【執筆】松本 洋明 弁護士(弁護士登録2010年・修習63期・交通事故主任)
【監修】和氣 良浩 弁護士(弁護士法人ブライト代表)
この記事のポイント
- 通勤中の交通事故死亡は労災(通勤災害)と交通事故賠償の両方を請求できる
- 「二重取り」ではなく調整(損益相殺)の仕組みがある
- 労災保険を先行して使うべき理由と順序
- 遺族補償年金・葬祭料の活用と損益相殺の範囲
通勤中の死亡事故は労災と交通事故の両方が適用される
会社への通勤途中に発生した交通事故で家族が亡くなった場合、「労働者災害補償保険(労災保険)の通勤災害」と「加害者への損害賠償請求(交通事故)」の両方が適用されます。これは二重取りではなく、法律上認められた正当な権利です(労働者災害補償保険法、民法709条)。
ブライトが取り扱った実案件(60代男性・通勤中に歩行者として軽トラックにはねられた死亡事故)では、労災認定済み(労基署認定)として、人身傷害補償1億円+車外特約の活用を含む総額5,000万円超の補償を目指した対応を行いました。
労災保険と損害賠償の関係(損益相殺)
「両方もらえる」とはいっても、まったく同じ損害について二重に補填されることはありません。労災保険から受け取った給付は、損害賠償額から差し引かれます(損益相殺)。ただし、差し引かれる範囲が決まっており、それ以外は全額追加で受け取れます。
損益相殺の対象となるもの(差し引かれる)
- 遺族補償年金(対応する損害賠償の逸失利益部分から)
- 葬祭料(葬儀費用の賠償から)
損益相殺の対象にならないもの(差し引かれない)
- 慰謝料(死亡慰謝料・近親者固有慰謝料)
- 弁護士費用・遅延損害金
- 特別支給金(労災の付加給付)
特に重要なのは、慰謝料は損益相殺の対象外という点です。労災から遺族補償年金を受け取っていても、交通事故の損害賠償で慰謝料(弁護士基準2,000〜2,800万円)を別途請求できます。
労災保険を先に使うべき理由
通勤死亡事故では、まず労災保険を先行して申請することを強くお勧めします。理由は以下のとおりです。
1. 遺族補償年金は即時支給される
労災の遺族補償年金は、認定されれば遺族が毎年受け取れる年金です。交通事故の損害賠償交渉は長期化することがある一方、労災給付は比較的早期に手続きが進みます。遺族の当面の生活費として活用できます。
2. 特別支給金は損益相殺の対象外
労災には「遺族特別支給金」(一律300万円)と「遺族特別年金」があります。これらは損益相殺の対象外のため、交通事故の賠償額から差し引かれません。つまり、交通事故賠償とは別に丸ごと受け取れます(専門書による実務解釈)。
3. 葬祭料の先行受給
労災の葬祭料は、葬儀費用のための即時給付です(315,000円+給付基礎日額×30日、または給付基礎日額×60日のいずれか高い額)。交通事故の損害賠償から葬儀費用として150万円が認められますが、損益相殺で一部が差し引かれます。ただし労災の葬祭料は先に受給して生活費に充てることができます。
労災と交通事故の流れ(手続きの順序)
- 事故直後:警察への届出・会社への報告
- 1〜2週間以内:労基署に「通勤災害報告」および「遺族補償給付請求書」を提出
- 並行して:弁護士に交通事故案件として委任し、加害者側保険会社との交渉開始
- 労災給付受給後:受給額を弁護士に共有し、損害賠償額の計算に反映
- 示談または訴訟:損益相殺を適切に処理した上で最終的な賠償額を請求
通勤中の死亡事故の賠償額試算
ブライトが実際に取り扱った通勤中死亡事故案件(60代男性・現役JR職員・労災認定済み)の試算:
【年収600万円の場合の試算例(弁護士基準)】
逸失利益:600万円 × 7.108(ライプニッツ係数)× 0.5 = 約2,132万円
葬儀費用:約150万円
死亡慰謝料(近親者込):約3,000万円
合計:約5,282万円(損益相殺前・弁護士費用等除く)
【年収1,000万円の場合の試算例(弁護士基準)】
逸失利益:1,000万円 × 7.108 × 0.5 = 約3,554万円
葬儀費用:約150万円
死亡慰謝料(近親者込):約3,000万円
合計:約6,704万円(損益相殺前・弁護士費用等除く)
上記から労災の遺族補償年金・葬祭料等の受給額が損益相殺されますが、慰謝料分(3,000万円)は差し引かれないため、実質的に両方を最大活用することで総補償額が大幅に増えます。
弁護士費用特約の注意点|複数相続人の場合
弁護士費用特約(上限300万円)は、複数の相続人がいる場合に法定相続分で分割されることがあります。例えば、配偶者・子2名が相続人の場合、それぞれが使える費用は300万円ではなく各相続分に応じた金額になります。この点は保険会社に事前に確認することが重要です。
弁護士費用は賠償金の約10%|遅延損害金・弁護士費用で実質ゼロ
ブライトの実案件では、「弁護士費用の目安は賠償金の約10%、遅延損害金+弁護士費用相当額で実質負担ほぼゼロ」という説明をしています。訴訟になった場合は損害額の10%程度が弁護士費用として認定されるため、実際の出費が少なくなります。
内部リンク
よくある質問(FAQ)
Q1. 通勤中の事故で「労災か交通事故か」どちらで手続きするか迷っています
両方手続きするのが正解です。「どちらかを選ぶ」という性質のものではありません。まず労災の通勤災害認定申請を会社経由で進め、並行して弁護士に交通事故賠償の交渉を依頼してください。
Q2. 会社が「通勤中の事故だから会社は関係ない」と言っています
通勤災害の場合、会社の使用者責任(民法715条)が問題になるかどうかは別論点ですが、労災保険の申請(通勤災害)自体は会社の過失に関係なく申請できます。弁護士に相談して適切な手続きを取ってください。
Q3. 自転車通勤中の事故も通勤災害になりますか?
労災保険上の通勤災害は徒歩・自転車・公共交通機関等による通勤も対象です。ただし、自転車通勤が合理的な経路・方法である必要があります。
Q4. 遺族補償年金と損害賠償の調整はどのように計算しますか?
遺族補償年金の受給額は、支給が確定した額を現価(ライプニッツ係数で計算)に直して、逸失利益から差し引きます。これは複雑な計算が必要なため、弁護士に任せることをお勧めします。
Q5. 通勤中の事故で加害者も労働者(業務中の配達員等)だった場合は?
加害者が業務中だった場合、加害者本人だけでなく使用者(雇用会社)への損害賠償請求(民法715条)も可能です。会社の保険(使用者賠償責任保険等)が適用される場合があります。
Q6. 労災認定が下りる前に交通事故の示談をしてもいいですか?
推奨しません。労災給付額が確定する前に示談をすると、損益相殺の計算が不正確になり、最終的な受取額が減る可能性があります。労災の見通しが立ってから示談交渉を進めることが重要です。
まとめ
通勤中の交通事故死亡は、労災保険(通勤災害)と交通事故損害賠償の両方を請求できます。「二重取り」ではなく、法律の調整(損益相殺)の仕組みに従って適切に両方を活用することが遺族の正当な権利です。特に慰謝料は損益相殺の対象外のため、労災給付と全額別々に受け取れます。
弁護士法人ブライトは交通事故専門チームと労災部(笹野皓平弁護士)の連携体制を持ち、通勤死亡事故の複雑な手続きを一括してサポートします。まずはお電話でご状況をお聞かせください。
通勤死亡事故の労災+交通事故を最大化するご相談
弁護士法人ブライト|交通事故専門チーム(松本洋明弁護士・和氣良浩代表)
受付:平日9:00〜18:00(土日祝も電話可)
LINEでの相談も可能です
※着手金0円・完全成功報酬制。弁護士費用特約対応。




