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労災隠し(労災かくし)とは|罰則・時効・告発先と会社への損害賠償請求を弁護士が解説

笹野皓平 弁護士

この記事の監修者

笹野 皓平(ささの こうへい)

弁護士法人ブライト|労災事故部統括/パートナー弁護士

/大阪弁護士会/京都大学法学部卒・立命館法科大学院修了

注力分野:労災事故・交通事故・会社関係争訟・M&A・事業再生

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目次

📝 この記事の3秒結論

  • 労災隠し(労災かくし)とは:労働者死傷病報告を出さない、または虚偽の内容で出すこと(労働安全衛生法100条・労働安全衛生規則97条)
  • 罰則:50万円以下の罰金(労働安全衛生法120条5号)。両罰規定で会社(法人)にも罰金が科されます(同法122条)
  • 告発先:所轄の労働基準監督署。給付の相談は「労災課」、労災隠しという法令違反は「安全衛生課」が担当します
  • 時効:刑事責任は3年、労災保険給付は2年・5年、会社への損害賠償は5年(最長20年)と、3つを分けて考えます
  • お金の本丸は会社への損害賠償:労災保険から慰謝料は支払われません。差額は会社への損害賠償請求(安全配慮義務違反)で取りにいきます

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「労災かくし」(労災隠し)とは

「会社が労災にしてくれない」「事故をなかったことにされた」——そう気づいたとき、多くの方が本当に恐れているのは、労災給付が下りないことそのものよりも、会社と対立してしまうこと・職場に居づらくなること・そして生活が立ち行かなくなることではないでしょうか。

この記事では、「労災隠しの罰則はどれくらいか」「時効は何年か」「どこに告発すればよいのか」という3つの疑問に条文をもとに正面からお答えしたうえで、会社への損害賠償請求(安全配慮義務違反)にどうつなげるかまでを解説します。

事業者は、労働災害等により労働者が死亡又は休業した場合には、遅滞なく、労働者死傷病報告等を労働基準監督署長に提出する必要があります。

事業者が労災事故の発生をかくすため、労働者死傷病報告(労働安全衛生法第100条、労働安全衛生規則第97条)を、
(1)故意に提出しないこと、
(2)虚偽の内容を記載して提出した場合
には、「労災かくし」に当たります。

また、(2)の虚偽の内容の記載とは、一部虚偽の場合も含まれ、労災事故の日付、場所、主体等について虚偽の内容を記載するものも「労災かくし」です。

休業4日未満でも報告義務はある(「軽いから報告しなくてよい」は誤り)

「休業4日未満だから報告は要らない」と説明されることがありますが、これは正確ではありません。労働安全衛生規則97条は、労働者が労働災害等により死亡し、又は休業したときに報告義務を定めており、休業日数によって報告の期限と様式が変わるだけです。

ケース報告の期限根拠
死亡した/休業4日以上遅滞なく(原則として電子申請で所轄労働基準監督署長へ)労働安全衛生規則97条1項
休業4日未満1~3月・4~6月・7~9月・10~12月の各期間について、最後の月の翌月末日までにまとめて報告労働安全衛生規則97条2項
労働者死傷病報告の区分(労働安全衛生規則97条)

つまり、「休業が短いから報告していない」という説明は、報告義務そのものを免れる理由にはなりません。四半期ごとの報告すら行われていない場合は、労災隠しを疑う手がかりになります。

「労災かくし」は犯罪です

上記のとおり、事業者は労働災害が発生した場合、遅滞なく労働者死傷病報告等を所轄労基署に提出する必要があり、「労災かくし」が行われた場合には、50万円以下の罰金刑が科される可能性があります(労働安全衛生法120条5号)。

このように、「労災かくし」は犯罪であり、刑事罰が科せられる可能性もあるのです。

なお、「労災かくし」による労働安全衛生法違反の公訴時効は3年ですので、事業者を告発することなどを考えている場合には、時効期間が経過しないよう注意する必要があります。

事業者が労災申請に協力してくれない場合には

労災給付を受けるためには、労働者またはその遺族が、医療機関や管轄の労働基準監督署に対して所定の保険給付請求書を提出する必要がありますが、当該請求書の用紙において、事業者に労働災害が発生した事実を証明してもらう必要があります。

そして、労働者災害補償保険法施行規則上、「保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。」(第23条1項)「事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。」(第23条2項)と定められており、事業者は労働者またはその遺族の求めに応じて、労災の手続きに協力する義務を負います。

しかしながら、事業者が「労災かくし」を行っているなど、労災の手続きに際して事業者の協力が得られない場合には、証明をもらえなかった事情を述べた文書を添えることで、事業者の証明を得ずに労災申請を行うことも可能です。

労災隠し(労災かくし)の罰則|罰金・両罰規定・そのほかの不利益

「労災隠し 罰則」で調べる方が知りたいのは、会社と社長に実際に何が科されるのかという点だと思います。条文ベースで整理すると次のとおりです。

会社がしたこと根拠条文法定刑
労働者死傷病報告を提出しない/虚偽の内容で提出する労働安全衛生法100条1項・3項、労働安全衛生規則97条50万円以下の罰金(労働安全衛生法120条5号)
上記を法人の代表者・従業者が業務に関して行った労働安全衛生法122条(両罰規定)行為者を罰するほか、法人にも50万円以下の罰金
労働基準監督署に申告した労働者を解雇その他不利益に取り扱った労働安全衛生法97条2項6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(同法119条1号)
労災隠しに関係する主な罰則(労働安全衛生法)

ポイントは2つあります。1つは、罰せられるのは「報告を握りつぶした個人」だけではないということです。両罰規定(労働安全衛生法122条)により、法人そのものにも罰金刑が科されます。

もう1つは、「労災隠しを労基署に言ったこと」を理由とする報復は、労災隠しとは別の犯罪だという点です。労働安全衛生法97条2項は、申告を理由とする解雇その他の不利益取扱いを禁止し、違反には拘禁刑を含む罰則(同法119条1号)が用意されています。「言ったら辞めさせられる」という不安に対する、法律上の答えがここにあります。

罰金だけでは終わらない|会社が本当に恐れている不利益

実務で会社が気にするのは、むしろ罰金以外の部分です。

  • 書類送検事案の公表:労働基準監督署が送検した事案は、厚生労働省や都道府県労働局のウェブサイトなどで公表されることがあります。
  • 健康保険で治療した分の返還:業務上の負傷を健康保険で治療していた場合、後から健康保険の保険者に治療費を返還しなければならないことがあります。
  • 公共工事・取引上の不利益:建設業などでは、重大な労働災害の発生や法令違反が、監督官庁の処分や発注者側の措置につながることがあります。
  • 安全配慮義務違反の立証で不利になる:後述のとおり、事故を隠した事実そのものが、会社への損害賠償請求の場面で会社にとって不利に働くことがあります。

なぜ会社は労災を隠そうとするのか

会社側の動機を知っておくと、交渉の見通しが立ちます。よく挙がるのは、労災保険料の増額(メリット制)、元請や発注者への報告・無災害記録への影響、労働基準監督署の立入調査を避けたい、という3点です。労災保険には、一定の要件を満たす事業について、労働災害の発生状況に応じて労災保険率を一定の範囲内で引き上げ・引き下げする仕組み(メリット制)があります(労働保険の保険料の徴収等に関する法律12条3項)。

ただし、これらはいずれも被災した労働者が不利益を受けてよい理由にはなりません。会社の都合で労災申請を見送ると、療養費・休業補償だけでなく、後遺障害が残ったときの障害補償や、会社への損害賠償の土台となる記録まで失うことになります。

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労災隠しの時効は何年?|混同されやすい「3つの時効」

「労災隠し 時効」という検索の裏には、実はまったく性質の違う3つの期限が混ざっています。ここを分けずに考えると、「もう手遅れだ」と誤って諦めてしまうことがあります。

何の期限か期間起算点根拠
①会社の刑事責任を問える期間(公訴時効)3年犯罪行為が終わった時刑事訴訟法250条2項6号(罰金に当たる罪)
②労災保険給付の請求権(療養・休業・葬祭料・介護・二次健康診断等給付)2年権利を行使することができる時労災保険法42条
②労災保険給付の請求権(障害・遺族)5年権利を行使することができる時労災保険法42条
③会社への損害賠償請求(生命・身体の侵害)5年(最長20年)損害および加害者を知った時/権利を行使することができる時民法724条・724条の2(不法行為)、民法166条1項・167条(安全配慮義務違反=債務不履行)
労災隠しをめぐる3つの時効

①刑事責任(労災隠しそのもの)は3年で消える

労災隠しに科されるのは50万円以下の罰金です(労働安全衛生法120条5号)。罰金に当たる罪の公訴時効は3年とされているため(刑事訴訟法250条2項6号)、会社の刑事責任を問いたいのであれば、この3年が一つの区切りになります。告発を検討している場合は、時間の経過が直接効いてくる部分です。

②労災保険給付は「2年」の壁が先に来る

労災保険法42条は、療養補償給付・休業補償給付・葬祭料・介護補償給付などを2年、障害補償給付・遺族補償給付を5年と定めています。特に注意が必要なのが休業補償給付で、療養のため働けなかった日ごとに請求権が発生し、その翌日から時効が進みます。会社に隠されている間に、古い日の分から順番に消えていくという構造です。

③会社への損害賠償は5年。ただし時効より先に「証拠」が消える

会社への損害賠償請求は、安全配慮義務違反(労働契約法5条・民法415条)でも不法行為(民法709条)でも、人の生命・身体の侵害については知った時から5年、客観的な起算点からは20年とされています(民法724条・724条の2、166条1項・167条)。労災保険給付の2年に比べれば長く見えますが、実務上の感覚は逆です。

当事務所が実際に直面した「時効より怖いもの」

当事務所には、事故から8年後、18年後に「あれは労災隠しだったのではないか」とご相談に来られた方もいらっしゃいます。法律上の時効が残っていても、現場の写真も、当時の日報も、目撃した同僚の記憶も、すでに残っていないことがほとんどでした。

労働基準監督署も、何年も前の事案について調査に動いてくれるとは限りません。時効の計算より先に、「その日その場所で働いていたことを示す資料」が失われていないかを確認することが、実際には最優先になります。

傷病手当金で処理されていた方へ(順番を間違えると持ち出しになります)

労災隠しの典型として、健康保険の傷病手当金で処理されているケースがあります。同一の傷病について労災保険の休業補償給付と傷病手当金を重ねて受けることはできないため、あとから労災に切り替えると、受け取った傷病手当金の返還を求められるのが原則です。

このとき、労災給付のうちすでに2年の時効で消えてしまった期間があると、返還額のほうが受け取れる労災給付を上回り、結果として持ち出しになってしまうことがあります。実際に当事務所でも、この試算の結果、切り替えを急ぐことがかえって不利になる可能性をご説明したケースがあります。「どの順番で、どこまで遡って動くか」を先に設計することが重要です。

労災隠しはどこに告発・相談すればよいのか|労基署の「労災課」と「安全衛生課」

「労災隠し 告発 どこに」という検索が多いのは、相談先が1か所ではないからです。ここを間違えると、話を聞いてもらったのに何も動かない、ということが起こります。

告発先は所轄の労働基準監督署(労働基準監督官は司法警察員)

労災隠しは労働安全衛生法違反という犯罪であり、「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」とされています(刑事訴訟法239条1項)。告発は、書面または口頭で検察官または司法警察員に対して行います(同法241条1項)。

そして、労働基準監督官は、労働安全衛生法違反の罪について司法警察員の職務を行うと定められています(労働安全衛生法92条)。つまり、警察署ではなく所轄の労働基準監督署が、労災隠しの告発を受ける正面の窓口です。

同じ労基署でも窓口が分かれている(ここを知らないと動かない)

見落とされがちですが、労働基準監督署の中でも担当する課が分かれています。窓口の名称は署によって異なりますが、おおむね次のような役割分担です。

相談先扱う内容行き先を間違えるとどうなるか
労働基準監督署の労災課(労災担当)労災保険給付の請求、事業主証明が得られない場合の申請、認定に関する手続労災隠しという「法令違反」の是正までは担当外のことがある
労働基準監督署の安全衛生課(監督・安全衛生担当)労働者死傷病報告の不提出・虚偽記載の調査、是正指導、送検給付の話だけをすると、法令違反の調査につながらないことがある
都道府県労働局監督署の上部機関。申告・情報提供の受付個別の調査は結局所轄署が行う
弁護士会社への損害賠償請求、証拠の確保、労基署への申告・告発の組み立て刑事処分そのものを決める権限はない(だからこそ民事と組み合わせる)
労災隠しの相談先と役割分担

ブライトの実務|「労災課」と「安全衛生課」の両方を動かす

当事務所が扱った事案に、会社が事故の発生場所を偽って労働基準監督署に報告していたものがあります(本当は取引先の工場で起きた転落事故を、自社の営業所で起きたことにされていました)。

このとき担当弁護士が取った方針は、労災給付を担当する「労災課」だけでなく、労災隠しという法令違反を扱う「安全衛生課」も同時に巻き込むというものでした。結果として、所轄署での面談には両方の担当者が同席することになりました。

「ブライトは、給付が下りればよしとしない。事故の記録そのものを正しい形に戻しにいく。」——これが、労災隠しの事案で当事務所が一貫して大切にしている考え方です。記録が正しくならなければ、その先の会社への損害賠償でも同じ土俵に立てないからです。

匿名でも申告できる。ただし「動いてもらう」には材料が要る

労働安全衛生法97条1項は、事業場に法令違反の事実があるときに、都道府県労働局長・労働基準監督署長・労働基準監督官に申告して、是正のため適当な措置をとるよう求めることができると定めています。匿名での情報提供も可能です。

もっとも、実務上は「隠されました」という申告だけでは調査が進みにくいのが現実です。当事務所が告発を組み立てるときは、まずその日その場所で働いていたことを示す客観的な資料を先に固めます。

  • 出退勤の記録、運行記録(日報)、ETCや高速道路の利用履歴、入退館の記録
  • 給与の算定根拠となる資料(その日の勤務が給与計算に反映されていれば、勤務の事実が裏づけられます)
  • 事故当日・直後のやり取り(メール・チャット・通話の記録)、同僚の証言
  • 受診した医療機関のカルテ・診断書(受傷部位と時期が記録に残ります)

実際に、会社が作成した給与算定資料と、本人が毎日つけていた手控えだけで、勤務先での事故発生を立証できる見込みが立ったため、証拠保全の申立てを取りやめ、労基署への申告・告発を早く進めるほうに切り替えた事案もあります。何を集めるかによって、動き出すまでの速さが変わります。

通報したことを理由に不利益な扱いを受けたら

前述のとおり、申告を理由とする解雇その他の不利益取扱いは禁止され、罰則も定められています(労働安全衛生法97条2項・119条1号)。また、労働安全衛生法は公益通報者保護法の対象となる法律に含まれており、通報者の保護が及ぶ場合があります。

当事務所がご相談を受けた方の中にも、会社との関係悪化を恐れて長く言い出せずにいたところ、結局は再雇用を断られてしまったという方がいらっしゃいました。「会社に気を遣って黙っていた期間」が、そのまま証拠の散逸と時効の進行に変わってしまうことは少なくありません。

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労災給付と事業者への損害賠償請求

上記の通り、事業者の協力が得られなくても、労災申請を行うことができ、労災給付を受けることができます。

もっとも、労災保険では休業損害の全額の補償や慰謝料の支払いは受けられません。それらの支払いを受けるためには、事業者に対して別途損害賠償請求をする必要があります。

事業者側に損害賠償請求ができる場合とは

使用者等は被用者との間の労働契約に基づいて、労働者の生命・健康を危険から保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)を負います。使用者等の安全配慮義務違反により災害・傷病等が発生した場合には、使用者等は労働契約上の債務不履行に基づく損害賠償責任や、民法上の不法行為責任を負うことになります。

労災隠しは、会社への損害賠償でどう効くのか(3つの場面)

労災隠しは、「会社が悪い」という感情の問題にとどまりません。会社への損害賠償請求という民事の場面で、具体的に効いてくる事情です。

  1. 業務上の事故であること自体を会社が争いにくくなる:会社が事故日や場所を偽って報告していた場合、「そもそも業務中の事故ではない」という主張とは整合しにくくなります。
  2. 安全配慮義務違反の評価に影響することがある:危険を放置していた事実に加え、事故後に報告義務を果たさなかったという事後の対応も、会社の姿勢を示す事情として主張の材料になります。
  3. 刑事記録という証拠ルートが開く:会社が送検・処罰されれば、捜査機関が集めた資料を、損害賠償請求の準備に活用できる可能性が出てきます(次項)。

ブライトの判断基準

労災隠しの事案では、「証拠がないから難しい」と言われて終わってしまうことが少なくありません。しかし当事務所は、直接の証拠がなくても、勤務記録・給与算定資料・運行記録といった間接証拠を積み上げて事実を立証する道を先に探します。

「ブライトは『証拠がない』で止まらない。会社の手元にある資料を、こちらから取りにいく。」——弁護士会照会や証拠保全といった手続を使い分けながら、被災された方の正当な権利を取りにいくことを大切にしています。

刑事記録が利用できる場合も

事業者が「労災かくし」により刑事処罰を受けた場合には、捜査機関により労災事故に関する刑事記録が作られます。

通常、労災事故に関する資料の大半は事業者のもとにあり、労働者が事故状況を正確に把握することや資料を収集することは困難ですが、捜査機関の作成した刑事記録の開示を受けることで、捜査機関により収集された資料を事業者への請求の準備等に利用することができます。

当事務所が過去に扱った事例においても、「労災かくし」により罰金刑を受けた事業者に対して損害賠償請求を行う際に、事故に関する資料の収集のために、刑事記録の開示手続を行ったものもあります。

また、損害賠償請求に加えて、「労災かくし」について事業者の告発を行うことも考えられます。

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労災かくしによくある手口

「労災かくし」は、事業者が労働災害の発生を隠蔽するために行う不当な行為で、現場では以下のような手口で行われることが少なくありません。労働者として被害に気づくためにも、典型的なパターンを把握しておく必要があります。

手口1:労災事故を「私傷病」として処理する

業務中・通勤中の負傷であるにもかかわらず、会社が「業務外の事故」「自宅で転んだことにしてほしい」などと申し向け、私傷病扱いとして健康保険で治療を受けさせるパターンです。これは労災給付の請求権を奪うだけでなく、後の損害賠償請求の証拠も曖昧になるため、特に注意が必要です。

手口2:労働者死傷病報告を提出しない・虚偽記載する

労働者が労働災害等により死亡し、又は休業したときは、労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出する義務があります(労働安全衛生法100条、労働安全衛生規則97条)。休業4日未満であっても四半期ごとの報告が必要です。報告を意図的に怠ったり、事故日・場所・経緯について虚偽の記載をすると「労災かくし」に該当します。当事務所が扱った事案にも、実際の事故現場である取引先の工場ではなく、自社の営業所で起きたことにして報告されていたものがあります。

手口3:事業主証明の拒否や口止め

労災申請には会社の事業主証明が必要となるため、これを拒否することで事実上労災申請を妨害するケースもあります。また、「労災にすると会社が困る」「次の契約に響く」などと労働者を心理的に追い詰め、労災申請を諦めさせる例も報告されています。

熱中症の労災隠し|「本人の体調管理の問題」で処理されていませんか

労災隠しは、転落や挟まれといった「わかりやすい事故」だけの話ではありません。熱中症で搬送されたのに、「水分を取らなかった本人の責任」「持病のせい」として処理される——これも、休業していれば労働者死傷病報告の対象であり、報告しなければ労災隠しになり得ます。

さらに、2025年6月からは、熱中症のおそれがある作業について、異変に気づいたときの報告体制の整備と、作業からの離脱・身体の冷却・医師の診察など症状悪化を防ぐ手順の策定・周知が義務づけられています(労働安全衛生規則612条の2)。この体制を整えていなかった会社が、発生した熱中症を隠そうとした場合、安全配慮義務違反の立証において会社にとって不利な事情として働くことがあります。

手口4:健康保険の傷病手当金で処理させる

「労災は手続が面倒だから、傷病手当金にしておこう」と会社に言われ、そのまま健康保険で処理されているケースです。一見すると休業中の収入が確保されているように見えますが、傷病手当金は給与のおおむね3分の2にとどまり、労災の休業補償(休業給付と休業特別支給金を合わせた水準)より低くなるのが通常です。さらに、後から労災に切り替える際には返還の問題が生じます。

手口5:「会社の保険で払うから」と言って労災申請をさせない

「会社が加入している保険で治療費も休業分も払うから、労災にはしないでほしい」と持ちかけられる型です。当事務所にも、そう言われて労災申請を見送ったものの、実際には支払いが途中で滞り、結果として労災隠しに近い状態に置かれていたというご相談が寄せられています。会社の任意の支払いは、途中でいつでも止まり得ます。労災申請と会社への損害賠償請求という法的な土台を確保しておくことが必要です。

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労災かくしに気づいた労働者ができる対処法

会社が労災を隠そうとしていると感じた場合でも、労働者には自らの権利を守るための手段があります。以下の3ステップを早期に踏むことが重要です。

ステップ1:証拠を確保する

事故発生日時や状況を記録したメモ、医療機関の診断書・カルテ、現場の写真、目撃者の連絡先、会社とのやり取り(メール・LINE・録音)など、労災事故の発生を客観的に裏付ける資料を確保しましょう。後の労災申請や損害賠償請求でも、これらの証拠が決定的な意味を持ちます。

ステップ2:労働基準監督署に相談・申告する

会社の協力が得られなくても、労働者は自ら労働基準監督署に労災申請を行うことができます。事業主証明欄を空欄のまま提出し、別途「事業主の証明拒否理由書」を添付すれば、労働基準監督署が会社に対して直接調査を行います。労災かくしの疑いがある場合は、その旨もあわせて申告することで、行政指導や処罰の端緒になります。その際は、給付を扱う労災課だけでなく、法令違反を扱う安全衛生課にも話が届くように伝えることが重要です(前述の「どこに告発するか」をご参照ください)。

ステップ3:弁護士に早期相談する

労災かくしのケースでは、会社との交渉、労災申請の手続き、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求、刑事告発など、複数の対応を並行して進める必要があります。労働者個人で行うには負担が大きいため、労災事故の経験が豊富な弁護士に早期相談することで、最も有利なルートを選択できます。

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労災かくしに関するよくある質問

Q. 労災かくしを通報すると、会社にバレますか?

労働基準監督署への申告は実名・匿名のいずれでも可能です。労災申請を行えば調査の過程で会社にも事実関係が伝わりますが、労働者には労働基準法等で不利益取扱いの禁止が定められており、報復的な解雇や降格は違法となります。

Q. 既に健康保険で治療を受けてしまった場合でも労災に切り替えられますか?

業務上・通勤中の負傷であれば、健康保険から労災保険への切替は可能です。ただし切替には所定の手続きが必要となるため、できるだけ早く労働基準監督署や弁護士に相談することをおすすめします。

Q. 退職後でも労災申請はできますか?

労災給付の請求権は、療養補償給付・休業補償給付ともに2年(障害補償給付・遺族補償給付は一時金・年金いずれも5年)の消滅時効があり(労災保険法42条)、その期間内であれば退職後でも申請可能です。退職を理由に会社が証明を拒んでも、上記の通り労働者単独で申請手続きを進めることができます。

Q. 労災隠しの時効は何年ですか?

性質の違う3つの期限があります。会社の刑事責任(労災隠しそのもの)は3年(刑事訴訟法250条2項6号)、労災保険給付は療養・休業などが2年、障害・遺族が5年(労災保険法42条)、会社への損害賠償は知った時から5年・最長20年(民法724条・724条の2、166条1項・167条)です。実務では、時効よりも先に証拠が失われることのほうが問題になります。

Q. 労災隠しを告発すれば、お金を受け取れますか?

告発は刑事手続であり、会社に罰金が科されても、そのお金が被災した労働者に支払われるわけではありません。補償は「労災保険給付」、慰謝料や逸失利益の不足分は「会社への損害賠償請求」という別のルートで受け取ります。告発は、事実関係を正しい形に戻し、損害賠償の土台を固めるための手段と位置づけるのが現実的です。

Q. 傷病手当金を受け取ってしまいました。今から労災に切り替えられますか?

同一の傷病について労災保険の休業補償給付と健康保険の傷病手当金を重ねて受けることはできないため、労災に切り替える場合は受け取った傷病手当金の返還を求められるのが原則です。労災給付のうち2年の時効で消えた期間があると、返還額のほうが大きくなることもあります。切り替えの可否と順番は、試算をしてから判断してください。

Q. 会社が「これは労災ではない」と言い張っています。どうすればよいですか?

労災かどうかを決めるのは会社ではなく、労働基準監督署です。会社が認めなくても労働者側から申請できます。詳しくは会社が労災を認めない・労災隠しに遭ったときの対処法、認定が下りなかった場合については労災が認定されない・業務起因性が認められないときの対処法をご覧ください。

労災の相談は弁護士法人ブライトへ

弁護士法人ブライトでは、「労災かくし」の被害に遭われている方について、事業者に損害賠償請求を行う事件も数多く受任してきました。

事業者に対する責任追及を行うことや、「労災かくし」を行う事業者の刑事告発、刑事記録の開示等を行うためには、弁護士の専門的な知識が不可欠となります。

我々弁護士法人ブライトでは、労災事故専門部があり、労災被害に遭われてお困りの方については、無料相談をお受けしいています。

労災隠しの事案では、①労働基準監督署への申告・告発(労災課と安全衛生課の双方)、②労災保険給付の請求、③会社への損害賠償請求という3つを、時効と証拠の残り方を見ながら並行して進める必要があります。順番を誤ると、受け取れたはずの補償を失うことがあります。

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笹野 皓平

弁護士法人ブライト パートナー弁護士: あなた自身や周りの方々がよりよい人生を歩んでいくために、また、公正な社会を実現するために、法の専門家としてサポートできることを日々嬉しく感じています。

本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
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事務所概要

事務所名 弁護士法人 ブライト(大阪弁護士会所属)
開 業 平成21年(代表弁護士独立開業)
設 立 平成24年11月設立、平成27年1月に法人化
所在地 〒530-0057 大阪府大阪市北区曽根崎2丁目6番6号 コウヅキキャピタルウエスト12階
TEL 06-4965-9590(受付時間9:00~18:00)
FAX 06-6366-8771
事業内容 法人向け(法律顧問・顧問サービス、経営権紛争、M&A・事業承継、私的整理・破産・民事再生等、契約交渉・契約書作成等、売掛金等の債権保全・回収、経営相談、訴訟等の裁判手続対応、従業員等に関する対応、IT関連のご相談、不動産を巡るトラブルなど)、個人向け(交通事故・労災事故を中心とした損害賠償請求事件、債務整理・破産・再生等、相続、離婚・財産分与等、財産管理等に関する対応、不動産の明渡し等を巡る問題など)

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