夏の暑さは年々厳しくなっており、屋外だけでなく屋内でも熱中症になり救急搬送されるケースが増えています。特に炎天下で作業を行う建設業や、冷房のない環境下で業務に従事する製造業の方の中には、「仕事中の熱中症は労災の対象となるのか」「熱中症となったら会社に責任を問えるのか」を知りたいという方もいるのではないでしょうか。
この記事では、熱中症が労災と認定されるための条件や労災の申請手続き、企業が行うべき安全対策などについて、弁護士が詳しく解説します。
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熱中症とは?その症状と危険性を知ろう
熱中症とは、高温多湿な環境下において、体温調節機能などが低下したり、水分塩分のバランスが著しく崩れたりすることにより発症する障害の総称です。重症度が上がると入院治療が必要となり、場合によっては後遺障害が残ったり死亡したりするケースもあるため、大変危険です。
以下に、熱中症の症状や重症度を一覧でまとめました。
手当 | 症状 | 手当 | |
Ⅰ度 | 熱失神 熱けいれん(筋けいれん) |
・顔面蒼白 ・脱水 ・吐き気 ・めまい、立ちくらみ ・急性の筋肉痛、こむら返り |
119番→応急手当 |
Ⅱ度 | 熱疲労 | ・口の渇き ・めまい ・頭痛 ・イライラする ・倦怠感 |
医療機関での診療が必要 |
Ⅲ度 | 熱射病 | ・意識がない ・けいれん発作 ・身体が熱い |
入院治療が必要 |
参考:「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」厚生労働省
厚生労働省が発表した「令和5年職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」によると、令和5年(2023年)に職場での熱中症による死亡者および休業4日以上の業務上疾病者の数は1,106人で、うち死亡者は31人となっています。
この死亡災害31件のうち、
●発症時・緊急時の措置の確認・周知していたことを確認できなかった事例は28件
●暑さ指数(WBGT)の把握を確認できなかった事例は25件
●熱中症予防のための労働衛生教育の実施を確認できなかった事例は18件
と記載されています。
これらのことを踏まえ、会社および従業員は、熱中症の危険性を認識するとともに、熱中症対策や緊急時の対応について把握しておく必要があると言えるでしょう。
熱中症発生時の適切な応急処置とは?
熱中症が発生したときの対応方法には、「涼しい場所へ移動する」「からだを冷やす」「水分補給をする」などがあります。ただし、自力で水が飲めない場合や意識がない場合は重症度が高いため、ただちに救急車を呼ぶことが大切です。
判断のポイントや行うべき対応については、以下のフローをご参照ください。
(引用:「熱中症が疑われる人を見かけたら」厚生労働省)
仕事中の熱中症が労災認定される条件とは?
労働基準法施行規則別表第1の2第2号8によって「暑熱な場所における業務による熱中症」は業務上の疾病とされており、仕事中に熱中症になった場合は労働災害と認められる可能性があります。
公益財団法人労災保険情報センターは、熱中症が労災と認定されるためには「一般的認定要件」と「医学的診断要件」を満たす必要があるとしています。
一般的認定要件
1. 業務上の突発的またはその発生状態を時間的、場所的に明確にし得る原因が存在すること 2. 当該原因の性質、強度、これが身体に作用した部位、災害発生後発病までの時間的間隔等から災害と疾病との間に因果関係が認められること 3. 業務に起因しない他の原因により発病(または増悪)したものでないこと |
医学的診断要件
1. 作業条件および温湿度条件等の把握 2. 一般症状の視診(けいれん、意識障害等)および体温の測定 3. 作業中に発生した頭蓋内出血、脳貧血、てんかん等による意識障害等との鑑別診断 |
実際には、「作業環境」や「労働時間」「作業内容」「本人の身体の状況および被服の状況」「作業場の温湿度」などをもとに、労働基準監督署が総合的に判断します。
参考:「問46_炎天下での日射病」公益財団法人労災保険情報センター
熱中症で労災申請をする具体的なプロセスと注意点
熱中症が労災と認定されると、労災保険から必要な補償を受けることができます。ここからは、熱中症で労災申請をする際のフローと注意点を解説していきます。
申請手続きの流れ
熱中症で労災認定された場合に受けることのできる、補償の種類と内容は以下のとおりです。
給付の種類 | 内容 |
---|---|
療養(補償)等給付 | 支払った治療費の還付金等 |
休業(補償)等給付 | 療養のため休業し賃金が支払われないときに、休業日数などに応じて支給される給付金 |
傷病(補償)等年金 | 療養開始から1年6カ月経過しても治ゆ(症状固定)しない場合などに支払われる年金 |
障害(補償)等給付 | 所定の障害が残ったとき、程度に応じて支給される年金または一時金 |
介護(補償)等給付 | 障害年金や傷病年金の受給者のうち、所定の介護を受けている人に支給される給付金 |
遺族(補償)等給付 | 労働者が労災で死亡した場合、遺族に支給される年金または一時金 |
葬祭料等(葬祭給付) | 労働者が労災で死亡した場合、葬儀を行う者などに支給される一時金 |
一般的な申請の流れを、以下で詳しくご紹介します。
1.会社に労災発生があったことを報告する
熱中症と思しき症状が見られたら、可能であれば会社に報告をしてから医療機関を受診しましょう。会社には労災事故が起こった際に遅滞なく正確に労災内容を労働基準監督署に報告する義務があることや、労働者が業務災害で4日以上休業する場合の最初の3日間について休業補償を行わなければならないことなどが理由です。
2.医療機関を受診する
「労災指定病院(労災保険指定医療機関)」を受診すると、被災労働者は窓口負担なく治療を受けることができます。労災指定病院とは、業務中や通勤中に労災があった場合の受診を推奨している病院のこと。労働者災害補償保険法施行規則第11条により、都道府県の労働局長が指定した医療機関を指します。
なお、労災指定病院以外を受診しても、療養(補償)等給付を受け取ることは可能です。ただし、一度窓口で治療費を全額負担する必要があります。
【関連記事】労災指定病院とは?指定病院以外を受診した場合の対応も紹介
3.請求書などを準備し、提出する
労災の申請は、基本的に被災した労働者本人が行います。医療機関を受診したら、休業期間や障害の有無などに応じて、必要な給付の請求準備を進めます。給付の種類によって申請書類(請求書)や添付書類が異なるため、注意しましょう。各請求書は、厚生労働省のサイトからダウンロード可能です。
なお、請求書の記載事項の中には、「医療機関の証明欄」「事業主の証明欄」などがあります。必要事項を記入したうえで、必要に応じて関係機関に証明欄への記載を依頼しましょう。
書類が全て整ったら、所轄の労働基準監督署に提出をします。本人による手続きが困難な場合は、会社の労災担当者が代わりに申請手続きを行うこともできます。
参考:「主要様式ダウンロードコーナー」「全国労働基準監督署の所在案内」厚生労働省
4.労働基準監督署による調査が行われる
書類が提出されると、労働基準監督署は請求書の内容に基づいて調査を行い、熱中症が労災に該当するかどうか判断します。調査では、必要に応じて被災労働者や会社に対して、現場の労働環境や発生状況に関する聞き取りなどが行われます。
5.労災の認定後、保険給付が行われる
労働基準監督署の調査によって熱中症が労災と認められると、被災労働者に対して、支給決定通知の交付や保険給付が行われます。
【関連記事】労災申請の流れと手続きの注意点を弁護士が詳しく解説!
労災申請時の注意点
労災保険の申請時にはいくつかの注意点があります。
給付には申請期限がある
一部の給付を除き、労災保険の補償の申請には時効があります。以下の申請期限を過ぎると給付そのものや給付を受ける権利が無効になってしまうため、注意しましょう。
時効 | 給付の種類 |
---|---|
2年 | 療養(補償)等給付、休業(補償)等給付、介護(補償)等給付、葬祭料等(葬祭給付) |
5年 | 障害(補償)等給付、遺族(補償)等給付 |
請求時効なし | 傷病(補償)等年金 |
健康保険は使えない
健康保険は労災と関係のない傷病に使用する保険のため、労災による熱中症の治療に健康保険を使用することはできません(健康保険法第55条1項)。
誤って健康保険を利用してしまうと、一時的に治療費の全額を自己負担することになります。医療機関を受診をする際には、窓口で仕事中に熱中症になったことを伝えましょう。
参考:「お仕事でのケガ等には、労災保険!」厚生労働省
事業主の証明がなくても申請はできる
「会社から労災保険を使わないように指示された」「事業主証明を拒否された」などの理由で事業主の証明を受けられず、保険給付の申請ができないのではと不安になることもあるかもしれません。
このようなケースでは、事業主の証明がなくても労働者本人による申請が可能です。所轄の労働基準監督署に相談し、手続きを行いましょう。
なお、会社が労災申請を行わない・認めないことは「労災かくし」と呼ばれ、労働安全衛生法に違反する犯罪です。
【関連記事】労災を会社が認めないとき労災申請はできる?認定の基準や会社が認めない理由とは
【関連記事】犯罪となる事業者の「労災かくし」について弁護士が解説
熱中症予防のための職場での対策とは?
職場における熱中症の予防対策について、厚生労働省は「職場における熱中症の予防について(通達)」「職場における熱中症予防対策マニュアル」などを公表し、事業主に記載事項を的確に実施するよう要請しています。
以下ではその記載事項について、簡潔にご紹介します。詳細や対策の具体例については、「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」などの厚生労働省の資料をご確認ください。
作業環境管理
WBGT値の低減等
・発熱体と労働者の間に、熱を遮ることのできる遮へい物などを設ける
・屋外に簡易な屋根や、ミストシャワーなどの散水設備の設置を検討する
・適度な通風または冷房を行うための設備を設ける
休憩場所の整備等
・近隣に冷房を備えた休憩場所や日陰などの涼しい休憩場所を設ける
・作業場所もしくはその近隣に氷、冷たいおしぼり、水風呂、シャワーなどの身体を適度に冷やすことのできる物品と設備を設ける
・水分および塩分の補給が定期的かつ容易に行えるよう飲料水の備え付けなどを行う
WBGT値とは
WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature:暑さ指数)値とは、暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数のこと。乾球温度や湿球温度、黒球温度を用いて評価した数値であり、実際の気温とは異なります。
WBGT値が33以上になると、「熱中症警戒アラート」が発表されます。
作業管理
作業時間の短縮等
・作業休止時間や休憩時間を確保し、高温多湿作業場所で連続して作業する時間を短縮する
・身体作業強度(代謝率レベル)が高い作業を避ける
・作業場所を変更する
熱への順化
・計画的に熱への順化(熱に慣れ当該作業に適応すること)期間を設ける
水分および塩分の摂取
・自覚症状の有無にかかわらず、水分および塩分の作業前後の摂取、作業中の定期的な摂取を指導する
・水分および塩分の摂取を確認するための表の作成、作業中の巡視における確認などにより、定期的な水分・塩分摂取の徹底を図る
・塩分などの摂取が制限される疾患を有する労働者については、主治医や産業医などに相談させる
服装等
・熱を吸収・保熱しやすい服装を避け、透湿性・通気性のよい服装を着用させる
・直射日光下では通気性のよい帽子などを着用させる
作業中の巡視
・定期的な水分および塩分の摂取にかかわる確認を行うとともに、労働者の健康状態を確認する
・高温多湿作業場所の作業中は巡視を頻繁に行う
健康管理
健康診断結果等に基づく対応
・健康診断結果で異常所見があると診断された場合には医師等の意見を聴き、必要に応じて就業場所の変更や作業の転換などの適切な措置を講ずる
・熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患を治療中の労働者については、産業医や主治医等の意見を勘案し、必要に応じて就業場所の変更や作業の転換などの適切な措置を講ずる
日常の健康管理等
・日常の健康管理について指導を行うとともに、必要に応じ健康相談を行う
・上記を含め、労働安全衛生法第69条に基づき健康の保持増進のための措置に取り組む
・熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患の治療中である労働者に対し、予防が必要であることを教示するとともに、熱中症の予防対応が必要な場合に事業者に申し出るよう指導する
労働者の健康状態の確認
・作業開始前に労働者の健康状態を確認する
・作業中は巡視を頻繁に行い、声をかけるなどして労働者の健康状態を確認する
・労働者にお互いの健康状態について留意させる
身体の状況の確認
・休憩場所等に体温計や体重計などを備え、必要に応じて体温・体重、その他の身体の状況を確認できるようにする
労働衛生教育
作業を管理する者及び労働者に対して、あらかじめ次の事項について労働衛生教育を行う
(1)熱中症の症状
(2)熱中症の予防方法
(3)緊急時の救急処置
(4)熱中症の事例
※(2)の事項には、(1)から(4)までの熱中症予防対策が含まれること。
救急処置
緊急連絡網の作成および周知
・あらかじめ病院や診療所などの所在地および連絡先を把握する
・緊急連絡網を作成し、関係者に周知する
救急措置
・熱中症を疑わせる症状が現われた場合は、救急処置として涼しい場所で身体を冷し、水分および塩分の摂取などを行う
・必要に応じて救急隊を要請する、または医師の診察を受けさせる
会社が果たすべき安全配慮義務とその重要性
労働契約法第5条により、事業主には労働者がその生命や身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をすることが義務付けられています。よって、会社は労働者が熱中症にならないよう、必要な対策を実施しなければなりません。
なお、労災保険の給付額は個々の状況や診断書、労働基準監督署の調査などに照らして算出されますが、労災事故による全ての損害を賄うことはできません。また、労災保険では労働者が受けた精神的苦痛に対する慰謝料も支払われません。
そのため、休業による損害の不足部分や慰謝料などについては、会社の安全配慮義務違反などを追及し、損害賠償を請求することができます。「熱中症予防のための職場での対策とは?」にて紹介した対策がなされていない場合には、安全配慮義務違反などが認められやすくなると言えるでしょう。
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職場の熱中症に関する相談は弁護士法人ブライトへ
仕事中の熱中症は、認定要件を満たせば労災と認められる可能性があります。労災保険の補償を受けられない部分については会社に損害賠償を請求できますが、労働者にとって有利に進めるには、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
弁護士法人ブライトでは、労災事故専門チームが被災した労働者を徹底的にサポートします。完全成功報酬のため、着手金は無料。相談料も原則3回まで無料ですので、まずは電話・メール・LINEにてお気軽にお問い合わせください。
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