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M&Aデューデリジェンス(DD)の進め方|法務・財務・税務・労務の4領域別チェックリスト

不動産関連業を営む中堅企業A社(社員42名・年商28億円・営業利益2億1,000万円)の創業者B氏は、同業他社C社への全株式譲渡という形での事業承継を決断した。基本合意書(LOI)締結後の2023年9月、譲渡対価の最終確定を見据えてC社主導でデューデリジェンス(DD)が開始された。実施期間は基本合意から最終契約締結までの7ヶ月のうち、DD単独で6週間を要した。

本ページでは、130社以上の顧問契約を担当する弁護士法人ブライトが、同案件のDD実施プロセスを匿名化した単一事例として、法務・財務・税務・労務4領域の検討内容と発見事項の処理を実装フォーカスで解説する。

本案件のDDで発見された事項は16件。うち13件をクロージング前に解消、3件を表明保証条項の特別補償(Special Indemnity)として最終契約に織り込んだ。譲渡対価12億3,000万円のうち、DD発見事項を根拠とした価格調整は7,400万円減額。具体的な発見事項と処理を以下で順を追って記述する。

本記事のポイント

  • 本案件DDで6週間で16件発見・うち13件をクロージング前解消・価格調整7,400万円
  • 労務DDで未払残業代5名分225万円が発覚・労働基準法第37条の固定残業代要件不適合
  • 株式構成の整理(オーナー62%+関連会社30%+退任元役員8%)が法務DDの起点となった

和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士

弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒

専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生

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本件のDD全体スケジュール

2023年8月初旬、A社のB氏とC社の代表E氏がトップ面談を実施し、基本条件を口頭合意。8月末に基本合意書(LOI)を締結。同合意書には会社法第467条第1項柱書に基づく事業譲渡承認決議の前提として、「DD結果次第で価格・条件を見直せる旨」を明記した。

9月第2週からC社側DDチーム(弁護士・公認会計士・税理士・社会保険労務士の4名)がA社オフィスに常駐し、6週間のDD作業を開始。10月末に各専門家からDDレポートが提出され、11月第1週にA社・C社・両社代理人の4者会議でDD結果と価格調整を議論した。

DD費用は買収金額12億3,000万円に対し1,840万円(1.5%)。中小企業M&Aの相場(買収金額の0.5〜2%)の中央値である。

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法務DDで実施した会社組織・株式関連の調査

法務DDの起点は、A社の法的組織と株式の整理であった。B氏がDDキックオフで提供した株主名簿を基に、以下の5項目を検証した。

第1に、株式構成の正確な把握。A社の発行済株式総数1,200株のうち、B氏個人が744株(62%)、関連会社A2社(B氏が代表を務める不動産管理会社)が360株(30%)、退任元役員D氏が96株(8%)を保有していた。退任元役員D氏は2018年に退任しており、当時の株式譲渡契約書および取締役会議事録(譲渡承認決議)の存在を法務DDで確認した。

第2に、株主名簿の最新性。会社法第121条が定める株主名簿は適時に更新されていたが、株券不発行会社への移行(会社法第218条)が未了であった。これは買収に支障はないが、クロージング前にC社が定款変更で株券不発行会社化することを合意。

第3に、過去5年の取締役会・株主総会議事録(直近35回分)の精査。重要決議の議題・出席状況・議決権行使内容を検証し、瑕疵が無いことを確認。会社法第371条が定める議事録の備置義務は履行されていた。

第4に、過去の組織再編の有無。2018年に商号変更(旧社名から現社名へ)を実施していたが、定款変更・登記は適切に経由されていた。会社法第466条第1項に基づく株主総会特別決議も議事録で確認。

第5に、株式譲渡制限規定。A社の定款には会社法第107条第1項第1号に基づく譲渡制限規定があり、譲渡承認は取締役会決議事項であった。本件株式譲渡についても、9月時点でA社取締役会で事前承認決議を議事録化済み。

法務DDで発見した契約関係の論点

A社が締結している主要契約のうち、DD対象は売上の80%を占める上位50社の取引基本契約および全社の賃貸借契約。法務DDでは以下4件の論点が発見された。

第1に、Change of Control(COC)条項。3社の主要顧客契約(年間売上計4億2,000万円)にCOC条項が含まれていた。クロージング前にB氏とE氏の連名で個別承諾依頼書を送付し、3社全てから事前承諾を取得。

第2に、メインバンクとの当座貸越契約に「経営者個人保証」が組み込まれていた。借入残高1億8,000万円の保証をB氏が個人で行っていた。クロージング日にC社グループ保証への切替を金融機関と合意。

第3に、不動産仲介管理業の許認可(宅地建物取引業)。会社法上は株式譲渡で許認可は維持されるが、宅地建物取引業法第9条が定める変更届出(代表者変更)は提出義務があり、Day 7までに大阪府に届出予定とした。

第4に、係争中の損害賠償請求事件。取引先F社からA社に対し、4,000万円の損害賠償請求事件が大阪地方裁判所に係属していた。本件はDD前から存在しており、A社・B氏・C社の3者でこの訴訟を会社分割(会社法第757条以下の吸収分割)で切り出し、B氏側が引き継ぐ枠組みを最終契約で合意。

財務DDで実施した3〜5年分の決算書精査

財務DDは公認会計士主担当で、過去5年分の決算書・試算表・税務申告書(合計60ファイル・約2,800ページ)を精査した。発見事項は以下4点。

第1に、正常収益力(EBITDA)の算定。A社の過去3年平均営業利益は2億800万円だが、B氏個人費用(接待・社用車・私的使用分)を調整して正常化EBITDAを2億3,200万円と算定。これがC社の買収価格算定の中核データとなった。

第2に、運転資本の実態。売掛金回収サイト平均65日に対し、買掛金支払いサイト平均40日。差25日分の運転資本約1億1,000万円を最終契約で別途引渡し対価として精算する条項を織り込んだ。

第3に、有利子負債の実態。財務諸表計上のメインバンク借入1億8,000万円に加え、取引先F社訴訟(4,000万円)が偶発債務として開示すべき事項。最終契約上は表明保証で「開示済み事項を除き偶発債務無し」とした。

第4に、関連当事者取引。A社と関連会社A2社(B氏代表)との不動産賃貸借取引が年間2,400万円存在。市場価格に対し1.2倍水準で割高の疑いがあったが、税務上の移転価格課税リスクは低いと判断(売手B氏側が課税済み)。

税務DDで過去5年〜7年分を確認した発見事項

税務DDは税理士主担当。法人税・消費税・源泉所得税の3税目について、消費税は過去7年(消費税法第30条第7項の保存期間)、その他は過去5年(国税通則法第70条第1項の課税権除斥期間)を確認した。発見事項は3件。

第1に、消費税の課税区分判定。一部の不動産仲介手数料について、課税売上として処理すべきものが非課税売上として誤計上されていた。過去5年の合計影響額は98万円。クロージング前に税務署へ修正申告を提出し、本税・延滞税等を売手B氏側で完納。

第2に、役員報酬の損金算入要件。法人税法第34条第1項第1号が定める定期同額給与の要件を満たしていることを確認。B氏報酬月額480万円は事業年度中変動なし。

第3に、繰越欠損金。A社は黒字経営で繰越欠損金なし。本件は株式譲渡のため法人税法第57条の2の使用制限適用なし。

労務DDで発見した未払残業代225万円

本案件で最も問題化が予想される労務DDは、社会保険労務士主担当で6週間のうち2週間を投入。発見事項は3件。

第1に、未払残業代の発覚。A社の管理職5名(部長クラス2名・課長クラス3名)に対する固定残業代制度が、労働基準法第37条が定める割増賃金算定の要件を満たしていなかった。具体的には、固定残業代の対象時間(月45時間)と通常賃金との明確な区分が就業規則に明記されておらず、最高裁判例(医療法人康心会事件・最判H29.7.7)の要件に不適合。過去2年分(労働基準法第115条の賃金請求権の消滅時効)の未払残業代が、5名で合計225万円と算定された。

第2に、36協定の届出懈怠。A社は2022年度の36協定を労働基準監督署に届出していなかった。労働基準法第36条第6項違反。新規届出をDay 30までに提出する計画を最終契約のクロージング後遵守事項として織り込み。

第3に、退職金引当不足。退職金規程上の支払義務総額(全社員42名分)約8,800万円に対し、引当金計上は6,400万円(73%)に留まり、不足額2,400万円。最終契約では、不足額をDay 100までにC社グループ財務で段階的に積み増す計画とした。

反社チェック・コンプライアンス調査

反社チェックは弁護士主担当で、5レイヤーで実施。①対象会社A社、②主要株主(B氏個人・関連会社A2社・退任元役員D氏)、③現経営陣(取締役3名・監査役1名)、④主要取引先上位20社、⑤キーマン人物(過去5年退任した役員2名)。

調査手段は段階的に実施。第1段階の公開情報チェック(インターネット検索・登記情報・新聞記事)、第2段階の商用反社情報データベース(帝国データバンク)の照会で、5レイヤー全てに反社該当の疑念が無いことを確認。

結果として、最終契約には反社表明保証条項を Special Indemnity(補償上限・期間・基準額の制限なし)として織り込んだ。会社法第847条以下の株主代表訴訟リスクおよび暴力団排除条例違反の取引停止リスクに備える設計。

DD発見事項の処理:4択での意思決定

DD発見事項16件の処理は、以下の4択で対応した。

第1に、買収中止。本案件では該当無し。

第2に、価格調整。労務DDの未払残業代225万円・退職金引当不足2,400万円・運転資本調整・固定残業代再設計コストを含む合計7,400万円を、譲渡対価から減額。当初提示の13億700万円から12億3,000万円(うち固定対価10億円・アーンアウト2億3,000万円)に調整。

第3に、表明保証強化。係争中のF社訴訟(4,000万円)について、表明保証で「開示済み事項を除き他に係争無し」と明記し、新規発覚事項は補償条項の対象とした。補償上限は買収対価の30%(3億7,000万円)、補償期間は2年(基本表明保証は時効まで)、最低基準額は買収対価の1%(1,230万円)。

第4に、クロージング前提条件設定。36協定の新規届出、消費税修正申告完了、メインバンク個人保証解除、株券不発行会社への移行、取引先COC条項の事前承諾取得、の5項目をクロージング前提条件として明示。全項目をクロージング日(2024年1月15日)までに完了させた。

表明保証条項とDD結果の連動

DDで発見済み事項は開示別紙(Disclosure Schedule)に記載することで、表明保証の対象外とした。本案件の開示別紙は12項目。例えば「A社の管理職5名に対する固定残業代制度が労働基準法第37条の要件に不適合であること」は明示開示済みとし、後日同事案を理由とする補償請求は留保される。

逆に、DDで未発見の事項(潜在的な未払賃金が他の社員にも存在した場合等)は表明保証の対象として、買い手C社が補償請求できる枠組みを残した。サンドバッギング条項(Pro-sandbagging条項)も明記し、買い手認識の有無に関わらず補償請求可能とした。

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本件DDの総括

不動産関連業A社の事業承継型M&AにおけるDD は、6週間で4専門家(弁護士・公認会計士・税理士・社会保険労務士)が16件の発見事項を抽出し、うち13件をクロージング前に解消、3件を Special Indemnity として最終契約に織り込んだ。価格調整7,400万円は、未払残業代225万円・退職金引当不足2,400万円を含む労務リスク2,625万円が中心であった。

労働基準法第37条が定める割増賃金算定要件、会社法第371条の議事録備置義務、会社法第218条の株券不発行会社化、宅地建物取引業法第9条の変更届出、会社法第467条の事業譲渡承認、会社法第757条の吸収分割――これら法令対応をDDの時間軸でマイルストーン管理することが、中小企業M&AにおけるDD成功の本質である。

弁護士法人ブライトでは、130社以上の顧問契約を通じて、M&A 取引のDD設計から最終契約交渉、クロージング後のPMI伴走まで一貫して支援してきました。本件のような事業承継型M&Aから上場会社向けクロスボーダー案件まで、DD実施から契約条件への落とし込みまで対応します。M&A検討中の経営者・法務担当者の方は、お気軽にご相談ください。

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本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
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事務所概要

事務所名 弁護士法人 ブライト(大阪弁護士会所属)
開 業 平成21年(代表弁護士独立開業)
設 立 平成24年11月設立、平成27年1月に法人化
所在地 〒530-0057 大阪府大阪市北区曽根崎2丁目6番6号 コウヅキキャピタルウエスト12階
TEL 06-4965-9590(受付時間9:00~18:00)
FAX 06-6366-8771
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