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仕事中の怪我に労災保険は使わない方がよい?正しい対応方法とは

通勤中や勤務中の怪我は、要件を満たせば基本的に労災と判断されますが、怪我の程度が軽い場合や周囲への迷惑などが気になる場合など、労災を申請せずに医療機関を受診したいと考える方もいるでしょう。

しかし、労災保険を使わないことで生じるリスクもあるため、使用しないデメリットを把握し、適切に対応することが必要です。

この記事では、労災保険の概要や労災保険を使わないことによる影響、申請手続きなどについて解説します。記事の最後で「仕事中の怪我についてよくあるQ&A」も紹介していますので、困ったときの参考にしてください。

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ちょっとした怪我も労災の対象になる

仕事中や通勤中に怪我をしてしまった際、「症状が軽いので労災保険を使うまでもない」「自分の不注意で転んでしまっただけなので、労災保険は使えない」と考えてしまう方もいるかもしれません。しかし、骨折などに至らないような軽い怪我であっても、労災の認定要件を満たしている場合は、基本的に労災保険が適用されます

労災(労働災害)には2つの種類があり、負傷・疾病・障害および死亡が業務上のものであれば「業務災害」、通勤途中であれば「通勤災害」といいます。(労働者災害補償保険法第7条1項1号および3号)

業務災害と通勤災害では、労災保険の申請書類が異なるほか、事業主の災害補償責任の有無においても違いがあります。業務災害の場合は、労働基準法で災害補償が義務化されており、事業主は待期期間(休業(補償)給付の対象となるまでの3日間)の休業補償を行わなければなりません。一方で通勤災害の場合には、事業主に休業補償の義務はありません。

ここからは、業務災害と通勤災害それぞれの認定要件を見ていきましょう。

業務災害の認定要件

仕事中に発生した傷病が業務災害と認定されるかは、「業務遂行性」と「業務起因性」が認められるかどうかで判断されます。

業務遂行性

業務遂行性とは、「業務を遂行しているときに起きた傷病であること」です。事業主の支配下・管理下にあり、業務に従事している場合に起きた災害であることを満たす必要があります。

業務起因性

業務起因性とは、「怪我や病気の原因が業務にあること」。業務と発生した傷病との間に一定の因果関係が認められる必要があります。仕事中はもちろん、休憩中や始業前などでも、一般的に業務起因性は認められます。

例えば「書類を裁断する際にカッターで指先を切った」「オフィス内の階段で転んで膝を打ち、軽い打撲を負った」というようなちょっとした怪我であっても、業務遂行性と業務起因性を満たしていれば、労災保険が適用されます。

一方で、次に該当する場合は業務災害とは認められません。

●労働者が就業中に私用(私的行為)、または業務を逸脱する恣意的行為をしていて、それが原因となって災害を被った場合
●労働者が故意に災害を発生させた場合
●労働者が個人的なうらみなどにより、第三者から暴行を受けて被災した場合
●地震、台風など天災地変によって被災した場合(事情がある場合を除く)

また、例えばパワハラや過重労働によりうつ病になったなどの精神疾患は、業務に起因することを客観的に証明するのが難しく、労災認定が困難です。

【関連記事】業務災害とは?労働災害との関係や通勤災害との違い、対象の保険給付を解説 
【関連記事】労災認定されないケースとは?判断基準や不服の場合の対応

通勤災害の認定要件

通勤中は事業主の支配下にないため、業務遂行性による怪我とは認められませんが、業務と密接な関係があることから、「通勤災害」として別途保護されています。

通勤とは

就業に関し、

  • 住居と就業の場所との間の往復
  • 就業の場所から他の就業の場所への移動
  • 単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動

を、合理的な経路および方法で行うことをいい、業務の性質を有するものを除くとされています。

参考:「労災保険給付の概要(p.3 通勤災害について)」厚生労働省

以下のケースは厚生労働省令により「逸脱・中断の例外」と定められているため、最小限度の範囲で行う場合に限り、逸脱または中断の間を除き、合理的な経路に戻った後は再び「通勤」として取り扱われます。よって、これに該当する場合での怪我は、通勤途中の労災と認められる可能性があります。

●公衆トイレ使用や、経路上での飲料購入といった些細な行為
●日用品の購入
●選挙の投票
●医療機関への通院
●要介護状態にある家族の介護 など

一方、「映画館やパチンコ店などに入る」「飲酒のために長時間店舗に滞在する」などの行為は通勤とは認められず、労災保険も適用されません。

【関連記事】通勤中の事故は労災保険の対象?「通勤災害」の認定要件や申請フローなどを解説

労災保険で受けられる給付の種類

労災保険制度は、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行い、あわせて被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。

労災に遭った場合、労災保険で受けられる補償(給付)には、主に以下の7つがあります。

補償の種類 内容
療養(補償)等給付 支払った治療費の還付金等
休業(補償)等給付 療養のため休業し賃金が支払われないときに、休業日数などに応じて支給される給付金
傷病(補償)等年金 療養開始から1年6カ月経過しても治ゆ(症状固定)しない場合などに支払われる年金
障害(補償)等給付 所定の障害が残ったとき、程度に応じて支給される年金または一時金
介護(補償)等給付 障害年金や傷病年金の受給者のうち、所定の介護を受けている人に支給される給付金
遺族(補償)等給付 労災で死亡した場合、遺族に支給される年金または一時金
葬祭料等(葬祭給付) 労災で死亡した場合、葬儀を行う者などに支給される一時金

なお、傷病年金と休業(補償)給付を同時に受け取ることはできません。労災発生から1年6カ月が経過しても傷病が治らず、障害の程度が傷病等級に該当するような症状が残った場合に、休業補償給付に代わって傷病年金が支給されます。

【関連記事】労災(労働災害)とは?補償内容や申請方法をわかりやすく解説

また、労災保険給付では精神的苦痛に対する慰謝料などは支払われないため、慰謝料については会社に損害賠償請求を行う必要があります。

【関連記事】労災で慰謝料請求はできる?請求方法や時効などについて弁護士が解説

労災保険を使わないことは可能

「会社に迷惑をかけたくない」「会社から治療費を全額支払うと言われた」などの理由で、労災保険の使用を希望しないこともあるかもしれません。結論として、業務中または通勤中に怪我をした場合に、労災保険を使わないという選択をすること自体は可能です。被災者は労災保険のほか、自賠責保険、任意の生命保険などを利用(または併用)することもできます。

しかし、労災保険を使用しないことによるデメリットも多く存在するため、基本的には労災保険を使って治療することをおすすめします

労災保険を利用しないことによる影響

ここからは、なぜ労災保険を使用した方がよいのかについて、詳しく説明していきます。

健康保険は全額自己負担になる

健康保険は、労災とは関係のない傷病に対して支給されるものです。そのため、労災による怪我の治療に、健康保険を使用することはできません(健康保険法第55条1項)。

労災による怪我であるにもかかわらず、誤って健康保険を利用してしまうと、一時的に治療費の全額を自費で負担することになってしまいます。健康保険から労災保険への切り替えや申請手続きには時間や手間がかかるため、余計な労力を費やすことにもなります。

また、大きな怪我や通院期間が長くなった場合は、一時的であっても負担する医療費が高額になることが予想されるため、医療機関を受診をする際には受付時に労災による怪我であることを伝えましょう。

誤って健康保険を使用してしまった場合の対処方法は、後述の「Q:健康保険で治療を受けてしまった場合は?」をご覧ください。

十分な補償を受けられない可能性がある

労災保険では治療費以外の部分も補償の対象ですが、労災保険を使わない場合、十分な補償を受けられない恐れがあります。

労災保険の補償には、被災者が休業した場合に4日目から給付される「休業(補償)等給付」のほか、「障害(補償)等給付」「介護(補償)等給付」「傷病(補償)等年金」などがあります。これらを受けるには当然、労災と認定されることが前提であり、労災の申請をしなければ補償を受けられません。

「治療費は支払われるが休業中の給与は支払われない」「後遺障害が残った場合に給付が受けられない」といったことのないよう、労災保険を使用して必要な補償を受けることをおすすめします。

労災かくしにつながる恐れがある

労働安全衛生法第100条および労働安全衛生規則第97条により、事業主には労働者が業務に起因して怪我を負い4日以上休業した、または死亡した場合、管轄の労働基準監督署に「労働者死傷病報告(様式第23号)」を提出することが義務付けられています(休業が4日未満の場合は様式第24号)。

会社が労災発生を報告しない、あるいは書類に虚偽の内容を記載して提出した場合、その行為は「労災かくし」となり、50万円以下の罰金が科せられます。また、健康保険を使えないと知りながら労災を伏せて健康保険を使用した場合は、保険証の不正使用となり、詐欺罪に問われる恐れもあります。

よって、会社が被災した労働者に対して「軽傷だから労災ではない」「会社が治療費を出すから健康保険で受診するように」などと言うのは犯罪に当たる可能性があります。

「会社に迷惑をかけたくない」などの理由で被災者自身が労災保険の利用を希望しない場合であっても、会社には労災事故を報告する義務があるため、自社が労災かくしをすることにならないよう、怪我があったことは必ず会社に伝えましょう。

労災保険の申請手続き

労災保険の申請は、基本的に被災した労働者が自分で行います。ただし、状況によって本人による手続きが難しい場合には、事業主が労働者の申請手続きを助力するよう、法律で義務付けられています(労災保険法施行規則23条1項)。一般的な申請手続きの流れは以下の通りです。

申請手続きの一般的な流れ

1.会社に労災発生を報告
2.医療機関を受診
3.請求書や添付資料などを労働基準監督署へ提出
4.労働基準監督署による調査
5.労災認定・給付支給の決定
6.補償給付の支払い開始

給付の種類ごとの認定要件や必要な書類など、申請についての詳しい内容は、下記の記事をご参照ください。

【関連記事】労災申請の流れと手続きの注意点を弁護士が詳しく解説!

仕事中の怪我についてよくあるQ&A

ここからは、仕事中の怪我や労災保険について、よくあるQ&Aを紹介します。

参考:「労災保険に関するQ&A」「お仕事でのケガ等には、労災保険!」厚生労働省

Q:パートやアルバイトでも労災保険は適用される?

労災保険は、雇用形態に関係なく、労働者を1人でも雇用している事業主に加入が義務付けられています。そのため、正社員だけでなくパートやアルバイトであっても、仕事中もしくは通勤中に怪我をした場合は労災保険が適用されます。

また、労災保険の適用では労働者の国籍も問わないため、外国人労働者も日本人と同様の申請手続きで労災保険の補償を受けることが可能です。

Q:健康保険で治療を受けてしまった場合は?

誤って健康保険を使って受診した場合の対応は、医療機関によって異なります。まずは、治療を受けた病院で「健康保険から労災保険への切り替えができるかどうか」を確認してください。

<切り替えができる場合>
受診した病院に労災であることを申し出て、業務災害の場合は「様式第5号」、通勤災害の場合は「様式第16号の3」の請求書を、窓口に提出してください。自費で支払った医療費が返金されます。

具体的な返金手続きは医療機関によって異なるため、ご自身が治療を受けている病院へお尋ねください。  

<切り替えできない場合>
一時的に、医療費を全額自己負担で支払ったうえで、労災保険に医療費を請求します。

まずは健康保険組合または協会けんぽに今回の怪我が労災であることを申し出て、送付される返還通知書等をもとに健康保険で受診した医療費(薬剤費)を返納しましょう。

返納後、業務災害であれば「様式第7号(1)」、通勤災害であれば「様式16号の5(1)」に必要事項を記入し、「返納金の領収書」「医療機関の領収書」「レセプトのコピー」と併せて労働基準監督署に提出します。
一時的に医療費を全額負担するのが困難な場合は、労働基準監督署へ相談してください。

なお、薬局で薬を受け取っている場合も、かかった費用は労災保険で補償されます。病院と同様、薬局の切り替え手続きも行いましょう。詳しくは、厚生労働省のリーフレットなどをご覧ください。

参考:「お仕事でのケガ等には、労災保険!」「労災保険におけるQ&A(2-1 健康保険証を使って受診してしまいました。どうしたらよいでしょうか)」「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」厚生労働省

Q:会社に労災保険を使わないように言われたら?

会社が、労災保険を使わないように指示をしたり、事業主証明を拒否したりする場合は、事業主の証明がなくても労働者本人による申請が可能です。申請書類は、厚生労働省のサイトや労働基準監督署から入手できます。

会社が合理的理由なく労災申請を行わない・認めないことは「労災かくし」であり、労働安全衛生法に違反する犯罪です。お困りの際は、弁護士にご相談ください。

【関連記事】労災を会社が認めないとき労災申請はできる?認定の基準や会社が認めない理由とは

Q:会社が労災保険に加入していない場合は?

労災発生の時点で会社が労災保険に加入していなかったとしても、労災の申請手続きは可能です。労災保険は事業主の加入意思に関係なく、労働者を1人でも雇用していれば適用されるため、労働者は保険による給付を請求できます。

厚生労働省のサイトや労働基準監督署から必要書類を入手して、申請してください。

仕事中の怪我に関することは弁護士に相談しよう

仕事中や通勤中の怪我も認定要件を満たしていれば労災になるため、自己判断や会社都合で「使わない」「使えない」と判断する前に、法律・医学・労務の知識が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士法人ブライトは、労災事故専門チームが、「会社に慰謝料や損害賠償を請求したい」「後遺症が残りそう」「交通事故で加害者側の保険会社とやりとりが必要」などの場合や、「会社が労災を認めない」といった労働問題にも対応します。相談は原則3回まで無料で、弁護士費用は原則として完全成功報酬制を採用しているため、着手金も無料です。

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笹野 皓平

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