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「自分は会社の株式を過半数保有しているはずだった。ところが気づかないうちに増資が行われていて、いつの間にか持株比率が大きく薄められていた」——非公開の中小企業でとりわけ多い、深刻なご相談です。登記簿を見て初めて増資の事実を知った、株主名簿の記載がいつの間にか変わっていた、相続や事業承継の手続きの中で持株比率の変化に気づいた——こうした形で発覚するケースが少なくありません。
このページでは、顧問先142社の顧問契約を担当する弁護士法人ブライトが、増資・新株発行によって持株比率を薄められた(希釈化=ダイリューションされた)少数株主が取りうる法的手段を、発行前に止める方法(差止め)と発行後に争う方法(無効の訴え・不存在確認の訴え)の両面から解説します。あわせて、増資を主導した経営者側の責任追及(株主代表訴訟)への接続も整理します。
この記事でわかること
この記事のポイント
弁護士法人ブライトに寄せられるご相談には、共通するパターンがあります。
特に非上場・非公開の中小企業では、株式の異動が公にならず、登記簿や株主名簿を自ら確認しない限り気づきにくいという構造的な問題があります。招集通知が届かなかった、届いたが内容を十分に理解できなかった、といった事情が重なり、発行から相当期間が経過してから発覚するケースも珍しくありません。
非公開会社(株式譲渡制限会社)は株主構成が固定的で、経営陣と株主が近い関係にあることが多いため、株主総会が形骸化しやすい傾向があります。本来は特別決議が必要な増資であっても、株主総会が開催されたことにされている(実際には開催されていない、あるいは一部の株主に招集通知が届いていない)、議事録だけが作成されている、といった事態が起こり得ます。
また、支配権を維持したい経営者側が、自らに近い第三者に新株を割り当てることで、対立する株主・将来対立し得る株主の持株比率を計画的に引き下げるという動機も存在します。こうした増資が法的にどう評価されるかを、次章から具体的に見ていきます。
企業の法律問題でお困りの経営者・法務担当者様へ
弁護士法人ブライトは、契約書・債権回収・労務トラブル・M&Aを伴走支援する「みんなの法務部」です。
企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、142社の顧問先と日々向き合っています。
会社法210条は、募集株式の発行等が次のいずれかに該当し、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主が会社に対して発行の差止めを請求できると定めています。
このうち、持株比率の希釈化が問題となる場面で最も重要なのが210条2号の「著しく不公正な方法」、いわゆる不公正発行です。資金調達という名目であっても、実質的な目的が特定株主(多くは対立する少数株主・将来対立し得る株主)の持株比率を引き下げ、経営陣が支配権を維持することにあると評価されれば、不公正発行として差止めの対象になり得ます。
新株発行には、資金調達・業務提携・従業員のインセンティブ付与といった正当な目的が併存することも多く、支配権維持目的だけを取り出して評価することは容易ではありません。そこで裁判実務では、複数の目的が競合する場合に「いずれが主要な目的であったか」を、発行の必要性・緊急性、発行数量の合理性、発行価額の相当性、発行の経緯・タイミング、割当先と経営陣との関係性などを総合的に考慮して判断する「主要目的ルール」という枠組みが確立されています。
ご相談の多いパターン——経営者の体調悪化や死亡が迫る中で、その経営者に近い人物へ急いで新株が割り当てられたケース——は、発行のタイミングと割当先の関係性から、支配権維持・特定株主の排除が主要な目的であったと評価されやすい典型例です。
差止め請求(210条)は、あくまで新株発行が効力を生じる前に行う仮処分手続です。すでに発行され登記が完了してしまった後では、差止めという手段は使えません。「増資されそうだ」という段階で気づいた場合は、一刻も早く弁護士に相談し、発行差止めの仮処分を検討する必要があります。一方、すでに発行が完了してしまっている場合は、次章以降で解説する発行後の争い方に進むことになります。
公開会社(株式に譲渡制限のない会社)では、募集株式の発行は原則として取締役会の決議で行えます。しかし、非公開会社(株式の全部に譲渡制限がある会社)では話が異なります。株主割当て以外の方法で募集株式を発行する場合、会社法199条2項により募集事項の決定は株主総会の決議によらなければならず、さらに会社法309条2項5号により、この決議は特別決議(議決権を行使できる株主の議決権の3分の2以上の賛成)でなければなりません。
つまり、非公開会社が第三者割当増資を行うには、原則として株主総会を実際に開催し、特別決議を得る必要があります。「取締役会で決めて実行した」「経営者の一存で決めた」というだけでは、法律上の手続を欠いていることになります。
払込金額が既存株主にとって著しく不利益となる「特に有利な金額」での発行の場合には、会社法199条3項・200条2項により、取締役はその発行を必要とする理由を株主総会で説明しなければなりません。実態から乖離した低い価額で近しい第三者に新株を割り当てるようなケースでは、この理由説明義務も問題になり得ます。
「株主総会決議を経ていない新株発行でも、いったん発行されてしまえば有効なのでは」と思われるかもしれません。しかし、最高裁判所平成24年4月24日判決は、非公開会社が株主総会の特別決議を経ずに行った募集株式の発行について、新株発行無効の訴え(会社法828条1項2号)における無効原因になり得るとの判断を示しています。
これは、公開会社における新株発行では取締役会決議を欠いても原則として無効原因にならないとされてきた従来の判例法理とは異なる扱いです。非公開会社では株主構成の維持そのものが株主にとって重要な利益であるため、株主総会特別決議という手続的保障を欠く発行は、より厳格に無効原因として扱われる、という考え方に基づきます。「知らない間に増資されていた」というケースの多くは、この非公開会社特有の手続的保護が使える可能性があるという意味で、決して泣き寝入りする必要はありません。
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すでに新株発行の効力が生じてしまっている場合、差止め請求は使えません。代わりに検討すべきなのが、次の2つの訴訟類型です。
新株発行の効力を争う正式な手段が新株発行無効の訴えです。ここで最も注意すべきなのが提訴期間です。会社法828条1項2号は、新株発行の無効の訴えについて、公開会社は発行後6か月以内、公開会社でない株式会社(非公開会社)は発行後1年以内に提起しなければならないと定めています。
増資が長期間気づかれないまま経過していたケースでは、発覚が相続手続や登記確認のタイミングまで遅れがちで、気づいたときにはすでに1年の提訴期間に近い、あるいは徒過してしまっているという事態も起こり得ます。増資の事実に気づいたら、期間の起算点(新株発行の効力発生日)を直ちに確認し、時間との勝負であることを認識する必要があります。
無効原因として主張し得る事情としては、以下のようなものが挙げられます。
そもそも新株発行の実体(払込みの実態、株主総会の実際の開催)が存在しないと評価できるほど重大な瑕疵がある場合には、新株発行不存在確認の訴え(会社法829条)を検討します。この訴えには新株発行無効の訴えのような提訴期間の制限がありません。登記だけが先行し、実際には株主総会が開催されていない、払込みの実態が確認できないといった事情がある場合には、無効の訴えの提訴期間を徒過していたとしても、不存在確認の訴えという選択肢が残されている可能性があります。
どちらの訴訟類型を選択すべきか、あるいは両方を視野に入れるべきかは、発行の経緯・証拠の有無によって大きく異なります。自己判断で対応を進める前に、必ず専門家に相談することをおすすめします。
増資の疑いに気づいたら、まず客観的な資料を確保します。
会社側が任意の開示に応じない、あるいは証拠となる資料が改ざん・廃棄されるおそれがある場合には、証拠保全手続の利用も検討します。特に経営者の死亡が絡む案件では、関係資料が相続財産の整理の中で散逸してしまうリスクがあるため、早期の対応が重要です。
前章で述べたとおり、新株発行無効の訴えは非公開会社でも発行後1年以内という期間制限があります。証拠収集に時間をかけすぎて提訴期間を徒過してしまうと、不存在確認の訴えなど他の手段に頼らざるを得なくなり、主張できる無効原因の幅も狭まります。「増資されていたかもしれない」と感じた段階で、証拠収集と並行して提訴期間の起算点を確認し、早期に弁護士へ相談することが、選択肢を最大限確保するための鍵になります。
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不公正な目的での増資は、それを主導した取締役自身の会社に対する責任(会社法423条・任務懈怠責任)を発生させる場合があります。新株発行そのものの効力を争う(無効の訴え・不存在確認の訴え)のとは別に、その意思決定に関与した取締役に対して、会社が被った損害(不当に低い発行価額による資本の希薄化など)の賠償を求めるという道筋です。
会社(=現在の経営陣)が、増資を主導した取締役の責任追及に消極的な場合、少数株主は、会社に対して取締役の責任を追及する訴え(会社法847条・株主代表訴訟)を提起することができます。提訴請求から始まる60日の手続、任務懈怠責任の立証ポイント、経営判断原則の適用範囲については、姉妹記事で詳しく解説しています。
持株比率を薄められた少数株主にとって、新株発行の効力を争う手続と、経営者の責任を追及する株主代表訴訟は、いずれか一方ではなく、事案に応じて組み合わせて検討すべき手段です。
次のいずれかに該当する場合は、早急に弁護士へご相談ください。
弁護士法人ブライトは、大阪を拠点に、顧問先142社の顧問先企業に対して「みんなの法務部」として伴走支援を行うとともに、経営権紛争・ガバナンス紛争に関するスポット相談にも対応しています。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のメンバーが、登記簿・株主名簿・議事録といった一次資料の精査から、差止め仮処分・新株発行無効の訴え・株主代表訴訟までの見通しを整理し、対応方針をご提案します。
増資・新株発行による持株比率の希釈化は、発行前であれば差止め請求(会社法210条)、発行後であれば新株発行無効の訴え(828条1項2号)や新株発行不存在確認の訴え(829条)という手段があります。特に非公開会社では、株主割当て以外の増資に株主総会特別決議(199条・309条2項5号)が必要であり、これを欠く発行は無効原因になり得るという判例法理(最判平24・4・24)が、少数株主にとって重要な武器になります。
一方で、新株発行無効の訴えには非公開会社でも1年という提訴期間の制限があり、「気づいてから検討し始める」のでは手遅れになりかねません。共同経営者の死亡や体調悪化の前後に増資が行われていたことに気づいたら、登記簿・株主名簿・議事録の確認と証拠保全を急ぎ、できるだけ早い段階で弁護士にご相談ください。
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