このページは、相続した底地(借地権付きの土地)の地代を適正な金額に増額請求する方法について、芦屋・阪神間の相続不動産のご相談を取り扱う弁護士法人ブライト(代表:和氣良浩弁護士)が、実務の視点から整理した解説記事です。
はじめに|「何十年も地代が変わっていない」——それ、増額請求できます
底地を相続した方から、こんなお話をよく伺います。
- 「地代が、祖父の代からずっと同じ金額のまま」
- 「近所の似たような借地は、もっと高い地代を取っていると聞いた」
- 「固定資産税が上がっているのに、地代はそのまま」
- 「借地契約を終わらせるのは難しいと分かった。でも、このままでいいのか」
土地を取り戻す(借地契約を終わらせる)ことのハードルの高さは、こちらの記事で解説したとおりです。しかし、地代が今の実情に見合わない金額のままなら、地主から増額を請求できる権利があります。これは借地契約を維持したまま行使できる、地主側の現実的な選択肢です。
この記事では、底地を相続した地主側の視点から、地代の増額請求の法律上の根拠と進め方を、弁護士が整理して解説します。
「うちの地代、今のままで適正なのだろうか」——まずはその疑問を整理するところから始めませんか。
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1. そもそも地代の増額請求とは|借地借家法11条が定める権利
1-1. 地代等増減請求権の中身
借地借家法11条1項は、地代の増減請求について次のように定めています。
「地代又は土地の借賃が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる」(借地借家法11条1項。ただし、一定期間増額しない特約がある場合の扱いは1-3で解説します)
つまり、契約書に「地代は月額〇円」と書かれていても、その金額が今の実情に見合わなくなっていれば、契約書の定めにかかわらず、増額を請求できるということです。長年地代を見直していない底地では、この権利が使えるケースが少なくありません。
1-2. 増額を請求できる3つの事由
条文が挙げる増額の事由は、大きく3つに整理できます。
- 公租公課の増減:固定資産税・都市計画税などの土地にかかる税負担が上がっている
- 土地の価格の上昇その他の経済事情の変動:地価が上昇している、周辺の経済状況が変わっている
- 近傍類似の土地の地代等との不均衡:近隣の似たような借地の地代相場と比べて、今の地代が著しく低い
これらのどれか一つでも当てはまれば、増額請求の根拠になり得ます。芦屋・阪神間のように地価が上昇傾向にあるエリアでは、複数の事由が重なっているケースも珍しくありません。
1-3. 「増額しない」特約がある場合は要注意
借地借家法11条1項には、ただし書があります。一定期間は地代を増額しない旨の特約がある場合は、その期間中はその定めが優先されます。契約書に「向こう〇年間は地代を増額しない」といった条項がないか、増額請求の前に必ず確認しておく必要があります。
地代が今の実情に見合っているか、まずは契約書と実際の地代を照らし合わせて確認しませんか。
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2. 増額請求の進め方|協議→調停前置→(不成立なら)訴訟

2-1. まずは借地人との協議から
増額請求は、まず借地人に対して意思表示をするところから始まります。口頭でも法律上は可能ですが、後々の証拠として、内容証明郵便などの書面で請求時期と金額を明確にしておくのが実務上の基本です。
2-2. 協議がまとまらなければ、調停を申し立てる(調停前置主義)
借地人が増額に応じない場合、いきなり訴訟を起こすことはできません。地代の増減請求に関する事件は、訴えを提起する前に、まず調停を申し立てなければならないとされています(民事調停法24条の2第1項)。調停の申立てをせずに訴訟を起こした場合、裁判所はその事件を調停に付すのが原則です(同条2項)。
これは、地代のような継続的な契約関係の見直しは、裁判で白黒つけるより、まず話し合いの場(調停)で解決を図るのが望ましいという考え方によるものです。調停は、紛争の対象である土地の所在地を管轄する簡易裁判所(または当事者が合意した地方裁判所)で行われます(民事調停法24条)。
2-3. 調停が不成立なら、訴訟で決着をつける
調停でも合意に至らない場合は、地代増額請求の訴訟に進みます。訴訟で増額の当否・金額が争われている間、借地人は、増額を争っていても、自分が相当と認める額を支払っていれば債務不履行にはなりません。ただし、最終的に裁判所が決めた金額の方が高かった場合、借地人は不足額に年1割の利息を付けて支払う必要があります(借地借家法11条2項)。
つまり、増額請求から決着まで時間がかかっても、地主側が最終的に不利益を被らないよう、利息付きの精算の仕組みが法律上用意されています。
増額請求は「言えばすぐ通る」ものではなく、協議・調停という段取りがあります。進め方を一緒に整理しませんか。
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3. 「適正な地代」はどう証明するか|相場の調べ方
3-1. 何を根拠に「今の地代は安すぎる」と言えるか
増額請求を実際に進めるには、「近傍類似の土地の地代等と比較して不相当」であることを、具体的な根拠で示す必要があります。実務では、次のような資料・調査が使われます。
- 周辺の不動産業者への聞き取り(近隣の借地の地代相場感を確認する)
- 公租公課(固定資産税・都市計画税)の推移の資料
- 地価公示・都道府県地価調査などの公的な地価データ
- 不動産鑑定士による地代鑑定(争いが大きくなる場合)
いきなり鑑定を依頼するのではなく、まず周辺相場の聞き取りや公的データで見通しを立て、交渉・調停の段階でどこまで数字を積み上げるかを判断していくのが実務の進め方です。
3-2. 実務の肌感|相場確認から始める姿勢、そして長期戦になる覚悟
似た構図の交渉案件(建物の賃料増額請求)で、私たちが実際に大切にしてきたのは、まず周辺相場を具体的に確認してから、増額の金額感を組み立てるという姿勢です。相手方から一方的な増額通知が届いた場合も同様に、周辺相場と比較して金額の妥当性を検証したうえで、応じるべきか争うべきかを判断します。地代・賃料の増減は、感覚や言い値ではなく、相場という客観的な物差しに照らして初めて交渉力を持つ——これは借地・借家いずれの増減交渉でも共通する実務の基本です。
また、増額請求は一度きりで終わらないこともあります。実際に私たちが扱った案件では、賃料の増額を一度合意で解決した後、約2年後に再び増額を求める場面がありました。このときは「前回の改定からまだ2年しか経っていないのに、事情の変更と言えるか」という点が争点になり、近隣相場・公租公課・管理コストの変動など、複数の要素を積み上げて主張を組み立てる必要がありました。調停で相手が交渉に応じない姿勢を見せた段階で、速やかに訴訟へ切り替える判断をしたこともあります。増額請求は、金額の算定だけでなく、交渉の潮目を見極める判断力も問われる手続きだということです。
「今の地代が適正かどうか」は、相場という物差しに照らして初めて分かります。まずは相場観の確認から始めませんか。
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4. 増額請求は「取り戻す」ための一手にもなるか
4-1. 増額請求だけでは、土地は戻らない
最初にお伝えしておきたいのは、地代の増額請求は、あくまで地代という収益を適正化する手続きであり、それ自体で借地契約を終わらせたり、土地を取り戻したりする効果はないということです。「増額請求をすれば、借地人が音を上げて出ていく」という単純な期待は禁物です。むしろ増額を機に借地人との関係が悪化し、感情的な対立に発展するリスクもあります。
実際に私たちが法律相談で伺った事案でも、地主側が裁判所で賃料増額の判決を得て勝訴したにもかかわらず、借地人が「支払う気はない」と滞納を続け、そこから建物収去・土地明渡までは容易に進まなかった、というケースがありました。増額請求に勝っても、それだけで相手が態度を改めるとは限らず、明渡しにはまた別のハードル(正当事由や信頼関係破壊の評価)が立ちはだかります。増額請求と、契約を終わらせる手続きは、別物として捉えておく必要があります。
4-2. それでも、増額請求には意味がある
そのうえで、増額請求には次のような現実的な意味があります。
- 収益の適正化:底地を「持っているだけで動かない財産」から、実情に見合った収益を生む財産に変えられる
- 借地人との対話のきっかけ:地代の見直しをきっかけに、将来の底地売却や等価交換など、契約関係全体を見直す話し合いに発展することがある
- 契約関係を「動かす」第一歩:何十年も地代が据え置かれ、地主・借地人の関係が固定化していた状態に、変化のきっかけを作れる
「取り戻す」ことにこだわらず、まず地代の適正化から着手し、そこから借地人との関係全体を見直していく——これも、底地を相続した地主にとって現実的な選択肢の一つです。土地を終わらせる方法の全体像は、借地にした土地を相続した——地主側から借地権を解消して土地を取り戻す方法で解説しています。
「取り戻す」だけが答えではありません。地代の適正化から始める選択肢も含めて、フラットに整理しませんか。
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5. 相続特有の論点
5-1. 地代がいつから据え置かれているかを確認する
底地を相続したら、まず地代がいつから・どのくらいの期間、見直されていないかを確認します。契約書や過去の地代改定の記録(あれば)、被相続人の帳簿・通帳の入金履歴などから、据置期間の長さを把握することが、増額請求の説得力を左右します。
5-2. 増額請求権は相続人が承継する
地代等増減請求権は、地主の地位に伴う権利であり、底地を相続した相続人にも当然に承継されます。相続人が複数いる場合、増額請求という管理行為をどう進めるかは、共有者間の意思統一が必要になる場面もあります。底地を共有のままにしておくと、こうした請求権の行使も動かしにくくなる点は、契約を終わらせる場面と同様です。→不動産を揉めずに承継するための生前対策|「共有にしない」設計を弁護士が解説
5-3. 増額請求と、将来の相続税評価への影響
地代を増額すると底地から得られる収益は増えますが、収益力の変化が相続税評価に影響する可能性もあります。増額請求は法的な手続きであると同時に、資産全体の設計にも関わるため、税務面は税理士と連携しながら進めるのが実務です。
底地の相続では、地代の確認から始まります。「今の地代がいつから変わっていないか」を一緒に確認しませんか。
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6. よくあるご質問(FAQ)
Q1. 地代の増額請求は、契約書に増額の定めがなくてもできますか?
はい、できます。地代等増減請求権は借地借家法11条が定める法律上の権利であり、契約書に増額改定の定めがなくても行使できます。ただし、契約書に「一定期間は増額しない」という特約がある場合は、その期間中は特約が優先されるため、まず契約書の確認が必要です。
Q2. 借地人が増額に応じてくれません。すぐに裁判を起こせますか?
いいえ。地代の増減請求に関する事件は、訴訟を起こす前に、まず調停を申し立てなければならないとされています(民事調停法24条の2)。話し合いがまとまらなければ調停、それでもまとまらなければ訴訟という順番で進めるのが法律上のルールです。
Q3. 地代を増額請求すれば、借地人に出て行ってもらえますか?
いいえ、増額請求そのものに、契約を終わらせたり土地を明け渡させたりする効果はありません。あくまで地代という収益を適正化する手続きです。ただし、地代の見直しをきっかけに、借地人との間で底地の売却や等価交換といった、より根本的な話し合いに発展することはあります。土地を取り戻す方法の全体像は、こちらの記事をご覧ください。
7. まとめ|地代の適正化は、底地を「動かす」現実的な一歩
- 地代が近隣相場や経済事情に照らして不相当になっている場合、地主は借地借家法11条に基づき、契約書の定めにかかわらず増額を請求できます
- 増額の事由は、①公租公課の増減②地価上昇などの経済事情の変動③近傍類似の地代との不均衡、の3つに整理できます
- 進め方は、協議→(まとまらなければ)調停→(それでもまとまらなければ)訴訟の順で、地代の増減請求は訴訟の前に調停を経る必要があります(調停前置主義)
- 「適正な地代」は相場という客観的な物差しで示す必要があり、周辺相場の聞き取りや公的地価データ、必要に応じて鑑定を使います
- 増額請求だけで土地が戻るわけではありませんが、収益の適正化や、借地人との関係を見直すきっかけになり得ます
- 相続では、地代がいつから据え置かれているかの確認と、増額請求権が相続人に承継される点、共有にすると動かしにくくなる点に注意が必要です
底地の地代が適正かどうか気になる方は、芦屋・阪神間にお住まいであれば、芦屋・阪神間の相続不動産のご相談窓口はこちらもご覧ください。
その資産を、守り、受け継ぐために。地代の適正化も、底地を「動かす」大切な一歩です。まずは現状の確認から、ご相談ください。
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監修:和氣 良浩 弁護士(弁護士法人ブライト 代表弁護士・大阪弁護士会所属)
弁護士歴20年以上。企業法務(顧問先130社以上)から相続・不動産まで幅広く手がける。芦屋在住。「その資産を、守り、受け継ぐために。」を信条に、地主側・借主側どちらの立場からも公正に選択肢を示す相談対応を大切にしている。
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