「相手に逃げられる前に、財産を押さえたい」。そう思ったとき、多くの社長が最初に直面するのが、費用の問題です。仮差押という手続きがあることは知っている。でも、いくらかかるのか、その費用は戻ってくるのか、費用をかけても回収できなかったらどうなるのか——そこが見えないまま、判断を先延ばしにしてしまう。そうしているうちに、相手が財産を動かしてしまう。この記事は、そういった「判断できない」状態を解消するために書いています。 仮差押とは何か——「揉めてから使う」ではなく「揉める前に備える」手続き 仮差押とは、裁判で勝訴判決を得る前に、相手の財産(預金口座・不動産・売掛金など)を一時的に凍結する手続きです。なぜこれが必要かというと、裁判には時間がかかるからです。訴訟を起こして判決が出るまでに半年から1年以上かかることも珍しくありません。その間に相手が財産を隠したり、移転したりしてしまうと、勝訴しても「回収できない」という最悪の結果になります。 仮差押はいわば「財産の現状維持命令」です。相手の口座を凍結することで、裁判が終わるまでの間、回収できる状態を保つための安全装置です。ただし、この手続きには費用がかかります。その費用の中身を正確に理解することが、正しい判断につながります。 仮差押にかかる費用の全体像——3つの費用が発生する 【図解】仮差押とは何か——「揉めてから使う」ではへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 仮差押の費用は、大きく分けて3種類あります。それぞれの性質が異なるため、まとめて「費用」と捉えると判断を誤ります。 ①担保金(供託金) 仮差押で最も大きな金額になるのが、担保金(供託金)です。これは裁判所に預けるお金であり、「もし仮差押が不当だったときに相手に与えた損害を補償するための保証金」です。 担保金の相場は、仮差押えで押さえる金額(被保全債権額)の15〜30%程度が目安です。たとえば500万円の債権を保全したい場合、75万円〜150万円を裁判所に供託する必要があります。不動産や売掛金の仮差押えでは対象資産の性質によって割合が変わることもあります。 重要なのは、担保金は「費用」ではなく「預け金」という点です。仮差押が認められ、裁判で勝訴し、相手方との間で担保取消しの合意が成立するか、一定の手続きを経ることで、担保金は戻ってきます。ただし、手続きが長引けば手元から長期間離れることになるため、キャッシュフローへの影響を必ず考慮してください。 ②弁護士費用 仮差押の申立書の作成から裁判所との交渉まで、弁護士が担う作業は多岐にわたります。弁護士費用の相場は事務所によって異なりますが、一般的には着手金として15万〜30万円程度が多い水準です。案件の複雑さ(証拠の状況、相手の財産の種類と数)によって変動します。 仮差押は時間との戦いです。申立書の内容が不十分だと、裁判官から担保金を上乗せされたり、申立てが却下されたりするリスクがあります。弁護士費用を惜しんで自分で対応しようとすると、かえって時間と費用を無駄にするケースが少なくありません。 ③裁判所費用(印紙・予納金など) 裁判所に納める費用は比較的少額で、申立手数料(印紙)と郵便切手代が主です。申立手数料は数千円程度であることが多く、全体費用の中では小さな割合です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先135社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) なぜ費用の判断を誤るのか——社長が陥りやすい3つの思考パターン 仮差押の費用をめぐって、社長が判断を誤りやすいパターンがあります。この構造を理解しておくことが、正しい意思決定への第一歩です。 ①「担保金が戻ってくる」を忘れて「高すぎる」と感じてしまう 担保金は支出ではなく一時的な預け金です。しかし、直感的には「100万円以上を今すぐ用意しなければならない」という重さだけが残ります。この「出ていく感覚」と「戻ってくる事実」のギャップが、判断を鈍らせます。正確に言えば、担保金は回収が成功した場合にはほぼ戻ってきます。弁護士費用だけが純粋なコストです。 ②「裁判で勝てば費用は相手が払う」という誤解 民事訴訟では、弁護士費用は原則として「自分持ち」です。不法行為に基づく損害賠償請求において弁護士費用の一部が認められるケースはありますが、仮差押の費用全額が相手から回収できる保証はありません。費用対効果の計算をするときは、弁護士費用を自社が負担する前提で試算することが正確です。 ③「相手に財産があるか確認してから動く」と思って動けない 相手の財産を事前に完全に把握してから動くことはほぼ不可能です。口座の存在は取引実績や請求書の振込先から推測できることが多く、弁護士と一緒にどの財産を対象にするかを検討することで、申立てが可能になります。「確実になってから動く」と思っているうちに、相手が財産を移転してしまいます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先135社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 仮差押の費用対効果をどう判断するか——「金額」だけで決めない 仮差押の費用対効果を判断するときに使える基準を整理します。 費用対効果が高いケース: 相手の預金口座や不動産など、差押可能な財産が存在することがほぼ確実な場合 被保全債権額が100万円を超えており、回収が見込める場合 相手が財産を移転・処分するリスクが高い場合(取引先が突然連絡を絶った、代表者が行方不明など) 本案訴訟で勝訴の見込みが高い場合 慎重に検討すべきケース: 相手に差押可能な財産がない、または極めて少ない場合(過去に自己破産歴がある等) 債権額が少額で、担保金と弁護士費用を合わせると回収額を超えてしまう場合 証拠が不十分で、申立ての疎明資料が揃っていない場合 事例として、顧問先の建設業者から「400万円台の着手金を下請業者に支払ったが、孫請業者が持ち逃げして返還されない」という相談がありました。このケースでは、相手方法人・代表者個人双方の資産状況の調査を先行させ、差押可能な財産の有無を確認したうえで、仮差押の要否と費用対効果を判断しました。財産がなければ仮差押は意味をなしません。順番を間違えると費用だけがかかって終わります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先135社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、証拠が残っていなかったのか 仮差押の対応で失敗するパターンには、共通した構造があります。 「まだ話し合いで解決できると思っていた」 相手から「払う意思はある」「少し待ってほしい」という言葉をもらうと、多くの社長はその言葉を信じて待ちます。しかし、その間に相手は財産を移転したり、他の債権者に対応したりしています。相手の誠意を信じることと、財産保全の手続きを進めることは矛盾しません。「交渉しながら仮差押えも申し立てる」という選択肢があることを知っておいてください。 「証拠が不十分で申立てができなかった」 仮差押の申立てには、債権の存在と保全の必要性を「疎明」する必要があります。疎明とは、完全な証明ではありませんが、一定の資料を裁判所に提出して説明する必要があります。取引が口頭だけで行われていた、契約書がない、メールのやり取りが残っていないといった状況では、申立てが困難になります。 ある貸金返還請求の事案では、契約書は存在していたものの貸主名義が複雑で、さらに消滅時効が迫っているという状況でした。証拠の整理と時効完成の阻止を同時に進めることで、仮差押の申立てが可能な状態を作ることができました。証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。日頃の取引記録の管理が、いざというときの手続き可能性を左右します。 「被仮差押えになって初めて仮差押を知った」 立場が逆転するケースもあります。第一審で勝訴したにもかかわらず、相手方から逆に仮差押えをかけられ、1,000万円超の解放金(担保金の代わりとなる供託金)を供託せざるを得なくなり、資金繰りが悪化した事案がありました。このケースでは、保全異議の申立てが遅れたことが被害を拡大させました。仮差押えは「かける」だけでなく「かけられる」リスクも意識しておく必要があります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先135社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか——判断の順番 仮差押について社長が持つべき判断の順番を整理します。 回収すべき債権の証拠を確認する:契約書、請求書、メール、振込記録——これらが揃っているか確認します。揃っていなければ証拠収集から始めます。 相手の財産を把握する:取引口座、不動産の有無、売掛先などを確認します。弁護士と一緒に検討することで、申立て対象が見えてきます。 費用の試算をする:被保全債権額を基に担保金の概算(15〜30%)と弁護士費用の見積もりを取ります。回収見込み額と比較して費用対効果を判断します。 タイミングを見極める:相手が財産を移転するリスクが高まっているか、時効が迫っていないかを確認します。急を要する場合は今すぐ弁護士に連絡することが正解です。 本案訴訟と並行して進める:仮差押はあくまで保全手続きです。本案訴訟(支払督促・訴訟)と並行して進めることで、最終的な回収につなげます。 担保金が戻るタイミングと戻らないケース 担保金が戻るのは以下のタイミングです。 裁判で勝訴し、判決が確定した後に相手方が担保取消しに同意した場合 相手方が担保取消申立てをせず、法定の期間が経過した場合 仮差押を取り下げ、相手方が損害賠償請求権を行使しないことを確認した場合 逆に、担保金が戻らないリスクがあるのは、仮差押が不当と判断され、相手方から損害賠償を請求された場合です。仮差押は「申立ての内容が正当である」という前提のもとに行う手続きであるため、根拠の薄い申立てはリスクを伴います。 再発防止策——一度の対応で終わらせないために 仮差押を使う事態になった背景には、多くの場合、契約段階での対応不足があります。 契約書に支払条件・違約金・管轄を明記する:口頭合意や曖昧な書面では、仮差押の疎明が難しくなります。 取引記録を電子データで保存する:メール・チャット・注文書・納品書——これらが残っていることが、いざというときの証拠になります。 与信管理を徹底する:新規取引先の財務状況を事前に確認し、一定額以上の取引には担保や保証を求める体制を整えます。 早期に弁護士に相談する習慣をつける:「払ってくれない」と感じた時点で、弁護士に相談することが最も重要です。仮差押は時間が命です。 仮差押の対応は一件対応しても、次の取引先トラブルは必ずやってきます。重要なのは「その都度の対応」だけではなく、契約書のひな型整備・与信管理ルールの策定・証拠保全の社内ルール化まで、継続的な体制を整えることです。弁護士法人ブライトの顧問サービス「みんなの法務部」では、仮差押の申立てだけでなく、その前後の予防策と再発防止策を一貫してサポートしています。顧問先135社の実名を公開し、企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが、日頃から社長の判断に寄り添います。取引トラブルが起きるたびに「どこに相談すればいいかわからない」という状態をなくすことが、会社を守ることの本質です。 よくある質問(Q&A) Q1. 仮差押の担保金はいくら用意すればいいですか? 目安は被保全債権額(押さえたい金額)の15〜30%です。500万円の債権であれば75万〜150万円程度が目安ですが、差し押さえる財産の種類や裁判所の判断によって変動します。事前に弁護士と試算しておくことで、資金の準備が間に合います。 Q2. 担保金は最終的に戻ってきますか? 原則として戻ってきます。裁判で勝訴し、相手方との間で担保取消しの手続きが完了すれば、供託した担保金は返還されます。ただし、手続きが完了するまでの間、資金は手元から離れます。仮差押が不当と判断されたケースでは戻らないリスクがあります。 Q3. 相手の財産がわからないと仮差押はできないですか? 完全に把握している必要はありません。取引口座(振込先)や不動産登記情報などから差押対象を特定することができます。弁護士と一緒にどの財産を対象とするかを検討することで、情報が限られている状況でも申立てが可能になるケースがあります。 Q4. 仮差押をかけられたとき(被仮差押え)はどうすればいいですか? すぐに弁護士に相談してください。保全異議申立てという手続きを通じて、仮差押の取消しや担保(解放金)の引き下げを求めることができます。対応が遅れると、長期間にわたって口座や財産が凍結される状態が続きます。保全異議の申立期間は短期間であることが多いため、早期対応が不可欠です。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 仮差押への対応・取引先との債権回収・契約トラブルなど経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先135社の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、135社の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先135社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料)