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労働災害の後遺障害等級に応じた補償金額は?認定基準や手続きを解説

労災が発生して治療を行ったにもかかわらず、障害(後遺症)が残ってしまうこともあります。そのような場合は、障害等級の認定を受けることで、労災保険から障害の程度に応じた補償を受けることが可能です。

この記事では、後遺障害等級の認定基準や支給される金額、手続きの流れ、必要書類などについて、弁護士が解説します。会社に請求できる損害賠償についても紹介していますので、参考にしてみてください。

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労災の後遺障害に対する補償

労働災害(労災)における「後遺障害」とは、労災による怪我や疾病が治療をしても完治せず、一定の症状が残っている状態、かつ、その症状が後遺障害の等級表に該当する場合をいいます。

例えば、労災事故で体の一部を失ってしまった場合は、どれだけ治療をしてもその部分が回復することはないため、体の一部の「欠損」という後遺症が残ったことになります。

後遺症が後遺障害として認められるかどうかは、申請書類や医師の診断書などを基に、労働基準監督署が調査します。調査の結果、後遺障害であると認定された場合は、障害等級表に基づく補償(年金または一時金)を受けることが可能です。

労災の後遺障害等級とは?

労災の後遺障害にあたるかは、障害等級表(労働者災害補償保険法施行規則 別表第一)に基づいて、管轄する労働基準監督署が等級を認定します。

障害等級の認定基準は症状によって第1級〜第14級に分かれており、等級の数字が小さいほど障害が重くなり、補償として受け取れる金額も等級によって変わります。一方、労災前と異なる違和感があっても、この認定基準(障害等級表)に当てはまらなければ、基本的に給付は受けられません。

障害等級表

等級 身体障害
第1級 1:両眼が失明したもの
2:そしゃくおよび言語の機能を廃したもの
3:神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
4:胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
5:削除
6:両上肢をひじ関節以上で失ったもの
7:両上肢の用を全廃したもの
8:両下肢をひざ関節以上で失ったもの
9:両下肢の用を全廃したもの
第2級 1:1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの
2:両眼の視力が0.02以下になったもの
2の2:神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
2の3:胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
3:両上肢を手関節以上で失ったもの
4:両下肢を足関節以上で失ったもの
第3級 1:1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
2:そしゃくまたは言語の機能を廃したもの
3:神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
4:胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5:両手の手指の全部を失ったもの
第4級 1:両眼の視力が0.06以下になったもの
2:そしゃくおよび言語の機能に著しい障害を残すもの
3:両耳の聴力を全く失ったもの
4:1上肢のひじ関節以上で失ったもの
5:1下肢をひざ関節以上で失ったもの
6:両手の手指の全部の用を廃したもの
7:両足をリスフラン関節以上で失ったもの
第5級 1:1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの
1の2:神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
1の3:胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
2:1上肢を手関節以上で失ったもの
3:1下肢を足関節以上で失ったもの
4:1上肢の用を全廃したもの
5:1下肢の用を全廃したもの
6:両足の足指の全部を失ったもの
第6級 1:両眼の視力が0.1以下になったもの
2:そしゃくまたは言語の機能に著しい障害を残すもの
3:両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
3の2:1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度のもの
4:せき柱に著しい変形または運動障害を残すもの
5:1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
6:1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
7:1手の5の手指または母指を含み4の手指を失ったもの
第7級 1:1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの
2:両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
2の2:1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
3:神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
4:削除
5:胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
6:1手の母指を含み3の手指を失ったものまたは母指以外の4の手指を失ったもの
7:1手の5の手指または母指を含み4の手指の用を廃したもの
8:1足をリスフラン関節以上で失ったもの
9:1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
10:1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
11:両足の足指の全部の用を廃したもの
12:外貌に著しい醜状を残すもの
13:両側のこう丸を失ったもの
第8級 1:1眼が失明し、または1眼の視力が0.02以下になったもの
2:せき柱に運動障害を残すもの
3:1手の母指を含み2の手指または母指以外の3の手指を失ったもの
4:1手の母指を含み3の手指または母指以外の4の手指の用を廃したもの
5:1下肢を5センチメートル以上短縮したもの
6:1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
7:1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
8:1上肢に偽関節を残すもの
9:1下肢に偽関節を残すもの
10:1足の足指の全部を失ったもの
第9級 1:両眼の視力が0.6以下になったもの
2:1眼の視力が0.06以下になったもの
3:両眼に半盲症、視野狭さくまたは視野変状を残すもの
4:両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
5:鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
6:そしゃくおよび言語の機能に障害を残すもの
6の2:両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
6の3:1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
7:1耳の聴力を全く失ったもの
7の2:神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
7の3:胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
8:1手の母指または母指以外の2の手指を失ったもの
9:1手の母指を含み2の手指のまたは母指以外の3の手指の用を廃したもの
10:1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの
11:1足の足指の全部の用を廃したもの
11の2:外貌に相当程度の醜状を残すもの
12:生殖器に著しい障害を残すもの
第10級 1:1眼の視力が0.1以下になったもの
1の2:正面視で複視を残すもの
2:そしゃくまたは言語の機能に障害を残すもの
3:14歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
3の2:両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
4:1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
5:削除
6:1手の母指または母指以外の2の手指の用を廃したもの
7:1下肢を3センチメートル以上短縮したもの
8:1足の第1の足指または他の4の足指を失ったもの
9:1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
10:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
第11級 1:両眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの
2:両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
3:1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
3の2:10歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
3の3:両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
4:1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
5:せき柱に変形を残すもの
6:1手の示指、中指または環指を失ったもの
7:削除
8:1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
9:胸腹部臓器に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
第12級 1:1眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの
2:1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
3:7歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
4:1耳の耳かくの大部分を欠損したもの
5:鎖骨、胸骨、ろく骨、肩こう骨または骨盤骨に著しい変形を残すもの
6:1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
7:1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
8:長管骨に変形を残すもの
8の2:1手の小指を失ったもの
9:1手の示指、中指または環指の用を廃したもの
10:1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったものまたは第3の足指以下の3の足指を失ったもの
11:1足の第1の足指または他の4の足指の用を廃したもの
12:局部にがん固な神経症状を残すもの
13:削除
14:外貌に醜状を残すもの
第13級 1:1眼の視力が0.6以下になったもの
2:1眼に半盲症、視野狭さくまたは視野変状を残すもの
2の2:正面視以外で複視を残すもの
3:両眼のまぶたの一部に欠損を残しまたはまつげはげを残すもの
3の2:5歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
3の3:胸腹部臓器の機能に障害を残すもの
4:1手の小指の用を廃したもの
5:1手の母指の指骨の一部を失ったもの
6:削除
7:削除
8:1下肢を1センチメートル以上短縮したもの
9:1足の第3の足指以下の1または2の足指を失ったもの
10:1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したものまたは第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの
第14級 1:1眼のまぶたの一部に欠損を残しまたはまつげはげを残すもの
2:3歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
2の2:1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
3:上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
4:下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
5:削除
6:1手の母指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
7:1手の母指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
8:1足の第3の足指以下の1または2の足指の用を廃したもの
9:局部に神経症状を残すもの
10:削除

等級表内の「用を廃したもの」という表現は、要するに「指の付け根もしくは第2関節(親指の場合は第1関節)の可動域が、健康な状態の半分以下に制限されるとき」を指します。このとき指が曲がらない場合でも、その可動域角度が通常の半分以下に制限されていない場合は認められないことがポイントです。

認定の基準についてはあいまいな部分があり、書類に不備があれば症状に対して低い等級で認定されることもあります。その一方で、嗅覚や味覚が無くなった場合など、等級表にない症状でも「相当等級」として後遺障害に認められる可能性もあります。

【関連記事】後遺障害等級とは?症状ごとの等級と慰謝料表

後遺障害として認められる可能性のある例

手足・指の切断や転落事故による骨折などは、後遺障害としてよく知られています。そのほかにも後遺障害と認められる症状は多く、「関節が動きにくくなる機能障害」や「体の一部にしびれや痛みが残る神経症状」なども、後遺障害に認定される可能性があります。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

関節の機能障害

関節の機能障害とは、関節が元通りに曲がらなくなった状態を言います。可動域が制限される範囲によって、後遺障害の等級が変わってきます。

仮に右の肘関節が動かしにくくなった場合は、障害の残っていない左側の関節と比べてどの程度動かしにくくなっているかを測ります。動く範囲が半分になってしまった場合は、著しい機能障害として障害等級10級が、4分の3になってしまった場合は機能障害として12級が認定されます。

神経症状

神経症状とは、神経がダメージを負い、しびれや痛みなどが表れている状態を指します。神経症状で後遺障害の認定を受けるには、以下の条件を満たすことが必要です。

●労災との因果関係が明らかである
●医師が「症状固定」と診断した
●「時には強度の疼痛のため、ある程度差し支えがある」または「受傷部位にほとんど常時疼痛を残す」状態である

症状固定とは

症状固定とは、これ以上治療を続けても症状が改善しないと医師が判断した状態のこと。労災の「治ゆ」には、完治だけでなく症状固定も含まれます。

神経症状の認定は症状の常時性が必要で、例えば「雨が降る日は痛い」程度の場合は、後遺障害に認定されないことがあります。

神経症状に関連する後遺障害は

●障害等級12級:局部にがん固な神経症状を残すもの
●障害等級14級:局部に神経症状を残すもの

のみです。

痛みの程度は本人にしかわからないため、レントゲン写真やMRI、そのほか神経学的な検査によって客観的に症状を証明し、等級を判断してもらう必要があります。「後遺障害認定のために必要な検査」を漏らさずに受けることが重要となるため、医師だけでなく、労災問題に詳しい弁護士にも相談するとよいでしょう。

参考:「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」厚生労働省

後遺障害等級の併合

後遺障害等級の「併合」とは、同一の労災によって複数の後遺障害が体に残った場合に、重い方の等級で1つにまとめることです。

後遺障害等級の認定は、体を10の部位に分け、それぞれの機能にどのような障害が残ったかで決まります。

もし労災によって視力が落ち、耳も聞こえにくくなったとすると。「視力障害」と「聴力障害」という系統が異なる2つの障害が残ったことになるため、後遺障害等級が併合されます。

13級以上の後遺障害が2つ以上ある場合には、重い方の障害等級を繰り上げて併合します。具体的な等級の変化は、基本的に次のとおりです。

条件 等級の変化
障害等級5級以上の症状が複数ある 重い方の等級を3つ繰り上げ
障害等級8級以上の症状が複数ある 重い方の等級を2つ繰り上げ
障害等級13級以上の症状が複数ある 重い方の等級を1つ繰り上げ
障害等級14級以上の症状が複数ある 等級の変化はなし

14級の後遺障害が2つ以上の場合は、等級は14級のまま変わりません。

後遺障害の加重

「加重」は、労災に遭うよりも前から何らかの障害がある人が、労災によって同一カ所に新たな障害を負ったことで、障害が重くなる(障害等級が上がる)ことを意味します。

加重が適用された場合、労災の被災者(被保険者)には、加重後の後遺障害等級に相当する給付額から、既存の等級に相当する給付額を差し引いた障害(補償)給付が支払われます。

障害の程度に変わりがない場合には加重は適用されず、障害の系統によっては、加重ではなく併合となるケースもあります。

後遺障害の準用

後遺障害の等級表で定められていない後遺障害が残った場合、その障害の程度に応じた等級を認定する方法を「後遺障害の準用」といいます。

例えば食べ物や飲み物の味が分からなくなる味覚障害は後遺障害の併合で解説したどの系統にも属しませんが、味を感じなくなる「味覚脱失」は12級相当、味を感じにくくなる「味覚減退」は14級相当として、後遺障害等級に認定される可能性があります。

また、すでにある系統に分類できる場合でも該当する後遺障害がない場合は、後遺障害の併合の方法を用いて「準用等級」という形で、後遺障害等級が認定されることがあります。

後遺障害等級に応じた給付額

後遺障害が認められた場合、被災者(被保険者)は「障害(補償)等給付」として

●障害補償給付(障害補償年金・障害補償一時金)
●障害特別年金・障害特別一時金
●障害特別支給金

を受け取ることができます。後遺障害等級に応じた給付額は、以下のとおりです。

後遺障害等級 障害補償年金/障害補償一時金 障害特別年金/障害特別一時金 障害特別支給金
1級 給付基礎日額の313日分(年額) 算定基礎日額の313日分(年額) 342万円
2級 給付基礎日額の277日分(年額) 算定基礎日額の277日分(年額) 320万円
3級 給付基礎日額の245日分(年額) 算定基礎日額の245日分(年額) 300万円
4級 給付基礎日額の213日分(年額) 算定基礎日額の213日分(年額) 264万円
5級 給付基礎日額の184日分(年額) 算定基礎日額の184日分(年額) 225万円
6級 給付基礎日額の156日分(年額) 算定基礎日額の156日分(年額) 192万円
7級 給付基礎日額の131日分(年額) 算定基礎日額の131日分(年額) 159万円
8級 給付基礎日額の503日分 算定基礎日額の503日分 65万円
9級 給付基礎日額の391日分 算定基礎日額の391日分 50万円
10級 給付基礎日額の302日分 算定基礎日額の302日分 39万円
11級 給付基礎日額の223日分 算定基礎日額の223日分 29万円
12級 給付基礎日額の156日分 算定基礎日額の156日分 20万円
13級 給付基礎日額の101日分 算定基礎日額の101日分 14万円
14級 給付基礎日額の56日分 算定基礎日額の56日分 8万円

出典:「障害(補償)等給付の請求手続」P.1 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署

障害補償給付金

労災の後遺障害に対する障害補償給付は、等級によって、継続的に受け取れる「障害補償年金」と、一度だけ受け取れる「障害補償一時金」に分かれます。金額は、事故前の給料を基にした「給付基礎日額」にて算出します。

給付基礎日額とは

基礎給付日額とは、事故が起きる直前の3カ月間に支払われた給料をその期間の日数で割った、1日当たりの平均給与額のこと。

実際に働いた日数ではなく、休日も含めた日数(暦日数)で計算します。給与には通勤手当や住宅手当などを含みますが、ボーナスは計算に含みません。

障害補償年金

障害等級の1級~7級に認められるような重い後遺障害が残った場合は、障害補償年金として、1年ごとに「給付基礎日額×等級に応じた日数」の給付を受けることができます。

例えば給付基礎日額が1万円の人が障害等級4級と認定された場合、1万円×213日=213万円を年金として毎年受け取れます。

障害補償一時金

障害等級8~14級と認められるような障害が残った場合は、障害補償一時金を受け取ることが出来ます。金額は障害補償年金と同じように、給付基礎日額と等級に応じた日数で決まります。

給付基礎日額が1万円の人が障害等級10級と認定された場合は、1万円×302日=302万円を、一度だけ受け取れます。

障害特別年金・障害特別一時金

障害補償給付と同じように、認定された後遺障害等級に応じた年金や一時金が支給されます。受け取れる金額は、「算定基礎日額×等級に応じた日数」です。

算定基礎日額とは

算定基礎日額とは、原則として、労災が発生した日、または診断によって病気にかかったことが確定した日以前の1年間に、その労働者が事業主から受けた特別給与の総額を算定基礎年額として365で割って得た額のこと。

「特別給与」とは、給付基礎日額の算定の際に除外されている「3カ月を超える期間ごとに支払われる賃金」を指すため、要するに「賞与」「ボーナス」(臨時的なものを除く)のことです。

障害特別支給金

障害特別支給金は、残った後遺障害等級に応じて一時的に支給されるもの。社会復帰促進等事業の一環として、障害補償給付に上乗せして支払われます。

ただし、同じ労災で既に傷病特別支給金を受けた場合は、金額を調整をした差額となります。

後遺障害の認定手続きと必要書類

労災保険からは治療を開始してから症状固定までの間に「治療費」や「休業補償」などが支給されますが、症状固定となった後は、原則としてこれらの支給は打ち切られます。

後遺障害の認定や障害補償給付は自動的に受けられるようになるわけではなく、労働者が自身で「障害(補償)等給付」の申請を行う必要があることに注意しましょう。ここからは、後遺障害の認定手続きと必要書類について解説します。

医師に診断書の作成を依頼

後遺障害の認定を受けるには専用の診断書が必要なため、症状固定と診断された後に、医師に作成を依頼します。厚生労働省のホームページに公開されている「労働者災害補償保険診断書」を自身で印刷して持参しましょう。

なお、診断書の作成は、治療費とは別に診断書料をいったん立て替えて支払うことになりますが、この診断書料は4,000円を上限として労災保険に請求が可能です。請求する場合は、業務災害であれば「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書(様式第7号)」を、通勤災害であれば「療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5)」を、障害(補償)給付の申請書類と併せて提出します。

参考:「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」厚生労働省

必要書類の提出

「障害(補償)等給付」の申請書類は2種類あり、災害の種類によって異なります。

●仕事中の怪我(業務災害)の場合は様式第10号
●通勤中の怪我(通勤災害)の場合は様式第16号の7

に必要事項を記入し、医師が作成した労働者災害補償保険診断書を添付して労働基準監督署に提出しましょう。

後遺障害の給付請求は5年で請求権が消滅するため、早い段階で申請することが重要です。

労働基準監督署による調査・面談

書類を提出すると、労災事故の内容と、後遺症の内容や程度などについて調査が行われます。会社や通院先の医療機関に対し、労働基準監督署が内容を照会することもあります。

また、障害の程度を実際に確認する目的で、労働基準監督署の調査官や地方労災医員と呼ばれる嘱託医と、被災した本人との面談が実施されます。日程の調整については労働基準監督署から被災者へ連絡があり、外出が困難などの事情があれば被災者の自宅で行われますが、通常は労働基準監督署で行います。

認定結果の通知

調査が完了すると、労災の後遺障害等級の認定基準に該当するかどうか、結果が通知されます。

障害(補償)年金の認定を受けた場合は、支給要件に該当することとなった月の翌月分から支給され、毎年2月・4月・6月・8月・10月・12月に、それぞれ前月までの2カ月分が支給されます。

また、障害補償年金を受給する場合で、常時または随時介護を必要とする状態にあり、実際に介護を受けている場合は「介護補償給付」を受けることができます。

県民共済など他の保険との併用は可能?

労災被害にあったときに、自身が加入している県民共済(あるいは保険会社の傷害保険・医療保険)からも給付を受けられるのか、気になる方もいるでしょう。

労災保険は、多くの場合民間の保険と重複して請求でき、県民共済(傷害保険・医療保険)と併用が可能です。

県民共済とは

県民共済(都道府県民共済)とは、厚生労働省から認可を受けた全国生活協同組合連合会と都道府県から認可を受けた各生活協同組合が運営する、保険事業です。利用はその都道府県に在住・在勤の人に限定されます。

民間の傷害保険や医療保険と同様に入院・死亡などについて保障があり、保険の種類と掛け金に応じた共済金(保険金)が支払われます。

労災保険の加入は事業主の義務ですが、傷害保険や医療保険などは本人の任意加入で、それぞれ別の保障のため、加入している保険が補償の対象となっている場合、労災と県民共済などは重複して受給(請求)ができます。給付額は保険の種類や特約によって異なるので、自身の保障内容を確認してみましょう。

ただし、労災保険と自動車保険(自賠責保険・任意保険)で、その趣旨・目的が共通し、内容が重複する部分は併せて受け取ることが制限される場合があります。具体的には、治療費・休業補償・後遺障害逸失利益などに関し、労働者(被災者)が労災と自動車保険のどちらか一方からの受け取りを選択するようなケースがあり得ます。慰謝料のような労災保険の補償と重複しない部分は、自動車保険に請求可能です。

会社に請求できる後遺障害の損害賠償

労災の被災者になった場合、労災保険から支払われる補償を受けるだけでなく、会社に対して慰謝料などの損害賠償を請求することが可能です。

労災によって後遺障害が残った場合は、損害賠償として

●後遺障害慰謝料
●後遺障害逸失利益

を使用者に請求することができます。

それぞれについて詳しく解説します。

後遺障害慰謝料

障害が残ると今まで通り仕事ができなくなるばかりか、日常生活にもさまざまな影響が出てしまい、日々とても苦しい気持ちで過ごさなければなりません。後遺障害慰謝料は、そのような精神的苦痛に対する賠償金です。

認定された後遺障害等級ごとに「弁護士基準」による慰謝料額の相場がある程度決まっており、通常、重い障害であるほど高額になります。

後遺障害等級 慰謝料額(弁護士基準)
1級 2,800万円
2級 2,370万円
3級 1,990万円
4級 1,670万円
5級 1,400万円
6級 1,180万円
7級 1,000万円
8級 830万円
9級 690万円
10級 550万円
11級 420万円
12級 290万円
13級 180万円
14級 110万円

【関連記事】後遺障害等級とは?症状ごとの等級と慰謝料表

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益とは、労災事故の被害によって失ってしまった将来の収入のこと。労災事故で後遺症が残り、事故前と同じように働けなくなればもともと得られたであろう収入が減ってしまうという関係が通常生まれます。損害賠償ではその減損した収入についても請求することができます。

後遺障害逸失利益の金額は

●被災した労働者の収入
●認定された後遺障害等級
●年齢

の3つで計算されます。

弁護士チェック

より正確には「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数」という計算式で算出されます。

逸失利益の計算方法については、関連記事「逸失利益とは?計算方法と職業別の具体例をわかりやすく紹介」をご覧ください。

損害賠償の請求方法

損害賠償は、使用者である会社に対して被災者自身が請求します。ここからは、損害賠償請求の流れを紹介します。

後遺障害の認定

後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益は、後遺障害等級が決まってからでないと請求できる金額が分かりません。そのため、損害賠償を請求する前に後遺障害認定を受ける必要があります。

労災原因の調査

労災が起こった原因が会社にあれば、損害賠償請求を行うことができます。会社には、労働者が怪我をしないように配慮しなければならないという安全配慮義務があります。

その決まりを守らずに労災事故が起こった場合、会社に労災の責任があるとして損害賠償を請求できます。ただし、通勤災害の場合や昼休み中の怪我など、会社に予見の可能性がない場合には損害賠償を請求できないこともあります。

会社から適切な損害賠償を受け取るためには

●会社が事故の可能性を認識していたか
●事故が起こらないようにできる限りの努力をしていたか
●労働者(被災者)にも責任はなかったか

などを調査し、その結果を証拠として会社と交渉を行う必要があります。もし交渉がうまくいかなければ裁判を行うこともあります。

【関連記事】労災保険外の損害は会社に請求!損害賠償について法律事務所が解説

結果に不満があれば再審査を受けられる

後遺障害の認定結果に不服がある場合は審査請求をして再度審査を受けることができます。ただし、審査請求の期限は決定通知書を受け取ってから3カ月以内です。

決定通知書には理由がほぼ記載されておらず、調査の内容や判断理由などはわからないことが多いため、担当調査官に対して電話で理由を教えてもらう、調査資料の開示請求などを行う必要があります。提出する書類の内容が同じでは判断を覆すことは難しいため、結果が適切でないことを証明する証拠も集めなくてはなりません。

これらの理由から、適正な認定をスムーズに受けるためには、初回の申請で書類の記載漏れや誤りがないようにすることが重要なポイントです。

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もしも怪我が再発したら?

医師が症状固定(治ゆ)したと判断すれば、その時点で療養給付や休業給付が打ち切られます。

治ゆした後に怪我や病気が再発した場合は、要件を満たすことでもう一度給付を受けることができます。

自分で「痛くなった」と感じるだけでは再給付は認められないため、再申請の際には医師が書いた症状についての書類が必要となります。

労災の後遺障害に関する相談はブライトへ

労災の後遺障害は、障害等級が認められるかや、どの等級に該当するのかによって、受け取れる金額が変わります。

適切な障害等級認定を受けるには自身での請求が必要ですが、専門知識が不可欠であり、後遺症が残った状態でそのような作業を行うのも難しいでしょう。

また、会社へ損害賠償を請求する際にも、安全配慮義務違反や使用者責任などについてさまざまな証拠を集めなければならないので、後遺障害の認定や請求については、弁護士に相談することをおすすめします。

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