退職者から約1,000万円の残業代請求、しかし機密データ持出しが発覚——約80万円の支払いと秘密保持誓約で一括解決した事例

① 事案の属性
- 業種:製造業(関西の中堅企業)
- 相談ジャンル:労務(使用者側)/未払残業代請求への対応・営業秘密の持出し対応
- 解決方式:示談(合意書締結)
- 解決までの期間:約1年3ヶ月
② 相談時の状況
「退職した元従業員の代理人弁護士から、内容証明が届いた。請求額は約1,000万円の未払残業代——。」
ご相談いただいた経営者の方は、突然の高額請求に強い戸惑いを抱えておられました。しかも問題はそれだけではありませんでした。社内調査の過程で、この元従業員が在職中、会社のサーバーから図面や原価情報といった機密データを大量にUSBメモリへコピーし、社外へ持ち出していたことが発覚したのです。
「高額の残業代請求にどう対応すればいいのか」「持ち出されたデータが競合他社に渡れば、事業への打撃は計り知れない」——金銭請求への防御と情報漏えいリスクへの対処という、性質の異なる2つの重大な問題を同時に抱えた状態でのご相談でした。
③ 争点・難しさ
- 残業時間の労働時間性:元従業員側はGPS打刻データを根拠に長時間の残業を主張。しかし記録を精査すると、自宅付近での打刻が多数含まれており、「移動時間」を労働時間に算入している疑いがありました。
- 営業秘密侵害への対抗:データの持出し行為が不正競争防止法上の「営業秘密の不正取得」に該当するかどうか。該当するとしても、これを残業代請求への対応にどう活かすか。
- 2つの紛争の一括解決:「残業代」という金銭請求と「機密情報持出し」という不正行為を、別々に争えば紛争は長期化します。一つのテーブルで同時に解決できるかが最大の難所でした。
- 将来リスクの遮断:和解して終わりではなく、持ち出されたデータの返還・破棄と、将来の漏えいに対する実効的な抑止をどう合意書に落とし込むか。
④ ブライトの方針・対応
初動——「守り」と「攻め」を一体で設計。受任後まず、残業代請求への防御(守り)と営業秘密持出しの追及(攻め)を別々に処理せず、双方の合意(示談)による一括解決を目指す方針を固めました。賃金には全額払いの原則があり、会社側の損害賠償請求権と一方的に相殺することはできません。だからこそ、2つの問題を一つの交渉テーブルに載せ、合意によって同時に解決する設計が必要でした。残業代だけ先に支払って解決する、という選択肢は当初から採りませんでした。情報漏えいリスクを放置したままの部分解決は、会社にとって意味がないからです。
証拠の収集と分析。会社に残るGPS勤怠ログ・打刻データ・サーバーのアクセス記録を精査し、(1)自宅付近での打刻は通勤時間であって労働時間ではないこと、(2)社内でアクセスが制限され秘密として管理されていた機密データが、権限を逸脱して大量に持ち出されたこと、の2点を客観的資料で裏づけました。相手方は「移動中も業務をしていた証拠が報告書にあるはずだ」と主張しましたが、具体的な日付や書類は最後まで特定できませんでした。
交渉方針——冷静な損得計算を促す。相手方代理人に対しては、残業代の算定誤りを一つずつ指摘するとともに、データ持出しの事実を明示し、「訴訟になれば当方も秘密漏えいの責任を正面から問う」というメッセージを文書で伝えました。当初約1,000万円だった請求額は、当方の指摘を受けて数百万円台まで減額され、最終的には当方が客観的証拠に基づき算出した金額での解決に至りました。
⑤ 結果
- 当初約1,000万円の請求に対し、約80万円の支払いで解決(請求額の1割未満)
- 持ち出されたUSBメモリの物理的な返還とデータの完全な破棄を実現
- 将来の情報漏えいに対し約3,000万円の違約金条項を含む秘密保持誓約を締結し、漏えいリスクを遮断
- 解決までの期間:約1年3ヶ月
依頼者からは「無事に解決することができ、大変感謝しております」とのお言葉をいただきました。
⑥ 担当弁護士のコメント(和氣良浩・代表弁護士)
退職者からの残業代請求と、その退職者による不正行為の発覚が重なるケースは、決して珍しくありません。ポイントは、2つの問題を切り離さず、一括解決の交渉材料として組み立てることです。また、和解金の多寡だけで成否を測らないことも重要です。本件で会社が本当に守りたかったのは、図面や原価情報が競合に渡らないことでした。違約金付きの秘密保持誓約まで取り切って、初めて「解決」と言えるのだと考えています。
⑦ 関連リンク
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※本事例は当時の個別事情に基づく解決例であり、結果を保証するものではありません。