このページでわかること
- 相続した空き家を放置した場合の行政・法的リスク(特定空家指定・行政代執行・固定資産税6倍・過料)
- 2023年改正空家法で新設された「管理不全空家」と住宅用地特例解除の仕組み
- 売却・解体・賃貸・寄付それぞれの選択肢と、共有者全員合意が必要な理由
- 権利関係が複雑な空き家(共有名義・未登記・境界未確定)の整理手順を弁護士が解説
- 3000万円特別控除(租特法35条3項)の活用要件と、活用前に弁護士確認が必要なケース
「親が亡くなり、実家が空き家になって数年。とりあえず固定資産税だけ払っているけれど……」という状況で弁護士法人ブライトには毎月複数件のご相談が寄せられています。
2023年12月施行の改正空家等対策特別措置法(空家法)は、「まだ特定空家に指定されていない管理不全な空き家」にも行政が関与できるよう、規制を大幅に強化しました。「うちはまだ倒壊しそうではないから大丈夫」という判断は、もはや通用しません。
本記事では、相続した空き家を放置した場合の具体的なリスクと、弁護士が実務で直面する「権利関係の整理」を中心に、実家じまいの進め方を解説します。税務(3000万円控除など)については税理士の専門領域のため、活用要件の概要には触れますが、具体的な申告は税理士にご相談ください。
相続した空き家を「放置」した場合の5つのリスク
空き家問題は「将来の話」ではありません。現行法のもとでは、放置することで現実的な不利益が積み重なります。
リスク1:固定資産税が最大6倍になることがある(住宅用地特例の解除)
土地の上に住宅が建っている場合、固定資産税の課税標準が最大1/6に軽減される「住宅用地特例」が適用されています。しかし空家法の改正により、市区町村長が「管理不全空家」として勧告を行うと、この特例が解除されることになりました(空家法14条4項・地方税法349条の3の2)。
住宅用地特例が解除されると、固定資産税の課税標準が最大6倍相当に跳ね上がることがあります。実家の土地に年間5万円の固定資産税を支払っていた場合、理論上は30万円近くまで増加する可能性があります。
なお、2023年改正前から存在する「特定空家」への勧告でも同様の特例解除が適用されていました(旧空家法14条9項)。改正によって、特定空家に至る前段階の「管理不全空家」でも勧告対象になったため、事実上、管理が不十分な空き家の多くが課税強化のリスクにさらされています。
リスク2:行政代執行による強制解体と費用請求
「特定空家」に指定された空き家は、行政から指導・助言→勧告→命令→行政代執行という段階で対応されます(空家法14条)。特定空家とは、倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態、著しく衛生上有害となるおそれのある状態、著しく景観を損なっている状態、周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切な状態に該当するものです(同法2条2項各号)。
行政代執行が実施されると、解体等の費用は所有者(相続人)に請求されます。倒壊の危険がある実家の解体費用は、木造2階建てで100〜300万円程度になることがあります。放置が長引けば長引くほど建物の傷みが進み、工事費用も増加することがあります。
リスク3:2023年改正で新設「管理不全空家」——倒壊前でも対象に
2023年12月施行の改正空家法は、特定空家への指定要件(著しく危険・有害等)に至る前段階として、「管理不全空家」という新カテゴリを創設しました(空家法2条3項)。
管理不全空家は「空家の適切な管理が行われていないことにより、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態」と定義されます。具体的には、雑草の繁茂、外壁の一部剥落、窓ガラスの破損放置なども対象になりうるとされています。
市区町村は管理不全空家の所有者に対し、管理指針に基づく指導・勧告ができます。勧告を受けると、先述の住宅用地特例が解除されることがあります。「まだ倒れそうではないから大丈夫」という従来の判断基準は、法改正によって通用しなくなっています。
リスク4:相続放棄しても管理義務が残る場合がある(民法940条)
「相続放棄すれば関係なくなるのでは?」という相談をよく受けます。しかし民法940条1項は、相続放棄をした者も、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまでの間、自己の財産におけると同一の注意をもって遺産の管理を継続しなければならないと定めています(2023年民法改正後の現行規定)。
相続人全員が相続放棄した場合、最終的には相続財産清算人(旧・相続財産管理人)の選任申立て(民法952条)が必要になります。相続財産清算人が選任されて管理を引き継ぐまでの間、最後に放棄した者には引き続き管理義務があります。
実務上の問題は、相続人全員が放棄しても空き家が国に帰属するまでに相当の時間を要することです。その間の維持費・管理コストを誰が負担するか、放棄した者が空き家の隣家に損害を与えた場合どうなるかが実際に問題になるケースがあります。
リスク5:時間の経過で権利関係が複雑化する
放置すればするほど、法的に「解決が難しい状態」に近づくことがあります。具体的には以下のような問題が生じることがあります。
- 相続人の一人が亡くなり、孫世代も相続人に加わって合意が必要な人数が増える(数次相続)
- 相続人の一人と連絡が取れなくなる(不在者財産管理人の申立てが必要になる場合がある)
- 共有者の一人が認知症になり、成年後見制度の利用が前提になる
- 隣地との境界が不明確なまま放置され、測量・確認作業のコストが増大する
実家じまいの4つの選択肢と弁護士が見るポイント
空き家をどうするかには、大きく4つの選択肢があります。それぞれの概要と、弁護士が実務で着目する法的ポイントを整理します。
選択肢①:売却(最も一般的な処分方法)
最もシンプルな出口戦略ですが、相続不動産の売却には権利関係の整理が前提になります。
まず確認すべきことは、名義(登記)が被相続人のままになっていないかです。2024年4月1日から相続登記が義務化されており(不動産登記法76条の2)、相続を知った日から3年以内に申請しなければ10万円以下の過料の対象となりえます。売却にあたっては必ず相続人名義への変更(相続登記)が必要です。
次に問題になるのが共有名義です。相続人が複数おり、遺産分割協議が未了のまま不動産を共有している場合、売却には共有者全員の同意が必要です(民法251条1項)。一人でも「売りたくない」と言えば、原則として売却はできません。この場合の解決策については後述します。
さらに境界の確定も重要です。隣地との境界が未確定のまま売却に進もうとすると、買主から境界確定測量を求められることが一般的です。境界が明確でない場合、測量・確認に数ヶ月を要することがあります。
被相続人居住用財産3000万円特別控除(租特法35条3項)について:売却益から最大3,000万円を控除できる制度ですが、「昭和56年5月31日以前の建築」「相続開始直前まで被相続人が居住していた」「相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却」など厳格な要件があります。要件の充足判断は税理士にご確認ください。
選択肢②:解体(更地化)
建物を解体して更地にする方法です。固定資産税の住宅用地特例が解除されるため、更地にすると固定資産税が増加する点に注意が必要です。ただし建物維持コストや行政代執行リスクをなくせるメリットがあります。
解体後の更地をどうするかは別途決める必要があります。売却・駐車場経営・隣地への売却打診など、選択肢はありますが、いずれも共有者全員の合意が前提です。
選択肢③:賃貸(空き家バンク・リフォーム活用)
リフォームして賃貸に出す方法です。収益を得ながら建物を維持できますが、初期投資と継続的な管理コストが必要です。共有名義の場合、賃貸契約の締結についても共有者間の合意が必要になることがあります(民法252条は管理行為として過半数決定を認めていますが、長期賃借権の設定は変更行為として全員同意が必要とも解されます)。
選択肢④:相続土地国庫帰属制度の活用
2023年4月27日に施行された「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(相続土地国庫帰属法)により、一定の要件を満たす土地を国に引き取ってもらう制度が創設されました。
ただし、建物が建っている土地は原則として対象外です(同法2条3項1号)。また、境界が明らかでない土地、担保権・使用収益権が設定されている土地も対象外となります。さらに10年分の管理費用相当の負担金(原則20万円、農地・森林は計算式による)の納付が必要です。「タダで国に渡せる」ものではない点に注意が必要です。
弁護士が最初に整理する「権利関係の3点セット」
空き家の処分を依頼された弁護士が真っ先に確認するのは、以下の3点です。これが整理できているかどうかで、その後の手続きのスムーズさが大きく変わります。
①登記の状態(名義・未登記建物の有無)
法務局の登記事項証明書(全部事項証明書)を取得し、現在の名義人・抵当権・差押えの有無を確認します。古い実家の場合、建物が未登記のケースが珍しくありません。未登記建物は市町村の固定資産税台帳には登録されていることが多いですが、法務局の登記簿には存在しない状態です。未登記のまま売却することは原則できません。
また、数十年前に相続が起きており、先代の名義のままになっているケース(数次相続)では、現在の相続人が誰かを戸籍を遡って確認する作業(相続調査)から始める必要があります。
②共有関係(誰が何分の何の持分を持つか)
相続人が複数いる場合、遺産分割協議が完了するまで法定相続分に従って各相続人が持分を共有する状態になります(民法898条・899条)。
弁護士が実務でしばしば直面するのは、相続から数十年が経過し、当初の相続人の一部が亡くなってさらに代襲相続が発生しているケースです。こうなると共有者が10人を超えることも珍しくなく、全員の合意を得ることが現実的に困難になることがあります。
この状況での選択肢は主に2つです。
- 遺産分割調停・審判:家庭裁判所に申立て、調停(話し合い)→審判(裁判官の決定)で解決する。審判では換価分割(強制売却して代金を分配)が命じられることがあります
- 共有物分割請求訴訟:民法258条に基づき、地方裁判所に提訴して共有状態の解消を求める。2023年改正により、所在等不明共有者の持分取得・譲渡が裁判所の決定で可能になりました(民法262条の2・262条の3)
詳しくは相続不動産の換価分割——全員で売って分ける進め方・反対者への対応もご参照ください。
③境界の確定(隣地との境界・公道との関係)
古い実家では、隣地との境界が曖昧なまま数十年が経過していることがあります。境界標(コンクリート杭・金属プレートなど)が滅失している場合は、土地家屋調査士による境界確定測量が必要です。
測量・隣地所有者との境界立会い協議には通常2〜6ヶ月程度かかることがあります。隣地が相続登記未了で所有者不明の場合、さらに時間を要することがあります。売却を急いでいる方ほど、権利関係の整理を早期に始める必要があります。
実家じまいの実務的な進め方(6ステップ)
弁護士が実際に関与する実家じまいは、概ね以下のステップで進みます。
Step 1:相続人の確定(戸籍収集)
被相続人の出生から死亡までの戸籍・改製原戸籍を収集し、相続人を確定します。認知した子・養子がいないか、前婚・隠れた婚姻関係がないかも確認します。
Step 2:登記事項・固定資産税の確認
法務局で登記事項証明書、市区町村で固定資産評価証明書を取得します。抵当権や差押えが残っている場合は先に抹消手続きが必要です。
Step 3:相続放棄の要否判断(期限厳守)
相続放棄の申述期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」(民法915条1項)です。延長申請は可能ですが、期限を過ぎると原則として放棄できません。多額の借入金や根抵当権が付いている実家を相続した場合、放棄の要否を弁護士に確認することをお勧めします。
Step 4:遺産分割協議(全員合意)
相続人全員が参加し、誰が不動産を取得するか・売却して分けるかを協議します。合意内容は遺産分割協議書として書面化し、全員が署名・実印を押印します(印鑑証明書添付)。一人でも欠けると協議書は無効です。
合意できない場合は、家庭裁判所への遺産分割調停の申立てが次の選択肢です。
Step 5:相続登記(義務・3年以内)
遺産分割協議書に基づき、相続登記(所有権移転登記)を行います。2024年4月1日以降は義務化されており、相続開始を知った日から3年以内の申請が求められます。司法書士が通常担当しますが、弁護士が遺産分割から一貫して関与する場合は連携して進めます。
Step 6:売却・解体・その他の処分
権利関係が整理されてから、不動産業者への売却依頼・解体業者への見積もりなどに進みます。売却に向けた境界確定測量・不動産査定は並行して進めることも可能です。
弁護士が関与すべきケース・関与が不要なケース
全ての実家じまいに弁護士が必要なわけではありません。しかし以下のケースは、弁護士への早期相談をお勧めします。
弁護士への相談をお勧めするケース
- 相続人の一人が「売りたくない」「実家に住み続けたい」と主張している
- 相続人の中に認知症・精神疾患・行方不明の者がいる
- 数次相続が発生しており、相続人が多数(特に5人以上)いる
- 遺産分割協議書なしに共有名義で登記してしまっており、共有者との関係が悪化している
- 特定空家に指定された、または管理不全空家として行政から連絡があった
- 建物に根抵当権が残っており、金融機関との交渉が必要
- 隣地との境界に争いがある
逆に、相続人が2〜3人で全員が売却に合意しており、権利関係も単純な場合は、不動産業者と司法書士・税理士で対応できることが多いです。
弁護士法人ブライトに相談した場合の流れ
弁護士法人ブライトでは、相続した不動産・空き家問題について以下の流れで対応しています。
- 初回無料相談(電話・メール・LINE):現状の権利関係・相続人構成・放置状況をヒアリングし、必要な対応の方向性をご説明します
- 調査・確認:戸籍収集・登記事項確認・固定資産評価額確認などを行います
- 方針決定:遺産分割協議(合意→協議書作成)または調停・審判の申立て、共有物分割請求訴訟など、ご状況に応じた手続きを選択します
- 交渉・手続き代行:相手方相続人・行政・金融機関との交渉を代理します。司法書士・税理士・土地家屋調査士が必要な場面では連携して対応します
大阪・関西を中心に対応しており、オンライン相談も対応可能です。
よくある質問(FAQ)
Q. 相続してから何年も放置している空き家でも対応できますか?
対応できます。ただし放置期間が長いほど、数次相続の発生・相続人との連絡困難・建物の劣化進行など、整理すべき問題が増えている傾向があります。特に相続登記義務化(2024年4月施行)の経過措置期限(2027年3月31日)が迫っているため、早めのご相談をお勧めします。
Q. 共有者の一人が「売りたくない」と言い続けている場合、どうすればいいですか?
共有物分割請求訴訟(民法258条)によって、裁判所に共有状態の解消を求めることができます。2023年改正民法により、価格賠償(他の共有者の持分を買い取る)が認められやすくなりました。また、特定の相続人が不動産を欲しいわけでなく単に売却を拒否しているだけであれば、換価分割(売却して代金を分配)の審判を家庭裁判所に求めることも選択肢の一つです。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
Q. 特定空家に指定されそうな実家があります。いつまでに何をすればいいですか?
市区町村から「特定空家等に関する措置」の通知が届いた場合、まず指導・助言への対応期限を確認してください。勧告(通常、指導後に改善がない場合)の段階になると固定資産税の住宅用地特例が解除されることがあります。命令→行政代執行の前に売却や自主解体で対応することが費用面から見て有利になることがあります。行政との交渉・対応方針については弁護士にご相談ください。
Q. 相続放棄すれば空き家の管理義務はなくなりますか?
相続放棄をした場合でも、次の相続人・相続財産清算人が管理を引き継ぐまでの間、最後に放棄した者には管理継続義務が残ります(民法940条1項)。相続人全員が放棄した後は相続財産清算人の選任申立てが必要になり、費用・手続きの負担が生じます。放棄前に、実家の資産価値・負債・管理コストを総合的に弁護士に確認することをお勧めします。
Q. 3000万円特別控除を使って実家を売りたいのですが、弁護士に相談する意味はありますか?
3,000万円特別控除(租特法35条3項)の適用可否や申告手続きは税理士の専門領域ですが、控除を活用する前提として「誰が不動産を取得するか」「遺産分割協議を整える」「共有者全員の合意を得る」という法的整理が必要です。また3年の期限内に間に合わせるために遺産分割を急ぐ場合、弁護士が協議交渉をスピーディに進めることができます。税理士と弁護士の連携が有効なケースです。
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空き家・相続不動産の問題は、以下の関連ページも参考にしてください。
監修弁護士
和氣 良浩(わき よしひろ)
弁護士法人ブライト 代表弁護士 / 大阪弁護士会所属
企業法務・相続・不動産・労働問題など幅広い分野を取り扱う。大阪を中心に関西の個人・中小企業の法的トラブルに対応。
所属:大阪弁護士会 / 弁護士法人ブライト(law-bright.com)
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