執筆・監修
執筆:笹野 皓平 弁護士(労災事業部部長・修習64期・登録2011年/弁護士法人ブライト)
監修:和氣 良浩 弁護士(代表・修習57期・登録2004年/弁護士法人ブライト)
弁護士歴平均14年以上のチームが監修。労災の損害賠償請求を専門に取り扱っています。
この記事でわかること(結論)
- 職場・作業現場での熱中症は、会社への損害賠償請求が可能。根拠は安全配慮義務違反(労働契約法5条・民法415条・709条)。
- 会社の責任の核心は「WBGT(暑さ指数)管理義務」の懈怠。厚生労働省通達(平成21年基発0610001号・令和5年改訂版)に基づく具体的な義務がある。
- 熱中症で死亡・重篤後遺障害が残った場合の賠償額は数千万円〜1億円超になる事案もある。
- 「熱中症は労災に認められない」という誤解が多いが、業務中の熱中症は原則として労災認定される。
- 時効は損害賠償請求で5年(民法724条の2・166条1項)。
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職場の熱中症で会社の責任を問えるか
毎年夏、建設現場・製造業・農業・倉庫作業などで多くの労働者が熱中症に倒れます。重篤な場合には死亡や高次脳機能障害等の重大な後遺症が残ることがあります。
しかし、「熱中症は自分の体調管理の問題だ」「水を飲み忘れたからだ」と言われ、会社の責任を問うことをあきらめている方が少なくありません。
会社には、労働者を熱中症から守るための具体的な法的義務があります。その義務を果たしていなかった場合、会社に対して損害賠償請求ができます。
会社の熱中症防止義務の根拠法令
職場における熱中症防止について、会社には以下の法令上の義務があります。
労働安全衛生法・安衛則の義務
- 労働安全衛生法65条(作業環境管理):使用者は、有害な作業環境を改善する義務がある
- 労働安全衛生規則617条・619条:直射日光を受ける屋外作業・高温多湿な屋内作業について、適切な休憩場所の確保・冷却設備の設置等を義務付け
- 熱中症予防対策通達(平成21年基発0610001号/令和5年改訂版):WBGT管理目標値(25〜33℃)の設定・熱中症予防管理者の選任・健康管理の義務付け
WBGT(暑さ指数)管理義務の具体的内容
厚生労働省の令和5年改訂通達では、会社に以下の措置が求められています。
- WBGT値の測定・管理目標値(WBGT28℃超で作業制限等の措置)の運用
- 熱への順化(暑熱順化)期間の確保(7日程度)
- 水分・塩分補給の確保(20〜30分毎)
- 作業中の体調不良者の早期発見体制の整備
- 緊急時の救急搬送体制の整備
これらの措置を怠ったことが、熱中症発症の主要因であれば、会社の安全配慮義務違反が成立しやすくなります。
熱中症が「労災に認められない」という誤解について
「熱中症 労災 認められない」という検索をする方が多くいます。これは、実際に会社や労基署から「認められない可能性がある」と言われた経験が背景にあると思われます。
しかし、業務中の熱中症は原則として労災認定されます。労災認定の判断基準は以下です。
- 業務遂行性:業務に就いている間(作業中)に発症した
- 業務起因性:高温多湿な作業環境・激しい肉体労働が熱中症の原因である
「既往症がある」「水を飲まなかった」等の本人側の要因があっても、業務環境が主要因であれば認定されます。労災申請が却下された場合には、審査請求(行政不服申立て)や、民事で損害賠償請求を別途進める方法があります。
「熱中症の労災が認められなかった」という方へ
労災申請の却下後でも、民事での損害賠償請求は可能です。諦めずに弁護士に相談してください。
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熱中症で会社に損害賠償請求できる具体的ケース
実務書等で言及される安全配慮義務違反が認められやすいケースとして、以下のものが挙げられます。
| ケース | 会社の義務違反の内容 |
|---|---|
| WBGT測定を一切していなかった | 作業環境測定・管理義務違反(労安衛法65条・通達) |
| 休憩を取らせず長時間連続作業をさせた | 作業管理義務違反(通達・労安衛規則617条等) |
| 水分補給を禁止・制限した | 水分塩分補給確保義務違反(通達) |
| 体調不良を申し出たのに作業を続けさせた | 健康管理・緊急対応義務違反(労安衛法65条の3等) |
| 新入り・異動直後で暑熱順化していなかった | 熱順化期間確保義務違反(通達・順化7日間の措置) |
| 35℃超の炎天下で炎天下作業を強制した | 上記複合・安全配慮義務違反が明確 |
熱中症の損害賠償額の相場
熱中症による損害賠償額は、後遺症の有無・程度・被害者の年齢・収入によって大きく異なります。
| 状況 | 主な損害項目 | 賠償額の目安 |
|---|---|---|
| 軽症(入院1〜2週間・後遺症なし) | 入院慰謝料・休業損害・治療費 | 数十万円〜200万円程度 |
| 中等症(高次脳機能障害等9〜12級後遺症) | 後遺障害慰謝料・逸失利益・入院費用 | 500万円〜2,000万円程度 |
| 重篤(高次脳機能障害1〜3級・植物状態) | 後遺障害慰謝料・逸失利益・介護費用 | 5,000万円〜1億円超 |
| 死亡 | 死亡慰謝料・逸失利益・葬儀費用 | 3,000万円〜1億円超 |
実務書では、熱中症後の高次脳機能障害は後遺障害等級1〜9級に認定されることがあり、特に若年者・高収入者は逸失利益が高額になることが指摘されています。
「自己管理の問題」という会社の反論への対処法
会社側は「水を飲まなかった本人が悪い」「健康申告をしなかった」等と主張し、過失相殺・素因減額を求めてきます。
しかし、以下の反論が実務的に有効です。
- 会社が水分補給の機会・時間を確保していなかったなら、「飲まなかった」のは被害者の過失ではない
- 会社が体調不良者を申告しやすい環境を整備していなかった場合、「申告しなかった」という過失相殺は認められにくい
- WBGT管理を怠った点は会社固有の義務であり、被害者の行動では免責されない
弁護士が介入することで、会社側の過失相殺・素因減額の主張を抑え込み、適切な賠償額を確保することが重要です。
「会社に『自己管理の問題』と言われた」という方へ
弁護士が会社の義務違反を整理し、損害賠償請求をサポートします。
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損害賠償請求の流れ(熱中症の場合)
- 医療機関での診断・記録保全:熱中症の診断書・入院記録・後遺症の診断書
- 労災申請:労働基準監督署への業務上疾病(熱中症)の労災申請
- 作業環境記録の収集:当日のWBGT記録・作業日報・同僚の証言等
- 弁護士への相談・依頼:症状固定後が損害額確定のタイミング
- 会社への損害賠償請求:交渉または訴訟
弁護士に依頼するメリット
- WBGT記録・安全管理資料等を会社から証拠開示させる手続きの活用
- 後遺症の程度(後遺障害等級)を踏まえた正確な損害計算
- 会社側の「過失相殺」「素因減額」主張への専門的反論
- 労災保険給付との損益相殺を考慮した上での請求額最大化
- ブライトは企業側弁護士も担うため(顧問先130社以上の実名公開)、会社側の論理と防御ラインを熟知
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よくある質問(FAQ)
Q1. 熱中症は労災に認められますか?
A. 業務中(作業中)に高温多湿な環境で発症した熱中症は、原則として業務上疾病(労災)として認定されます。体調不良や既往症があっても、業務環境が主要因であれば認定されます。認定されなかった場合は審査請求・再審査請求・民事訴訟で争えます。
Q2. 軽症でも損害賠償請求できますか?
A. はい。入院・通院の事実があれば慰謝料・休業損害を請求できます。ただし、弁護士費用等との費用対効果を考慮した上で、弁護士に相談して判断してください。
Q3. 亡くなった場合、遺族が請求できますか?
A. はい。遺族が損害賠償請求権を相続するとともに、遺族固有の慰謝料も請求できます。死亡案件は損害額が高額になることが多く、弁護士への依頼が特に重要です。
Q4. 会社が「熱中症は業務外だ」と言っています。
A. 業務中に作業現場で発症した熱中症を「業務外」とするのは困難です。会社の主張は認められないケースがほとんどです。弁護士に相談してください。
Q5. 時効はいつから計算しますか?
A. 損害賠償請求の時効は「損害及び加害者を知った時」から5年(民法724条の2・166条1項)です。熱中症発症・入院の時点が起算点になることが多いですが、後遺症が発覚した時点が起算点になるケースもあります。
まとめ
職場での熱中症は、会社のWBGT管理義務・作業管理義務・健康管理義務の懈怠が原因であれば、損害賠償請求が可能です。
- WBGT管理・水分補給確保・体調不良者の早期対応などが会社の法的義務
- 「熱中症は労災に認められない」は誤解。業務中の発症は原則労災
- 後遺症が重篤な場合は数千万円〜1億円超の賠償額になることもある
- 「自己管理の問題」という会社の反論に弁護士が専門的に反論できる
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