業務上の怪我や病気で休業せざるを得なくなった場合に、労災保険から支払われるのが「休業補償給付(休業給付)」です。休業補償給付は休業する本人が労災保険に請求する必要があります。
この記事では、休業補償を受ける要件や支給金額、対象期間などを弁護士がわかりやすく解説するとともに、実際の請求方法や必要書類、労災保険で補償されない場合の対応などについてもご紹介します。
お問い合わせ、相談は無料です
(※お電話での受付は平日9:00~18:00となっております、それ以外の時間はメールやLINEでのお問い合わせをお願いします。また、お問い合わせいただいた事案について、SMSで回答させていただく場合がございますので、予めご了承ください。)
労災の休業補償とは
労災の休業補償とは、労災によって休業した労働者に対して、休業中の収入を補償するために労災保険(労働者災害補償保険)から給付されるもの。正式には、「休業(補償)等給付」といいます。
そもそも労災とは?
労災(労働災害)とは、労働者の業務中または通勤中に発生した怪我、疾病、死亡のこと。
労働者の業務上の負傷、疾病、障害及び死亡を「業務災害」といい、通勤途中での負傷、疾病、障害及び死亡を「通勤災害」といいます。
【関連記事】労災(労働災害)とは?補償内容や申請方法をわかりやすく解説
労災が発生した状況・場所によって給付の種類は2つに分かれ、業務災害で支払われるものを「休業補償給付」、通勤災害で支払われるものは「休業給付」と呼びます。受けられる補償内容は同一のため、この記事では休業給付も含めて「休業補償給付」として解説していきます。
休業補償給付が支給される要件
労災保険による休業補償給付の支給を受けるには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
①業務上の事由または通勤による負傷や疾病により療養している ②労働することができない ③賃金を受けていない |
上記全てに当てはまる期間が「休業日」とされ、休業した労働者(労災保険の被保険者)には、労災保険から休業補償給付が支払われます。
労災の休業補償の金額
労災保険の休業補償給付では、休業した4日目より、「休業補償給付」と社会復帰促進等事業である「休業特別支給金」の合計額が給付されます。
それぞれの金額は
●休業補償給付:給付基礎日額×(休業日数-3日)×60%
●休業特別支給金:給付基礎日額×(休業日数-3日)×20%
となり、労災保険の被保険者は合計80%の補償を受け取ることができます。
給付基礎日額とは?
給付基礎日額とは、原則的に労災発生日(あるいは医師により疾病の発生が確定した日)の直前3カ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数(休日も含む日数)で割った賃金額のこと。
ここでいう賃金とは、手取りではなく、税金や社会保険料などが引かれる前の総支給額(額面)です。ボーナスや特別手当など臨時で支払われるものは含みませんが、通勤手当や住宅手当などの通常支払われる手当は含めて算定します。
自分は実際にいくらもらえるのかと気になる方のために、具体的な例を用いて解説します。
例:賃金締切日が毎月末日、給与月額20万円、労災発生10月、休業日数30日間の場合
20万円×3カ月÷92日(7月〜9月の暦日数)≒6,521円73銭 ※1円未満の端数は切り上げのため、給付基礎日額は6,522円/日 ●休業補償給付:6,522円×60%=3,913円20銭 休業日数が30日の場合、初めの3日間は待期期間のため、休業補償日数は27日間 従って、5,217円×27日=140,859円が、受け取れる休業補償の総額となります |
参考:「休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続」厚生労働省
労災の休業補償の対象期間
休業補償の対象になる期間は、休業し、賃金を受けない日の4日目からです。労災発生の当日から3日目までは「待期期間」と呼ばれ、この3日間は労災保険の休業補償ではなく、労働基準法76条の定めに従えば事業主から平均賃金の60%が支払われます。
なお、待期期間中に会社から休業補償の支払いがあるとされているのは、「業務災害」のみです。「通勤災害」は事業主の支配下で発生するものではないため、事業主には休業補償を支払う義務がありません。この場合、本人(被保険者)の合意を前提として、待期期間に無給となることを回避するために有給休暇を消化するケースもあります。
休業補償給付の支払いが終了するタイミングについては、この後の「休業補償の補償期間はいつまで?」にて、詳しく解説します。
待期期間のカウント方法
労災が発生して最初の3日間は「待期期間」と呼ばれ、休業補償の給付はありません。この待期期間は給与支払いの有無を問わず、職場の公休日・年次有給休暇・欠勤などの休日も含みます。
待期期間の起算日は、「労働時間内に労災が発生し、早退して医療機関を受診した」場合には労災発生当日を1日目、「受診が所定の労働時間後」「残業中の労災」の場合は、労災発生の翌日を1日目としてカウントします。
休業補償の補償期間はいつまで?
労災の休業補償が給付される期間は、「業務上の負傷や疾病が治ゆするまで」とされています。3つの支給要件を満たしていれば支給はされるものの、休業している限りずっともらえるわけではありません。
治ゆとは
労災保険における「治ゆ」とは、これ以上治療を行っても効果が期待できない「症状固定」の状態のこと。「回復した状態」「完治」のみを意味する言葉ではありません。
なお、療養開始から1年6カ月を経過した日またはその日以降に、次の要件に該当するときは、傷病補償年金が支給されるため、休業補償給付は打ち切りとなります。
●負傷または疾病が治ゆしていない
●負傷または疾病による障害が傷病等級表の傷病等級に該当する
傷病等級と認められる症状例
傷病等級が認められるのは次のように重度の障害が残ったケースです
- 両目が失明している
- 両方の足首から先が無くなった
- 両手の指がすべて無くなった
もちろん、それ以外にも認められる症状はあるので、労災で怪我をした場合はお問合せください。
また、治ゆした後に一定の障害が残っているときは、障害補償給付を請求し、障害等級表の等級に応じて障害補償給付(年金または一時金)を受けることができます。
【関連記事】労災の症状固定前に弁護士に相談すべき理由とは?基礎知識や手続きについて解説
【関連記事】労働災害の後遺障害等級に応じた補償金額は?認定基準や手続きを解説
労災の休業補償給付の支給時期
休業補償給付の支給対象時期は、休業し賃金を受けない日の4日目からですが、4日目にすぐ給付金が支払われるわけではありません。
労働者が請求書類を労働基準監督署に提出し、支給・不支給が決定されるまでには、通常1カ月程度かかります。また、労災の発生状況や負傷状況などによっては労働基準監督署の審査に時間を要し、決定までにより時間がかかることもあります。
例えば、うつ病などの精神疾患や過労による脳・心疾患などの場合は、業務との関連性の調査に通常よりも時間を要するため、審査結果が出るまでに半年以上かかるケースもみられます。
【関連記事】労災保険の給付はいつから?休業が必要な場合の労災保険給付について解説
休業補償給付の請求方法と必要書類
休業補償給付は、休業した場合に必ず支給されるものではなく、労働者から請求したうえで、労働基準監督署の審査を経る必要があります。
基本的には、被災者である労働者が直接、請求書を提出して給付請求を行いますが、負傷状況などにより本人による手続きが困難な場合は、事業主が代行することも可能です。
労災の休業補償給付の請求は2年で時効となるので、休業を余儀なくされた場合には、すみやかに請求手続きを行いましょう。ここからは請求のフローについて解説します。
労働基準監督署に書類を提出
まずは、必要な書類を準備し、労働基準監督署に届け出ます。提出する書類は、労災の種類によって異なります。
「業務災害」で休業補償給付を請求する場合は、休業補償給付支給請求書(様式第8号)に①医療機関の証明、②事業主の証明を得て、管轄の労働基準監督署に提出します。「医療機関の証明」とは、請求書類内にある医師の記入欄のことで、別途診断書を添付する必要はありません。
「通勤災害」の場合には、休業給付支給請求書(様式第16号の6)により、休業給付を請求します。
労働基準監督署の調査と労災認定
労働基準監督署に請求書を提出したら、労働基準監督署が事故に関して労働者や事業主へ聞き取りなどの調査を行います。
労災保険給付の対象となる「業務上」の災害とは
●業務遂行性
●業務起因性
が認められる場合です。
「負傷や疾病が業務によるものか」「休業をする必要があるか」「保険給付額はいくらになるか」などを踏まえて、支給・不支給が決定されます。
なお、請求した休業補償給付に対し、不支給の決定がされた場合には、労働基準監督署を管轄する都道府県労働局の労働災害補償保険審査官に対して、不服申し立て(審査請求)をすることができます。請求できるのは、その処分があったことを知った日の翌日から起算して、3カ月以内です。
参考:「労災保険審査請求制度」厚生労働省
業務遂行性
業務遂行性とは、「労働者が労働契約に基づいて事業主の支配ないし管理下にあったか」を判断するものです。
例えば、事業場内での作業中はもちろん、休憩時間中、始業前、事業場内で行動している場合の災害でも業務遂行性は認められます。
業務起因性
業務起因性とは、「業務と負傷・傷病などの間に一定の因果関係があるか」です。
業務に従事している際の負傷については、一般に業務上の災害と認定されます。
うつ病や過労死などは、業務起因性が問題となることが多いです。このような疾病と業務との関連性を考えるにあたっては、労働者の労働時間や業務の性質など様々な事情を考慮し、労働者の日頃の習慣、体質、性格などの個人的素因も加味して判断されることになります。
事業主の報告義務
労災事故が起こった場合、事業主には、遅滞なくその内容を正確に労働基準監督署に報告する義務があります。休業4日以上または死亡事故の場合は、労働者死傷病報告(様式第23号)の提出による報告が必要です(労働安全衛生法100条1項、同規則97条1項)。
これを怠ると、いわゆる「労災隠し」として50万円以下の罰金が課されることがあります。(労働安全衛生法第120条第5項)
それだけでなく、労災の休業補償給付の待期期間である最初の3日間については、事業主が労働基準法に基づいて休業補償を行わなければなりません。
事業主が適切に事故報告をしない場合や、労災保険の請求手続きに協力してくれない場合には、弁護士に相談しましょう。
【ケース別】この場合の休業補償はどうなる?
労災の休業補償給付について、よくある疑問をまとめました。自身が請求する際の参考にしてください。
休業中に退職した場合
休業補償給付を含む労災保険給付は、療養期間中に退職した場合でも支給されます。退職後に引き続き休業を余儀なくされた場合でも、休業補償給付は請求が可能です。
複数の就業先がある場合
昨今の副業・兼業を取り巻く状況を踏まえて労働者災害補償保険法が改正され、「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和2年法律第14号)」が成立しました。
これまでの給付基礎日額は、労働災害が発生した事業場の賃金を基礎として算定していましたが、法改正により「各就業先の賃金を合算した額を基礎として給付基礎日額が決定」されることになっています。
また、脳や心臓疾患、精神障害などについても、1つの事業場のみの業務上の負荷(労働時間、ストレスなど)を評価して、業務災害にあたらない場合に、複数の事業場の業務上の負荷を総合的に評価して、労災認定できるかが判断されます。これにより労災認定がされると、複数業務要因災害を支給事由として、休業補償給付などの労災保険給付が支給されます。
パートやアルバイト、個人事業主の休業補償
労災保険は、正規・非正規雇用を問わず、パートやアルバイトを含めた従業員全員に適用されます。したがって、アルバイト従業員であっても、労災に遭い休業した場合は休業補償給付を請求することができます。
事業者には、従業員(労働者)を1名でも雇用していれば労災保険に加入する義務があります。一方で、事業主・自営業者・同居の家族従業者などは雇用関係が存在しないため、原則として労災保険は適用されません。
休業補償と有給休暇のどちらを使うべき?
労災に遭い、休業した場合には、有給休暇を取得するのではなく休業補償給付を請求します。
有休休暇を取得した日については100%の賃金の支払いを受けられるものの、「賃金の支払いを受けない」という支給要件を満たせず、その期間の休業補償給付が支給されなくなってしまうからです。
会社が倒産したら?
会社が倒産、あるいは事業主が行方不明になり、会社から待期期間の休業補償を受ける見込みがない場合、一定の要件を満たせば待期期間3日分に相当する「休業補償特別援護金」を受けられます。労働者本人(被保険者)が直接、管轄の労働基準監督署へ申請してください。
労災保険で補償されない損害
労災による全ての損害が、労災保険で補償されるわけではありません。補償されない部分は、事業主に対して民事上の損害賠償金を請求しましょう。
ここでは、事業主に損害賠償金を請求できるケースについて簡単に説明します。
積極損害
積極損害とは「事故がなければ発生しなかった費用」のこと。例えば、「自己負担した治療費や入院費」「通院のための交通費」、必要に応じて発生する「介護費」や「住宅・車の改造費」などがあります。
休業損害
労災保険から支払われる休業補償給付は、給与基礎日額の80%相当額を基準とするもので、残りの休業損害は、事業主に損害賠償として請求することが可能です。
なお、労災保険から80%の補償を受けた場合でも、休業特別支給金(労働者災害補償保険法29条の社会復帰促進等事業)の20%分は事業主に対する請求額から控除する必要はないため、事業主に対しては、休業損害として40%分を請求することができます。
慰謝料
慰謝料とは、労災事故によって労働者が受けた精神的な苦痛に対して支払われる賠償金のこと。
労災保険給付には、休業補償給付のほかにもさまざまな補償給付がありますが、いずれからも慰謝料は支払われません。入院した場合や後遺障害が残った場合は、事業主から慰謝料を受け取れる可能性があります。
慰謝料の目安は、こちらの記事をご参照ください。
【関連記事】労災の休業補償とは?補償期間や請求手続き、慰謝料についても解説
逸失利益
逸失利益とは、労災に遭わなければ失うことがなかった、将来の収入をいいます。
後遺障害が残った場合には、労災保険から障害補償給付が支払われますが、労災がなければ得られたであろう収入の一部にすぎません。そこで、得られる予定だった収入の補償を受けるために、逸失利益を事業主に請求するのです。
しかし、労災の後遺障害による逸失利益の計算は、労働者の職種や後遺障害の種類などのほか、労働能力の低下を数値化した労働能力喪失率などの専門知識が欠かせず、被災者自ら算出するのは困難です。逸失利益の請求は、早い段階で弁護士に依頼することをおすすめします。
【関連記事】逸失利益とは?計算方法と職業別の具体例をわかりやすく紹介
労災の休業補償給付の相談は弁護士へ
業務中あるいは通勤中に怪我や病気にかかり、休業した場合には、労災保険から休業補償給付が支払われる可能性があります。請求には時効があるので、今後の生活のためにも、早い段階で請求することが大切です。
一方で、労災保険では休業損害の全額の補償や慰謝料の支払いは受けられないため、不足分は事業主側に対して損害賠償請求をする必要があります。
損害賠償請求には、専門知識が必要不可欠です。また、労災の保険給付には、休業補償給付以外にも「療養補償給付」「障害補償給付」「遺族補償給付」「葬祭料」「介護補償給付」などがあり、それぞれ申請期限や必要書類も異なるため、傷病中に全てを自分で行うのは大変です。弁護士に依頼することで、サポートを受けながら申請することができます。
「労災事故専門チーム」がある弁護士法人ブライトでは、労災被害について、無料相談をお受けしています。お問い合わせは電話のほか、メールやLINEでも可能です。まずはお気軽にご相談ください。
お問い合わせ、相談は無料です
(※お電話での受付は平日9:00~18:00となっております、それ以外の時間はメールやLINEでのお問い合わせをお願いします。また、お問い合わせいただいた事案について、SMSで回答させていただく場合がございますので、予めご了承ください。)