後遺障害と後遺症、言葉としては似ていますが法的には大きく意味が異なります。
このページでは基本的な言葉の意味から後遺障害等級ごとの症状、請求できる金額の目安などを詳しく説明しています。
申請方法などについても触れているのでこのページを見ていただければ後遺障害についての疑問はすべて解決します。
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そもそも「後遺障害」とは?
後遺障害と後遺症の違い
交通事故を始めとした事故や災害などで怪我をした人が、治療をしても事故の前の状態まで完全に回復できないことがあります。
その時、残った体や精神の不調(機能障害や神経症状など)を一般的に「後遺症」と呼びます。
例えば事故で骨折してしまい、骨がくっついた後も動かしにくくなったなどの場合は「後遺症が残った」と言えます。
これに対し、「後遺障害」は、その症状の原因が交通事故であることが医学的に証明され、労働能力の低下(または喪失)が認められるとき、その程度が自賠責保険の等級に該当するものとされています。
後遺症のうち、賠償金や保険金などを考慮しなければならないものを「後遺障害」と考えれば良いでしょう。
骨折をした部位が動かしにくくなったことによって生活に影響が出ることと判断された場合は「後遺障害がある」と言えます。
後遺障害等級が定められている
後遺症と後遺障害の違いはわかりましたか?
後遺障害は、その部位や程度によって大きく14個の等級に分けられておりこれを「後遺障害等級」といいます。
後遺障害等級はさらに140種類、35系列で細かく分類されています。(労災保険の障害認定の基準がそのまま当てはめられたものです)
交通事故による後遺障害の症状、程度、損害はその被害者ごとに異なっています。
この被害者一人一人に対して、個別に慰謝料を算出していくことは現実的ではありません。
「あなたの慰謝料はこれぐらいです」と言われても「同じような怪我なのに別の人はもっと多く貰っているじゃないか」となるかもしれません。
そういったことを防ぐために、「このくらいの被害なら賠償金はこれくらい」と判断できる後遺障害等級という目安を用意しているのです。
後遺障害等級の決め方
後遺障害等級の認定には、まず「どの部位に後遺障害があるのか」を見て、次に「その部位にどのような後遺障害があるのか」「労働能力の低下度合いはどのくらいか」を見ることで行われます。
障害のある身体の部位で分類
↓
物理的なものか(器質) or 機能的なものか で分類
↓
その障害でどれだけ労働能力が低下するのか
↓
等級を決定
後遺障害等級の認定について、詳しくは「後遺障害認定を受けるには?申請の方法やポイントを弁護士が解説」で解説しています。
後遺障害等級を獲得するメリット
後遺障害、後遺障害等級についてわかってただけたかと思います。
ここで疑問になるのが「どうしてそんな面倒な事をして後遺障害等級の認定を受ける必要があるの?」ということです。
簡単にいうと「怪我に見合ったお金をもらうため」です。
後遺障害慰謝料と逸失利益を請求することが出来る
まず1つは、「後遺障害慰謝料」と「後遺障害逸失利益」を請求できる根拠となることです。
後遺障害慰謝料は後遺症が残ってしまったことに対する精神的な苦痛に対するお金、後遺障害遺失利益は後遺障害によって仕事が出来なくなり得られなかった収入に対するお金です。
この2費目を請求できると、獲得できる賠償額が大幅にアップします。
また、等級が何級と認定されるかということが賠償額アップに重要な部分です。
後遺障害部分だけで見て具体的にどのくらいアップするのかというと、
- 14級だと保険会社の提示が100万円として、交渉(あるいは裁判)で200〜300万円まで上がる可能性があります。
- 12級だと保険会社の提示250万円として、800〜1200万円の交渉となります。
- 10級だと保険会社の提示500万円に対し、2000〜4000万円の交渉となります。
※ただし、年収や年齢といった要因によって賠償額は大きく変わります。
このように、後遺障害等級は金額交渉のベースとなるものですので、交通事故損害賠償において非常に重要であることが分かっていただけたかと思います。
後遺障害慰謝料の相場については後遺障害慰謝料の相場と適正な金額を受け取るポイントを弁護士が解説で詳しく解説しています。
自賠責保険からの支払い先取り
後遺障害等級が認定されると、賠償金の一部を早く受け取ることが出来ます。
具体的に言うと・・・・
後遺障害部分の賠償額のうち、自賠責保険から支払われる部分を被害者請求することで保険会社と交渉を開始する前に先取りすることが可能です。
後遺障害の申請を被害者請求で行なう場合のほか、申請を任意保険会社に任せる事前認定で行なった場合でも、後遺障害部分について被害者請求をすることで、任意保険会社と示談する前でも、自賠責保険の支払い分を先に受け取ることができます。
自賠責保険支払い分の具体的な金額としては、14級は75万円、12級は224万円など決まっており、この金額を上回る部分について、改めて任意保険会社と示談交渉をして請求していくことになります。
その他の保険金
ここまでは交通事故の加害者側(任意保険会社)に対する請求でしたが、後遺障害等級が認定されることによって、賠償金とは別に保険金を請求できる場合があります。
被害者自身が加入している損害保険や生命保険(自動車の搭乗者傷害保険や県民共済など)など、加入している保険の証券や約款を確認することをお勧めします。
後遺障害等級一覧と獲得できる慰謝料表
後遺障害についての基礎的な知識や獲得するメリットについて理解いただけたでしょうか?
ここからは具体的な等級と該当する症状と慰謝料をまとめておきます。
後遺障害等級表
等級 | 症状 | 慰謝料 |
---|---|---|
14級 | 1号:一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 2号:三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 3号:一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの 4号:上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの※1 5号:上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの※1 6号:一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失つたもの 7号:一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの※2 8号:一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの 9号:局部に神経症状を残すもの |
自賠責基準:32万円 弁護士基準:110万円 労働能力喪失率5% |
13級 | 1号:一眼の視力が〇・六以下になつたもの 2号:正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの 3号:一眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの 4号:両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 5号:五歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 6号:一手のこ指の用を廃したもの 7号:一手のおや指の指骨の一部を失つたもの 8号:一下肢を一センチメートル以上短縮したもの 9号:一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失つたもの 10号:一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの 11号:胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
自賠責基準:57万円 弁護士基準:180万円 労働能力喪失率9% |
12級 | 1号:一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 2号:一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 3号:七歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 4号:一耳の耳殻の大部分を欠損したもの 5号:鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの※1 6号:一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの※2 7号:一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの※2 8号:長管骨に変形を残すもの 9号:一手のこ指を失つたもの 10号:一手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの 11号:一足の第二の足指を失つたもの、第二の足指を含み二の足指を失つたもの又は第三の足指以下の三の足指を失つたもの 12号:一足の第一の足指又は他の四の足指の用を廃したもの 13号:局部に頑固な神経症状を残すもの 14号:外貌に醜状を残すもの |
自賠責基準:94万円 弁護士基準:290万円 労働能力喪失率14% |
11級 | 1号:両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 2号:両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 3号:一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 4号:十歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 5号:両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの 6号:一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 7号:脊柱に変形を残すもの 8号:一手のひとさし指、なか指又はくすり指を失つたもの 9号:一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの 10号:胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
自賠責基準:136万円 弁護士基準:420万円 労働能力喪失率20% |
10級 | 1号:一眼の視力が〇・一以下になつたもの 2号:正面を見た場合に複視の症状を残すもの 3号:咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの 4号:十四歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 5号:両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの 6号:一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの 7号:一手のおや指又はおや指以外の二の手指の用を廃したもの 8号:一下肢を三センチメートル以上短縮したもの 9号:一足の第一の足指又は他の四の足指を失つたもの 10号:一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの※ 11号:一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの※ |
自賠責基準:190万円 弁護士基準:550万円 労働能力喪失率27% |
9級 | 1号:一眼の視力が〇・六以下になつたもの 2号:一眼の視力が〇・〇六以下になつたもの 3号:両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの 4号:両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 5号:鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの 6号:咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの 7号:両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 8号:一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの 9号:一耳の聴力を全く失つたもの 10号:神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 11号:胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 12号:一手のおや指又はおや指以外の二の手指を失つたもの 13号:一手のおや指を含み二の手指の用を廃したもの又はおや指以外の三の手指の用を廃したもの 14号:一足の第一の足指を含み二以上の足指を失つたもの 15号:一足の足指の全部の用を廃したもの 16号:外貌に相当程度の醜状を残すもの 17号:生殖器に著しい障害を残すもの |
自賠責基準:249万円 弁護士基準:690万円 労働能力喪失率35% |
8級 | 1号:一眼が失明し、又は一眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 2号:脊柱に運動障害を残すもの 3号:一手のおや指を含み二の手指を失つたもの又はおや指以外の三の手指を失つたもの 4号:一手のおや指を含み三の手指の用を廃したもの又はおや指以外の四の手指の用を廃したもの 5号:一下肢を五センチメートル以上短縮したもの 6号:一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの※1 7号:一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの※1 8号:一上肢に偽関節を残すもの※2 9号:一下肢に偽関節を残すもの※2 10号:一足の足指の全部を失つたもの |
自賠責基準:331万円 弁護士基準:830万円 労働能力喪失率45% |
7級 | 1号:一眼が失明し、他眼の視力が〇・六以下になつたもの 2号:両耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 3号:一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 4号:神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 5号:胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 6号:一手のおや指を含み三の手指を失つたもの又はおや指以外の四の手指を失つたもの 7号:一手の五の手指又はおや指を含み四の手指の用を廃したもの 8号:一足をリスフラン関節以上で失つたもの※1 9号:一上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの※2 10号:一下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの※2 11号:両足の足指の全部の用を廃したもの 12号:外貌に著しい醜状を残すもの 13号:両側の睾丸を失つたもの |
自賠責基準:419万円 弁護士基準:1,000万円 労働能力喪失率56% |
6級 | 1号:両眼の視力が〇・一以下になつたもの 2号:咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの 3号:両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの 4号:一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 5号:脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの 6号:一上肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの※ 7号:一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの※ 8号:一手の五の手指又はおや指を含み四の手指を失つたもの |
自賠責基準:512万円 弁護士基準:1,180万円 労働能力喪失率67% |
5級 | 1号:一眼が失明し、他眼の視力が〇・一以下になつたもの 2号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 3号:胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 4号:一上肢を手関節以上で失つたもの 5号:一下肢を足関節以上で失つたもの 6号:一上肢の用を全廃したもの 7号:一下肢の用を全廃したもの 8号:両足の足指の全部を失つたもの |
自賠責基準:618万円 弁護士基準:1,400万円 労働能力喪失率79% |
4級 | 1号:両眼の視力が〇・〇六以下になつたもの 2号:咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの 3号:両耳の聴力を全く失つたもの 4号:一上肢をひじ関節以上で失つたもの 5号:一下肢をひざ関節以上で失つたもの 6号:両手の手指の全部の用を廃したもの 7号:両足をリスフラン関節以上で失つたもの |
自賠責基準:737万円 弁護士基準:1,670万円 労働能力喪失率92% |
3級 | 1号:1眼が失明し,他眼の視力が0.06以下になったもの 2号:咀嚼又は言語の機能を廃したもの 3号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの 4号:胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの 5号:両手の手指の全部を失ったもの |
自賠責基準:861万円 弁護士基準:1,990万円 労働能力喪失率100% |
2級 | 1号:一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 2号:両眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 3号:両上肢を手関節以上で失つたもの 4号:両下肢を足関節以上で失つたもの |
自賠責基準:861万円 弁護士基準:1,990万円 労働能力喪失率100% |
1級 | 1号:両眼が失明したもの 2号:咀嚼及び言語の機能を廃したもの 3号:両上肢をひじ関節以上で失つたもの 4号:両上肢の用を全廃したもの 5号:両下肢をひざ関節以上で失つたもの 6号:両下肢の用を全廃したもの |
自賠責基準:1150万円 弁護士基準:2,800万円 労働能力喪失率100% |
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「相当等級」に該当する症状とは?
ここまで、各等級の症状を列挙してきましたが、この等級表に記載されていなくても「相当等級」に該当する症状が認められれば、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求することが可能です。
眼
「外傷性散瞳」は
片眼の場合 12級または14級
両眼の場合 11級または12級
「流涙」は
片眼の場合 14級
両眼の場合 12級
と判断される場合があります。
鼻
「鼻呼吸困難」12級
「嗅覚の脱失」12級
「嗅覚の減退」14級
と判断される場合があります。
耳
「耳鳴り」 12級または14級
「耳漏れ」 12級または14級
と判断される場合があります。
口
「嚥下障害」 3級、6級または9級
「咀嚼時間の延び」 12級
「かすれ声」 12級
「味覚の脱失」 12級
と判断される場合があります。
等級の「併合」
系列の異なる障害が2つ以上ある場合には、原則として重い等級によります。
ただし、併合によって等級の繰り上げが発生する場合など、様々な例外やルールが存在します。
後遺障害認定には「申請」と「認定」が必要
ここまで、後遺障害等級の認定について説明してきましたが「後遺症」があれば自動的に後遺障害が認定されるわけではありません。
後遺障害について保険会社から補償を受けるためには、後遺障害認定を受けるための「申請」をして、後遺障害等級が「認定」される必要があります。
関連記事:交通事故の後遺障害認定を受けるには?流れとポイントを弁護士が解説
後遺障害の認定にかかる期間
後遺障害等級認定の申請を行なってから結果通知されるまでの期間は、多くの場合2~3ヶ月です。
ただし、4ヶ月〜数年と長期間を要するケースも存在しています。
「高次脳機能障害」については、時間経過で症状が軽減することもあることから、経過観察を含めて認定結果が出るまで数年間かかるというケースもあります。
期間について詳細は後遺障害等級認定にかかる期間と遅れている場合の対処法について解説で解説しています。
「後遺障害診断書」が最も重要
書類のみで行なわれる後遺障害等級の審査において、後遺障害診断書が最も重要であることは理解できたかと思います。
ただ、ここで問題なのがこの後遺障害診断書を作成する医師が
“後遺障害等級が獲得できるような後遺障害診断書を書こうと思っているとは限らない”
ということです。
後遺障害等級の認定基準を理解した上で後遺障害診断書を書いている、という医師は多くないのが現実です。
医師としては「どれだけ治癒したか、回復したか」を確認したいのですが、後遺障害診断書上では「どれほどの症状が残存している(治癒しなかったか)」を詳細に確認できるようにしなければなりません。
このような事情から被害者側としては、
「等級認定のためにどういう検査が必要なのか」「どのような記載をするのが望ましいのか」を理解したうえで、不足しているものについては医師に追加検査や必要事項の記載補足を依頼する必要があるのです。
認定基準には曖昧な部分もある
後遺障害等級認定は書面による審査が行なわれますが、その認定基準が「局部に神経症状を残すもの(14級9号)」や「局部に頑固な神経症状を残すもの(12級13号)」といった抽象的な表現となっている部分があります。
もちろん、障害の程度や症状をすべて明確に数値化することはできないため仕方がないことではあります。
しかし、このように曖昧な基準であるが故に判定する担当者などによって結果が左右されることがあり、適正な認定を得られるかどうかは不透明な部分があるのです。
「むちうち」でも後遺障害認定を受けられる?
「むちうち」とは、交通事故の衝撃で身体に急激な力が加わることにより発生する「頚椎捻挫」「頚部挫傷」「外傷性頚部症候群」などの神経症状を総称したものです。
これらの神経症状は、後遺障害14級9号(弁護士基準の慰謝料相場110万円)又は後遺障害12級13号(同基準の慰謝料相場290万円)に認定される可能性があるものです。
ただし、「むちうち」の場合は他覚的所見が認められない場合も珍しくなく、自覚症状を客観的に証明することが困難なケースがよくあります。
そのため、一般的に「むちうち」で後遺障害認定を受けることは難しいと言われるのですが、逆に言えば客観的な証明さえできれば可能性は十分にあります。
「全て医者任せ」はNG
交通事故による怪我の治療は、医師と患者の協力体制で進行しますが、基本的に医療知識のある医師が主導となって治療方針を決めていくものです。
治療方針は病院の事情によっても違いますし、怪我の完治を目指すうえでは担当医師に任せるのが良いかもしれませんが、後遺障害が残ってしまい、等級認定を受けるためには任せっきりが最善とは言えない可能性もあります。
例えば、「むちうち」で理学療法等のリハビリが必要な状態なのに病院にリハビリ設備がなく、2週間分の痛み止めが処方されて、「次の診察は2週間後です」と言われるケースがあります。
他にも、担当医師の親類が経営している接骨院を指定してリハビリの指示をする医師も存在します。
後遺障害等級が認定されるために、通院頻度(回数)は重要な要素の1つとなります。だからといって、毎日通えばいいという話ではありませんが、頻度が少なすぎると等級認定の可能性はそれだけ下がってしまいます。
また、後遺障害診断書の内容についても、全ての医師が等級認定に必要な要素を理解して記載しているわけではありませんので、被害者自身が正確に理解し、「100%医師任せ」にしないことが大切です。
保険会社の提案が最善とは限らない
交通事故の加害者が任意保険に加入している場合、通常は保険会社の担当者が被害者の治療費支払いや後遺障害の手続き等を代行してくれます。
代行の提案に関しては、正しい提案だと言えるでしょう。
しかし、保険会社の担当者は、心から被害者のことを考えて動いてくれていると感じる人もいれば、被害者のことはそっちのけ、ぞんざいな対応の人など対応は様々です。
どのような担当者であっても、「間違ってはいなくても被害者からすると最善ではないこと」を言ってくることがあります。
場合によっては、全くの嘘を言ってくるような担当者も存在します。
例を挙げると、被害者側にも過失がある場合に「被害者の負担を減らすために健康保険を使って治療するように」と提案してくることがあります。
この提案については、被害者側に過失がある場合は治療費のうち自分の過失分が自己負担になりますので、健康保険を使用して治療費を低く抑えると自己負担するときの負担額が減ることになり、確かに被害者にとって良いことだと言えます。
例えば、被害者側に人身傷害保険がある場合には被害者過失分が充足できるのであれば、健康保険を使用せずとも被害者の負担は増加しません。
このような選択をする際、被害者として正しい知識を身につけることはもちろん、専門家のアドバイスを受けることが大切になってきます。
自分で知識を身につける姿勢も重要
交通事故に遭う前から、その治療や後遺障害についての正しい知識を身につけている人はごく僅かだと思います。
とはいえ、ここまで述べてきた通り、被害者として知っておくべき知識は多いので、自分自身で正しい知識を身につける姿勢を忘れないようにすることが大事です。
インターネットで調べる情報も、自身の状況において最善か判断することは困難ですので、ある程度調べた上で専門家に相談するのがスムーズです。
認定結果に不満がある場合、「異議申し立て」も可能
事前認定(任意保険会社)、被害者請求(自賠責保険会社)のどちらの申請方法を選択した場合でも、しばらくすると後遺障害等級の結果通知が届きます。
この認定結果に納得できず、不満がある場合は「異議申し立て」という等級認定の再申請をすることが可能となっています。
「後遺障害が認定されないのはおかしい!」「自分の後遺障害はもっと重大だ!」という不服を申し立てることができるということです。
後遺障害の異議申し立てについては後遺障害の異議申し立てのコツを弁護士が詳しく解説でも詳しく解説しているので是非ご一読ください。
等級認定から賠償金提示までの5ステップ
交通事故の後遺障害に対する損害賠償金額は、後遺障害等級に基づいて決定されます。
怪我の治療
まずは交通事故で負った怪我を治療していきます。症状固定後に後遺症が残っている場合には、次のステップに進み後遺障害等級の審査を受けることになります。
各種資料を保険会社に提出
病院で医師が作成した診断書、後遺障害診断書、画像等の各種資料を保険会社に提出します。
保険会社に等級認定の審査を依頼
加害者が加入している任意保険会社あるいは自賠責保険会社に等級認定の審査を依頼します。
等級の認定
依頼された保険会社が損害保険料率算出機構に各種資料を送付し、等級認定の審査が行われます。そして、認定結果が被害者に送付されます。
賠償金額の提示
等級の認定後に「異議申し立て」を挟む場合もありますが、等級が確定した後、その等級をもとに保険会社が損害賠償金額を算出して被害者にそれを提示します。
この時、保険会社から提示される賠償金額は、認定された後遺障害等級に基づいたものですが、その後遺障害等級や提示額に納得できない場合、さらに次のステップに進むことになります。
弁護士のサポートを受けるメリット
損害賠償額がアップ
弁護士に依頼することで、「後遺障害等級の認定率アップ」「示談交渉の代理」という2つのアングルから後遺障害慰謝料ひいては賠償額全体のアップに繋がります。
まず後遺障害等級の認定率が上がるということは、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を受け取れる可能性も上がるということです。
後遺障害等級が認定されなければ、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を請求することはできないため、この時点で非常に大きな差が生まれます。
次に、後遺障害等級が認定された後には示談交渉が重要となります。なぜなら、示談交渉がうまくいかないと本来得られるべき金額より低い金額になってしまうからです。
弁護士を代理人に立てて示談交渉すれば、「弁護士基準」での賠償金獲得が期待できますので、トータルで見て大きな金額の差が生まれる可能性が高いのです。
後遺障害等級の認定率アップ
交通事故に強い経験豊富な弁護士のサポートを受け、被害者請求を行うことにより提出書類のクオリティアップや適切な追加書類を添付できるので、被害者自身で後遺障害等級認定の申請を行った場合と比較して認定率が上がります。
誰でも良いわけではなく、後遺障害等級認定のサポート経験が豊富な弁護士に依頼するのが大切です。
手間が省ける
交通事故対応を弁護士に依頼すると、後遺障害等級の申請手続きなどを代理で行ってもらうことができます。先に述べた「被害者請求」のような書類集めに凄く手間がかかる場合などは大きなメリットと言えるでしょう。
経験豊富な弁護士に依頼することで、提出書類の内容を確認した上で必要な事項の追記や訂正などのサポートを受けることができます。
「被害者請求を行いたいが、手間がかかるので躊躇している」「事前に書類を確認しても何を追加、訂正すれば良いかも分からない」「効果的な追加書類が分からない」といった悩みがある時には弁護士に依頼するのがお勧めです。