病気や怪我によって、心身に一定の障害が残った被災労働者に支給されるのが「障害年金」です。しかし、労災保険との違いがわかりにくく、「そもそも障害年金とはどのような制度なのか」「受給資格や支給額はどうなっているのか」「労災保険の補償を受けたら障害年金は受け取れないのか」と考える方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、障害年金の概要や申請手続き、労災保険で受けられる給付の種類、障害年金と労災保険補償を両方受ける場合の調整などについて、労災専門弁護士が徹底解説します。
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障害年金とは?
「障害年金」とは、病気や怪我によって心身に一定の障害が残り、生活や仕事などが制限されるようになった場合に支給される年金です。障害の原因が労災であるないにかかわらず、受給要件を満たしていれば受け取ることができます。また、「年金」という言葉から退職後に受け取るイメージを持つこともあるかもしれませんが、障害年金は現役世代の方も受け取りが可能です。
なお、障害年金の対象となる病気や怪我には、外部障害(視覚、聴覚、手足の障害など)のほか、精神障害(統合失調症や認知障害、知的障害、発達障害など)、内部障害(がん、糖尿病、心疾患、人工透析など)も含まれます。
障害年金には2つの種類があり、どちらを受給できるかは、障害の原因となった病気や怪我について、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日(初診日)に加入している年金制度によって異なります。国民年金保険に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金保険に加入していた場合は「障害厚生年金」です。それぞれの受給要件を見ていきましょう。
障害基礎年金(国民年金の場合)
障害基礎年金では、次のすべてを満たしていることが受給要件です。
1.障害の原因となった病気やけがの初診日が次のいずれかの間にあること。 ・国民年金加入期間 ・20歳前または日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間 2.障害の状態が、障害認定日(障害認定日以後に20歳に達したときは、20歳に達した日)に、障害等級表に定める1級または2級に該当していること。 3.初診日の前日に、初診日がある月の前々月までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間(厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合員期間を含む)と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あること。) |
なお、3.については、初診日が令和8年4月1日より前で、その時点で65歳未満である場合に、初診日の前日時点で初診日の月の前々月までの直近1年間に保険料の未払いがなければよいことになっています。
参考:「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」日本年金機構
障害厚生年金(厚生年金の場合)
「障害厚生年金」は、厚生年金に加入している間に初診日のある病気や怪我で、障害基礎年金の1級または2級に該当する障害の状態になったときに、上述の障害基礎年金に上乗せして支給されます。
障害の状態が2級に該当しない程度の軽い障害のときは、3級の障害厚生年金が支給されます。また、初診日から5年以内に病気やけがが治り、障害厚生年金を受けるよりも軽い障害が残ったときは、「障害手当金(一時金)」が支給されます。
障害厚生年金・障害手当金の受給要件は、以下のすべてを満たしていることです。
1.厚生年金保険の被保険者である間に、障害の原因となった病気やけがの初診日があること。
2.障害の状態が、障害認定日に、障害等級表に定める1級から3級のいずれかに該当していること。 3.初診日の前日に、初診日がある月の前々月までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間(厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合員期間を含む)と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あること。 |
2.においては、障害認定日に障害の状態が軽くても、その後重くなったときには障害厚生年金を受け取れる場合があります。
3.についても、初診日が令和8年4月1日前にあるときは、初診日において65歳未満であれば、初診日の前日において、初診日がある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよいことになっています。
参考:「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」日本年金機構
障害年金の等級金額
障害の状態により、障害基礎年金は1・2級、障害厚生年金は1~3級の年金を受け取ることができます。障害の程度の概要、および令和6年度の障害年金額の目安は以下の通りです。
障害の程度 | 概要 |
---|---|
1級 | 身のまわりのことはかろうじてできるが、それ以上の活動はできないものまたは行ってはいけないもの、すなわち、病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるものであり、家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね就床室内に限られるもの。 |
2級 | 家庭内の極めて温和な活動(軽食作り、下着程度の洗濯等)はできるが、それ以上の活動はできないものまたは行ってはいけないもの、すなわち、病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね病棟内に限られるものであり、家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの。 |
3級 | 労働が著しい制限を受けるかまたは労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの。 |
障害手当金 | 「傷病が治ったもの」であって、労働が制限を受けるかまたは労働に制限を加えることを必要とする程度のもの。 |
(出典:「年金制度の仕組みと考え方_第12_障害年金」厚生労働省)
(出典:「障害年金ガイド 令和6年度版」日本年金機構)
1級・2級の障害基礎年金または障害厚生年金を受け取ることができる方に生計を維持されている配偶者や子がいる場合には、加算がされます。詳しくは厚生労働省、もしくは日本年金機構のホームページ・資料などをご確認ください。
参考:「年金制度の仕組みと考え方_第12_障害年金」厚生労働省
参考:「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」日本年金機構
障害年金の申請手続き
障害年金の申請手続きの流れは、以下の通りです。
1.初診日を確認のうえ、年金事務所や市(区)役所または町村役場に相談 2.「年金請求書」を年金事務所や市(区)役所または町村役場に提出 3.「年金証書」「年金決定通知書」「年金を受給される皆様へ(パンフレット)」が自宅に到着 4.年金の振り込み |
請求手続きの窓口は、障害基礎年金は居住地の市区町村役場で、障害厚生年金は近隣の年金事務所または年金相談センターです。ただし障害基礎年金でも、初診日が国民年金第3号被保険者(会社員や公務員に扶養されている主婦・主夫)期間中の場合は、年金事務所または年金相談センターへ申請してください。
必要となる主な書類と確認事項
書類名 | 確認事項 |
---|---|
基礎年金番号通知書または年金手帳などの基礎年金番号を明らかにすることができる書類 | 加入期間の確認のため |
戸籍謄本、戸籍抄本、戸籍の記載事項証明、住民票、住民票の記載事項証明書のいずれか | 本人の生年月日を明らかにできる書類 ※単身者で、日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合は、左記の戸籍謄本等の添付が原則不要※マイナンバーが登録されていない場合は、年金請求書にマイナンバーを記入することで、左記の戸籍謄本などの添付が原則不要 |
医師の診断書(所定の様式あり) | 障害認定日より3カ月以内の現症のもの ※障害認定日と年金請求日が1年以上離れている場合は、直近の診断書(年金請求日前3カ月以内の現症のもの)も併せて提出※診断書に併せて、レントゲンフィルムや心電図のコピーの提出が必要な場合も |
受診状況等証明書 | 初診時の医療機関と診断書を作成した医療機関が異なる場合、初診日の確認のため |
病歴・就労状況等申立書 | 障害状態を確認するための補足資料 |
受取先金融機関の通帳等(本人名義) | カナ氏名、金融機関名、支店番号、口座番号が記載された部分を含む預金通帳またはキャッシュカード(コピーも可)など |
配偶者または18歳到達年度末までの子ども(20歳未満で障害の状態にある子どもを含む)がいる場合は、年金を受給する本人との続柄や生計維持関係などを証明する書類も必要です。また、第三者行為による障害の場合は、「第三者行為事故状況届」「事故が確認できる書類」「保険会社の同意書」なども必要となります。
その他、本人の状況によって別途必要な書類もありますので、詳しくは管轄機関へお問い合わせください。
参考:「障害基礎年金を受けられるとき」「障害厚生年金を受けられるとき」日本年金機構
労災保険で受けられる給付
労災により怪我・病気に遭ったときは、労災保険から「労災年金」や「休業(補償)等給付」などが受けられます。それぞれについて解説していきます。
労災年金
労災年金とは、「障害補償年金」「傷病補償年金」「遺族補償年金」の総称で、業務中や通勤中の怪我・病気に対して労災保険から支払われる年金を意味します。それぞれの概要と受給額は、次の通りです。
障害補償年金
障害補償年金は「障害(補償)等給付」の一部で、労災による傷病で後遺症が残った場合に、障害の程度に応じて支払われるものです。障害補償年金が支払われるのは後遺障害等級が第1級~第7級に該当する場合で、第8級~第14級に該当する場合は障害補償一時金が支払われます。
後遺障害等級 | 障害補償年金 |
---|---|
第1級 | 給付基礎日額の313日分 |
第2級 | 給付基礎日額の277日分 |
第3級 | 給付基礎日額の245日分 |
第4級 | 給付基礎日額の213日分 |
第5級 | 給付基礎日額の184日分 |
第6級 | 給付基礎日額の156日分 |
第7級 | 給付基礎日額の131日分 |
参考:「障害(補償)等給付の請求手続」厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
【関連記事】労働災害の後遺障害等級に応じた補償金額は?認定基準や手続きを解説
傷病補償年金
傷病補償年金とは、労災で傷病の治療を始めてから1年6カ月を経過しても症状固定(治ゆ)に至らず、その傷病の程度が傷病等級表の第1級~第3級に該当するときに支払われます。
傷病等級 | 傷病補償年金 |
---|---|
第1級 | 給付基礎日額の313日分 |
第2級 | 給付基礎日額の277日分 |
第3級 | 給付基礎日額の245日分 |
なお、傷病補償年金が支給されると休業補償給付は支払われません。
傷病補償年金の受給に期限はなく、労災の被災者が存命の間は受給し続けることができますが、傷病が改善した場合は等級が変更になり新たな等級の年金が支払われます。
症状固定(治ゆ)とは
労災における症状固定(治ゆ)とは、完全に回復した状態のみを指すものではなく、症状が安定してこれ以上の回復・改善が期待できない状態を言います。
【関連記事】症状固定とは?最適なタイミングやポイントを弁護士が解説
遺族補償年金
遺族補償年金は、労災によって死亡した労働者の遺族に支払われる年金です。年金の受給権者は労働者災害補償保険法第16条の2で定められており、配偶者のときは死亡するまで、 子・孫・兄弟姉妹のときは「18歳に達する日以後の最初の3月31日が終了するまで」支払われることとなっています。
ただ、現行法では死亡した労働者の性別によって違いがあり、配偶者が男性の場合は制限を受けるのが実情です。遺族が妻の場合は年齢制限はありませんが、妻の死亡時に54歳以下の夫には、受給権がありません。また、妻の死亡時に55歳以上60歳未満の場合、夫に受給権は発生しますが、60歳になるまで支給が停止されます(若年停止)。性別による格差は憲法14条に違反するとして行政訴訟が提起されているため、最新の情報に注意しましょう。
休業(補償)等給付
労災の怪我や病気によって休業したとき、4日目以降労災保険から支給されるのが休業(補償)等給付です。
休業(補償)等給付の支給要件
●業務または通勤中の怪我・病気である ●療養のために仕事を休んでいる ●賃金を受けていない |
労災発生から最初の3日間は「待期期間」として労災保険からの給付はなく、会社が休業補償を支払います。また、支給額は
●休業補償給付:給付基礎日額×(休業日数-3日)×60%
●休業特別支給金:給付基礎日額×(休業日数-3日)×20%
の合計で、平均給与(月額)の80%程度であるため、全額が補償されるわけではない点にも注意が必要です。
【関連記事】労災保険の休業補償の支給期間や支給額について解説
労災保険の申請手続き
労災保険の手続きにおける、基本的な流れは以下の通りです。
1.労災発生の事実を会社に報告 2.労災保険指定医療機関または最寄りの医療機関を受診 3.必要書類を作成 4.労災の申請書類(給付の請求書)を管轄の労働基準監督署へ提出 5.労働基準監督署による調査 6.労災給付の支給決定により給付開始 |
申請手続きは、基本的に被災者本人が行います。書類に不備があると修正・再提出が必要になり、給付開始が遅れてしまうため、書類作成に不安がある場合は、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談してみましょう。
詳しい手続きの流れや必要な書類については、以下の関連記事をご覧ください。
【関連記事】労災申請の流れと手続きの注意点を弁護士が詳しく解説!
障害年金とその他の補償を両方受ける場合
障害年金とその他の補償を両方受けることは可能ですが、それぞれの補償の全額受け取れる訳ではなく、調整率に応じて減額されたうえで支給されることになっています(併給調整)。これは、未調整のままそれぞれの補償金が支給されると、被災者が受け取る年金額の合計が、被災前に支給されていた賃金よりも高額になってしまうからです。
また、保険料負担という観点では、厚生年金保険は被保険者と事業主が折半で負担しますが、労災保険は事業主が全額負担していることから、事業主の二重負担の問題を解消するためでもあります。
それぞれの補償の調整率について、具体的に解説していきます。
障害年金と労災年金
障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)と労災保険の給付(労災年金)は、両方を受けることが可能です。ただし、障害年金と労災年金を同一の事由で受給する場合、障害年金は満額が支払われますが、労災年金は併給調整が行われ、政令により定められた調整率が掛けられた額で支給されます。
労災年金と厚生年金等の調整率(平成28年4月1日施行)
労災年金 | 傷病(補償)等年金 | 障害(補償)等年金 | 遺族(補償)等年金 | |
社会保険の種類 | 併給される年金給付 | |||
厚生年金及び国民年金 | 障害厚生年金および障害基礎年金 | 0.73 | 0.73 | – |
遺族厚生年金および遺族基礎年金 | – | – | 0.80 | |
厚生年金 | 障害厚生年金 | 0.88 | 0.83 | – |
遺族厚生年金 | – | – | 0.84 | |
国民年金 | 障害基礎年金 | 0.88 | 0.88 | – |
遺族基礎年金 | – | – | 0.88 |
出典:「労災保険給付と厚生年金の両方を受け取ることはできるのでしょうか」厚生労働省
減額にあたっては調整後の労災年金と厚生年金の合計額が調整前の労災年金額よりも低くならないよう考慮されるため、厚生年金を請求して損をすることはありません。
障害年金と休業(補償)等給付との調整
労災年金と同一の事由により、労災保険から休業(補償)等給付を受ける場合も、休業(補償)等給付が減額して支給されます。この場合も、障害厚生年金は全額が支給されます。
休業(補償)等給付と厚生年金等の調整率
労災給付 | 休業(補償)等給付 | |
社会保険の種類 | 併給される年金給付 | |
厚生年金及び国民年金 | 障害厚生年金及び障害基礎年金 | 0.73 |
厚生年金 | 障害厚生年金 | 0.88 |
国民年金 | 障害基礎年金 | 0.88 |
出典:「労災保険給付と厚生年金の両方を受け取ることはできるのでしょうか」厚生労働省
【番外編】労災保険給付と損害賠償
労災により会社に損害賠償を請求するときは、賠償額から労災保険の給付額を差し引く「損益相殺」が行われます。損益相殺は被災者の利益の二重取りを防ぐためのもので、労災保険の給付のほか、障害厚生年金や遺族厚生年金、自賠責保険、企業(加害者)が加入している民間の任意保険からの支払いなど、その趣旨などに照らして損害の補填を目的に支払われるものは損益相殺の対象です。
ただし、労災保険で補償されない慰謝料については損益相殺の対象外で、全額請求することができます。
【関連記事】労災が発生したら会社に損害賠償請求はできる?相場や流れ、注意点を解説
障害年金のご相談は「労災事故専門チーム」へ
労災により後遺症が残った場合には、障害年金と労災給付の両方を受給できますが、利益の二重取りを防ぐために併給調整が行われます。また、それぞれの制度の内容や申請先は異なり手続きも複雑なため、障害年金は労災問題に強みのある弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士法人ブライトには労災問題に特化した「労災事故専門チーム」があり、これまで数多くのご相談を受けてきました。障害年金制度の具体的内容も踏まえたアドバイスや、労災保険給付と両方受け取る方法などに関する説明が可能です。
初回相談は無料です。また、完全成功報酬制を採用しているため、着手金も無料ですので、安心してご相談いただけます。
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(※お電話での受付は平日9:00~18:00となっております、それ以外の時間はメールやLINEでのお問い合わせをお願いします。また、お問い合わせいただいた事案について、SMSで回答させていただく場合がございますので、予めご了承ください。)