ホテル・旅館のクレーム対応。返金要求の対処法と事前対策を解説!

ホテル・旅館のクレーム対応。返金要求の対処法と事前対策を解説!

ホテルや旅館へのクレームとして多い、宿泊料の返金要求。お客様が求めるサービスを得られなかった場合に発生しうるものと考え、未然防止策を講じるとともに、起こってしまった返金要求に対しては適切に対処することが重要です。この記事では、返金要求される可能性があるクレーム事例を解説するとともに、発生時の対処方法を紹介します。クレームが不当要求である可能性も踏まえ、判断基準や返金要求を生じさせないためにできる対策についても解説しますので、参考にしてください。

ホテル・旅館におけるクレーム。返金対応を求められるケースとは?

ホテルや旅館業では、お客様からさまざまな苦情が寄せられます。「隣の部屋がうるさい」「部屋が汚い」「料理がイメージと違った」など、その内容は千差万別です。ホテル・旅館の施設の充実度、料理のクオリティ、雰囲気や接客対応など、顧客の期待値が高いほど落差がクレームとなって現れます。中には、ホテル・旅館が提供するサービスに不満を抱いた顧客から、返金対応を迫られるケースもあるでしょう。

どのようなケースで宿泊料金の返金を迫られる可能性があるのか、一例を紹介します。

(参考:『旅館業の苦情対応の手引き』財団法人全国生活衛生営業指導センター)

騒音にまつわるクレーム

<クレーム事例>

宿泊した部屋の隣室から、携帯電話の着信音が定期的に聞こえ、うるさくて寝られなかった。フロントに注意してほしい旨を再三伝えるも、「不在のため勝手に部屋に入れない」との返答だけで、対応してもらえなかった。

ホテルや旅館では、騒音にまつわるクレームが起こりがちです。騒音と感じる音の程度が人によって違うことが、一つの要因といえます。

ホテルや旅館施設の部屋の構造は、建築基準法に沿って基準が定められています。顧客が騒音によって気分を害したり、眠れないといった健康被害を訴えたりするケースで、施設側が対応を放置すると、債務不履行で返金を要求される可能性があります。

客室清掃の不備

<クレーム事例>

ゴミ箱の中にゴミが残っている、髪の毛が落ちている、机にシミが付いているなど、前客が使用した形跡が残っており、室内の清掃が行き届いていなかった。客室の変更を依頼したが、応じてもらえなかった。

客室の清潔を保ち提供することは、お客様が施設に求める最低限の項目といえます。旅館業法では、顧客が安全かつ安心にすごせるよう換気や照明、清潔その他宿泊者の衛生に必要な措置を講じることが施設側に義務付けられています。仮に怠った場合、程度によっては顧客から返金対応を迫られるのはやむを得ないケースもあるでしょう。

(参考:旅館業法 | e-Gov法令検索

料理に関する不手際

<クレーム事例>

宿泊した旅館で出された料理を口に入れたところ、口内に違和感をもった。吐き出してみると、金属片が出てきた。口内に傷ができ、血も出てしまったので異物が混入していた旨を施設に訴えたが、施設側は「そんなはずはない」と取り合ってくれなかった。

顧客に対して安全な料理を提供するのは、ホテル・旅館側の義務です(安全配慮義務)。料理への異物混入は、顧客への安全配慮義務に対する、債務不履行とみなされる可能性があります。さらに、施設内の厨房で調理された料理は、製造物として故意・過失の立証がなくとも責任を問われるため(製造物責任)、宿泊料の返金のみならず損害賠償を請求されることも考えられます。

予約時の表示内容と実際のサービスとの食い違い

<クレーム事例>

ホテル・旅館の予約サイトで「天然温泉」「掛け流し」を売りにしている旅館を予約したが、実際には加水しており、循環湯だった。また、温泉の効果として「神経痛・リウマチ・高血圧症」と記載していたものの、加水したお湯でその効果は本当に望めるのか。

2004年に、とある温泉が白濁着色のために入浴剤を使用していたことが発覚したのをきっかけに、各地で温泉の不当表示問題が明るみに出ました。天然温泉に該当しないと承知しているにもかかわらず、不当表示を行い天然温泉と誤認させて対価を受け取っている場合は、景品表示法違反に該当するばかりか、詐欺罪(刑法246条)に該当するおそれもあります。

(参考:刑法 | e-Gov法令検索

このほか、接客やサービスの質に関するクレームで返金を要求されるもケースも、ホテル・旅館業によくある事例です。

ホテル・旅館が返金要求された場合の対応と注意点

顧客から返金を要求されたら、ホテル・旅館側はどのように対応すればよいのでしょう。

まずは顧客の話を聴き、事実関係を確認する

返金を要求されるようなクレームでは、お客様は施設側のサービスに対して相当な不満をもっていることでしょう。相手を落ち着かせ、不満の元となった原因を探るべく、話をよく聴くことが重要です。

この段階では施設側に非があるかどうかにかかわらず、クレームを生じさせる事態になったことに対しては限定的に謝罪を行います。一方で、事実関係や施設側に落ち度があるか否かがはっきりしないうちに、むやみに謝らないこともポイントです。一旦非を認めてしまえば、本来必要のなかった返金や賠償などが生じてしまう可能性もあるため、初動を適切に行いましょう。

クレームの初動対応で押さえておくべきポイントについては、以下の記事で詳しく解説しています。

ホテル・旅館側の落ち度の有無を踏まえ、適切に対応する

お客様からクレーム内容を聞きだしたら、ホテル・旅館側に落ち度があるかどうかを確認した上で、適切な対応を取ります。

契約違反などの落ち度がない場合:原則は返金に応じる必要がない

クレームの内容について、ホテル・旅館側に落ち度がないと判断した場合、基本的に顧客の返金要求に応じる必要はないでしょう。クレーム主の心情に沿って、指摘内容を傾聴し丁寧に受け止めるとともに、返金には応じられない旨を丁寧に説明しましょう。悪質な要求やクレームを行う「不当要求」に対しては、応じることはできないという断固とした姿勢を示すことも重要です。

ただし、返金要求のクレームを受けた場面では、法的な返金義務の有無だけで判断するとかえって事態を悪化させることも考えられます。クレーム主が返金に応じなかった腹いせに、SNSなどで事実無根の書き込みをして風評被害を生む可能性や、クレーム対応に時間をかけることで本来の業務が手薄になったり、従業員の士気が下がってしまったりすることなども考えられます。クレーム主の主張をふまえ、返金に応じるかを総合的に判断することもあるでしょう。一方で、イレギュラーな対応が似たようなケースを生むのを防ぐためには、施設の非を認めた形にならないように対応することが大切です。

施設側の提示に対してクレーム主が了承しない、またはどのように判断するのが最も適切かわからないなど、判断に迷う場合は早めに弁護士などの専門家に相談することも検討しましょう。早期から第三者が介在することで、事態がより悪化するのを防ぐことにもつながります。

落ち度がある場合:解決策を提示するまたは返金に応じる

予約サイトにて、重要事項に関して事実と異なる説明を行う「不実告知」や掲載の情報が顧客の誤解を招くような内容だった場合、また料理への異物混入や施設の不備など、ホテル・旅館側に「相当の落ち度がある」と判断した場合は、問題の所在をきちんと説明し、誠意をもって謝罪を行いましょう。そのうえで、次のような対応を検討します。

●部屋のランクアップなど、その場での追加サービスの提案
●宿泊料の割引
●宿泊料の返金
●金銭的な解決(賠償金など)

どのような対応が望ましいかは、クレームの内容や顧客の心情によっても異なります。しかし、実際には施設側に落ち度があるかどうかの判断が難しい例もあるでしょう。判断に迷う場合は、事実関係を明らかにするまで安易に非を認めず、弁護士など専門家に相談することをおすすめします。

誠実な対応により、顧客の信頼を回復し、クレーマーからリピーターとなってくれる可能性もあります。長期的な視点もふまえた判断を下せるかがポイントです。

正当なクレームだけでなく「不当要求」もある

顧客からの正当なクレームに対しては、ホテル・旅館側からお詫びの気持ちを伝える、返金に応じるといった対応を行うことが適切です。しかし、中には過度な謝罪や見返りを求める「不当要求」に該当する例もあります。このようなケースに対しては、断固とした対応が必要です。

顧客のクレームが正当かどうかを判断する一つの基準は、「要求内容」と「要求の方法」の適正さです。以下のようなケースでは、要求内容または要求方法が悪質とされ、不当要求である場合もあります。

<要求内容が悪質と判断するケース>
●過剰な金銭の要求
●「誠意を見せろ」などと曖昧な表現を使いながら、金銭などの見返りを求めるもの
●土下座など過度な謝罪の要求 など

<要求方法が悪質と判断するケース>
机を叩く、大声で怒鳴りつけるといった行為
長時間居座り、業務を妨害する行為
従業員への誹謗中傷行為 など

しかし、このような判断基準をふまえても、実際に顧客の主張の正当性を判断するのが難しいケースも少なくないでしょう。不当要求に該当するか否かを見極めるのが難しい場合には、弁護士など外部の専門家に早めに相談し、判断を仰ぐことをおすすめします。

返金要求を防ぐための事前対策

返金要求への対応は非常にストレスがかかる上に、ホテル・旅館にとって生産性の高い業務とはいえません。さらに対応をこじらせれば、風評被害などで経営を圧迫するリスクもあります。そのため、そもそも顧客から返金を迫られるような事態を事前に回避することが重要です。具体的にどのような事前対策を講じればよいのかを紹介します。

適切な情報管理・情報共有

返金を迫られるクレームの原因の一つが、予約サイトなどに提示していたサービスと、実際に提供したサービスの食い違いです。このような食い違いは、予約内容の適切な情報管理や、スタッフ間での情報共有がうまくいっていないことで生じていると考えられます。期待していたサービスが実際には受けられなかったという事態は、クレーム以外にもリピート客の減少や悪評判による新規顧客の減少といったリスクにもつながるため、対応は急務といえます。

顧客の予約内容を適切に管理し、現場にどのように共有するか、情報共有体制を整えましょう。ホテルや旅館では、予約内容が急に変わることもあるでしょう。顧客ごとの情報を、タイムラグ無く現場のスタッフが確認できるよう、必要に応じてITツールなどの導入を検討するのも一案です。

マニュアルの整備や社員教育

ホテル・旅館の運営にまつわる法律は「旅館業法」「消防法」「温泉法」「食品安全基本法」など、多岐にわたります。適切に施設を運営できるよう関連法の法改正などもふまえて、マニュアルを整備しましょう。その際は、過去の経験で培ったクレーム対応方法が生かされた内容になっているかも押さえておきたいポイントです。

マニュアルを整備したら、それを基にしてスタッフへの教育体制を整え、マニュアルをきちんと運用することが重要です。教育機会を随時設け、全従業員の対応を標準化させましょう。浸透率を抜き打ちで確認する機会を設けるなど、顧客と日々現場で接するスタッフの対応品質を向上させることも、不要なクレームや返金要求を生まないためのポイントです。

弁護士への相談

関連法規を遵守しながらマニュアルを整備したり社員への教育を徹底したりすることは、容易なことではありません。また、宿同士の競争から顧客が求めるサービス品質は日々高まっており、変化するニーズを的確にとらえながら随時現場の対応に落とし込むのは、相当難易度が高いことです。そこで活用したいのが、外部の専門家である弁護士です。

弁護士に相談することで、最新の関連法規をふまえたホテル・旅館運営に関するアドバイスを受けたり、クレーム対応マニュアルや職務規律などを整備したりすることが可能です。適切な運営が徹底できれば、返金要求といったクレーム自体を減らすことにつながるでしょう。

ホテル・旅館の返金要求への対応策は、信頼できる弁護士へ相談しよう

ホテルや旅館に対する返金要求に対しては、その場での適切な判断・対応が欠かせません。初動を誤ると、かえって事態を悪化させる結果となる可能性もあるため、時と場合に応じて柔軟な対応を検討しておくことが重要でしょう。返金対応を迫られるような大きなクレームを未然に防止するには、事業内容を普段から把握している弁護士に、マニュアルや規則の整備についてアドバイスを求めることが有効です。

弁護士法人ブライトが提供している企業法務サービス「みんなの法務部」は、事業者の組織文化や事業内容のほか、機関設計や就業規則などを弁護士が確認する「法務ドック」に始まる継続的な付き合いを通じて、事業運営にまつわる法的リスクを事前に洗い出し、対処方法を積極的にご提案します。クレームの未然防止に役立つため、これまでクレーム対応に割いていたリソースを顧客の満足度を高めるための施策に回すことができるでしょう。

もちろん、クレームが発生してしまった場合は個別事案について事業者視点に立った具体的なアドバイスも可能です。返金対応にお困りの場合や返金対応を未然に防止するための対策は、みんなの法務部にお気軽にご相談ください。

本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
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