この記事でわかること
- カスタマーハラスメント(カスハラ)は労災として申請できる
- カスハラ被害で申請できる労災保険給付の種類と手順
- 会社への損害賠償請求(安全配慮義務違反)がカスハラ労災の本丸
- 会社が「労災ではない」と言っても、従業員は単独で申請できる
「お客様から暴言・暴力を受けた。会社は何もしてくれない。これは労災にならないのか?」
カスタマーハラスメント(カスハラ)による労災申請を検討している方の多くが、「会社が動いてくれない」「申請できるか分からない」という状況で相談に来られます。
結論から言うと、カスハラ被害は労災として申請できます。会社の同意がなくても、従業員が直接、労働基準監督署に申請することが可能です。
さらに重要なのは、労災保険給付を受けた後(または申請と並行して)、会社に対して安全配慮義務違反を理由とした損害賠償請求ができる点です。
カスタマーハラスメントは労災になるか
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客・取引先・来訪者などから従業員に対する、業務の範囲を超えた不当な要求・威圧・暴言・暴力などの行為を指します。
労働災害(労災)は、業務に起因して発生した傷病・障害・死亡を対象とします。カスハラ被害は業務中に顧客から受けるものですから、業務起因性が認められれば労災として扱われます。
カスハラで労災認定されるケース
- 身体的暴力:顧客から殴られた・物を投げつけられた→外傷(打撲・骨折・裂傷等)として労災申請
- 精神的被害:継続的な暴言・威圧・長時間クレームによりうつ病・適応障害等を発症→精神疾患として労災申請(認定基準:業務による強い心理的負荷)
- その場での急性ストレス反応:恐怖体験による急性ストレス障害等
重要な整理:身体的暴力は比較的認定されやすく、精神疾患(うつ病等)は労働時間・心理的負荷評価表をもとに判断されます。精神疾患の認定率は決して高くありませんが、カスハラという「業務上の出来事」が強い心理的負荷に当たると評価されれば認定されます。
カスハラ労災の申請手順
労災申請は会社の同意なしに従業員単独で行えます。「会社が証明してくれない」「申請を止められた」という場合でも、申請は可能です。
STEP1:医療機関の受診と診断書取得
まず、被害を受けた直後または速やかに医療機関を受診し、診断書を取得してください。
- 身体的暴力:整形外科・救急科等で傷病の診断書を取得
- 精神的被害:精神科・心療内科で診断を受け、業務(カスハラ)との因果関係を医師に確認
STEP2:証拠の保全
申請を強化するために、以下を早期に保全してください。
- カスハラ発生日時・場所・行為の内容のメモ(当日中に記録)
- 目撃者の氏名・連絡先
- 防犯カメラ映像(会社・施設に保存を依頼。時間が経つと上書きされる)
- 録音データ(顧客との会話を録音した場合)
- 会社への報告メール・チャット(日付・内容が残るもの)
STEP3:様式記入・労働基準監督署に申請
労災申請書(療養補償給付請求書:様式第5号など)を入手し、必要事項を記入の上、所轄の労働基準監督署に提出します。
- 療養補償給付(治療費):様式第5号(労災指定病院)または様式第7号(指定外)
- 休業補償給付(休業中の賃金補填):様式第8号
- 障害補償給付(後遺障害):症状固定後に様式第10号
会社が事業主証明を拒否した場合でも、「事業主が証明を拒否した」旨を記載して申請できます。労働基準監督署が調査します。
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労災保険給付だけでは足りない理由|会社への損害賠償が本丸
多くのカスハラ被害者が見落としているのが、「労災保険給付を受けた後で終わりではない」という点です。
労災保険は国が補填する最低限の補償ですが、「慰謝料(精神的苦痛に対する賠償)」は労災保険から支払われません。また、休業補償給付は給与の約80%(特別支給金含む)であり、残り約20%の差額は埋まりません。
カスハラ被害を受けた従業員が取るべき本丸は、会社に対する損害賠償請求です。
会社の安全配慮義務違反とは
会社は従業員に対し、安全に働ける環境を整える義務を負います(労働契約法5条・民法415条)。カスハラ対策においても、厚生労働省は2020年6月施行の改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)に基づき、事業主がカスハラ対策を「雇用管理上の配慮として望ましい措置」と位置付けています。
具体的に、会社が以下を怠っていた場合、安全配慮義務違反として損害賠償請求の根拠となります。
- カスハラ対応マニュアル・対応方針を定めていなかった
- カスハラ被害の報告を受けても具体的な対策を取らなかった
- 一人対応させ続けた(複数人対応・部門異動等をしなかった)
- 悪質顧客の出入禁止措置・警察への相談を怠った
「カスハラは仕事のうち」「クレーム対応はあなたの責任」という会社の言い分は、安全配慮義務の観点から通用しません。会社が具体的対策を講じずに被害が継続・拡大した場合、会社の不作為が損害賠償の根拠になります。
請求できる損害の内訳
| 損害項目 | 労災保険での補填 | 会社への請求 |
|---|---|---|
| 治療費 | 全額(療養補償) | 労災補填を超える部分 |
| 休業損害 | 約80%(休業補償+特別支給) | 残り約20%+遅延損害金 |
| 後遺障害逸失利益 | 障害補償給付(年金・一時金) | 差額+逸失利益全体の再算定 |
| 慰謝料(入通院・後遺障害) | 支払われない | 全額請求できる |
| 将来介護費 | 介護補償(重度の場合) | 差額・追加分 |
ブライトのポリシー
「ブライトは労災保険申請で終わらない。申請はスタートライン。会社への損害賠償請求が依頼者の権利を守る本丸。」
カスハラ被害は「会社が対策を怠った結果」であることが多い。労災保険給付と損害賠償請求を並行して設計し、依頼者の損害を最大限に回復することがブライトの一貫した考え方です。
カスハラ労災で弁護士に相談すべき理由
カスハラ被害の労災申請・損害賠償請求では、以下の点で弁護士の介入が重要です。
- 労災認定に向けた証拠の整理・申請書類の作成サポート:どの証拠が有効か、どのような経緯を記載すべきかを専門家が整理
- 精神疾患の場合の心理的負荷評価対応:精神疾患の労災認定は「業務による心理的負荷評価表」に基づいて判断される。専門的な記録・証拠収集が必要
- 損害賠償請求の設計:慰謝料・休業損害差額・逸失利益・将来通院費等を適切に算定
- 会社との交渉・訴訟対応:会社が「安全配慮義務違反はない」と争ってきた場合の対応
- 損益相殺の正確な計算:労災保険給付と損害賠償の調整(損益相殺)を適切に処理
カスハラ労災の時効に注意
時効は制度によって異なります。混同しないよう注意が必要です。
- 労災保険給付(療養補償・休業補償):被災日から2年(労災保険法42条)
- 労災保険給付(障害補償・遺族補償):症状固定日・死亡日から5年(同条)
- 会社への損害賠償請求(安全配慮義務違反):生命・身体侵害による損害賠償は、損害および加害者を知った日から5年(改正民法724条の2、166条1項・2020年4月1日以降に発生した事案に適用)
「まだ時間がある」と思っていても、精神疾患の場合は「いつが起算点か」が争点になることがあります。早期に弁護士に相談することで、時効の起算点を正確に確認できます。
よくある質問(FAQ)
Q. 会社が「カスハラではなく通常のクレーム」と言っています。それでも労災申請できますか?
A. 会社の判断と無関係に、従業員は労働基準監督署に直接申請できます。「業務起因性」の判断は労基署が行いますので、会社が否定しても申請自体は可能です。ただし、証拠が少ないと認定されにくいため、弁護士に相談して証拠を整理してから申請することをおすすめします。
Q. カスハラによる精神的ダメージ(うつ病)は労災になりますか?
A. 業務上の出来事(カスハラ被害)が「強い心理的負荷」と認定されれば、精神疾患(うつ病・適応障害等)でも労災認定されます。認定基準は「業務による心理的負荷評価表」に基づきます。身体的暴力と比べると認定のハードルは高めですが、継続的・激しいカスハラでは認定事例があります。
Q. カスハラした顧客本人を訴えることはできますか?
A. 顧客が不法行為(暴行・傷害・脅迫等)を行った場合、顧客個人に対して損害賠償請求(民法709条)をすることも法律上は可能です。ただし、実際には顧客の特定・資力の問題があるため、まず会社への安全配慮義務違反に基づく請求を優先する場合が多いです。
Q. 会社を辞めた後でも申請・請求できますか?
A. 退職後でも時効の範囲内であれば、労災申請・損害賠償請求いずれも可能です。退職したからといって請求権が消滅するわけではありません。
Q. 損害賠償請求をすると会社との関係が悪化しますか?
A. カスハラ被害に対して法的権利を行使することは正当な行為です。弁護士が代理人として交渉することで、直接の対立を避けながら進めることができます。また、退職後に請求する方も多くいます。
カスハラ被害に遭った従業員を守るために|顧問弁護士の活用
カスハラ被害を受けた従業員を守るためには、事後的な労災申請・損害賠償だけでなく、会社がカスハラ対応体制を事前に整備しておくことが根本的な解決策です。顧問弁護士を活用することで、カスハラ対応マニュアルの策定・就業規則への対応方針明記・問題顧客への法的対応(警告書送付・出入禁止措置)を会社として実施でき、従業員が安心して働ける環境を整えることができます。弁護士法人ブライトでは、企業の顧問弁護士として「みんなの法務部」サービスを提供しており、カスハラ対応体制の整備もサポートしています。
まとめ
カスタマーハラスメントによる労災申請・損害賠償請求のポイントをまとめます。
- カスハラ被害は労災として申請できる(身体的暴力・精神疾患ともに対象)
- 会社の同意・証明がなくても、従業員単独で労基署に申請できる
- 労災保険給付は慰謝料が出ないため、会社への安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が本丸
- 時効は給付の種類によって2年・5年・損害賠償は5年(改正民法)
- 証拠の早期保全(録音・メモ・防犯カメラ映像)が認定・請求の鍵
「一人で抱え込まないでください。」カスハラ被害を受けた方は、早期に弁護士に相談することで、申請・請求の見通しが立ちます。
カスハラ労災・損害賠償のご相談は弁護士法人ブライトへ
弁護士法人ブライト 笹野 皓平 弁護士(労災部部長)が対応します。相談・着手金0円・完全成功報酬制です。
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この記事の監修者
笹野 皓平(ささの こうへい)
弁護士法人ブライト 労災事業部部長
司法修習64期(2011年登録)
業務上の傷害・疾病に起因する損害賠償請求を専門とし、使用者責任・安全配慮義務違反の立証を多数担当。




