【この記事のポイント(弁護士による結論)】
相続後に親族・元同居人が実家に居座り続けている場合、遺産分割が完了していなければ共有者全員での明渡請求が原則です。ただし、遺産分割協議・民事調停・訴訟、および不当利得(賃料相当損害金)の請求を並行することで現実的な解決に近づけることができます。放置すると時効や権利濫用の主張を招くリスクがあるため、早期の法的対応をお勧めします。
1. なぜ「出ていかない」問題が起きるのか
親が亡くなったあと、実家に兄弟や親族が住み続けているケースは珍しくありません。「昔から住んでいた」「親から口約束で住まわせてもらっていた」「他に行く場所がない」など、居座る側にもそれなりの事情があります。しかし、相続が発生した時点で不動産の所有関係は法的に変化しており、放置すれば解決がどんどん複雑になります。
よくある状況を整理すると、次のようなパターンが見られます。
- 亡くなった親と生前から同居していた兄弟が、相続後もそのまま住み続けている
- 内縁の配偶者や交際相手が「親から住んでよいと言われた」と主張して出ていかない
- 遺産分割が決まっていないのに、一部の相続人が不動産を独占使用している
- 相続人でない元同居人が「使用貸借だ」と言い張っている
- 相続放棄した子供が誤解したまま居座っている
こうした状況で大切なのは、まず「誰が何の権利を持っているのか」という法的な整理を行うことです。感情的な話し合いだけでは解決できない場合がほとんどで、法的手続きの選択が重要になります。
「実家を出ていかない」「居座り続けている」
そのトラブル、弁護士に相談してください
相続人・元同居人による占有トラブルは、放置するほど解決が難しくなります。弁護士法人ブライトでは、相談から明渡し交渉・訴訟まで一貫してサポートします。
2. 相続と不動産占有の法的構造|民法の基本を押さえる
2-1. 遺産分割前は「共有状態」が続く
被相続人(亡くなった方)が不動産を所有していた場合、相続が開始した時点で、遺産分割が完了するまで相続人全員が不動産を「共有」している状態になります(民法898条・899条)。各相続人は法定相続分に応じた持分を持ちます。
共有者は各自の持分を自由に使用・収益できるとされています(民法249条1項)。つまり、遺産分割前に兄弟が実家に住んでいる場合、その兄弟も「共有者のひとり」として一定の使用権限を主張できる場合があります。これが、実務上「共有者を追い出しにくい」と感じる原因の一つです。
2-2. 少数持分権者への明渡請求は「当然には認められない」
最高裁判所昭和41年5月19日判決は、共有者間の明渡請求について重要な判断を示しています。持分の過半数を持つ者が持分の少ない共有者に対して明渡しを請求する場面で、最高裁は共有者の占有が「当然に排除されるわけではない」という枠組みを示しました。
実務的な意味は次の通りです。たとえ兄弟が3分の1の持分しか持っていなくても、「共有者であること」を理由に住み続けることを主張できる場面があります。したがって、遺産分割が完了していない段階で「出ていけ」と迫るだけでは法的に弱い立場になりがちです。
2-3. 遺産分割前の使用貸借推認(最判平成8年12月17日)
「親が生前に住まわせていた」という状況は、法的には「使用貸借契約」(民法593条以下)と評価されることがあります。最高裁平成8年12月17日判決は、相続人の一人が被相続人の所有する建物に同居していた場合、被相続人と同居相続人の間には「遺産分割が終了するまで」建物の使用を認める使用貸借契約が成立していると推認されると判断しました。
この判決のポイントは「遺産分割が終了するまで」が使用貸借の期間だということです。裏を返せば、遺産分割協議が成立し、その建物が自分の単独所有に確定した時点で、使用貸借の終了を主張して明渡しを求められる根拠になります。ただし、相続人でない元同居人については別途の検討が必要です。
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3. 居座りの相手が「相続人」の場合の明渡し手順
3-1. まず「遺産分割協議」で不動産の帰属を決める
相続人が実家に住み続けている場合、最も正攻法の解決策は遺産分割協議で「その不動産を誰が取得するか」を決めることです。実家を相続した相続人が確定すれば、居座っている相続人は占有の正当な根拠を失います。
協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。調停でも合意できなければ審判に移行し、裁判所が分割方法を決定します。「換価分割」(不動産を売却して代金を分ける)が命じられることも珍しくありません。
3-2. 賃料相当損害金(不当利得)の請求を並行する
令和3年民法改正(2023年4月1日施行)により、民法249条2項が新設されました。これにより、共有物を使用する共有者は「自己の持分を超える使用の対価」として、他の共有者に対して賃料相当額を支払う義務があることが条文上明確化されました。
たとえば、相続人AとBが各2分の1の持分を持つ実家(賃料相当月12万円)において、Aだけが全部を使用している場合、AはBに対して月6万円(12万円×2分の1)の支払義務を負うことになります。明渡しが実現するまでの期間について遡って請求することができます。
3-3. 遺産分割後に明渡し訴訟を提起する
遺産分割が完了し、実家が自分の単独所有になったにもかかわらず相手が出ていかない場合は、裁判所に「建物明渡請求訴訟」を提起します。手順は次の通りです。
- 内容証明郵便で退去・明渡しを催告する
- 任意退去に応じない場合、建物明渡請求訴訟を提起する
- 勝訴判決・和解成立後、強制執行(明渡断行の強制執行)を申し立てる
- 執行官が立ち合い、強制的に荷物・居住者を退去させる
訴訟から強制執行まで早ければ半年〜1年程度かかることがあります。弁護士に依頼することで、交渉段階での和解解決を目指したり、手続きを迅速に進めることが期待できます。
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4. 居座りの相手が「相続人でない」場合の対応
4-1. 元同居人・内縁の配偶者のケース
亡くなった親の内縁の配偶者や、親の死後も居住し続けている元同居人(友人・知人など)は、法定相続人ではありません。これらの人が住み続けている場合、占有の根拠がより明確に問われます。
内縁の配偶者については、被相続人から使用貸借を認められていた事情がある場合、その期間・終期が問題になります。使用貸借は「借主の死亡によって終了する」という規定(民法599条1項)がありますが、貸主(被相続人)が死亡した場合は貸主の地位が相続人に承継されます。したがって、「使用貸借の終期が被相続人の死亡まで」と解釈できる事情を積み上げることで、相続人から明渡しを求めることができます。
一方、内縁関係が長期にわたるなど特別の事情がある場合、裁判所が信義則上の制限を認めることもあり得るため、個別の事情を踏まえた弁護士への相談が必要です。
4-2. 「親から口約束で住んでよいと言われた」という主張への対応
実務上よく出てくるのが「親から『ずっと住んでよい』と言われた」という主張です。この場合、①使用貸借の合意があったか ②使用貸借の期間・終期はいつか ③口約束を証明できるか の3点が争点になります。
口約束は書面が残らないため、「終身(死ぬまで)住んでよいと言われた」と主張されても証明は困難なことが多いです。相続人側は、使用貸借の終期が「被相続人の死亡まで」または「遺産分割まで」であることを主張し、根拠を積み上げることが重要です。弁護士が介入し、証拠収集・内容証明送付・交渉を進めることで、訴訟を回避した任意退去の合意が得られるケースも少なくありません。
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5. 実際のトラブル事例(匿名化・抽象化)
事例1:兄が相続後も実家を独占使用していたケース
大阪府内にお住まいの相談者(女性・40代)から寄せられたご相談です。父親が亡くなり、実家(評価額約2,500万円)の相続人は相談者と兄の2人でした。兄は父の生前から実家に同居しており、父が亡くなった後も「俺が面倒を見てきたんだから実家は俺のものだ」と主張して遺産分割協議に応じず、そのまま住み続けていました。
受任後、弁護士は①遺産分割調停の申立て ②調停期間中の賃料相当損害金(月約8万円)の請求 を並行して進めました。「このまま住み続けるなら賃料相当額を払い続けることになる」という現実を示したことで、兄は最終的に実家を売却して換価分割する提案に同意しました。売却代金から諸経費を差し引いた金額が依頼者に分配され、解決まで約8か月を要しました。
事例2:元同居人が「親から許可をもらった」と主張したケース
父親の死後、父の知人(60代男性)が「昔から住まわせてもらっていた。父に死ぬまで住んでよいと言われた」と主張して実家から出ていかなかったケースです。相続人(子供2人)は話し合いを試みましたが相手方が応じないため、弁護士に依頼されました。
弁護士が調査を進めたところ、使用貸借の終期を証明する書面はなく、「終身住んでよい」と伝えた証拠も存在しませんでした。弁護士が内容証明郵便で退去を催告し、それでも応じない場合は明渡訴訟を提起する旨を通告したところ、相手方は「引っ越し費用として一定額を支払ってほしい」という条件で退去に応じました。訴訟を回避しつつ、約3か月で解決に至りました。
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6. 弁護士に依頼するメリット・依頼のタイミング
「自分で話し合えばいいのでは」と思われる方も多いですが、居座りトラブルには弁護士が介入することで解決が格段に早まることがあります。主なメリットを整理します。
- 法的根拠を明確にした交渉ができる:「出ていかないと訴訟を起こす」という言葉も、弁護士が発することで実効性が増します
- 遺産分割から明渡しまで一貫対応:遺産分割協議・調停・訴訟・強制執行を一つの事務所で担当できます
- 賃料相当損害金の請求を並行できる:明渡しが長引いても、金銭的な請求権を確保しながら交渉できます
- 感情的になりがちな家族間の問題を第三者が仲介:直接の話し合いではエスカレートしやすい兄弟間トラブルも、弁護士を通じることで冷静な解決を目指せます
依頼のタイミングとしては、「話し合いを試みたが無視されている」「内容証明を送っても無反応だ」「遺産分割協議に応じてくれない」という段階が一つの目安です。早ければ早いほど、証拠の保全や交渉の余地が広がります。
7. よくある質問(FAQ)
Q1. 遺産分割が終わっていないのに、兄弟を追い出せますか?
遺産分割前は不動産が相続人全員の共有状態にあり、住んでいる相続人も共有者として一定の使用権を持つ場合があります。そのため遺産分割が完了していない段階での強制的な退去要求は法的に難しいことがあります。まずは遺産分割協議・調停で不動産の帰属を確定させることが優先です。同時に、改正民法249条2項に基づく賃料相当損害金の請求も検討できます。
Q2. 親から「ずっと住んでよい」と口頭で言われたと主張されています。その主張は通りますか?
口頭の約束は証明が難しく、「終身使用を認める使用貸借」として認定されるには裁判所も慎重です。使用貸借の期間が「貸主の生存中まで」「遺産分割まで」と解釈できる事情を積み上げることで対抗できます。相手方の主張内容・証拠の有無・事案の経緯によって見通しが変わるため、弁護士への早期相談をお勧めします。
Q3. 相続放棄した人が実家に住み続けています。追い出せますか?
相続を放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。したがって、相続放棄者が実家に住み続けている場合、共有者としての権利は持ちません。ただし、民法940条により相続放棄者は他の相続人が管理を始めるまで管理義務を負う場合があります。いずれにせよ、明渡しを求める法的手続きが必要になることがあるため、弁護士に相談することをお勧めします。
Q4. 強制的に荷物を出したり鍵を変えたりしてもよいですか?
自力救済(法的手続きを経ずに強制的に退去させること)は、相手の占有を侵害するものとして違法となる可能性があります。「どうせ出ていかないから」と荷物を勝手に運び出したり鍵を交換したりすることは、逆に損害賠償請求を受けるリスクがあります。必ず法的手続き(訴訟・強制執行)を経てください。
Q5. 賃料相当損害金はいつから請求できますか?
令和3年民法改正(2023年4月施行)により、民法249条2項で「共有物を単独占有する共有者は他の共有者に使用の対価を負う」ことが条文上明確化されました。請求できる時期は、相手方が他の共有者の持分を無視して全部占有を始めた時点が起算点となります。ただし、消滅時効(民法166条・原則5年)に注意が必要です。遡及請求を確実に行うためにも、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
「実家を出ていかない」「居座り続けている」
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8. 関連する問題・手続きとのつながり
相続した実家の居座り問題は、多くの場合、以下の問題と連動しています。それぞれの専門ページも参照してください。
- 相続した不動産でもめる5大パターンと解決法:実家以外の相続不動産トラブルの全体像を解説しています
- 相続人と連絡が取れないまま不動産売却を進める方法:居座っている相続人と連絡が取れない場合の別アプローチを解説しています
- 共有物分割請求とは|共有名義を解消する方法:遺産分割が整わず共有状態が続く場合の法的手続きを詳しく解説しています
居座り・明渡し問題は、一見「感情のぶつかり合い」に見えて、実は遺産分割・使用貸借・不当利得・強制執行という複数の法的論点が絡み合う複雑な案件です。弁護士に早めに相談することで、手続きの全体像を把握した上で最適な解決策を選択できます。
監修弁護士

和氣 良浩(わき よしひろ)
弁護士法人ブライト 代表弁護士
大阪弁護士会所属 / 登録2006年(修習59期)/ 弁護士歴20年
相続不動産トラブル・不動産明渡し・企業法務を中心に、大阪・関西で幅広く対応。依頼者の状況に応じた現実的な解決策の提示を重視している。弁護士法人ブライトは、弁護士歴平均14年以上の経験豊富なチームで対応する。
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