仕事中に重い物を持ち上げたり、転倒してしまったりして、背中・腰に強烈な痛みを感じたら、圧迫骨折が起きている可能性があります。建設現場や工場、運送業など、重労働の場では誰にでも起こる危険性があります。また圧迫骨折は必ず後遺症が残るとも言われています。あなたや同僚がもし圧迫骨折を負った場合、正しい知識と手続きを知っておくことが重要です。
本記事では、労災認定の条件や申請手続き、治療と労災保険の補償内容など、また加害者がいるときの損害賠償請求について知っておくべきポイントについて、弁護士が解説します。
圧迫骨折を負ったときに適切な補償を受けられるようにしましょう。
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圧迫骨折とは何か?
圧迫骨折とは、背骨(脊柱)を構成する椎骨が圧迫されて骨折してしまう怪我です。 高所からの落下や、重い物を持ち上げる作業など、背骨に大きな負担がかかる作業中に発生する可能性があります。
圧迫骨折の症状としては、強い背中の痛みや動作の制限があり、場合によっては神経症状が現れることもあります。
圧迫骨折が起こる場所
脊柱は、7つの頸椎、12個の胸椎、5つの腰椎などで構成されています。 圧迫骨折は、どの椎骨にも起こる可能性があり、「頸椎圧迫骨折」「胸椎圧迫骨折」「腰椎圧迫骨折」などと呼ばれます。
労災による圧迫骨折の発生状況
労働環境での一般的なリスク要因
労災による圧迫骨折は、特に建設業や製造業、運輸業などの重労働がともなう職場で多く発生します。労働者が高所作業を行う場合や、重量物を扱う際に不適切な姿勢や無理な動作を行うと、脊椎に過度の負荷がかかり、圧迫骨折が生じやすくなります。また、不十分な安全対策や適切な教育・訓練の欠如も事故の原因となります。
代表的な事例
CASE1 高所からの転落 | |
事例 | 建設現場で働いていた労働者が、足場から転落し圧迫骨折を負ったケース |
状況 | 建設現場で足場作業を行っていた際、安全ベルトを正しく着用していなかったためにバランスを崩して転落。高さは約5メートルで、脊椎に大きな衝撃が加わり、圧迫骨折を発症。 |
対策 | 安全ベルトの適切な使用と定期的な安全教育が重要 |
CASE2 重量物の落下 | |
事例 | 倉庫で働いていた労働者が、棚から落ちた重量物に押しつぶされて圧迫骨折を負ったケース |
状況 | 倉庫の高い棚からフォークリフトで荷物を下ろしていた際、荷物がバランスを崩して落下し、その下にいた労働者の背中に直撃。脊椎が圧迫されて骨折。 |
対策 | フォークリフトの操作技術向上と荷物の積載方法の見直し、安全区域の確保が必要 |
CASE3 長時間の重労働 | |
事例 | 運送業で働く労働者が、長時間にわたり重い荷物を持ち運んでいたために圧迫骨折を負ったケース |
状況 | 運送業者が長時間にわたり重い荷物を持ち運び、腰や背中に過度の負担がかかった結果、脊椎に慢性的な圧力がかかり圧迫骨折を発症。 |
対策 | 労働時間の適正化と適切な持ち上げ技術の教育、定期的な休憩と健康チェックが必要 |
CASE4 不適切な作業姿勢 | |
事例 | 工場で働いていた労働者が、不適切な姿勢での作業中に圧迫骨折を負ったケース |
状況 | 機械のメンテナンスを行っていた際、不自然な姿勢で重い部品を持ち上げようとしたために脊椎に過剰な負荷がかかり、圧迫骨折を発症。 |
対策 | 正しい作業姿勢の教育と作業環境の改善が必要。また、補助器具の利用も効果的。 |
CASE5 作業中の事故 | |
事例 | 農業従事者が農機具の操作ミスにより圧迫骨折を負ったケース |
状況 | トラクターの操作中にバランスを崩し、機械に体が挟まれてしまい、脊椎に強い圧力がかかって骨折。 |
対策 | 農機具の安全操作に関する教育と定期的な機械の点検が必要 |
これらの事例は、労働環境における安全対策の重要性を示しています。適切な安全装備の使用や作業方法の見直し、定期的な教育・訓練が労災事故の予防につながります。また、労働者自身もリスクを理解し、安全に対する意識を高めることが重要です。
高所作業時の労災事故と墜落制止用器具の使用については下記記事をご覧ください。
胸椎圧迫骨折で後遺障害1級の認定を受けた損害賠償請求事件
【判例番号】 L05530475 損害賠償請求事件 【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成9年(ワ)第4526号 【判決日付】 平成12年5月31日 【掲載誌】 交通事故民事裁判例集33巻3号907頁 LLI/DB 判例秘書登載 |
運送会社従業員(原告)が、同僚とカーゴテーナ荷下ろし作業中、その下敷きになり、第12胸椎圧迫骨折で第一級の後遺障害を負った事故の損害賠償請求事件です。
原告は、雇用主の会社とその代表取締役に対し、安全配慮義務違反を主張しました。 裁判所は、原告の同僚には作業手順について原告の指示に従い、危険を回避するために協調する義務があったと認定しました。 同僚は、原告に無断でラッシングベルトを外し、原告がカーゴを制御していると思い込み、適切な行動を取らなかったため、過失があると判断されました。雇用主の会社は、業務中の事故であることから使用者責任を負うとされました。 一方、その代表取締役は実際の作業に関与していなかったため、個別の責任を負わないと判断されました。 また、原告自身も、危険な手順での作業や同僚との連携不足など、過失があると認められ、過失割合は50%とされました。
最終的に雇用主の会社は、治療費、入院雑費、休業損害、逸失利益、慰謝料など、損害賠償責任を負うと判決され、 代表取締役に対する請求は棄却されました。
労災による圧迫骨折の補償
労災保険について
労災保険は、労働者が業務上の事故や病気で負傷した場合に適用される保険制度です。圧迫骨折が労災認定されるには、労働中の事故が原因であることが証明される必要があります。
労災保険は、医療費の補償や休業補償給付、障害補償給付など、被害者が経済的負担を軽減できるようにサポートしてくれます。特に圧迫骨折の場合、長期的な治療やリハビリが必要な場合が多いため、労災保険の利用は重要です。
労災認定の判断基準について、詳しくは下記記事をご覧ください。
損害賠償請求について
労災事故に遭った場合、労災保険から治療費や休業補償などが支給されますが、これらの給付金は、 被災者が受け取るべき損害をすべてカバーするものではありません。そのため、事故の責任を負う会社などに対して安全配慮義務違反を理由に補償を求めていく必要があります。
会社に請求できる損害賠償
- 治療費
- 通院交通費
- 休業損害
- 慰謝料(傷害慰謝料、後遺障害慰謝料)
- 逸失利益
- 葬儀費用 など
特に慰謝料と逸失利益は金額が大きくなる可能性があり、会社側が抵抗してくる可能性があるため、注意が必要です。
圧迫骨折で認められる後遺障害等級
脊椎の圧迫骨折では、脊柱の変形障害や運動障害の後遺症が残る可能性があり、その程度に応じて後遺障害等級が認定されます。
1. 変形障害
脊椎圧迫骨折による変形障害は、レントゲン、CT、MRIなどの画像検査で確認できる変形の程度に応じて、以下の3つの等級に分類されます。
等級 | 後遺障害 |
6級5号 | せき柱に著しい変形または運動障害を残すもの |
第8級2号 | せき柱に運動障害を残すもの |
11級7号 | せき柱に奇形を残すもの |
等級6級5号(著しい変形)と認定されるには、2つ以上の椎体の前方椎体高が著しく減少し後弯が発生しているか、1つ以上の椎体の前方椎体高が減少し、コブ法による側弯度が50度以上で後弯が発生していることが条件となります。
等級8級相当(中程度の変形)と認定されるには、1つ以上の椎体の前方椎体高が減少し後弯が発生しているか、コブ法による側弯度が50度以上であることが条件となります。 また、環椎または軸椎の変形・固定により、60度以上の回旋位、50度以上の屈曲位または60度以上の伸展位、矯正位の頭蓋底部の両端を結んだ線と軸椎下面との平行線が交わる角度が30度以上の側屈位のいずれかに該当する場合も認定されます。
等級11級7号(変形を残す)と認定されるには、脊椎圧迫骨折が画像検査で確認できることが条件となります。なお、骨折の程度は関係なく、少しでも骨折していれば、11級7号に認定されます。
2. 運動障害
脊椎圧迫骨折による運動障害は、首や腰などの可動域制限の程度に応じて、以下の2つの等級に分類されます。
等級 | 後遺障害 |
6級5号 | せき柱に著しい運動障害を残すもの |
8級2号 | せき柱に運動障害を残すもの |
等級6級5号(著しい運動障害)と認定されるには、頸椎と胸腰椎の両方が、画像検査で確認できる脊椎圧迫骨折、脊椎固定術、項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化のいずれかによって、完全に近い状態まで動かなくなっていることが条件となります。
等級8級2号(運動障害)と認定されるには、頸椎または胸腰椎の可動域が、参考可動域角度の半分以下に制限されていることが条件となります。 これは、画像検査で確認できる脊椎圧迫骨折、脊椎固定術、項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化のいずれか、または頭蓋と上位頸椎間に著しい異常可動性が認められる場合に認定される可能性があります。
3. 荷重機能障害
脊椎圧迫骨折による荷重機能障害は、脊椎のみで上半身を支えられなくなった状態を指します。
等級 | 後遺障害 |
6級相当 | 頸部と腰部の両方の保持に困難があり、常に硬性補装具が必要な場合 |
8級相当 | 頸部または腰部のいずれかの保持に困難があり、常に硬性補装具が必要な場合 |
いずれの等級も、脊椎圧迫骨折、脱臼、脊柱を支える筋肉の麻痺、項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化のいずれかが画像検査で確認できることが条件となります。
後遺障害が認定されると等級に応じて、下記のような後遺障害慰謝料の相場があります。
- 6級:1180万円
- 8級:830万円
- 11級:420万円
これらの等級認定基準は複雑で、専門用語も多いです。そのため、ご自身のケースがどの等級に該当するのか、専門家である弁護士に相談することをお勧めします。弁護士は、後遺障害の認定基準に精通し、医学的な資料に基づいて適切なアドバイスやサポートを提供することができます。
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圧迫骨折の診断と治療
レントゲン・CTで確定的な所見を得る
脊椎圧迫骨折は「骨折」の一種なので、レントゲン、MRIといった画像診断で確認が可能です。これら画像診断をもとに確定的な所見を得ることが重要です。業務中の事故で受傷した直後から強い痛みがある場合は、事故後に受診した病院ですぐに診断されることもあるでしょう。
しかし、事故の直後はあまり痛みを感じず、後になって骨折が判明することもあります。事故から間が空くほど、事故との因果関係に疑いが生じます。なので、自覚症状の有無に関わらず必ず出来るだけ早く病院で受診するようにしましょう。
ブライトでは、医学的な知見について、整形外科専門医の資格を有する医師を顧問医としてお迎えし、専門的知見を有する医師らと連携し、医学的な裏付けを得た弁護活動を常に心がけています。専門家にスピーディーに相談することで、迅速かつ適正な解決を図ることができています。
脊椎圧迫骨折の治療と平均的な治療期間
脊椎圧迫骨折の治療法は、「保存療法」と「手術療法」の2つがあります。
「保存療法」とは、腰にコルセットを巻いて固定しながら骨癒合が生じるのを待つという一般的な方法です。骨癒合にかかる期間は、およそ6週間ほどで、機能が回復するまでに12週間程度かかるのが平均的です。もちろん個人差がありますので、これはあくまで目安と考えてください。
次に「手術療法」ですが、こちらは重度の骨折で痛みがコントロールできないという場合に選択される治療方法です。脊椎圧迫骨折には、「バルーン椎体形成術」と呼ばれる椎体に骨セメントを入れて骨を補強する手術が行なわれます。平均的な治療期間は約3ヶ月程度となっています(内部の神経損傷による痛み、運動障害がない場合)。
労災申請の手続き
労災申請の手続きは、まず医療機関で労災保険指定医療機関であることを確認し、診断書を取得します。
その後、労災保険申請書を勤務先の労働基準監督署に提出します。申請には、事故の詳細や労働条件などを明確に記載する必要があります。また、迅速な申請が重要で、必要な書類をそろえたうえで、早めに手続きを行うことをお勧めします。
労災申請の手続きについて、詳しくは下記記事をご覧ください。
労災認定後の補償内容
労災認定を受けた後、労働者はさまざまな補償を受けることができます。
- 療養補償給付:診察、治療などに対する補償
- 休業補償給付:ケガの治療のために労働できない場合、休業4日目から休業が続く間の補償
- 傷病補償年金:治療開始後1年6か月を経過しても治らない場合、傷病等級に応じて支給
- 障害補償給付:ケガが治った、もしくは症状固定(これ以上の回復が見込めない状態)後に後遺障害等級(1~14級)に基づいて支給
- 介護補償給付:後遺障害等級が1級と2級で常時介護が必要になった場合の補償
- 遺族補償年金:労働者が死亡した場合、遺族に支給
- 葬祭料:労働者が死亡した場合に支給される費用 など
労災認定後の補償を正しく理解し、しっかりと活用することが大切です。
労災認定後の補償内容について、詳しくは下記記事をご覧ください。
圧迫骨折後の治療とリハビリ
圧迫骨折を負ったら、しばらくは安静にしておき、徐々に社会復帰のためにリハビリを受けることが重要です。
医療リハビリテーション
圧迫骨折の治療後、効果的なリハビリテーションが復職の第一歩となります。
物理療法:理学療法士による運動療法やストレッチングを行い、筋力と柔軟性を回復させます。
作業療法:日常生活動作の訓練を通じて、職場復帰に必要な身体機能を取り戻します。 |
労災保険による支援
労災保険は、復職支援のために様々な補償やサポートを提供しています。
休業補償給付:休業中の賃金の一部が補償されます。これにより、治療に専念しながら安心して休養が取れます。
傷病補償年金:治療が長引く場合、傷病補償年金が支給されます。これは休業補償給付と同様に、生活費の支援となります。 職業リハビリテーション:再就職支援プログラムや職業訓練が提供されます。新たなスキルを身につけることで、復職の道が開かれます。 |
弁護士に相談するメリット
- 労災給付金の請求に関する相談ができる
- 後遺障害等級の妥当性を確認できる
- 会社への損害賠償請求の可否を判断できる
- 慰謝料や逸失利益の正確な金額が算定できる
- 適正な過失割合の判断ができる
- 示談交渉・裁判手続を任せることができる
労災の知識と実務に精通した弁護士に相談することで、労災給付の請求や会社への損害賠償請求をスムーズに進めることができます。
特に、会社側の責任で圧迫骨折を負わされたにもかかわらず、因果関係や訴因減額、過失相殺などを主張されて適切な補償を受けられないケースが多くあります。
労災保険だけでは不十分ですし、会社側が補償を提示してきても妥当なものかどうか、判断する際には、専門家のサポートが重要になります。
まとめ
労災による圧迫骨折の場合、後遺障害が残ることがあります。労災保険からの給付や会社への損害賠償請求を検討する際には、専門家に相談し、適切な手続きを進めるようにしましょう。