逸脱
逸脱とは
逸脱(いつだつ)とは、法律や規則、社会的な規範から外れる行為や状態を指す法律用語です。
一般的には、定められた基準や通常の手順から離れることを意味します。単に統計的に稀な現象を指すだけでなく、多くの場合、社会的に望ましくないと判断される行動や状態を表現するために使用されます。
労働法における逸脱(通勤災害と逸脱・中断)
労働法の分野では、逸脱は主に「通勤災害」との関係で議論されます。労災保険法7条3項は、通勤の途中で「経路を逸れる」こと(逸脱)や「通勤とは関係のない行為を行う」こと(中断)があった場合、原則として、その逸脱・中断の間およびその後の移動は「通勤」に該当しないと定めています。つまり、逸脱・中断後にケガをしても、原則として労災(通勤災害)とは認められません。
ただし、この原則には例外があります。労災保険法7条3項ただし書および労災保険法施行規則8条により、逸脱・中断が「日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものを、やむを得ない事由により最小限度の範囲で行うもの」に該当すれば、逸脱・中断の”間”を除き、通勤経路に復した後は再び「通勤」として扱われます。厚生労働省令で認められている代表例は、以下のとおりです。
- 日用品の購入その他これに準ずる行為(例:帰宅途中のスーパーでの買い物、ATMの利用など)
- 職業能力開発促進法上の職業訓練、学校教育法上の教育訓練その他これらに準ずる教育訓練を受ける行為
- 選挙権の行使その他これに準ずる行為
- 病院または診療所において診察または治療を受けること、その他これに準ずる行為
- 要介護状態にある配偶者・父母・子・配偶者の父母などの介護(継続的にまたは反復して行われるものに限る)
これらに該当しない私的な行為(例えば、飲食店での飲食や娯楽目的での寄り道)は、たとえ短時間であっても「逸脱・中断」として扱われ、その後のケガが労災と認められない可能性が高くなります。
逸脱の法的解釈と影響
逸脱の法的解釈は、しばしば裁判所や労働基準監督署の判断に委ねられます。特に通勤途中の事故の場合、逸脱行為の有無・程度が、労災(通勤災害)と認められるかどうかの争点になることがあります。
判例における逸脱の解釈
裁判所や労働基準監督署は、逸脱・中断の判断に際して、主に以下のような要素を考慮します。
- 逸脱の目的が、日常生活上必要な行為(前述の省令列挙行為)に該当するか
- 逸脱の時間と距離が、目的達成に必要な最小限度の範囲にとどまっているか
- 逸脱行為の社会通念上の妥当性
- 逸脱・中断後に、通勤経路に復して移動を再開しているか
例えば、通勤経路上のコンビニで日用品を購入する程度の寄り道であれば、通常は「逸脱・中断」として扱われず、通勤災害の対象となり得ます。一方で、通勤経路から大きく外れて長時間の私的な用事(飲食店での飲食、私的な訪問など)を行った場合は、逸脱・中断と判断され、その後のケガについて労災保険の適用が受けられない可能性が高くなります。
逸脱が法的責任に与える影響
逸脱行為が認定された場合、労災保険給付の対象範囲や、会社(使用者)の責任の所在に影響を与える可能性があります。例えば、通勤途中の事故で明らかな逸脱行為があったと判断された場合、通勤災害と認められず、休業給付や障害給付などの労災給付を受けられないケースもあります。
自分のケースが「逸脱・中断の例外」に当たるかどうかは、寄り道の目的・時間・距離といった個別事情によって判断が分かれるため、判断に迷う場合は早めに確認しておくことをおすすめします。通勤中の寄り道と労災認定の詳しい判断基準は、こちらの記事で詳しく解説しています。
