この記事の結論
- 自分の過失が大きい事故でも、補償を受ける方法は残っています。鍵になるのが、ご自身が加入する任意保険の人身傷害保険(人身傷害補償保険)です
- 人身傷害保険は「自分側の保険」で、過失の有無・大小に関係なく、契約内容の範囲で実際の損害に対して保険金が支払われます
- 最高裁は平成24年に、人身傷害保険金を支払った保険会社が加害者への賠償請求権を代位取得できる範囲を限定し、被害者の手元に「裁判基準で計算した損害額」が確保されるという考え方(実務で「訴訟基準差額説」と呼ばれます)を示しました
- そのため、人身傷害保険と加害者への賠償請求を組み合わせることで、裁判基準の総額に近づけられる場合があります(結論は約款の定めと個別事情によって異なります)
- 受け取る順序(人傷が先か、示談が先か)で最終的な手取りが変わることがあり、最高裁の裁判官自身がこの点を「好ましくない」と補足意見で指摘しています
- まずは弁護士費用特約の有無をご確認ください。ご自身の負担なくご相談いただける場合があります
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この記事の目次
- なぜ「過失が大きいから無駄だ」と思ってしまうのか
- 人身傷害保険とは——過失があっても使える「自分側の保険」
- 人身傷害保険で受け取れるもの・届かないもの(人傷基準と裁判基準の差)
- 本丸:最高裁平成24年判決と「訴訟基準差額説」
- 数字で見る:過失4割の事故で手取りはどう変わるか
- 順序で結果が変わる——人傷先行か、賠償先行か
- 通勤中・業務中の事故なら、労災保険との調整も併せて考える
- 先に確認していただきたい「弁護士費用特約」
- ブライトが実際の事件で使っている考え方
- よくあるご質問
- 参考裁判例
- まとめ——過失が大きい方こそ、組み立て方で差がつきます
なぜ「過失が大きいから無駄だ」と思ってしまうのか
交通事故のご相談で、非常に多くいただくお声があります。
「保険会社から、あなたの過失が大きいと言われました。もう、もらえるものはほとんどないんですよね」
そう思ってしまうのには理由があります。過失相殺という仕組みがあるからです。
過失相殺の仕組み(一般的な考え方)
交通事故の損害賠償では、被害者側にも不注意があった場合、その割合に応じて賠償額が減額されます。これが過失相殺です(民法722条2項)。
たとえば、事故によって生じた損害の総額が1,000万円、被害者側の過失が40%と評価された場合、加害者に請求できる金額は次のようになります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 損害の総額(過失相殺前) | 1,000万円 |
| 被害者側の過失 | 40% |
| 加害者に請求できる額 | 600万円 |
| 自己負担になる部分 | 400万円 |
※上記はあくまで仕組みを説明するための仮の設例です。実際の過失割合は、事故態様ごとに個別に判断されます。
この「400万円は自分で負担するしかない」という部分を見て、多くの方が「弁護士に相談しても意味がない」と結論づけてしまいます。
しかし、ここで見落とされているものがあります。相手からの賠償は、被害者が使える財源のひとつにすぎないということです。
過失割合そのものが動くこともある
なお、保険会社から示された過失割合が、そのまま正しいとは限りません。過失割合は、実務上、別冊判例タイムズ39号(全訂6版)などに整理された基準を参考にしながら、ドライブレコーダー映像・実況見分調書・車両の損傷状況といった証拠に基づいて、事故態様ごとに個別に判断されるものです。
証拠によって割合そのものが見直される余地がないかは、人身傷害保険の活用と並行して検討すべき論点です。詳しくは交通事故の過失割合|納得いかないときに弁護士が覆す方法と全パターン解説をご覧ください。
人身傷害保険とは——過失があっても使える「自分側の保険」
人身傷害保険(人身傷害補償保険)は、ご自身やご家族が加入している任意保険に付帯されている補償です。相手の保険ではなく、自分側の契約から支払われる点が最大の特徴です。
3つの特徴
- ①過失の有無・大小に関係なく支払われる——相手からの賠償と違い、過失相殺による減額を受けません。契約内容の範囲で、実際に生じた損害に対して保険金が支払われます(実損払い)
- ②契約者本人以外もカバーされる場合がある——約款によりますが、記名被保険者の配偶者・同居のご親族・別居の未婚のお子様、さらに契約車両に乗っていた同乗者まで対象となることが少なくありません。「自分は契約者ではないから使えない」と諦める前に、ご家族の保険証券まで確認する価値があります
- ③等級への影響が小さいことが多い——多くの保険会社の約款で、人身傷害保険の使用は「ノーカウント事故」として扱われ、翌年の等級が下がらない取扱いとされています。ただし取扱いは保険会社・商品によって異なるため、必ずご自身の約款をご確認ください
| 相手の対人賠償保険 | 人身傷害保険 | |
|---|---|---|
| 誰の契約か | 加害者 | 自分(家族) |
| 過失相殺の影響 | 過失分だけ減額される | 減額されない |
| 相手が無保険のとき | 請求先がない | 使える |
| 支払いの基準 | 交渉・訴訟で決まる | 約款所定の基準 |
| 支払いの時期 | 示談成立後が原則 | 治療中でも内払いを受けられる場合がある |
制度そのものの全体像は、人身傷害保険(人傷)完全ガイドで網羅的に解説しています。
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人身傷害保険で受け取れるもの・届かないもの(人傷基準と裁判基準の差)
ここが、この記事でもっとも誤解の多いところです。
「人身傷害保険を使ったから、それで終わり」ではありません。
人身傷害保険から支払われる金額は、約款で定められた算定基準(実務上「人傷基準損害額」と呼ばれます)によって計算されます。一方、裁判所が損害賠償額を判断する際に用いる基準(実務上「裁判基準損害額」)は、これより高くなるのが通例です。
この点は、最高裁自身が判決の中で「裁判基準損害額は、人傷基準損害額よりも多額であるのが通例であり」と明言しています(最高裁平成24年5月29日第三小法廷判決)。
つまり——人身傷害保険だけで手続きを終えてしまうと、裁判基準で計算した場合との差額を受け取り損ねる可能性があります。
損害として認められる範囲も違うことがある
金額の水準だけでなく、どの費目が損害として認められるかも、人身傷害保険と加害者への賠償請求とで異なることがあります。
たとえば通院以外の交通費など、人身傷害保険の約款では対象になりにくい費目でも、加害者への賠償請求では別途主張の余地があるものがあります。当法人では、こうした費目についてまず人身傷害保険に請求し、認められなかった場合には項目を明確に分けたうえで加害者側への請求に載せるという二段構えで組み立てることがあります。請求項目を整理して分けておくことで、後の交渉が論理的に進めやすくなるためです。
本丸:最高裁平成24年判決と「訴訟基準差額説」
では、人身傷害保険から保険金を受け取ったうえで、さらに加害者にも請求した場合、最終的にいくら手元に残るのでしょうか。
ここで問題になるのが「保険代位」です。
保険代位とは
人身傷害保険会社が被害者に保険金を支払うと、その保険会社は、被害者が加害者に対して持っている損害賠償請求権を一定の範囲で肩代わりして取得します。これを保険代位といいます(保険法25条)。
問題は、その「一定の範囲」がどこまでかです。保険会社が広く代位してしまうと、被害者が加害者から受け取れる分がその分だけ減ってしまいます。
最高裁が示した判断
この点について、最高裁判所第一小法廷は平成24年2月20日、次のとおり判断しました(判決要旨より)。
保険会社は保険金請求権者の権利を害さない範囲内に限り保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する旨の定めがある自動車保険契約の人身傷害条項の被保険者である被害者に過失がある場合において、上記条項に基づき被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社は、上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が民法上認められるべき過失相殺前の損害額を上回る場合に限り、その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する。
(最高裁判所第一小法廷 平成24年2月20日判決/平成21年(受)第1461号・第1462号/民集66巻2号742頁)
読み解くと、こういうことです。
保険会社が代位できるのは、被害者の手元に「過失相殺前の損害額(=裁判基準で計算した損害額)」が確保されたうえで、なお余る部分だけ。
この考え方が、実務で「訴訟基準差額説」と呼ばれているものです。同じ考え方は、同年の最高裁判所第三小法廷 平成24年5月29日判決でも改めて示されています。
結果として、人身傷害保険と加害者への賠償請求をうまく組み合わせれば、過失があっても、裁判基準で計算した損害額の総額に近づけられる場合があります。
この法理そのものをさらに詳しく知りたい方は、人身傷害保険の訴訟基準差額説|判例で認められた追加請求テクニックと裁判官の判断ポイントもあわせてご覧ください。
数字で見る:過失4割の事故で手取りはどう変わるか
仕組みだけでは分かりにくいので、先ほどの設例で計算してみます。
前提(すべて仮の数字です)
- 裁判基準で計算した損害額(過失相殺前):1,000万円
- 被害者側の過失:40%
- 人身傷害保険の約款基準で計算した損害額(人傷基準損害額):800万円
【図解】過失40%の事故で「裁判基準の総額1,000万円」がどう埋まるか
① 相手からの賠償だけで終わらせた場合
② 人身傷害保険を組み合わせた場合(訴訟基準差額説の考え方)
合計 1,000万円=裁判基準の損害額に到達
※仮の設例です。約款の定めと個別事情により結論は異なります。
計算の流れ
- 人身傷害保険から、人傷基準損害額800万円を受け取る
- 加害者に対して請求できるのは、過失相殺後の600万円
- 800万円+600万円=1,400万円で、過失相殺前の損害額1,000万円を400万円上回る
- 最高裁の考え方によれば、保険会社が代位できるのは、この上回った400万円の範囲にとどまる
- したがって被害者は、加害者からの600万円のうち200万円を自分で受け取れる
- 手元に残るのは 800万円+200万円=1,000万円(=裁判基準の損害額)
相手からの賠償だけで終わらせた場合の600万円と比べると、差は400万円です。「過失が大きいから諦める」という判断が、いかにもったいないかがお分かりいただけると思います。
※上記は最高裁の判断枠組みを説明するための仮の設例であり、結果を保証するものではありません。実際には、契約されている保険の約款の定め、支払限度額、既に受け取った自賠責保険金や社会保険給付の有無などによって結論が変わります。
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順序で結果が変わる——人傷先行か、賠償先行か
ここからが、実務でもっとも差がつくところです。
同じ事故・同じ約款であっても、人身傷害保険を先に受け取るか、加害者からの賠償を先に受け取るかで、最終的な手取りが変わることがあります。
賠償先行の場合に起きること
多くの約款では、人身傷害保険から支払われる金額は「人傷基準損害額から、すでに加害者側から受け取った賠償金などを差し引いた額」と定められています。
先ほどの設例で、加害者から先に600万円を受け取っていた場合、人身傷害保険から支払われるのは次のとおりです。
- 人傷基準損害額 800万円 − 既に受け取った 600万円 = 200万円
- 手取り合計:600万円+200万円=800万円
人傷を先行させた場合(1,000万円)と比べると、200万円の差が生じることになります。
最高裁の裁判官自身が指摘していること
この「順序で金額が変わる」という問題は、私たち実務家が言っているだけではありません。前掲の最高裁平成24年5月29日判決には、田原睦夫裁判官の補足意見が付されており、次のように述べられています。
このように,同一の約款の下で,保険金の支払と加害者からの損害賠償金の支払との先後によって,被害者が受領できる金額が異なることは決して好ましいことではない。
(中略)保険金の支払と加害者からの損害賠償金の支払との先後によって被害者が受領することができる金額が異ならないように,現行の保険約款についての見直しが速やかになされることを期待するものである。
(最高裁判所第三小法廷 平成24年5月29日判決 田原睦夫裁判官補足意見)
この補足意見を受けて、その後、多くの保険会社が約款の見直しを進めてきました。したがって現在のすべての契約でこのような差が生じるわけではありません。逆にいえば、ご自身の契約がどちらの内容になっているかを確認しないまま手続きを進めてしまうと、取り返しがつかない場合があるということです。
「あえて人傷を先に受け取らない」という判断もある
もっとも、常に人傷先行が正解というわけではありません。当法人が実際に扱った事件でも、あえて人身傷害保険を先に受け取らず、相手方の自賠責保険への請求(訴訟による方法を含みます)や加害者本人への請求を先に進めるという方針を選んだことがあります。約款所定の基準ではなく、裁判基準に基づく損害額の認定を正面から目指すという判断です。
また、訴訟を進める際には、人身傷害保険からの支払いがあることを踏まえて、裁判所に損害額そのものをきちんと認定してもらうことを意識して主張を組み立てるという考え方も重要になります。裁判基準の損害額が高く認定されるほど、被害者の手元に確保されるべき金額も大きくなるからです。
ご注意ください。保険会社の側から「訴訟基準差額説で計算すると、あなたはもっと受け取れますよ」と積極的に案内されるとは限りません。人身傷害保険の請求は、被害者の側から根拠を示して求めていく場面が多いのが実情です。
示談書にサインする前に、順序の確認をおすすめします
一度示談してしまうと、やり直しが難しくなります。判断に迷ったらお早めにご相談ください。
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通勤中・業務中の事故なら、労災保険との調整も併せて考える
事故が通勤途中や業務中に起きたものであれば、労災保険(通勤災害・業務災害)の給付も受けられる可能性があります。
この場合、被害者が使える財源は次のように複数になります。
- 加害者からの損害賠償(過失相殺の影響を受ける)
- 自賠責保険
- 人身傷害保険(過失相殺の影響を受けない)
- 労災保険(過失相殺による減額を原則として受けない)
労災保険もまた、被害者側の過失によって給付が過失割合分だけ減らされる仕組みにはなっていません。そのため過失が大きい事案ほど、労災保険と人身傷害保険の価値が相対的に大きくなります。
もっとも、同じ費目について二重に受け取ることはできず、どの給付をどの損害費目から、どの順序で控除するか(損益相殺)という調整が必要になります。当法人でも、労災保険・自賠責保険・人身傷害保険からそれぞれ給付があった事件で、この控除の順序が主要な争点になったことがあります。
実務上は、「裁判基準で計算した請求額」から「労災保険の給付額と加害者側からの支払額」を差し引いた残りを、人身傷害保険でどこまで埋められるかという発想で全体を組み立てていきます。財源が複数あるときほど、最初に全体像を描いておくことが重要です。
通勤・業務中の事故における労災保険と自賠責保険の使い分けは、通勤・業務中の交通事故|労災保険と自賠責保険を両方使う方法で詳しく解説しています。
先に確認していただきたい「弁護士費用特約」
「弁護士に相談したいが、費用が心配」という方に、必ずご確認いただきたいのが弁護士費用特約です。
- ご自身の自動車保険に付帯していることが多く、火災保険・傷害保険・クレジットカードの付帯サービスに付いている場合もあります
- ご本人の契約だけでなく、ご家族の契約の特約を使える場合があります
- 特約を使っても、等級に影響しない取扱いとされているのが一般的です(詳細は約款をご確認ください)
人身傷害保険と弁護士費用特約は、いずれも「自分側の保険」です。過失が大きい事案ほど、この2つをセットで確認しておく意味があります。特約があるかどうかが分からない場合も、確認方法からご案内できますのでご相談ください。
ブライトが実際の事件で使っている考え方
当法人の交通事故部門が、実際の事件で重視している視点をご紹介します。
①「財布」を最初に全部数える
ご相談の初期段階で、加害者の対人賠償・自賠責保険・人身傷害保険・労災保険・搭乗者傷害保険・弁護士費用特約といった、使える可能性のある財源をすべて洗い出します。過失が大きい事案では、相手からの賠償以外の財源をどれだけ拾えるかが結果を左右するためです。
②「総額ベース」で判断する
加害者側との交渉や訴訟上の和解を検討するとき、当法人では相手からの支払額だけでなく、人身傷害保険から受け取れる金額まで含めた総額で有利・不利を判断します。相手方からの提示額だけを見て判断すると、全体としての最適解を見落とすことがあるためです。
③ 認められにくい費目も、消さずに送る
先に述べたとおり、人身傷害保険では認められにくい費目についても、項目を明確に分けたうえで請求を試み、否認された場合には加害者側への請求に載せ替えます。「どちらかで拾う」設計にしておくことで、取りこぼしを減らします。
④ 労災分野との連携
通勤中・業務中の事故では、労災保険の取扱いに精通した労災事故部門と連携して対応します。当法人は顧問先142社の企業法務も扱っており、労災と交通事故の双方にまたがる事案を日常的に取り扱っています(弁護士法人全体の弁護士歴は平均13年以上です)。
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よくあるご質問
Q1. 自分の過失が7割です。それでも人身傷害保険は使えますか?
人身傷害保険は、過失の有無・大小にかかわらず、契約内容の範囲で保険金が支払われるのが原則です。したがって過失が7割であっても、原則としてご利用いただけます。ただし、故意による事故や、約款に定められた重大な過失に当たる場合など、保険金が支払われない事由が定められていますので、実際の可否は約款によります。
Q2. 人身傷害保険を使うと、翌年の保険料は上がりますか?
多くの保険会社の約款では「ノーカウント事故」として扱われ、等級に影響しない取扱いとされています。ただし取扱いは保険会社・商品によって異なりますので、ご契約先にご確認ください。
Q3. 契約者は夫ですが、同乗していた私も使えますか?
約款によりますが、記名被保険者のご家族や、契約車両に乗車していた同乗者まで補償の対象となっていることが少なくありません。ご自身が契約者でなくても諦めず、保険証券と約款をご確認ください。
Q4. すでに保険会社と示談してしまいました。もう手遅れでしょうか?
示談が成立していると、原則としてやり直しは容易ではありません。ただし、示談の対象がどの範囲か(人身部分か物損部分か)、人身傷害保険への請求権まで放棄する内容になっていたかなど、内容によって残された選択肢は変わります。示談書の文言を拝見したうえでご説明しますので、まずはご相談ください。
Q5. 訴訟基準差額説は、どの保険会社でも認められますか?
最高裁が示したのは、あくまでその事案の約款の代位条項の解釈です。したがって、ご契約の約款にどのような定めがあるかによって結論が変わり得ます。近年は多くの保険会社が約款を整備していますが、「必ず認められる」と断定できるものではありません。約款の該当条項を確認したうえで検討する必要があります。
Q6. 請求できる期間に制限はありますか?
加害者に対する損害賠償請求権のうち人身部分は、人の生命または身体を害する不法行為として、損害および加害者を知った時から5年で時効にかかります(民法724条、724条の2)。この5年への延長は2020年4月1日施行の改正によるもので、施行日の時点で旧法の3年が経過していなかった事案にも適用されます(おおむね2017年4月1日以降に発生した事故が対象となります)。それより前の事故は3年のままです。また、物損部分は3年です。
一方、ご自身の保険会社に対する人身傷害保険金の請求権は、保険法上、原則として3年で時効にかかるとされています(保険法95条1項)。具体的な請求手続や期間は約款にも定めがありますので、あわせてご確認ください。いずれにしても、お早めにご相談いただくことをおすすめします。
Q7. 相手が任意保険に入っていません。どうすればよいですか?
相手が無保険の場合、判決を得ても実際に回収できるとは限りません。こうした事案でこそ、過失や相手の資力に左右されない人身傷害保険が重要になります。当法人でも、相手方が無保険であった事案で、人身傷害保険・自賠責保険・労災保険を組み合わせて総受領額を確保した経験があります。
参考裁判例
① 最高裁判所第一小法廷 平成24年2月20日判決
- 事件番号:平成21年(受)第1461号、平成21年(受)第1462号(損害賠償請求事件)
- 掲載誌:最高裁判所民事判例集66巻2号742頁/判例タイムズ1366号83頁/判例時報2145号103頁
- 判示:人身傷害条項に基づき保険金を支払った保険会社は、支払った保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が、民法上認められるべき過失相殺前の損害額を上回る場合に限り、その上回る部分に相当する額の範囲で損害賠償請求権を代位取得する。あわせて、損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権は代位取得しないとされた。
② 最高裁判所第三小法廷 平成24年5月29日判決
- 事件番号:平成22年(受)第2035号(求償金請求事件)
- 掲載誌:最高裁判所裁判集民事240号261頁/判例タイムズ1374号100頁/判例時報2155号109頁
- 判示:①と同旨。「裁判基準損害額は、人傷基準損害額よりも多額であるのが通例であり」と判示したうえで原判決を破棄し、差し戻した。田原睦夫裁判官の補足意見が付されている。
まとめ——過失が大きい方こそ、組み立て方で差がつきます
- 過失が大きくても、人身傷害保険は過失の有無・大小に関係なく使える「自分側の保険」です
- 最高裁平成24年の2つの判決により、保険会社が代位できる範囲は限定され、被害者の手元に裁判基準の損害額が確保されるという考え方が示されました
- その結果、人身傷害保険と加害者への賠償請求を組み合わせることで、裁判基準の総額に近づけられる場合があります
- ただし、約款の定めと請求の順序によって結果が変わることがあり、この点は最高裁の裁判官自身も補足意見で問題提起しています
- 通勤中・業務中の事故なら労災保険との調整も含めて、財源全体を設計する必要があります
- まずは弁護士費用特約の有無をご確認ください
「自分の過失が大きいから、相談しても無駄だ」——そう思って手続きを終えてしまう方が、本当に多くいらっしゃいます。しかし実際には、過失が大きい事案ほど、財源の組み立て方と順序で結果が変わります。
弁護士法人ブライトは、大阪を拠点に交通事故被害者の方の代理人としてご対応しています。示談書にサインする前に、一度お話をお聞かせください。
過失が大きいと言われた方の相談を、数多くお受けしています
初回相談は無料です。着手金0円・成功報酬制(※実費等は別途発生する場合があります)。弁護士費用特約がある場合は、そちらもご利用いただけます。
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※本記事は交通事故に関する一般的な制度・裁判例の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際の対応は、ご契約の約款の定めと個別の事情によって異なります。具体的なご事情については弁護士にご相談ください。




