がかかってきたら対応するため、事務室で待機する」「宿泊客の到着をロビーで待つ」など、いわゆる「手待ち時間」が発生することがあります。その間、労働者は上役の指揮監督下にあり、何かあればすぐ動けるように待っているため、手待ち時間は「労働時間」となります。「休憩時間」と誤ってみなさないよう、注意しましょう。
手待ち時間が長くなる閑散期と時間外労働が多くなる繁忙期で、業務の繁閑がはっきりしている場合は、変形労働時間制を導入すると、閑散期と繁忙期で労働時間の配分を変えることができます。また、固定残業代を支払っているホテル・旅館で、想定した時間外労働時間と実際の時間外労働時間の乖離が大きい場合は、休憩時間の設定と固定残業代の計算方法を確認するとよいでしょう。
各現場の実際の労働時間を把握し、作業効率の向上や勤務体系の見直しなどを行うことは、ムダな時間の削減につながります。
ホテル・旅館の働き方・休み方を改善するには、業務内容を吟味することも大切です。重複している業務やミスが多い業務を洗い出し、どのようにすれば所要時間を削減できるか検討してみましょう。また、労働者の負担の割に顧客満足度がそう高くはないサービスを見直すことも、業務負荷の軽減に役立ちます。
業務の属人化を解消することも、働き方・休み方を改善する手段の一つです。ホテル・旅館は業務によって忙しい時間帯が異なり、同じ施設内でも忙しい人とそうでない人の差が大きいことがあります。業務の属人化を解消し、1人の労働者がさまざまな業務に対応できる体制を整えれば、手が空いている労働者が忙しい現場へ応援に入れるようになるため、待ち時間や残業を減らす効果が期待できます。
ホテル・旅館によっては、実態に合わせて就業規則に記載すべき規定があります。自社の施設に当てはまるものがないか、以下の例で確認してみましょう。
時間外労働がある
時間外労働について、割増賃金が発生するタイミングや計算方法を就業規則で明確に定めます。労働基準法で規定されている法定労働時間は1日8時間、1週40時間です。変形労働時間制の場合は、労働基準法を根拠に時間外労働の計算方法を明記しましょう。固定残業代(みなし残業代)を支給しているホテル・旅館では、固定残業代の計算方法と固定残業時間数を、就業規則や雇用契約書で明確に示します。固定残業代の範囲を超える時間外労働に対しては、別途割増賃金を支給する旨も記載しましょう。
深夜勤務がある
企業は「深夜業を含む業務」に従事する労働者に対し、6カ月に1回「特定業務従事者健康診断」を実施する義務があります。「深夜業」は、午後10時から午前5時までの間における業務のことで、「深夜業を含む業務」とは、通達(昭和23年10月1日基発第1456号)で「常態として深夜業を1週1回以上または1月に4回以上行う業務をいう」とされています。
参考:「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」厚生労働省
制服に着替える必要がある
制服の着用を義務づけている、あるいは更衣室など着替え場所を指定しているホテル・旅館は、着替えは使用者の指揮命令であるため労働時間として扱われます。このような場合、たとえ就業規則に「着替えは労働時間に該当しない」と明記していても意味がなく、タイムカードを打刻してから着替える、通常想定される着替えの時間分を固定残業時間に含めるといった対応が考えられます。
参考:「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」厚生労働省
就業規則は作成することが目的ではなく、状況に合わせて適切に運用されることが重要です。見直しが必要になるのは、「社内ルールを変更するとき」「法改正が行われたとき」「労働基準監督署から是正勧告を受けたとき」です。
社内ルールを変更する場合は、変更内容を就業規則に反映する必要が生じる場合があります。具体的には、年間休日数や賃金体系の変更、シフト制や変形労働時間制など労働時間に関する変更、家族の看護・介護休暇制度の新設など、労働環境に影響がある制度変更を就業規則に落とし込みます。就業規則に記載が必須となるルールでなくとも、就業規則に反映させることで、実態との乖離を防げるだけでなく、労使間のトラブルを防ぐ効果も期待できます。
ただし、労働契約法第9条は、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」と定めています。たとえば、経営状態の悪化による最低賃金の引き下げなど、労働者にとって不利益な見直しは、就業規則に定める前に、労働者との合意が必要です。
「働き方改革」により、「労働基準法」をはじめとする労働関連の各種法律が改正されました。就業規則での規定内容が法律が定める内容よりも労働者に不利なものとなっている場合、その労働条件は無効となります。また、2020年4月に施行された「パートタイム・有期雇用労働法」のように、就業規則に関連のある法律が新しく適用されることもあります。そのため、労働関連の法改正・施行があった場合は、内容をよく確認して、就業規則を見直すことが必要です。
労働基準監督署から是正勧告があったときも、見直しが必要です。是正勧告とは、労働基準監督官が、労働基準法に違反している事案について是正を求める行政指導のこと。違反する法律の条項・違反事項・是正期日が記載された「是正勧告書」を受け取ったホテル・旅館は、期日までに違反部分を修正し、労働者に修正を周知します。是正勧告に基づき、就業規則の見直し(是正)を行った場合は、労働基準監督署に「是正報告書」を提出する必要があります。
ホテル・旅館の就業規則は、労働者が働きやすい環境を整えて、労使間トラブルを防ぐためにとても重要なものです。施設の実態に合わせて、シフト制や変形労働時間制など労働時間に関する規定や、休日出勤、深夜勤務、制服の着用などを定めます。加えて、法改正への対応も必要なため、適宜見直していくことが重要です。労働基準法や労働安全衛生法などの法律に違反していないか、施設の実態と乖離していないか、必ず確認しましょう。
就業規則は、労働基準法の範囲内であることを前提として、業界の事情も織り込んだ内容にすることが求められます。ホテル・旅館の就業規則について、営業実態や法改正に対応しているかを確認するのは、社内の担当者だけでは難しいこともあるでしょう。そうした際は、弁護士への相談がおすすめです。
弁護士法人ブライトが提供している「みんなの法務部」は、企業法務専門の弁護士に、気軽に相談できる法務サービスです。各施設の営業実態や特殊事情などについて弁護士がヒアリングを行い、就業規則の作成・修正をサポートすることにより、内容の不備による労使トラブルを未然に防ぐことができます。就業規則の作成や見直しを検討している場合は、「みんなの法務部」へお気軽にご相談ください。
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