「会社の事業を売却したいが、事業譲渡と株式譲渡のどちらが良いのか分からない」「買い手側として検討しているが、それぞれの違いを整理したい」——M&Aを検討する経営者から、最も多く寄せられるご相談のひとつです。
このページでは、約120社の顧問契約を担当する弁護士法人ブライトが、事業譲渡と株式譲渡の構造の違い・選択軸・税務インパクト・実務での落とし穴を、売り手・買い手双方の目線で解説します。
事業譲渡と株式譲渡は、見た目は「事業の売買」ですが、法的構造・承継範囲・税務取扱い・スピード・リスク移転の全てで根本的に異なります。スキーム選択を誤ると、想定外の税負担や、引き継いだはずの権利義務が承継できていない事態が発生します。
この記事でわかること
- 事業譲渡と株式譲渡の法的構造の違い
- 売り手・買い手それぞれの視点でのメリット・デメリット
- 税務インパクトの比較(譲渡所得・消費税・繰越欠損金)
- スキーム選択の判断軸(簿外債務・許認可・従業員・事業規模)
- 実務での落とし穴と予防策
この記事のポイント
- 事業譲渡=個別の権利義務を売買、株式譲渡=会社丸ごと売買
- 事業譲渡は簿外債務リスクを切り離せる代わりに、契約・許認可の個別承諾が必要
- 株式譲渡はスピードが速い代わりに、潜在債務リスクを買い手が引き受ける
事業譲渡と株式譲渡の法的構造
事業譲渡とは
事業譲渡は、売り手会社が保有する「事業」を構成する個別の権利義務(資産・負債・契約・知的財産・許認可・人材等)を、買い手側に売買契約により譲渡するスキームです。会社法第467条以下に規定されています。
事業譲渡の本質は「個別承継」です。譲渡対象として何を含め何を含めないかを、契約書の中で具体的に列挙する必要があります。逆に言えば、特定の負債(例えば訴訟係属中の損害賠償債務、税務リスク、潜在的な労務リスク)を除外して譲渡することができます。
株式譲渡とは
株式譲渡は、売り手会社の株主が保有する株式を、買い手側に売買するスキームです。買い手は会社の株主となり、結果として会社が持つ全ての権利義務を間接的に支配します。
株式譲渡では、会社自体は変わらず、ただ株主が変わるだけです。会社が結んでいる契約・保有する許認可・従業員との雇用関係・債権債務関係は全てそのまま継続します。
顧問契約 120社超 / 弁護士歴 平均15年以上 / 大阪・全国対応
M&A・企業法務でお困りの
経営者・法務担当者様へ
弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」は、契約書・債権回収・労務トラブル・M&Aまで伴走支援します。
▲ M&A・契約・労務の必須チェック項目をPDFで配布中
平日 9:00-18:00(TEL)/ LINE 24時間受付
売り手視点でのメリット・デメリット
売り手×事業譲渡
売り手にとって、事業譲渡には以下のメリットがあります。
- 会社自体は維持され、譲渡対象としなかった事業・資産は引き続き保有できる
- 会社のガラ(法人格)を残し、別事業を継続したり清算したりできる
- 譲渡対価が会社に入るため、株主は会社経由で配当または資本剰余金として受け取る
一方、デメリットは以下の通りです。
- 会社が譲渡対価を受け取るため、譲渡益に対して法人税が課税される
- その後株主が配当または清算で受け取る際、二重課税となる可能性がある
- 個別承継のため、契約・許認可・従業員の同意取得に時間がかかる
売り手×株式譲渡
売り手にとって、株式譲渡には以下のメリットがあります。
- 株主が直接対価を受け取るため、譲渡所得税のみで完結(個人株主は20.315%の分離課税)
- 会社の権利義務がそのまま承継されるため、移転手続の時間が短い(最短数週間)
- 表明保証等で潜在リスクは契約上開示すれば、簿外債務の責任は買い手に移転
デメリットは以下の通りです。
- 会社の全ての権利義務が買い手側に移るため、特定事業のみを切り出せない
- 表明保証違反で売り手に補償責任が残るリスク
- 株主が複数いる場合、全員の合意取得が必要
買い手視点でのメリット・デメリット
買い手×事業譲渡
買い手にとって、事業譲渡には以下のメリットがあります。
- 譲渡対象を限定できるため、簿外債務・潜在リスクを切り離せる
- のれん相当額を税務上償却できる場合がある(5年均等償却)
- 承継したくない契約・従業員を除外できる
デメリットは以下の通りです。
- 契約・許認可の個別承諾取得に時間がかかる
- 従業員は新規雇用扱いとなるため、勤続年数・有給休暇等のリセットを巡る労働組合・従業員との交渉が発生
- 不動産取得税・消費税等の取引税が発生
買い手×株式譲渡
買い手にとって、株式譲渡には以下のメリットがあります。
- 会社まるごと取得のため、契約・許認可・人材を一括承継できる
- 取引税が発生しない(株式取得は消費税非課税)
- クロージングまでのスピードが速い
デメリットは以下の通りです。
- 会社の簿外債務・潜在的な税務リスク・労務リスクを丸ごと引き受ける
- のれん相当額を税務上償却できない(株式取得は資本的支出)
- デューデリジェンス(DD)の範囲が広く、調査コストが高い
税務インパクトの比較
同じ「事業を売買する」でも、税務上の取扱いは大きく異なります。一般的な傾向を整理すると以下の通りです。
譲渡所得課税
- 事業譲渡:会社に法人税が課税(譲渡益×実効税率約30%)。その後配当時にさらに課税
- 株式譲渡:個人株主の場合は分離課税20.315%で完結。法人株主の場合は法人税課税
消費税
- 事業譲渡:譲渡対象資産のうち課税対象資産分に消費税課税
- 株式譲渡:消費税非課税
繰越欠損金
- 事業譲渡:売り手会社の繰越欠損金は買い手側に承継されない
- 株式譲渡:買い手側で買収後の業績次第で繰越欠損金を活用可能(一定の制限あり)
赤字会社の救済型M&Aでは、繰越欠損金の活用可否が買収価格や買収意欲に直結します。スキーム選択時に税理士・弁護士で連携した試算が必須です。
スキーム選択の判断軸
① 簿外債務リスク
売り手会社に潜在的な簿外債務(係争中の訴訟、未払残業代、税務リスク等)が大きいと判断される場合、買い手は事業譲渡を選好します。逆に、売り手会社の財務内容が透明で簿外債務リスクが低い場合、株式譲渡のスピードメリットが活きます。
② 許認可・契約の重要度
事業の根幹に許認可(建設業許可・宅建業免許・古物商許可・産業廃棄物処理業許可等)が紐づいている場合、事業譲渡では許認可を新規取得する必要があるため、株式譲渡が有利です。同様に、長期にわたる重要契約(販売代理店契約・OEM契約等)の継続性が重要な場合も株式譲渡が選好されます。
③ 従業員の処遇
事業譲渡では従業員は新規雇用扱いとなり、勤続年数・有給休暇・退職金算定基礎等がリセットされます。買い手側では、これらの条件を引き継ぐ「継続雇用契約」を個別に提示することが多いですが、従業員側の同意が前提となるため、優秀人材の流出リスクが伴います。
株式譲渡では雇用関係はそのまま継続するため、従業員側の手続的負担はありません。ただし、株主交代を契機とした「キーパーソンの離職」は両スキームで発生し得るため、ロックアップ条項・退職一時金等の手当てが必要です。
④ 売り手の事業継続意欲
売り手が会社の他事業を引き続き経営したい場合は、事業譲渡が選好されます。一方、会社丸ごと売却して引退・転換する意向の場合は株式譲渡が自然です。
実務での落とし穴と予防策
① 表明保証範囲の設定不足
株式譲渡では、売り手による表明保証の範囲が買い手のリスクヘッジの中核です。表明保証の項目(財務・税務・労務・知財・契約・コンプライアンス等)と、違反時の補償上限・期間・知見除外の設計を、初期段階で慎重に詰める必要があります。
② 事業譲渡の対象資産・負債リストの精度
事業譲渡では、譲渡対象の資産・負債・契約・許認可・人材等を契約書の別紙として詳細に列挙します。リストから漏れた項目は譲渡されないため、後日「これも引き継いでいるはずだった」とのトラブルが頻発します。デューデリジェンス時に売り手協力を得て、抜け漏れのないリスト作成が必須です。
③ 競業避止義務の地理的・時間的範囲
会社法第21条は事業譲渡時の売り手側の競業避止義務を法定していますが、株式譲渡では法定の競業避止はなく、契約で個別に定める必要があります。買い手側にとって、譲り受けた事業の価値を守るためには、売り手側の役員・キーパーソンとの個別の競業避止合意が極めて重要です。
④ 反社会的勢力チェック
株式譲渡で会社丸ごと取得すると、過去の反社会的勢力との取引履歴も承継するリスクがあります。デューデリジェンスで反社チェックを徹底することと、表明保証で反社条項を明記することで予防します。
顧問弁護士によるM&A支援
事業譲渡・株式譲渡の選択は、その後の数年〜数十年の事業運営に影響する重要な意思決定です。スキーム選択・契約書ドラフト・デューデリジェンス・表明保証交渉・クロージングまで、専門家チームのリードがなければ進められない領域です。
弁護士法人ブライトでは、顧問契約の延長としてM&A初期相談からスキーム選択・実行支援までを伴走しています。M&A実務に精通した弁護士、税理士、公認会計士のチーム体制で、売り手・買い手いずれの立場でも対応可能です。スモールM&Aの落とし穴 や 顧問弁護士の選び方 も併せてご覧ください。
まとめ
事業譲渡と株式譲渡は、表面的には似ていても、法的構造・税務・スピード・リスク移転の全てで根本的に異なるスキームです。「どちらが正解」というものではなく、売り手・買い手の事情、事業の特性、簿外債務リスクの程度、税務インパクト等を総合的に検討して選択する必要があります。
初期検討段階から専門家のリードを受けることで、選択ミスによる後日のトラブルを大きく減らせます。M&Aをご検討の経営者様は、ぜひ顧問契約の中で継続的にご相談いただくことをお勧めします。
M&A 実務ガイド|DD・契約・PMI・SHA・反社対応
M&Aを検討中の経営者・法務担当者の方は、以下の関連記事もあわせてご覧ください。
- M&Aデューデリジェンス(DD)の進め方|法務・財務・税務・労務の4領域別チェックリスト
- 株式譲渡契約 表明保証条項の設計|売り手・買い手別のリスクヘッジ実務
- M&A後のPMI(経営統合)実務|100日プラン設計と人事・契約・システム統合
- 株主間契約(SHA)の論点|共同事業・投資契約での標準条項と交渉ポイント
- M&Aの反社チェック・買収後リスク管理|表明保証だけでは守れない実務知見
- 株式譲渡対価が支払われない時の法的対応|公正証書・連帯保証・仮差押の実務
- 中小企業M&Aの株式書類不備|DDで発見すべき名義株・公正証書・連帯保証の落とし穴
- M&A後の損害賠償訴訟|表明保証違反・売買代金返還・補償請求の実務
顧問契約 120社超 / 弁護士歴 平均15年以上 / 大阪・全国対応
M&A・企業法務でお困りの
経営者・法務担当者様へ
弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」は、契約書・債権回収・労務トラブル・M&Aまで伴走支援します。
▲ M&A・契約・労務の必須チェック項目をPDFで配布中
平日 9:00-18:00(TEL)/ LINE 24時間受付
📥 M&A検討経営者・投資担当者向け 無料資料ダウンロード
M&A 法務DDチェックシート50項目
買収検討企業の法務リスクを見抜く50項目チェックシート(買い手・売り手両側で活用可能)
所要時間1分・お名前とメールアドレスのご入力でダウンロードいただけます
