この記事の結論
- 2025年(令和7年)6月1日、労働安全衛生規則612条の2が施行され、職場の熱中症対策が義務になりました
- 対象はWBGT28度以上または気温31度以上の場所で、継続1時間以上または1日4時間超行われることが見込まれる作業です
- 義務の中身は①報告体制の整備と周知、②重篤化を防ぐ措置の手順の作成と周知の2つです
- 違反には罰則があります(6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金/法人にも50万円以下の罰金)
- 労働者側にとって重要なのは、この義務違反が安全配慮義務違反を基礎づけるという点です
2025年6月1日から、職場の熱中症対策は「やったほうがよいこと」から「やらなければならないこと」に変わりました。労働安全衛生規則に612条の2が新設され、事業者に具体的な措置義務が課されたためです。
この改正は本来、会社側が守るべきルールの話です。しかし、熱中症で被災した労働者やご遺族にとっては、会社の責任を問う際の物差しになります。法令で義務とされていることをしていなかったのであれば、安全配慮義務違反は認められやすくなるからです。
このページでは、弁護士法人ブライトの労災事故部統括・笹野皓平弁護士が、義務の中身を正確に整理したうえで、それが損害賠償請求にどう効くのかを解説します。
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「会社は何もしていなかった」という記憶が、請求の出発点になります。
どの作業が対象になるのか
行政通達(令和7年5月20日付け基発0520第6号)は、対象を次のように定義しています。
| 要素 | 基準 |
|---|---|
| 暑熱な場所 | 湿球黒球温度(WBGT)が28度以上、または気温が31度以上の場所。事業場内の特定の作業場に限られず、出張先、複数の作業場所を移動する場合、作業場所から作業場所への移動時も含みます |
| 熱中症を生ずるおそれのある作業 | 上記の場所において、継続して1時間以上、または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれる作業 |
| 非定常作業・臨時の作業 | 上記の条件を満たすことが見込まれる場合は対象になります |
| 作業者の範囲 | 労働者だけでなく、労働者と同一の場所で当該作業に従事する労働者以外の者も含みます |
判定は原則として作業が行われる場所でWBGTまたは気温を実測して行う必要があります。通風のよい屋外作業については、天気予報や環境省の熱中症予防情報サイトの活用で判断できる場合もあるとされています。
なお通達は、対象作業に該当しない場合であっても、作業強度や着衣の状況によっては熱中症のリスクが高まるため、事業者は改正省令に準じた対応を行うよう努めることとしています。

義務づけられた2つの措置
① 報告体制の整備と周知
事業者は、熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、
- その作業に従事する者が熱中症の自覚症状を有する場合、または
- 他の作業者に熱中症が生じた疑いがあることを発見した場合
に、その旨を報告させる体制を整備し、作業に従事する者へ周知しなければなりません。通達は、具体的には事業場ごとに連絡先や担当者をあらかじめ定めておくことを求めています。
② 重篤化を防ぐ措置の手順の作成と周知
あわせて、作業場ごとに、
- 当該作業からの離脱
- 身体の冷却
- 必要に応じて医師の診察または処置を受けさせること
- その他、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置
の内容と実施手順を定め、作業に従事する者へ周知しなければなりません。通達は、事業場の緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先をあらかじめ作成しておくことを求めています。
なお、これらは労働安全衛生法22条に基づく規定であり、個々の事業者に対して措置義務が課されるものです。建設現場のような混在作業で同一の作業場に複数の事業者がいる場合は、元方事業者と関係請負人のいずれにも措置義務が生じます。
会社に体制も手順もなかった、という場合はご相談ください。
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違反した場合の罰則
| 対象 | 罰則 |
|---|---|
| 違反した行為者 | 6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(労働安全衛生法119条1号) |
| 法人 | 50万円以下の罰金(労働安全衛生法122条・両罰規定) |
| 行政指導 | 都道府県労働局長または労働基準監督署長から、作業停止、建設物等の使用停止・変更等を命じられることがあります |
罰則があるということは、この義務が単なる努力目標ではないということです。刑事責任と民事の損害賠償の関係については、熱中症の労災で会社に罰則・書類送検はあるかで解説しています。
義務化の背景にある数字
厚生労働省が改正の趣旨として示したのは、次の実態です。
- 令和6年の休業4日以上の死傷災害は1,195人で、調査開始以来最多だった
- 死亡災害は3年連続で30人以上となり、労働災害による死亡者数全体の約4%を占めていた
- 熱中症による死亡災害の原因の多くは「初期症状の放置、対応の遅れ」によるものだった
さらに、令和8年3月18日付け基発0318第1号によれば、令和7年12月末の速報値で死亡者数は15人と前年同期比から半減した一方、休業4日以上の死傷者数は1,681人と前年同期比から約41%増加し、4年連続で増加しています。
つまり、義務化されてなお、職場の熱中症は増え続けているということです。
義務違反は、損害賠償請求にどう効くか
ここが労働者側にとっての本題です。安衛則612条の2は行政上の取締規定であり、これに違反したからといって自動的に賠償責任が発生するわけではありません。しかし実務上は、次のように機能します。
| 場面 | 義務違反が持つ意味 |
|---|---|
| 安全配慮義務の内容を特定する | 「会社は具体的に何をすべきだったか」を、法令という客観的な基準で示せます。抽象論になりません |
| 予見可能性を裏づける | 法令で義務づけられている以上、熱中症の発生と重篤化は予見できたという前提に立てます |
| 結果回避可能性を裏づける | 報告体制と手順があれば早期に離脱・冷却・搬送ができた、という因果の主張につながります |
| 過失相殺の主張を封じる | 報告しやすい体制を整備するのは事業者の義務です。「本人が申告しなかった」という反論の説得力が下がります |
| 記録の不存在を突く | 周知の記録・WBGTの記録が残っていないこと自体が、義務を履行していなかったことの徴表になります |
あわせて、令和8年3月18日付け基発0318第1号「職場における熱中症防止対策のためのガイドライン」が、WBGT値の把握、暑熱順化(7日以上)、水分・塩分の摂取確認、作業中の巡視、健康管理といった望ましい措置を体系的に示しています。義務(安衛則)とガイドライン(望ましい措置)をセットで参照するのが、実務上の組み立て方です。
会社が何をしていなかったかを、法令の物差しで整理します。
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ご相談前と、ご相談後で変わること
| Before(ご相談前) | After(ブライトへのご相談後) |
|---|---|
| 会社の対応が悪かったという実感はあるが、言葉にできなかった | 安衛則612条の2という基準に照らし、欠けていた措置を具体的に指摘できた |
| 「本人が申告しなかったのが悪い」と言われていた | 報告体制の整備・周知が事業者の義務であることを前提に反論できた |
| 屋内作業なので対象外だと思っていた | 気温31度以上でも対象になること、冷房のない屋内は実測が必要なことを確認できた |
※上記は一般的な相談内容を参考に抽象化したものです。個別の案件の結果を保証するものではありません。
着手金0円・完全成功報酬でご相談いただける理由
法令の話は難しく見えますが、ご相談の場では「会社に何があって、何がなかったか」をお聞きするところから始めます。弁護士法人ブライトでは、労災の会社への損害賠償請求について着手金0円・完全成功報酬制で対応しています。
ブライトは企業側の法務も担っており、会社が熱中症対策としてどこまで整備しているのが通常かを実務感覚として把握しています。労災事故部統括の笹野皓平弁護士が、会社の防御の組み立てを踏まえた対応を行います。
相談料は何度でも無料・着手金無料です。何度でもご相談いただけますので、「まだ相談する段階ではないかもしれない」と迷われている段階でお声がけください。
※交渉・訴訟を行う際の実費(印紙代・郵送代・医学的意見書の作成費用等)は別途ご負担いただく場合があります。※事案の内容により、ご相談をお受けできない場合があります。※お電話でのご相談の受付は平日9:00〜18:00です。
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よくある質問(FAQ)
Q1:WBGTが28度未満で、気温も31度未満でした。対象外ですか。
安衛則612条の2の対象作業には該当しない可能性がありますが、それで会社の責任がなくなるわけではありません。通達も、対象外でも作業強度や着衣の状況によってはリスクが高まるため、準じた対応に努めるよう求めています。労働契約法5条の安全配慮義務は、法令の最低基準とは別に存在します。
Q2:屋内の倉庫作業でした。義務の対象になりますか。
なりえます。基準はWBGT28度以上「または」気温31度以上であり、屋内・屋外を問いません。むしろガイドラインは、冷房設備がなく風通しの悪い屋内における作業についてWBGT値の実測が必要としています。
Q3:会社は「マニュアルはある」と言っています。それで義務を果たしたことになりますか。
作成だけでは足りません。安衛則612条の2は、体制・手順を定めることに加えて、作業に従事する者へ周知させることまで義務づけています。周知の実態と記録が問われます。
Q4:派遣社員です。派遣先にも義務がありますか。
義務の対象となる「作業者」には、労働者と同一の場所で当該作業に従事する労働者以外の者も含まれます。また混在作業では元方事業者と関係請負人のいずれにも措置義務が生じます。請求先は個別に検討します。
Q5:2025年6月より前に発症しました。この規定は使えませんか。
施行前の事案に安衛則612条の2を直接適用することはできませんが、当時から「職場における熱中症予防基本対策要綱」(令和3年4月20日付け基発0420第3号)等が存在していました。発症時点で求められていた措置を基準に、安全配慮義務違反を検討します。
Q6:熱中症の労災でも、損害賠償請求や労災申請に期限(時効)はありますか?
あります。労災保険給付そのものの請求期限は、療養(補償)給付・休業(補償)給付が2年、障害(補償)給付・遺族(補償)給付が5年です。会社への損害賠償請求権については、2020年4月以降に生じた損害の場合、安全配慮義務違反(債務不履行)または人身損害の不法行為に基づく請求は、損害及び加害者を知った時から原則5年が目安です。あわせて権利を行使できる時から20年という客観的な期間制限もあります。不法行為構成(民法724条2号)はもともと20年、安全配慮義務違反構成(民法166条1項2号)は本来10年ですが、人の生命・身体の侵害の場合は民法167条により20年に延長されるため、いずれの構成でも20年が目安になります。2020年4月より前の事案には旧法が適用される場合もあり、判断は事案ごとに異なります。熱中症は「治ったように見えて後から後遺症が分かる」ことがあるため、お早めにご相談ください。
Q7:弁護士に依頼する費用が心配です。
弁護士法人ブライトでは、労災の会社への損害賠償請求について着手金0円・完全成功報酬制で対応しています(※実費等が発生する場合があります)。相談料は何度でも無料ですので、費用面の不安だけで相談を諦める必要はありません。ただし、事案の内容によりご相談をお受けできない場合があります。お電話でのご相談の受付は平日9:00〜18:00です。
まとめ
- 2025年6月1日施行の安衛則612条の2で、職場の熱中症対策は義務になりました
- 対象はWBGT28度以上または気温31度以上の場所で継続1時間以上または1日4時間超の作業です
- 義務は報告体制の整備・周知と重篤化防止手順の作成・周知の2つ。作るだけでなく周知まで必要です
- 罰則があり、混在作業では元方事業者にも措置義務が生じます
- 義務違反は、安全配慮義務の内容・予見可能性・結果回避可能性を裏づける材料になります
会社に何が欠けていたのかを、法令という客観的な物差しで整理することができます。弁護士法人ブライトの労災事故部統括・笹野皓平弁護士にご相談ください。
会社の熱中症対策義務違反に関するご相談窓口
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