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労災死亡事故で会社と経営者が書類送検・逮捕されるケース|刑事責任と民事賠償の関係【弁護士解説】

監修弁護士

笹野 皓平(弁護士法人ブライト 労災部部長)
弁護士登録:2011年(修習64期)/弁護士歴14年
大阪弁護士会所属。建設・製造・運輸業の死亡労災・刑事手続連携事案を多数担当。

和氣 良浩(弁護士法人ブライト 代表)

「会社はなぜ逮捕されないのか」「書類送検されたら損害賠償請求にどう影響するか」──死亡労災の遺族から最もよく受ける質問です。本記事では、労災死亡事故における刑事責任の全体像と、刑事手続きを民事賠償の武器として活用する実務を解説します。

この記事でわかること

  • 労働安全衛生法違反の刑事罰(法定刑・両罰規定の内容)
  • 書類送検から起訴・不起訴・罰金までの刑事手続きの流れ
  • 書類送検が民事損害賠償請求に与える具体的な影響
  • 刑事記録(不起訴記録を含む)の入手方法
  • 遺族が刑事手続きに関与できる制度(被害者参加・意見陳述)

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第1章:労災死亡事故で問われる刑事責任の根拠

労働者が死亡した場合、会社・経営者は以下の刑事法規の適用を受ける可能性があります。

労働安全衛生法違反(安衛法)

最も頻繁に適用されるのが労働安全衛生法違反です。主な義務規定と刑事罰は以下のとおりです。

義務規定内容法定刑(事業者)
安衛法20条(機械等による危険防止)機械・爆発物等による危険防止措置6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金
安衛法21条(掘削等の危険防止)掘削・爆破・高所作業等の危険防止同上
安衛法22条(健康障害防止)粉じん・放射線・高温等による健康障害防止同上
安衛法25条(緊急時の措置)労働災害発生の急迫した危険時の措置義務6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金

両罰規定(法人処罰)

労働安全衛生法122条は両罰規定を定めており、代表取締役等の経営者個人だけでなく法人(会社)自体も処罰されます。現場の安全担当者が書類送検された場合でも、指揮命令系統上の経営者・責任者が「相当の注意を怠った」と認められると、法人・経営者も処罰対象になります。

業務上過失致死(刑法211条)

安全配慮義務違反の内容が重大で、現場責任者・経営者の「業務上の過失」が死亡の原因となった場合は刑法211条(業務上過失致死)が適用されます。法定刑は5年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金です。安衛法違反と業務上過失致死が競合して適用されるケースが多いです。

第2章:書類送検から罰金・起訴・不起訴までの流れ

労働死亡事故が発生した場合、刑事手続きは以下の流れで進みます。

  1. 労基署の調査開始:事故発生後、労働基準監督官が現場調査・関係者聴取を行う。労働安全衛生法違反の疑いがあれば、司法警察員として捜査権限を行使する
  2. 書類送検:労基署が捜査した結果、犯罪の嫌疑があると判断した場合、検察庁に書類を送致する(書類送検)。身柄を拘束せずに行う送検が「書類送検」。死亡事故では比較的多い
  3. 検察庁の処分:検察官が起訴・不起訴・略式起訴(罰金命令)を判断する。重大事案や悪質性が高い場合は正式起訴(公判請求)。軽微な安衛法違反は略式起訴で罰金が多い
  4. 公判(起訴された場合):刑事裁判で有罪・無罪が判断される。有罪の場合は懲役・罰金等の刑事罰が確定する

書類送検されたら即、民事請求の準備を始めてください

刑事手続きと民事請求は並行して進められます。刑事記録が民事の証拠になるため、早期に弁護士に相談することが重要です。

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第3章:書類送検が民事損害賠償に与える影響

書類送検・起訴・有罪判決は、民事賠償請求において遺族にとって有利な影響をもたらします。

①証明責任の事実上の転換

刑事捜査で認定された事実(安衛法違反の内容・作業環境の問題点)は、民事訴訟においても重要な証拠となります。会社側が「安全管理に問題はなかった」と主張しにくくなります。特に有罪判決が確定した場合、民事の証明でも強力な証拠能力を持ちます。

②予見可能性の立証が容易になる

書類送検の事実・起訴内容に、会社が事前に危険性を認識していた事実(過去の行政指導歴・類似ヒヤリハット)が含まれる場合、これを民事の「予見可能性」の証拠として援用できます。

③不起訴でも証拠価値がある

刑事事件が不起訴処分(嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予)で終わっても、民事賠償請求には影響しません。刑事と民事では証明基準が異なる(刑事:合理的疑いを超えた証明 民事:優越的証明)ため、刑事で不起訴でも民事で責任が認められるケースは多数あります。

第4章:刑事記録の入手方法

刑事記録は民事賠償の強力な証拠になりますが、入手方法が限られています。

公判請求(正式起訴)された場合

刑事訴訟法53条に基づき、確定後の訴訟記録は何人も閲覧を請求できます。弁護士が代理して閲覧・謄写する場合は、裁判所に申請します。公判中は被害者参加制度(後述)を通じて記録の一部閲覧が可能です。

不起訴処分になった場合

検察庁への不起訴記録の開示は、以下の方法で請求できます。

  • 刑事確定訴訟記録法(不起訴記録):不起訴になった事件の記録は、正当な理由がある場合に保管検察庁で閲覧できます(刑事確定訴訟記録法3条)。民事訴訟の証拠として必要な場合は「正当な理由」に該当します
  • 民事訴訟法223条(文書提出命令):民事訴訟中に裁判所を通じて検察庁に文書提出命令を申立てる方法もあります

第5章:遺族が刑事手続きに関与できる制度

被害者参加制度(犯罪被害者保護法)

2008年に導入された被害者参加制度(刑事訴訟法316条の33以下)により、一定の犯罪(業務上過失致死を含む)の被害者遺族は刑事公判に参加し、被告人への質問・意見陳述が認められます。

  • 公判期日への出席:傍聴席ではなく被害者参加人として法廷に出席できる
  • 被告人への質問:弁護士を通じて被告人に情状・犯行状況等について質問できる
  • 意見陳述:犯罪行為についての意見を陳述できる(事実の主張は含めない)
  • 損害賠償命令申立て:刑事判決確定後に損害賠償命令を申立て、民事手続きを簡略化できる(犯罪被害者保護法17条以下)

検察審査会への申立て

検察官が不起訴処分にした場合、遺族は検察審査会に審査申立てを行うことができます(検察審査会法2条)。検察審査会が「起訴相当」または「不起訴不当」の議決をした場合、検察官は再捜査・再起訴の検討を求められます。2回の起訴相当議決があれば強制起訴に進みます。

刑事手続きと民事請求は弁護士が並行サポートします

被害者参加・検察審査会申立て・民事損害賠償請求を同時進行で進めるには、刑事・民事の両方に精通した弁護士が必要です。弁護士法人ブライトにご相談ください。

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第6章:刑事罰と民事賠償の関係──どちらが遺族に有利か

刑事罰(罰金・懲役)と民事賠償(損害賠償金)は全く別の手続きです。刑事罰で会社・経営者が罰金を支払っても、遺族への損害賠償が自動的に行われるわけではありません。

項目刑事手続き民事損害賠償請求
目的社会秩序維持・制裁遺族への経済的補償
請求主体国(検察)遺族(被害者側)
支払先国庫遺族
金額罰金(50万〜100万円)賠償金(数千万〜1億円超)
証明基準合理的疑いを超えた証明優越的証明(51%以上の蓋然性)

遺族にとっての最大の経済的保護は民事損害賠償請求であり、刑事手続きはその証拠収集・事実認定の場として活用することが重要です。刑事で有罪になっても不起訴でも、民事請求を独立して進めることが遺族の権利です。

第7章:書類送検後に遺族が取れる具体的な行動

  1. 弁護士への相談(最優先):刑事手続きの経過を把握しつつ、民事賠償請求の準備を同時進行で始める
  2. 刑事記録の閲覧請求の検討:不起訴処分になった場合も不起訴記録の開示を検討する
  3. 被害者参加申出:正式起訴された場合は被害者参加の申出を行い、公判に関与する
  4. 民事損害賠償の請求準備:刑事手続きの結果を待たずに、証拠保全・損害額算定・内容証明送付の準備を進める
  5. 検察審査会への申立て(不起訴の場合):不起訴に不服がある場合は申立てを検討する

FAQ:よくある質問

Q1:書類送検された場合、会社は逮捕されますか?

書類送検は身柄拘束を伴わない形の送検です。労働安全衛生法違反での逮捕(身柄送検)は、証拠隠滅の恐れがあるなど例外的なケースです。書類送検後に略式起訴(罰金命令)か正式起訴かが検察によって判断されます。

Q2:不起訴処分になったら、民事賠償もできなくなりますか?

そうではありません。刑事不起訴は民事賠償に直接影響しません。刑事と民事では証明基準が異なります。刑事で不起訴でも民事で会社の責任が認められるケースは多数あります。

Q3:書類送検で会社が罰金を払ったら、それで損害賠償は終わりですか?

そうではありません。刑事罰の罰金は国庫に入ります。遺族への損害賠償は別途、民事手続きで請求する必要があります。罰金(50万〜100万円)と民事賠償(数千万〜1億円超)は全く別です。

Q4:現場の作業員が書類送検された場合、会社の責任も問えますか?

はい。労働安全衛生法の両罰規定(122条)により、現場担当者だけでなく法人・経営者も処罰対象になります。また民事では、現場担当者の過失に加えて会社の安全管理体制の構造的問題を追及します。

Q5:労災認定されれば刑事責任は問われますか?

労災認定(業務起因性の確認)と刑事責任は別の判断です。労災認定は労働基準監督署が行いますが、刑事責任の判断は検察官が行います。労災認定があっても書類送検・起訴されないケースもあります。

まとめ

労災死亡事故における刑事責任の追及(書類送検・業務上過失致死での起訴等)と民事損害賠償請求は、並行して進む別の手続きです。刑事手続きで得られる証拠・認定事実は民事賠償請求の立証を強化します。遺族にとって最も重要なのは民事賠償請求を確実に進めることであり、刑事手続きはその後ろ盾として活用します。

詳しくは死亡労災・遺族の完全ガイド(ハブ記事)もあわせてご覧ください。

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  • この記事を書いた人

笹野 皓平

弁護士法人ブライト パートナー弁護士: あなた自身や周りの方々がよりよい人生を歩んでいくために、また、公正な社会を実現するために、法の専門家としてサポートできることを日々嬉しく感じています。

本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。

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開 業 平成21年(代表弁護士独立開業)
設 立 平成24年11月設立、平成27年1月に法人化
所在地 〒530-0057 大阪府大阪市北区曽根崎2丁目6番6号 コウヅキキャピタルウエスト12階
TEL 0120-931-501(受付時間9:00~18:00)
FAX 06-6366-8771
事業内容 法人向け(法律顧問・顧問サービス、経営権紛争、M&A・事業承継、私的整理・破産・民事再生等、契約交渉・契約書作成等、売掛金等の債権保全・回収、経営相談、訴訟等の裁判手続対応、従業員等に関する対応、IT関連のご相談、不動産を巡るトラブルなど)、個人向け(交通事故・労災事故を中心とした損害賠償請求事件、債務整理・破産・再生等、相続、離婚・財産分与等、財産管理等に関する対応、不動産の明渡し等を巡る問題など)

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