「共同事業を始めるが、株主間契約(SHA)でどこまで決めておくべきか分からない」「投資契約とSHAは何が違うのか整理したい」「少数株主として保護条項を詰めたいが、何を要求すべきか」——共同創業者・投資家・事業会社の経営者から多く寄せられるご相談です。
このページでは、約120社の顧問契約を担当する弁護士法人ブライトが、株主間契約(Shareholders Agreement、SHA)の論点について、共同事業・投資契約での標準条項と交渉ポイントを実務観点で解説します。
SHAは、複数株主が会社を共同で運営する際の「ガバナンス・利益配分・出口」を事前に合意するための契約です。SHA がないまま共同事業を始めると、利害対立が生じた時点で打開策がなく、事業停滞または訴訟に発展します。逆に、SHA を周到に設計しておけば、紛争予防と意思決定の迅速化を両立できます。
この記事でわかること
- SHAの目的と他の契約(定款・投資契約)との使い分け
- 標準的な記載項目とその設計ポイント
- 少数株主保護条項(拒否権・先買権・タグアロング・ドラッグアロング)
- デッドロック解消の仕組み
- 出口戦略(IPO・M&A・買戻し)の設計
この記事のポイント
- SHAは「事業がうまくいかなくなった時」の処理ルールを冷静なうちに決めておく契約
- 定款で決めるべきこと/SHAで決めるべきこと/投資契約で決めるべきことの切り分けが鍵
- 少数株主保護条項とデッドロック解消は、最も交渉が紛糾するが必ず明文化すべき項目
株主間契約(SHA)の目的と他契約との使い分け
SHAが必要なケース
SHA は次のような場面で必須となります。
- 共同創業者間(複数の創業者が株式を分け合う場合)
- 合弁事業(JV、ジョイントベンチャー)
- VC・CVC からの出資受入
- 事業会社からの戦略的出資受入
- M&A後の少数株主との関係整理
- 事業承継時の親族間共同保有
株主が1名だけの場合や、完全親子会社関係ではSHAは不要です。複数株主の利害が分かれる可能性がある場合、SHA を締結します。
定款・投資契約・SHA の役割分担
株主間の権利義務に関する文書は、性質に応じて以下のように使い分けます。
- 定款——会社法上の規律に従う基本ルール(公開性/第三者対抗力あり/変更に株主総会特別決議要)
- 投資契約——出資時点の発行条件・表明保証・遵守事項(スポット契約/投資家保護中心)
- 株主間契約(SHA)——株主相互の継続的な権利義務(株主間の私的合意/対会社効力なし/柔軟)
SHA は当事者間の合意に過ぎず、対会社効力を持たないのが原則です。重要な事項は定款にも反映するか、定款で「SHA に従う」旨を規定する必要があります。
SHA の特徴
SHA は契約自由の原則のもとで設計できるため、定款より柔軟ですが、以下の制約があります。
- 会社法・公序良俗に反する条項は無効
- 第三者(新規株主)への効力は当然には及ばない
- 譲渡制限は契約上は有効でも、第三者対抗力がない場合がある
- 株主構成が変わるたびに、新規株主との合意取り直しが必要
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標準的な記載項目
議決権・経営参加に関する条項
SHAで議決権・経営参加について規定する項目は次の通りです。
- 取締役指名権(各株主が指名できる取締役の数)
- 監査役指名権
- 議決権行使の合意事項(特定議案について事前に株主間で合意)
- 株主総会・取締役会の特別決議事項(拒否権の設定)
- オブザーバー権(取締役会への陪席権)
少数株主は、取締役指名権と拒否権を必ず確保することが防衛上重要です。
株式の譲渡・処分に関する条項
株式の譲渡を規律する条項は、紛争予防の観点から最重要部分です。
- 譲渡制限(事前承諾、競合への譲渡禁止)
- 先買権(Right of First Refusal)——他株主に優先買取権を与える
- タグアロング権(Tag Along)——大株主が売却する際に少数株主も同条件で売却できる
- ドラッグアロング権(Drag Along)——大株主が売却する際に少数株主も売却に応じる義務
- コールオプション・プットオプション(買取請求権・売渡請求権)
利益配分・資金調達に関する条項
- 配当方針(配当性向、剰余金処分)
- 役員報酬の決定プロセス
- 追加出資(Anti-Dilution、希薄化防止条項)
- 新株発行時の優先引受権
- 外部借入の上限と決定権限
その他の重要条項
- 競業避止義務(株主の競合事業禁止)
- 秘密保持義務
- 情報提供義務(財務情報、事業計画の定期共有)
- デッドロック解消条項(後述)
- 出口戦略(IPO・M&A 時の対応)
- 契約終了事由(株式譲渡、IPO、解散等)
- 準拠法・紛争解決
少数株主保護条項の設計
拒否権(Veto Rights)
少数株主は、議決権数では多数決に勝てないため、特定の重要事項について拒否権を持つことで防衛します。
- 定款変更
- 合併・会社分割・株式交換等の組織再編
- 事業譲渡・重要資産の売却
- 新株発行・自己株取得
- 解散・清算
- 一定金額以上の借入・投資
- 関連当事者取引
- 役員報酬の重要な変更
拒否権の対象事項を広げすぎると経営の機動性を損ない、狭めすぎると少数株主の保護が形骸化します。事業特性に応じてバランスを取ります。
先買権・タグアロング・ドラッグアロング
株式譲渡時の少数株主・大株主の利害を調整する条項です。
- 先買権(Right of First Refusal、ROFR)——株主が第三者に株式を譲渡する際、他株主が同条件で先買いできる権利
- 先買オファー権(Right of First Offer、ROFO)——譲渡前に他株主に先にオファーを出す義務
- タグアロング(Tag Along)——大株主が売却する際、少数株主も同じ条件で売却に参加できる権利(少数株主保護)
- ドラッグアロング(Drag Along)——大株主がM&A をする際、少数株主に売却を強制できる権利(大株主有利)
少数株主としてはタグアロング、大株主としてはドラッグアロングを獲得することが、出口戦略の自由度を確保する上で重要です。
希薄化防止条項(Anti-Dilution)
新株発行で持株比率が希薄化することを防ぐ条項です。
- 優先引受権(既存株主が持株比率に応じて新株を引き受ける権利)
- ダウンラウンド時の発行価額調整(VC投資契約で典型)
- 転換価額調整(種類株式の場合)
デッドロック解消の仕組み
デッドロックとは
デッドロックは、株主・取締役会の意思決定が膠着した状態を指します。50%50%の合弁事業で典型的に発生し、何も決められないまま事業が停滞します。
解消手段の階層
SHAでは、デッドロック解消手段を段階的に設計します。
- ① 経営層協議——両社の代表同士でクーリングオフ期間を設けて協議
- ② 第三者調停——中立的な仲介者を介した協議
- ③ プット・コール条項——一方株主が他方の株式を買い取る/自分の株式を売り渡す
- ④ ロシアンルーレット——一方が価格を提示し、他方が買うか売るかを選ぶ
- ⑤ テキサスシュートアウト——両者が秘密入札し、高い金額を提示した方が買い手に
- ⑥ オランダ式オークション——競り下げ方式での価格決定
- ⑦ 解散・清算——最終手段
中小企業の合弁事業では①〜③で実装するケースが多く、④〜⑥は当事者の経済力差が大きいと不公正になるため要注意です。
出口戦略(Exit Strategy)の設計
出口の3パターン
SHA で想定すべき出口は次の3パターンです。
- ① IPO(株式公開)——上場による株式流動化
- ② M&A(株式譲渡)——第三者への売却
- ③ 株主による買戻し——他株主または会社による株式買取
各出口について、SHA で以下を明文化します。
IPO シナリオの設計
- IPO目標時期(◯年以内に上場準備開始)
- IPO 準備義務(経営陣の協力、監査法人選定等)
- IPO に向けての種類株式の普通株転換
- ロックアップ条項
- IPO 不達時のオプション(売却請求、買取請求)
M&A シナリオの設計
- ドラッグアロング・タグアロングの発動条件
- M&A 価格の最低基準
- 表明保証への分担方針
- クロージング後の補償責任の按分
買戻しシナリオの設計
- 買戻請求事由(事業計画未達、株主の死亡・退任等)
- 買戻価格の算定方法(純資産方式、DCF、第三者評価)
- 分割払いの可否
- 担保の設定
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まとめ|SHAは「うまくいかない時の処理ルール」を冷静に決める契約
株主間契約は、共同事業・投資契約・合弁事業において、複数株主の利害が対立した時の処理ルールを、対立が顕在化する前の冷静な段階で合意しておく契約です。議決権・株式譲渡・利益配分・デッドロック解消・出口戦略の各論点について、当事者の力関係と事業特性を踏まえた設計が必要です。
弁護士法人ブライトでは、約120社の顧問契約を通じて、共同創業契約・JV契約・投資契約における株主間契約の設計を多数支援してきました。少数株主保護からドラッグアロング設計、デッドロック解消条項まで、紛争予防と事業推進の両立を実現する条項設計をご提案します。共同事業・投資受入を検討中の経営者の方は、お気軽にご相談ください。
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