弁護士費用特約(LAC)で交通事故事件を受任するとき、着手金・報酬金の額を決めるのは「経済的利益」という一つの数字です。ところがこの数字は、損害額をそのまま持ってくるものではありません。日弁連リーガル・アクセス・センター(LAC)の保険金支払基準では、損害額から3種類のものを控除した残額が経済的利益になります。
この控除を誤ると保険会社との協議が長引き、支払が遅れます。逆に、控除した自賠責部分について別途手数料を請求できることを知らずに取りこぼしている例も見かけます。このページでは、経済的利益の範囲——何を控除し、何が算定の基礎に入るのか——を、2025年1月改訂で明確化された論点まで含めて整理します。
📝 この記事の結論(3行)
- LAC基準の経済的利益は「弁護士の委任事務処理により得られた額」。損害額そのものではない
- 控除するのは3点セット=既払金/保険会社からの書面による事前支払提示額/事案簡明な自賠責請求部分
- 控除した自賠責部分は、別途手数料方式で請求できる(150万円以下は3万円・150万円超は2%)。請求は1回のみ
LAC基準の「経済的利益」とは何か
LACの保険金支払基準は、着手金を「受任時の資料により計算される賠償されるべき経済的利益の額」、報酬金を「弁護士の委任事務処理により依頼者が得られることとなった経済的利益の額」を基準に定めています(同基準第2条第3項・第4項)。
押さえるべき出発点は一つです。経済的利益とは「弁護士が入ったことで動いた金額」である、ということ。したがって、弁護士が関与しなくても被害者が当然に受け取れた部分——すでに支払われている治療費、保険会社が受任前に書面で払うと言っていた金額、書式を揃えれば下りる自賠責保険金——は成果ではないので、経済的利益から外れます。これが控除3点セットの理屈です。
なお、この基準は弁護士報酬そのものの算定基準ではなく、あくまで「保険金支払に関して問題がない範囲」を示したものです。これを超える報酬契約をすること自体は妨げられませんが、超過部分は依頼者の負担になる可能性が高いため、委任契約書で明記し十分に説明しておく必要があります。
経済的利益から控除される3点セット【一覧表】
控除されるものを整理すると、次の3つになります。
| 控除するもの | なぜ控除するのか | 控除後の取扱い |
|---|---|---|
| ① 既払金 (治療費等ですでに支払済みの額) |
弁護士の関与なくすでに損害が填補されているため | 別途の請求はできない |
| ② 保険会社からの書面による事前支払提示額 | 受任前に相手方が払うと表明していた金額であり、弁護士の成果ではないため | 別途の請求はできない |
| ③ 事案簡明な自賠責請求により支払が予定される部分 | 定型書式を揃えれば下りる部分であり、着手金・報酬金方式になじまないため | 手数料方式で別途請求できる(150万円以下=3万円/150万円超=2%) |
※上表の着手金の区分も2025年1月1日施行の基準によるものです。適用の有無は報酬金の新基準と同様、受任時に保険会社への確認が必要です。
③だけが「控除するが、別の名目で請求できる」という扱いになっている点が、実務上いちばん間違えやすいところです。控除=取れない、ではありません。
算定の順序も決まっています。書式E別紙「経済的利益の計算表」は、各費目→損害額合計→相手方過失割合→控除金(①事案簡明な自賠責請求/②①に含まれない既払金・事前提示額など)→経済的利益総額、という順で組む構成です。控除欄が①と②に分かれているのは二重控除を防ぐためで、この様式の順序どおりに埋めるのが結局いちばん早く保険会社の了解を得られます。
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控除①:既払金——弁護士の関与なく填補済みの部分
既払金とは、経済的利益を算定する時点までに、弁護士の関与なく支払が完了している保険会社からの支払(治療費・通院交通費など)です。すでに損害が填補されている以上、弁護士の委任事務処理により得られた利益とは言えないため、経済的利益には入りません。
実務上の注意は二重控除です。後述する事前提示がある事案では、その事前提示額の中に既払金が含まれているのか、別枠なのかを確認しないと、同じ金額を2回控除してしまい、経済的利益を過小に算定することになります。書式E別紙「経済的利益の計算表」の控除欄に落とし込む前に、事前提示書面の内訳を必ず読んでください。
もう一点。既払金が自賠責保険金の上限額を超えている場合には、損害額から既払金のみを控除すれば足ります。自賠責部分を重ねて控除する必要はありません。
控除②:保険会社からの「書面による」事前支払提示額——4つの要件
被害者が保険会社から示談金の提示を受け、その金額に納得できずに相談に来る——交通事故で多い受任経緯です。この場合、経済的利益は損害額から事前提示額を差し引いて算定します。弁護士が動かしたのは提示額との差額部分だからです。
重要なのは、「書面による」事前提示であることが要件だという点です。LACマニュアル改訂第7版(2025年1月)Q&A3-⑥は、次の4つをすべて満たすものを「書面による事前提示」としています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 時期 | 弁護士受任前の提示であること |
| ② 作成者・媒体 | 保険会社など支払能力のある者が作成した書面(FAX・メールを含む)による提示であること |
| ③ 金額 | 支払う金額が書面上に明記されていること |
| ④ 支払意思 | ③の金額を支払う旨の意思が書面上に表示されていること |
口頭の提示はどう扱われるか
4要件のうち②③④は、いずれも「書面上」であることを求めています。したがって、担当者から電話で「だいたい○○万円くらいですね」と言われただけ、面談で口頭の目安を示されただけ、という状態は、この定義の事前提示には当たりません。金額が書面に明記され、それを支払う意思まで書面に表れている必要があります。
相談時に「保険会社からいくらと言われましたか」だけを聞いて経済的利益を組んでしまいがちですが、提示書面の現物(示談金額提示書・損害賠償額のご案内など)を必ず預かるのが安全です。書面がなければ控除しない判断になりますが、見解相違を避けるため受任時に協議しておくことをおすすめします。
事前提示がある場合、自賠責部分の再控除は不要
通常、保険会社から事前提示がある場合には、自賠責を超える金額が提示されています。そのため、損害額から事前提示額を差し引けば、後述する自賠責部分を重ねて控除する必要はありません。この点も二重控除が起きやすいポイントです。
控除③:事案簡明な自賠責請求部分——控除した分は手数料方式で請求できる
LAC基準は自賠責保険への請求を「事案簡明なもの」と「そうでないもの」に分け、経済的利益の計算方法を変えています。この区別は相手方の保険会社が一括対応しているかどうかには左右されません。
「事案簡明」の意味
支払基準は事案簡明な自賠責請求を、「損害賠償請求権の存否及びその額に争いがない場合」の請求と定義しています。「事案簡明」とは、損害賠償請求権の存否や金額に争いがなく、自賠責保険への請求が所定の書式の提出だけで支払いに至る程度に定型的なケースを指す区分です。
定型書式に加えて弁護士が意見書を作成した場合などは事案簡明でないと解釈できる余地がありますが、医師の診断書を引き写しただけの意見書にとどまる場合は事案簡明の範疇を超えないと考えられています。多重事故のように各当事者の責任割合の確定が困難な事案は、事案簡明に当たらない場合が多いと整理されています。
計算方法の違い
| 区分 | 経済的利益 | 自賠責部分の扱い |
|---|---|---|
| 事案簡明な自賠責請求 | 損害額全体から自賠責部分を控除した額 | 手数料方式で別途請求できる |
| 事案簡明ではない自賠責請求 | 損害額全体を経済的利益にできる | 手数料は発生しない(着手金・報酬金に含まれる) |
後遺障害等級の異議申立てが認められて賠償額が増額したようなケースは、弁護士の介入により動いた部分ですから、増額された自賠責部分を経済的利益に含めることができます。
手数料方式の金額と回数制限
| 自賠責により支払が予定される額/給付金額 | 手数料 |
|---|---|
| 150万円以下 | 3万円 |
| 150万円超 | その2% |
※いずれも消費税別。
この手数料には、見落とされやすい制約が3つあります。
- 請求できるのは1回のみ
- 受任前に依頼者が自ら自賠責へ請求して受領済みの場合は、弁護士の介入と無関係に受領しているため発生しない
- 報酬金の段階でも、すでに手数料を受領している場合を除き、当該弁護士が自賠責に請求したか否かにかかわらず別途請求できる(着手段階で請求し忘れても報酬金の段階で拾える)
なお、着手金・報酬金方式を採用した場合、同一の事故・事件で時間制報酬方式や手数料方式を併用することはできませんが、この自賠責請求の手数料と証拠保全の手数料は例外として併用できます。逆に、受任後に内容証明を発送したり弁護士法23条の2の照会をしたりしても、別途手数料を請求することはできません(実費や日当は別です)。
自賠責部分の金額が確定しにくいとき
傷害部分の自賠責保険金が上限額120万円に満たない場合、休業損害や慰謝料の内訳の算定方法が判然とせず、控除すべき範囲が問題になります。疑義が生じる場合は、自賠責請求を先行して行うか自賠責保険会社に内訳を確認するかが推奨されています。見込みで組んで後から食い違うより、確認したほうが結局は早く支払を受けられます。
保険会社の提示額に納得できない方へ。提示書面をお持ちのうえご相談ください。
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全額棄却答弁があった場合——事前提示は復活するが、自賠責部分は戻らない
示談交渉の段階で事前提示があったものの折り合わず、訴訟に移行した。ところが相手方は、被害者の請求について全額棄却を求める答弁をしてきた——という展開があります。
この場合、相手方はもはや事前提示額を払うとは言っていないわけですから、訴訟での請求額から事前提示額を控除することなく着手金・報酬金を算定できます。いったん控除した事前提示額が算定基礎に戻ってくる、という理解です。
注意すべきはここからです。2025年1月の改訂で、経済的利益から控除される「事案簡明な自賠責部分」は、全額棄却答弁があっても経済的利益に含まれることにはならないことが明記されました(LACマニュアル改訂第7版 Q&A3-⑥参照)。事案簡明な自賠責部分はそもそも手数料方式の対象として切り出されており、相手方が訴訟でどう争うかとは無関係に定型書式で下りる性質のものだからです。全額棄却答弁を理由に「自賠責部分も戻せる」と組むと、協議で必ず指摘されます。
▶ 全額棄却答弁があったときの整理
事前提示額 … 控除しなくてよい(算定基礎に戻る)
事案簡明な自賠責部分 … 控除したまま(戻らない)
着手金は「受任時の資料」・追加着手金は「請求額が算定可能となった時点」
着手金の経済的利益は、受任時の資料により計算される賠償されるべき額を基準とします。書式Eの別紙でも、現実の請求金額にかかわらず、いわゆる赤本等に照らして着手金請求段階で客観的資料に基づき合理的に推認できる金額とする、と整理されています。
人損の損害額がまだ算定できないとき
受任時点で物損は出せるが人損はまだ治療中で算定できない、という事案は珍しくありません。この場合「算定不能だから800万円」とはしません。「損害額の計算が不能の場合」に経済的利益を800万円とする考え方は、事件の性質上そもそも損害額の算定ができない類型(株主総会無効事件・当選無効事件など)を指すもので、通常の交通事故事件は当てはまりません。実務の組み方は次のとおりです。
- 物損に加え、現在の人損の状況から赤本等を基準に合理的に推認される金額のうち最も少ない金額を人損の損害額として仮に定める(依頼者側にも過失が見込まれる場合は、過失割合相当額を控除する)
- その合計額を経済的利益として当初着手金を定めて受任する
- その後、相手方に請求する損害額が算定可能となった時点で、その損害額から導かれる着手金から既払の当初着手金を控除した額を追加着手金として請求する
この3のタイミングは、2025年1月の改訂で基準時が繰り上げられた箇所です。従来は最終的な損害額が算定できた時点とされていたものが、相手方に請求する損害額が算定可能となった時点に改められました。示談や判決で最終確定するまで待つ必要はなく、請求額を組める資料が揃った段階で動く、という趣旨に読めます。追加着手金を予定する場合は、委任契約書(書式D)の該当欄にチェックを入れるのを忘れないでください。
なお、着手後に後遺障害等級に該当すべき客観的資料が揃ったのに追加着手金を請求しないまま処理を進め、最終的に非該当となった場合、等級該当を前提とした着手金が認められるかで見解の相違が生じ得ます。客観的資料が揃ったら速やかに請求するのが望ましい運用です。
報酬金の経済的利益——控除されるもの以外は原則すべて含まれる
2025年1月の改訂で、報酬金算定の基礎となる経済的利益を解説するQ&Aが新設されました(Q&A3-⑦)。趣旨は明快で、控除される3点セット以外の部分は、基本的にすべて報酬金算定の基礎に含まれる、というものです。問合せが多い例として次の2つが挙げられていますが、いずれも「含まれる」という結論です。
- 損害費目のうち、裁判基準などによりあらかじめ金額相場が形成されているもの(相場があるから弁護士の成果ではない、とはならない)
- 受任から賠償金の支払までの期間が短期間である場合(早期に解決したから減る、とはならない)
経済的利益125万円以下の報酬金(2025年1月新設)
2025年1月改訂で、経済的利益が125万円以下の事案の報酬金を20万円とする新基準が新設されました(経済的利益が0円の場合は発生しません)。少額事案の受任を成り立たせるための改訂ですが、適用には注意が必要です。
- 適用可能な保険商品・保険契約において、施行日(2025年1月1日)以降に受任(委任契約の締結)に至った事案から適用される。施行前に受任し進行中の事案には使えない
- 保険商品ごとに約款の始期や規定が異なり、商品固有の支払基準が別途定められている場合もある。受任前に保険会社へ確認する
- 事案簡明な自賠責相当部分を控除した結果、経済的利益が0円となる場合は請求できない(ただし当該自賠責相当部分の手数料は請求可能)
- 報酬金は成功の程度に応じて受ける対価であるため、着手金請求時や委任事務処理の進行中に請求することはできない
着手金・報酬金の基準額(経済的利益別)
| 経済的利益の額 | 着手金 | 報酬金 |
|---|---|---|
| 125万円以下 | 10万円 | 20万円 (経済的利益0円のときは発生しない) |
| 125万円超 300万円以下 | 8% | 16% |
| 300万円超 3,000万円以下 | 5%+9万円 | 10%+18万円 |
| 3,000万円超 3億円以下 | 3%+69万円 | 6%+138万円 |
| 3億円超 | 2%+369万円 | 4%+738万円 |
※いずれも消費税別。事件の種類・委任事務処理の難易等の事情により上記が不相当と認められる場合は、疎明資料を示して受任弁護士と依頼者が協議のうえ、30%の範囲で増額できる余地があります。
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実務での計算例3本
控除の効き方を具体的な数字で確認します。いずれも消費税別・過失相殺なしの前提です。
例1:事案簡明な自賠責請求がある傷害事案
| 損害額合計 | 400万円 |
| 既払金(治療費等・弁護士関与なく支払済み) | 60万円 |
| 事案簡明な自賠責部分 | 60万円(傷害部分の上限120万円-既払金60万円) |
| 経済的利益 | 400万円-60万円-60万円=280万円 |
- 着手金:280万円×8%=22万4,000円
- 自賠責部分の手数料:60万円(150万円以下)→ 3万円
- 着手段階の合計:25万4,000円
その後、示談で総額450万円を回収したとします。報酬金の経済的利益は450万円-60万円(既払金)-60万円(自賠責部分)=330万円。報酬金は330万円×10%+18万円=51万円。手数料は着手段階で受領済みのため重ねて請求しません。事件全体で76万4,000円です。自賠責部分の3万円を請求し忘れると、そのまま取りこぼしになります。
例2:受任前に書面による事前提示があった事案
| 弁護士基準で見積もった損害額 | 800万円 |
| 受任前に保険会社が書面で提示した額 | 280万円 |
| 着手時の経済的利益 | 800万円-280万円=520万円 |
- 着手金:520万円×5%+9万円=35万円
- 事前提示額が自賠責を超えているため、自賠責部分の再控除は不要
訴訟上の和解で総額720万円を回収した場合、報酬金の経済的利益は720万円-280万円=440万円。報酬金は440万円×10%+18万円=62万円で、合計97万円です。もし提示が口頭のみで書面の要件(金額の明記・支払意思の表示)を満たしていなければ控除せずに算定することになります。提示が書面かどうかで着手金は大きく変わるため、受任時に現物を確認する意味はここにあります。
例3:全額棄却答弁が出た訴訟事案
受任時は書面による事前提示200万円を控除し、請求予定額600万円・事案簡明な自賠責部分50万円として着手金を算定したとします。
- 着手時の経済的利益:600万円-200万円-50万円=350万円
- 着手金:350万円×5%+9万円=26万5,000円
提訴後、相手方が請求全額の棄却を求める答弁をし、最終的に550万円(うち事案簡明な自賠責相当50万円)の認容判決を得たとします。
| 経済的利益 | 報酬金 | |
|---|---|---|
| 全額棄却答弁あり(正しい算定) | 550万円-50万円=500万円 (事前提示200万円は控除しない) |
500万円×10%+18万円=68万円 |
| 参考:事前提示を控除した場合 | 550万円-50万円-200万円=300万円 | 300万円×16%=48万円 |
差は20万円です。一方、事案簡明な自賠責部分50万円は全額棄却答弁があっても戻りません。「事前提示は戻る/自賠責部分は戻らない」——この非対称を押さえておけば算定を誤りません。金額感を先につかみたい方は、交通事故の慰謝料計算シミュレーターで損害額の目安を出したうえで上記の控除を当てはめてみてください。
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経済的利益に「入らないもの」の周辺論点
控除3点セットのほかにも、経済的利益に含めてよいかが問題になる項目があります。
| 項目 | 経済的利益への算入 | ポイント |
|---|---|---|
| 人身傷害保険・労災保険からの給付 | 含められない | 弁護士費用保険は損害賠償請求を対象とするため。約款上これらへの請求に弁護士費用を支払う旨の記載があれば含められる。労力に応じて30%を上限とする報酬金増額事由になる余地はある |
| 治療費のうち健康保険が負担する額 | 含まれない | 損害から控除される関係にあるため |
| 遅延損害金/判決で認められる弁護士費用 | 着手金では含めない運用を推奨 | 理論的には含み得るが和解では必ずしも得られない。実際に支払われた場合に精算する方法が推奨されている |
| 受任前に依頼者本人が受領済みの後遺障害等級分の自賠責保険金 | 含められない | 手数料の請求もできない |
後遺障害等級の異議申立てを含めて受任する場合の経済的利益は、すでに認定されている等級による損害額と、客観的資料に基づき適切と考えられる等級による損害額との差額と整理されています。異議申立て自体は損害賠償請求事件の対応として通常行うべき手続に含まれるため、重ねて請求することはできません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 損害額がそのまま経済的利益になるわけではないのですか。
なりません。損害額から①既払金②保険会社からの書面による事前支払提示額③事案簡明な自賠責請求により支払が予定される部分を控除した残額です。過失相殺が見込まれる事案では、控除の前に相手方過失割合を反映させます。
Q2. 保険会社の担当者から電話で金額を言われました。事前提示として控除されますか。
「書面による事前提示」は、①受任前の提示②支払能力のある者が作成した書面(FAX・メールを含む)による提示③支払う金額が書面上に明記④その金額を支払う旨の意思が書面上に表示、の4要件を満たすものを指します。口頭のみで金額が書面に表れていない場合、この定義には当たりません。迷う場合は保険会社と協議してください。
Q3. 自賠責部分を控除したら、その分は取れなくなるのですか。
いいえ。別途手数料方式で請求できます(150万円以下は3万円、150万円超はその2%・消費税別)。ただし請求は1回のみで、受任前に依頼者本人が自賠責へ請求して受領済みの場合は発生しません。
Q4. 訴訟で相手方が全額棄却を求めてきました。控除はどうなりますか。
事前提示額については、訴訟での請求額から控除することなく着手金・報酬金を算定できます。一方、事案簡明な自賠責部分は、全額棄却答弁があっても経済的利益に含まれることにはなりません(LACマニュアル改訂第7版 Q&A3-⑥参照)。
Q5. 経済的利益125万円以下の報酬金20万円は、どの事案でも使えますか。
一律ではありません。2025年1月1日施行の新基準は、適用可能な保険商品・保険契約において施行日以降に委任契約を締結した事案から適用されます。保険商品ごとに約款の始期や固有の支払基準が異なるため、受任前に保険会社へ確認が必要です。また、事案簡明な自賠責相当部分を控除した結果として経済的利益が0円になる場合、この報酬金は請求できません(自賠責部分の手数料は請求できます)。
Q6. 被害者側として、弁護士費用が特約の枠内に収まるか事前に分かりますか。
ご相談の段階で損害額の見込みと控除項目を整理すれば、着手金・報酬金・手数料のおおよその合計は算出できます。標準的な上限は300万円ですので、多くの事案では枠内に収まります。超える見込みがある場合は、超過部分の扱いを委任契約書で明確にしたうえで受任するのが実務です。
まとめ
- LAC基準の経済的利益は「弁護士の委任事務処理により得られた額」。損害額そのものではない
- 控除3点セット=既払金/保険会社からの書面による事前支払提示額/事案簡明な自賠責請求部分
- 「書面による事前提示」は受任前・支払能力のある者の書面・金額の明記・支払意思の表示の4要件
- 控除した自賠責部分は手数料方式で別途請求できる(150万円以下3万円/150万円超2%・1回限り)
- 全額棄却答弁があれば事前提示額は算定基礎に戻るが、事案簡明な自賠責部分は戻らない(2025年1月改訂で明確化)
- 着手金は受任時の資料で算定し、相手方に請求する損害額が算定可能となった時点で追加着手金を協議する(同改訂)
弁護士費用特約は「あれば自己負担なし」と単純に語られがちですが、実際には経済的利益の組み方ひとつで金額も、保険会社との協議のスムーズさも変わります。弁護士法人ブライトでは、顧問先142社・所属弁護士の弁護士歴は平均13年以上という法人全体の知見を踏まえ、受任時の費用設計からご説明しています。通勤中の事故で労災との関係が問題になる事案にも、労災事故部と連携して対応しています。
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出典・参考
・日弁連リーガル・アクセス・センター「弁護士費用保険における弁護士費用の保険金支払基準」(2024年10月18日)第2条第3項・第4項・第6項、第3条
・LACマニュアル改訂第7版(2025年1月)Q&A3-③、3-④、3-⑤、3-⑥、3-⑦、3-⑧、3-⑨、3-⑪、3-⑫、3-⑬、3-2-①〜3-2-⑤、書式D・書式E別紙
※本記事は上記基準の内容を当所の実務理解に基づき整理したものです。金額はいずれも消費税別。適用の可否・具体的な取扱いは保険商品・保険契約により異なるため、個別事案では保険会社にご確認ください。
執筆:松本 洋明(まつもと ひろあき)弁護士(弁護士法人ブライト/大阪弁護士会)
交通事故案件を主に担当。後遺障害等級認定、保険会社との示談交渉、訴訟対応を数多く手がけています。
▶ プロフィール詳細
監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)代表弁護士(弁護士法人ブライト/大阪弁護士会)
企業法務から交通事故・労災まで幅広く担当。顧問先142社の実務を統括しています。
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