少数株主からの株式買取請求|行使要件・価格決定・実務対応

「組織再編に反対する少数株主から株式買取請求を受けたが、買取価格をどう算定すべきか」「事業承継後に小規模株主との関係を整理したいが、強制買取の手段はあるか」「特定支配株主による少数株主の締め出しを検討している」——中小企業のオーナー・上場企業の財務責任者から寄せられる、株主構成最適化の典型的なご相談です。

このページでは、約120社の顧問契約を担当する弁護士法人ブライトが、少数株主からの株式買取請求と特別支配株主からの株式売渡請求について、行使要件・価格決定・買取手続・税務面の論点まで実務観点で解説します。

株式買取請求権は、組織再編・事業譲渡・定款変更等で「会社の重要事項」に反対する少数株主が、会社に対して公正な価格での買取を強制できる制度です。一方、特別支配株主による売渡請求(スクイーズアウト)は、9割超の支配株主が少数株主を強制的に締め出す手段です。両者は方向性が逆ですが、価格決定や裁判手続の構造は類似しています。

この記事でわかること

  • 株主買取請求権の発生事由(組織再編・事業譲渡・定款変更)
  • 反対株主の手続要件(事前通知・反対通知・買取請求)
  • 買取価格の算定(純資産方式・DCF・株価連動方式)
  • 特別支配株主からの株式等売渡請求(スクイーズアウト)
  • 裁判所による価格決定手続と実務

この記事のポイント

  • 買取請求権は「公正な価格」での買取を会社に強制する強力な少数株主権
  • 反対株主の手続要件(事前通知・議決権不行使等)を満たさないと権利消滅
  • スクイーズアウトは9割超支配株主が少数株主を強制締め出しできる制度

和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士

弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒

専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生

株主買取請求権の発生事由

組織再編による発生

組織再編に反対する株主は、会社に対して株式買取請求権を行使できます。

  • 合併(吸収合併・新設合併)
  • 会社分割(吸収分割・新設分割)
  • 株式交換・株式移転
  • 株式交付
  • 事業譲渡(重要な事業の全部または一部の譲渡)

簡易合併・略式合併・新設分割等の特殊形態には買取請求権が発生しないケースもあります。詳細は関連記事「簡易新設分割の実務」をご参照ください。

定款変更による発生

定款変更で株主に重大な不利益が生じる場合、買取請求権が発生します。

  • 株式の譲渡制限を新設する定款変更
  • 全部取得条項付株式に変更する定款変更
  • 取得条項付株式に変更する定款変更
  • 種類株式の内容変更で当該種類株主に損害を及ぼすおそれがある変更

その他の発生事由

  • 譲渡制限株式の譲渡承認請求が拒絶された場合(会社法140条)
  • 相続人等に対する売渡請求(会社法176条)
  • 所在不明株主の株式売却制度(会社法197条)
  • 支配株主による株式等売渡請求(会社法179条)

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反対株主の手続要件

事前通知の要件

反対株主が買取請求権を行使するには、以下の手続を厳格に踏む必要があります。

  • 会社からの事前通知(組織再編実施日の20日前まで)
  • 反対株主による反対通知(株主総会前)
  • 株主総会での反対の議決権行使または不行使
  • 買取請求の期間内の請求(効力発生日の20日前から効力発生日まで)
  • 買取請求書面の提出

議決権を行使できない株主の特例

議決権を行使できない株主(議決権制限株式の保有者・基準日後の株主等)にも買取請求権が認められる場合があります。

  • 株主総会での議決権行使を要件としないケース
  • 事前通知のみで足りる手続
  • 議決権制限株主の特殊な保護

手続違反による権利消滅

反対株主の手続要件を満たさない場合、買取請求権は消滅します。

  • 事前通知をしないまま株主総会で賛成した場合
  • 買取請求期間を徒過した場合
  • 請求書面の不備(株式数の特定不足等)
  • 請求後の買取請求の撤回(原則不可・会社の同意必要)

買取価格の算定

「公正な価格」の判断基準

買取価格は会社と株主の協議で決定しますが、合意できない場合は裁判所が「公正な価格」を決定します。

  • 組織再編によるシナジー効果が反映されるべき場合の「ナカリセバ価格+シナジー分配」
  • シナジー効果がない事案では「ナカリセバ価格」(組織再編がなかったとした場合の株価)
  • 市場価格の参照(上場会社の場合)
  • 事業価値・純資産価値・収益価値の総合的判断

主な評価方法

  • 純資産方式(簿価純資産法・時価純資産法)
  • 収益還元方式(DCF・収益還元法)
  • 市場株価方式(直近市場価格・期間平均値)
  • 類似会社比準方式
  • これらの折衷

非公開会社の評価の難しさ

非公開会社(中小企業)の株式評価は、市場価格がないため特有の難しさがあります。

  • 過去の取引事例の参照困難
  • 事業価値評価の専門家意見書の活用
  • 支配権プレミアムの取扱い(少数株主の場合は通常控除)
  • 非流動性ディスカウントの適用
  • 事業承継税制との関連

特別支配株主からの株式等売渡請求

スクイーズアウトの制度(会社法179条以下)

9割以上の議決権を有する特別支配株主は、少数株主全員に対して株式の売渡を請求できます。

  • 特別支配株主の要件:総株主の議決権の10分の9以上を保有
  • 対象会社の取締役会承認
  • 売渡請求の通知(取得日の20日前まで)
  • 売渡対象株主全員の株式を一括取得
  • 少数株主の同意は不要(強制取得)

少数株主の救済

強制取得される少数株主には以下の救済手段が提供されます。

  • 売渡株式等の取得の差止請求(会社法179条の7)
  • 売渡株式等の取得の無効の訴え(会社法846条の2)
  • 裁判所への売買価格決定の申立て(会社法179条の8)
  • 正当な事由が認められる場合の対抗手段

スクイーズアウトの実務的活用

  • 非公開化(プライベート化)目的
  • 事業承継時の株主構成最適化
  • 意思決定の迅速化
  • 少数株主との情報共有負担の軽減
  • M&A 後の100%子会社化

裁判所による価格決定手続

申立ての主体と期間

会社と株主の協議で買取価格が合意できない場合、裁判所に価格決定を申立てできます。

  • 申立期間:効力発生日から30日以内に協議が整わない場合、その後30日以内に申立て
  • 申立人:株主または会社のいずれも
  • 専属管轄:本店所在地の地方裁判所
  • 非訟手続として進行(民事訴訟ではない)

裁判所手続の進行

  • 双方の主張・証拠提出
  • 裁判所による事業価値評価専門家の選任(鑑定)
  • 事実関係の調査・関係者尋問
  • 裁判所決定までの期間:通常6ヶ月〜2年
  • 不服の場合の即時抗告(高裁)

価格決定の実務的論点

  • 基準日の選定(株主総会日・効力発生日・公表日)
  • 事業価値評価の前提(going concern・継続価値)
  • シナジー効果の算定とその分配
  • 少数株主特有のディスカウント適用の可否
  • 遅延損害金の起算点と利率

買取後の税務処理

株主側の税務

株式を譲渡した株主には譲渡所得課税が発生します。

  • 個人株主:申告分離課税20.315%(所得税15.315%+住民税5%)
  • 法人株主:受取配当等の益金不算入の適用判断
  • みなし配当課税(自己株式取得の場合)
  • 譲渡損失の繰越控除(個人株主)

会社側の税務

  • 自己株式取得の損金処理
  • みなし配当部分と譲渡対価部分の区分
  • 源泉徴収義務(みなし配当に対する所得税)
  • 地方税の処理

関連記事・内部リンク

まとめ|株式買取制度は少数株主と支配株主の利益調整装置

株式買取請求権とスクイーズアウトは、少数株主と支配株主の利益を法的に調整する重要な制度です。手続要件の厳格な遵守、買取価格の算定方法の選択、裁判所による価格決定手続の進行管理が、紛争の帰趨を決定づけます。事業承継・組織再編・上場廃止等の大きな転機では、株主構成最適化と少数株主救済の両立を実現する制度設計が求められます。

弁護士法人ブライトでは、約120社の顧問契約を通じて、買取請求権の行使支援・買取価格交渉・裁判所価格決定手続・スクイーズアウトの実行まで一貫して支援してきました。組織再編・事業承継で株主買取・売渡請求をご検討中の経営者・株主の方は、お気軽にご相談ください。

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