個人事業主・フリーランスへ業務委託する企業が増えるなか、発注側が守るべきルールは2024年11月のフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)施行、そして2026年1月の下請法改正(法律名も「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」=中小受託取引適正化法へ変更)で大きく変わった。システム開発・AI開発をフリーランスエンジニアへ外注する場面を念頭に、発注側企業が押さえるべき現行ルールを整理する。
この記事の結論
- フリーランス新法には資本金要件がない=従業員のいない個人・一人法人へ発注すれば、発注側の規模を問わず取引条件の明示義務がかかる
- 旧下請法は2026年1月から「中小受託取引適正化法(取適法)」へ=資本金基準に従業員数基準(製造委託等300人・情報成果物/役務100人)が追加され、手形払いは支払遅延扱いに
- 「月末締め翌々月末払い」は両法とも違法=報酬・代金は給付の受領日から起算して60日以内に支払期日を置く
適用判定は「2本立て」で考える
個人事業主への発注に適用されうる法律は2本ある。まずフリーランス新法、次に取適法(旧下請法)の順で判定するのが実務的だ。両方に該当する取引も多く、その場合は両方を守る必要がある。
①フリーランス新法——資本金要件なし・ほぼすべての発注者が対象
保護対象の「特定受託事業者」は、従業員を使用しない個人と、代表者1人だけの法人(一人法人)(同法2条1項)。発注側に資本金要件はなく、取引条件の明示義務(3条)は従業員のいない発注者にも適用される。従業員を使用する発注者(特定業務委託事業者)には、さらに次の義務がかかる。
- 報酬支払期日(4条):給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に設定(検査をするかどうかを問わない)
- 禁止行為(5条):1か月以上の継続的な業務委託では、受領拒否・報酬の減額・返品・買いたたき・不当なやり直し等が禁止
- 就業環境の整備:募集情報の的確表示(12条)、6か月以上の継続的業務委託における妊娠・出産・育児・介護への配慮(13条)、ハラスメント対策の体制整備(14条)
- 中途解除の予告(16条):6か月以上の継続的業務委託を解除・不更新とする場合、原則30日前までに予告
②取適法(旧下請法)——2026年1月から従業員数基準が追加
従来の下請法は資本金の額だけで適用を判定していたため、「資本金を1,000万円以下に抑えれば適用を受けない」という構造的な抜け道があった。2026年1月施行の改正でこれが塞がれ、資本金基準に従業員数基準が追加された(同法2条8項)。用語も「親事業者→委託事業者」「下請事業者→中小受託事業者」に改められている。
| 委託の類型 | 資本金基準(従来から継続) | 従業員数基準(2026年1月新設) |
|---|---|---|
| 製造委託・修理委託・プログラム作成等の政令指定委託 | 3億円超→3億円以下/1,000万円超→1,000万円以下 | 常時使用する従業員300人超→300人以下 |
| 上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託 | 5,000万円超→5,000万円以下/1,000万円超→1,000万円以下 | 常時使用する従業員100人超→100人以下 |
個人事業主には資本金の概念がないため、受託側としては常に「1,000万円以下」側に該当しうる。発注側は自社の資本金と従業員数の両方を見て判定する必要がある。
発注側(委託事業者)の主な義務——取適法
①発注内容の明示・書面等の交付(4条)
発注したら直ちに、給付の内容・代金額・支払期日・受領場所等を書面または電子データで明示しなければならない。口頭発注は違反。
②60日以内の支払期日(3条)
支払期日は、検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に定める。「月末締め翌々月末払い」のような60日超サイトは違法となる。
③遅延利息(6条)
支払が遅れたときは、受領日から起算して60日を経過した日から実際に支払をする日までの期間について、年14.6%の遅延利息を支払う。
④禁止行為(5条)——手形払いの禁止と「協議に応じない一方的決定」の禁止が加わった
受領拒否・代金減額・買いたたき・不当返品・購入強制・報復措置等の従来の禁止行為に加え、2026年1月改正で次の2点が明確化された。
- 手形払いの禁止:手形の交付は「支払期日までに支払わないこと」に含まれると明記され、代金は期日までに現金化できる手段で支払う必要がある
- 協議に応じない一方的な代金決定の禁止:費用が変動したのに、中小受託事業者からの価格協議の求めに応じず、または必要な説明をせずに一方的に代金額を決めることが禁止行為になった
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当事務所への相談で実際に目立つのが、開発の外注先(フリーランスエンジニア・小規模開発会社)との契約書に、次のような条項がそのまま残っているケースだ。フリーランスエンジニアへの開発委託は情報成果物作成委託にあたり、両法の適用対象になりやすい。
- 「報酬は月末締め翌々月末払い」——受領日から最大90日程度となり、フリーランス新法4条・取適法3条の60日ルールに違反する。ひな型の支払サイトを機械的に流用している企業が非常に多い
- 「発注者の事前承諾のない作業は無償とする」——実際には指示に基づいて行われた作業の対価を払わない運用になれば、報酬の減額・買いたたき・不当なやり直しの規制と衝突しうる
- 常駐させて発注側が直接指示——契約の名目にかかわらず偽装請負(労働者派遣法違反)と評価されるおそれがある。業務委託の偽装請負|5つの判定基準と是正実務を参照
AI開発の外注では、これらに加えて性能保証・検収・学習済みモデルの権利帰属という固有の論点が重なる。契約書の設計はAI開発委託契約書のチェックポイント、AI関連の法律問題の全体像はAI開発・AI活用の法律問題 総合ガイドで解説している。
発注側の運用整備
- フリーランス新法・取適法該当性の判定フロー:自社の資本金・従業員数と発注先の属性で契約締結前に判定(従業員数基準の追加を反映すること)
- 標準発注書の整備:必要記載事項を網羅したフォーマット
- 支払サイトの総点検:「翌々月末払い」型の契約が残っていないか。60日以内ルールを経理システムに組み込む
- 手形・長期サイトの支払手段の見直し:期日までに現金化できる手段へ
- 禁止行為の社内研修:購買・調達・開発部門の発注担当者への定期研修
- 苦情・相談窓口の設置:受注側からの苦情を吸い上げる体制
受注側(個人事業主)の防御策
- 発注時に書面(または電子データ)の交付・取引条件の明示を要求
- 支払サイトを契約書で明示(受領日から60日以内か確認)
- 減額・買いたたき・無償のやり直し要求を受けたら書面で記録
- 下請かけこみ寺・公正取引委員会への相談
- フリーランス・トラブル110番(厚労省委託)等の相談窓口の活用
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