副業・兼業を解禁する企業の就業規則設計|厚労省ガイドライン×懲戒処分の判断基準

和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士

弁護士歴20年(2006年登録・修習59期)/大阪弁護士会

専門:企業法務・顧問弁護士・労務問題・契約交渉・M&A

📝 この記事の3秒結論

  • 副業の全面禁止は原則無効。届出制+例外禁止事由の明示が標準解
  • 懲戒は「業務影響・情報漏洩・競業性」のいずれか立証が条件
  • 労働時間通算・労災対応の管理義務も同時整理が必要

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この記事でわかること

  • 厚労省「副業・兼業ガイドライン」の最新整理と、企業に求められる対応
  • 就業規則の典型条項(許可制・届出制・全面禁止)の有効性と限界
  • 副業違反を理由とする懲戒処分の判断基準と、無効になりやすいケース

この記事のポイント

  • 副業の「全面禁止」は原則として無効。届出制・許可制の設計が現実解
  • 懲戒処分が認められるのは「業務影響・情報漏洩・競業性」のいずれかが認定された場合
  • 労働時間の通算・労災対応など、企業側の管理義務も同時に整理が必要

「社員が黙って副業していたことが発覚した。懲戒処分はできるか?」「副業を解禁したいが、競合他社で働かれては困る。どう線引きすればいいか?」――副業・兼業をめぐる相談は、ここ数年で急増しています。

結論、現在の法的潮流では「副業の原則禁止」は維持困難で、就業規則は「届出制+例外的禁止事由の明示」へ移行するのが実務上の標準解になっています。懲戒処分も「副業をしたこと」自体ではなく、「本業への具体的な悪影響」を立証できなければ無効と判断されやすい状況です。

この記事では、厚労省ガイドライン、就業規則の改訂ポイント、懲戒処分の判断基準、労働時間通算と労災対応まで、中小企業の経営者・人事担当者が押さえるべき実務を整理します。

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副業・兼業をめぐる現状と厚労省ガイドラインの整理

厚生労働省は2018年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、2020年・2022年に大幅な改訂を行いました。この一連の流れで、国の方針は明確に「副業・兼業の促進」に舵を切っています。

同時期にモデル就業規則も改訂され、従来の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という条項は削除され、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」と原則容認に変更されています。

この背景にあるのは、(1)労働者のキャリア形成支援、(2)企業の人材確保難への対応、(3)賃金上昇圧力への対処、といった政策的要請です。実務上、「副業を一律禁止する就業規則」は時代に合わないだけでなく、裁判でも有効性を否定される可能性が高まっています。

ただし「全面解禁」を意味するわけではありません。ガイドラインも、企業が制限できる場面として、(1)労務提供上の支障、(2)企業秘密の漏洩、(3)企業の名誉・信用の毀損、(4)競業による企業利益の侵害、の4類型を明示しています。

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就業規則の典型条項とその有効性(許可制・届出制・全面禁止)

就業規則における副業条項は、大きく以下の3類型に分かれます。それぞれ有効性のハードルが異なります。

1. 全面禁止型「会社の許可なく、他の業務に従事してはならない。違反した場合は懲戒処分とする」

裁判例では、副業の自由は労働時間外の私的領域に属するため、原則として制限できないとされています。全面禁止は、「合理的理由なき制限」として無効と判断されるリスクが高い類型です。

2. 許可制型「副業を行う場合は、事前に会社の許可を得なければならない。会社は、業務に支障がある場合は不許可とすることができる」

許可制自体は適法ですが、会社の不許可判断は「業務への具体的支障」の立証が必要です。漠然とした「会社の信用」「社員管理上の理由」では足りず、不許可が無効とされるケースが目立ちます。

3. 届出制型「副業を行う場合は、事前に会社に届け出なければならない。会社は、ガイドラインに定める制限事由(労務提供上の支障、競業、情報漏洩、信用毀損)に該当する場合に限り、中止を求めることができる」

これが現在の標準解です。厚労省モデル就業規則もこの形に整理されており、企業の管理権と労働者の自由のバランスがとれています。

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競業避止条項の有効性判断(地域・期間・代償措置)

副業を認めるとしても、「競合他社での副業」は会社の利益を直接損なうため、合理的に制限することが認められます。ただし、競業避止条項の有効性は、過去の裁判例の積み重ねにより、以下の要素から総合判断されます。

  • 守るべき企業利益の存在:営業秘密、独自ノウハウ、特定顧客との関係など
  • 労働者の地位:経営幹部・営業責任者など、競業による損害が大きい立場か
  • 地域的範囲の合理性:「全国」は広すぎて無効になりやすい。「営業地域内」程度が目安
  • 期間の合理性:在職中+退職後1〜2年が一般的限界。3年以上は無効リスク高
  • 競業の範囲の特定性:「同業他社」では広すぎる。「特定の顧客への営業」など限定が望ましい
  • 代償措置の有無:競業避止手当、退職金加算など、不利益を補う措置

特に「代償措置」の有無は近年重視されています。何の補償もなく長期間・広範囲の競業避止を課すと、職業選択の自由(憲法22条)に反するとして無効とされるケースが増えています。

懲戒処分の判断基準(業務影響・情報漏洩・競業性)

「黙って副業していたことが発覚した」場合、企業は懲戒処分を検討することになります。しかし、副業を理由とする懲戒処分は、無効と判断されるケースが少なくありません。有効性を担保するには、以下の3つの観点のいずれかで「具体的な悪影響」を立証する必要があります。

1. 労務提供への支障

副業のため疲労が蓄積し、本業で居眠り・遅刻・欠勤が増える、業務ミスが頻発するなど、具体的な業務悪化が見られる場合。長時間の深夜副業を続けて本業のパフォーマンスが落ちている事案では、懲戒処分が認められやすくなります。

2. 情報漏洩・競業性

副業先が競合他社、または取引先・顧客であり、自社の機密情報や顧客情報を活用して副業を行っている場合。これは会社の利益を直接侵害する行為として、懲戒解雇が認められた裁判例もあります。

3. 企業の名誉・信用毀損

副業が反社会的活動・違法行為・公序良俗違反である場合、または、自社の社会的信用を著しく損なう内容である場合。たとえば社員が副業として風俗営業に関与していた事案などが該当します。

逆に「副業をしたという事実」のみを理由とする懲戒処分は、業務に支障が出ていない限り、無効リスクが高いと考えるべきです。最低でも、口頭注意→書面警告→軽処分→重処分、というステップを踏むことが望まれます。

労働時間通算と副業先での労災対応

副業を認めると、企業側にも管理義務が発生します。特に重要なのが「労働時間の通算」と「労災」の問題です。

労働時間の通算(労働基準法38条1項)

異なる事業場で働く場合でも、労働時間は通算されます。たとえば本業で8時間、副業で3時間働けば、後から契約した側が時間外労働3時間分の割増賃金を支払う必要があります。これを管理するため、企業は副業先での労働時間を労働者からの自己申告で把握する仕組みを整える必要があります(簡便な「管理モデル」が厚労省から示されています)。

労災の取扱い

2020年9月の労災保険法改正で、副業者が労災にあった場合の給付基礎日額は、本業と副業の賃金を合算して算定されることになりました。また、過労死・過労自殺の認定にあたっても、両方の業務上の負荷を総合的に評価する仕組みになっています。企業としては「自社業務だけを見ていれば足りる」という時代ではなくなっています。

社会保険・税務

給与所得が複数になる場合、住民税の特別徴収手続や年末調整の取扱いに注意が必要です。社員の副業所得が一定額を超えると、住民税の通知から副業が会社に把握される、というケースもあります。

中小企業向け:就業規則改訂のサンプル条項

中小企業向けに、現在の標準的な副業規定の構成例をご紹介します(実際の改訂時は、各社の業種・職種・人員構成に応じてカスタマイズが必要です)。

第◯条(副業・兼業)

  1. 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
  2. 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に所定の届出書を会社に提出しなければならない。
  3. 会社は、労働者の副業・兼業が次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止または制限することができる。
    • 労務提供上の支障がある場合
    • 企業秘密が漏洩する場合
    • 会社の名誉・信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
    • 競業により、会社の利益を害する場合
  4. 労働者は、副業・兼業に係る労働時間その他の事項について、会社からの照会があった場合は、これに応じなければならない。

あわせて、(1)副業届出書のフォーマット整備、(2)秘密保持・競業避止義務に関する別途誓約書の取得、(3)労働時間通算の管理ルール、(4)健康診断・面談制度の見直し、までセットで整備するのが望ましい運用です。

この記事の監修弁護士

弁護士 和氣良浩

弁護士 和氣 良浩

弁護士法人ブライト 代表

弁護士法人ブライト代表。労災・交通事故で、高度・複雑な事案を担当。

FAQ:よくある質問

Q1. 「副業全面禁止」の就業規則のままでも問題ありませんか?

条文として残すこと自体は違法ではありませんが、実際に懲戒処分の根拠としては機能しにくいのが現実です。「届出制+例外的禁止事由の明示」型へ改訂することをお勧めします。

Q2. 兼業役員(社外取締役)の場合はどう扱えばよいですか?

役員は労働者ではないため、就業規則は適用されません。会社法上の競業避止義務(同356条)と利益相反規制が適用され、取締役会の承認が必要になります。社外取締役を兼ねる場合も、所属企業との委任契約・就業規則の双方の確認が必要です。

Q3. 副業先での労働時間は、本当に把握しなければいけませんか?

労働基準法上、通算管理が原則です。ただし厚労省が示す「管理モデル」を採用すれば、自社の所定外労働時間に副業先の労働時間を加えるだけで運用可能になり、管理負担を大幅に軽減できます。

Q4. 副業が原因で過労死が発生した場合、どちらの会社が責任を負いますか?

労災認定は両社の労働時間を通算して判断され、給付額も合算した賃金で算定されます。民事の損害賠償については、各社が負う安全配慮義務違反の有無が個別に判断されます。健康診断の徹底や、長時間労働を把握した際の業務軽減措置などが、責任回避の鍵になります。

まとめ

副業・兼業の時代における人事労務管理は、「禁止」から「適切なコントロール」へとパラダイムが変わっています。古い就業規則のままでは、副業違反を理由とする懲戒処分が無効とされるリスクがあるばかりか、優秀な人材の定着にも悪影響を及ぼします。

  • 就業規則は「届出制+例外的禁止事由の明示」型へ改訂
  • 競業避止条項は地域・期間・代償措置を合理的に設計
  • 懲戒処分は「業務影響・情報漏洩・競業性」のいずれかを立証
  • 労働時間通算・労災・社会保険の運用ルールも同時整備

弁護士法人ブライトでは、就業規則の改訂、副業届出フォーマットの整備、誓約書のドラフト、懲戒処分の妥当性検討まで、人事労務全般をサポートしています。「就業規則を5年以上見直していない」という企業様は、ぜひ一度ご相談ください。

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