「試用期間だから、合わないと思ったら辞めてもらえる」——採用面接を終えたあと、そう思っていませんか。実はこの思い込みが、後になって会社を深刻なトラブルに引きずり込む起点になることが少なくありません。
採用から数か月が経ち、「この人、やっぱり違うな」と感じたとき、社長はどう動けばいいのか。「試用期間が終わる前に話をする」「書面で通知する」——そこまでは思い浮かんでも、何を根拠に、どんな証拠を残して、どの手順で進めるかまで整理できている会社は、実は多くありません。
この記事では、試用期間中の解雇・本採用拒否がどんな法的リスクを孕んでいるのか、そして社長がどう判断を組み立てればいいのかを、現場感覚でお伝えします。
「試用期間ならクビにできる」は半分しか正しくない
まず前提を整理します。試用期間中の従業員を解雇したり、本採用を拒否したりすることは、通常の解雇より「少し広い裁量が認められている」というのが法律の立場です。
しかし「自由にできる」わけではありません。裁判所は試用期間中の本採用拒否についても、合理的な理由と相当な手続きがなければ無効と判断しています。「試用期間中だから」という理由だけで解雇が通ることはなく、「採用時には知れなかった事情が後から明らかになった」「能力・適性が客観的に不十分だった」という実質的な根拠が必要になります。
つまり社長が直面する問いはこうです——「この人を本採用しない理由を、客観的な事実で説明できるか」。ここが問われる場面がきたとき、証拠も記録も残っていない会社は非常に苦しい立場に立たされます。
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なぜ判断ミスが起きるのか。構造を理解する
【図解】「試用期間ならクビにできる」は半分しか正への対応フロー
※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。
試用期間のトラブルには、繰り返されるパターンがあります。社長や現場マネージャーが問題に気づいていながら、なかなか動けない理由は主に三つです。
- 「もう少し様子を見よう」で時間が過ぎる:問題行動を把握していても、人間関係への配慮や「改善するかもしれない」という期待から、記録を取らずに様子見が続く。
- 「試用期間だから大丈夫」という油断:試用期間中は自由に辞めさせられるという誤解が根強く、正式な手続きや記録を省いてしまう。
- 「言った・言わない」の状態で動いてしまう:口頭で注意や指摘をするだけで、書面を残さないまま本採用拒否を告げる。結果として「そんな指摘は受けていない」という反論を許す余地が生まれる。
こうした判断ミスの根底には、「試用期間は特別扱いでいい」という思い込みがあります。しかし労働法の世界では、試用期間も雇用契約の一形態です。揉めてから弁護士を探すのではなく、揉めないための手順を最初に設計しておくことが、トラブルを根本から防ぎます。
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問題が起きる前にできること——予防の設計
試用期間のトラブルを防ぐには、採用の「入口」から設計を見直す必要があります。具体的には次の三点が重要です。
① 試用期間の定め方を就業規則に明記する
試用期間の長さ、延長の可否、本採用拒否の判断基準——これらが就業規則に明記されていない会社は少なくありません。試用期間中に「もう少し見たい」と思ったときに延長できる根拠を就業規則に持っておくことは、判断の幅を広げるうえで重要です。
② 本採用の判断基準を入社時に従業員と共有する
「どのような能力・態度・実績が求められるか」を入社時に明示しておくと、後の本採用拒否の際に「聞いていなかった」という反論が出にくくなります。評価の軸を言語化し、書面で残すことが重要です。
③ 試用期間中の面談記録を定期的に残す
問題があると感じた時点で、面談を実施し、その内容を記録として残す。注意・指摘・改善指導の事実を文書化しておくことが、万一の際の唯一の根拠になります。証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。
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問題が発生したときの対応フロー——証拠をどう残すか
試用期間中に「この人は合わない」と判断した場合、次のステップで動くことが重要です。
- 事実の整理:どのような問題行動・能力不足があったか。具体的な日時・内容・対応者を記録する。
- 改善指導の実施と記録:問題を伝え、改善を求めた事実を書面で残す。口頭注意だけで終わらせない。
- 改善の経過を記録する:指導後に改善されたか、されなかったかを時系列で記録する。
- 本採用拒否の判断と通知:改善が見られない場合、本採用拒否または試用期間中の解雇を書面で通知する。
- 解雇予告または予告手当の準備:採用から14日を超えている場合は、解雇予告(30日前)または解雇予告手当が必要になります。
この流れで特に大切なのは「2」と「3」です。指導した記録がなければ、「突然解雇された」という主張を覆すことが非常に難しくなります。社内のメール・チャットのやり取り、面談メモ、業務報告書——すべてが証拠になり得ます。日々の記録が、いざというときの会社の守りになります。
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失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、なぜ証拠がなかったのか
顧問先から寄せられる相談の中には、「試用期間が終わった後に問題社員への対応を相談したい」というものがあります。この段階での相談には、ある共通の構造があります。
相談が遅れる理由の典型例:
- 「試用期間中だからまだ大丈夫」と思い、対応を先送りしていた
- 問題に気づいていたが、直接言い出しにくく、現場マネージャーが抱え込んでいた
- 「改善するかもしれない」という期待を持ち続け、試用期間が終わってしまった
証拠がない理由の典型例:
- 注意・指摘をすべて口頭で済ませていた
- 面談を実施していたが、内容を記録していなかった
- 「問題がある」とは感じていたが、具体的な事実として記録していなかった
こうした状況で本採用拒否を告げると、元従業員から「不当解雇だ」として労働審判・訴訟に発展するケースがあります。そのとき、会社が「問題があった」と主張しても、裏付けとなる証拠がなければ、主張は通りません。
試用期間の問題に限らず、労働問題は「紛争になってから証拠を作ろう」としても手遅れです。証拠は日常業務の中で積み上げるものです。
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うちの会社ではどう考えればいいのか
「うちは小さい会社だから、そこまで厳密にやらなくていい」——この考え方が、実はもっとも危険です。労働審判や訴訟の相手方として選ばれやすいのは、むしろ法務体制が整っていない小規模・中規模の会社です。
では、現実的にどこから始めるか。まず次の問いに答えてみてください。
- 今の就業規則に、試用期間の定め・延長の可否・本採用拒否の基準が明記されているか?
- 試用期間中の従業員に対して、評価の基準を文書で伝えているか?
- 問題が生じたとき、面談・指導の記録を残す習慣があるか?
- 「この人は難しいかもしれない」と感じたとき、すぐに相談できる先があるか?
これらの問いに一つでも「ノー」があるなら、今が見直しのタイミングです。試用期間の仕組みは、採用の失敗を最小コストで修正するための唯一の合法的な設計です。その設計を正しく整えておくことが、採用リスクを根本から下げます。
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再発防止策——一度の対応で終わらせない仕組みの作り方
試用期間のトラブルを一度経験した会社は、「次からは気をつけよう」と思います。ただ、個人の注意だけでは再発を防ぐことはできません。仕組みとして整えることが必要です。
- 就業規則の整備:試用期間の定義・延長要件・本採用判断基準を明記する
- 採用時の書面交付:試用期間中の評価軸・改善指導の可能性を労働条件通知書や別紙で伝える
- 定期面談の制度化:試用期間中に月1回以上の面談を設け、その内容を記録するフォーマットを整備する
- 問題が生じた際のエスカレーションルール:現場マネージャーが抱え込まないよう、社長・人事・法務(顧問弁護士)に連携する流れを決めておく
再発防止の核心は「記録する文化」を会社に根付かせることです。日々の小さな記録が、数か月後に会社を守る盾になります。
試用期間中の解雇・本採用拒否は、単発の問題として処理するより、採用・定着・人事評価という一連の労務管理の流れの中で設計し直すことで、根本的なリスクを下げることができます。弁護士歴平均14年以上の弁護士が顧問先130社以上の実名を公開して向き合っている弁護士法人ブライトでは、就業規則の整備から試用期間中の日常的な相談対応まで、継続的にサポートする体制を整えています。問題が起きてからではなく、起きないための仕組みを一緒に作ることが、もっとも確実で低コストなリスク管理です。相談すればするほど強くなる——それが顧問弁護士を「みんなの法務部」として活用することの本質です。
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よくある質問(Q&A)
Q1. 試用期間は何か月に設定すればいいですか?
法律上の定めはなく、会社が就業規則で自由に設定できます。実務的には3か月または6か月が一般的です。ただし、あまり短すぎると適性を十分に見極める前に期間が終わってしまうリスクがあります。また、試用期間を延長する場合は、就業規則に延長できる旨の根拠規定が必要です。
Q2. 試用期間中の解雇と本採用拒否は何が違いますか?
試用期間中に雇用契約そのものを終了させるのが「試用期間中の解雇」、試用期間終了時に正社員としての採用をしないと通知するのが「本採用拒否」です。いずれも相当な理由と手続きが必要ですが、本採用拒否は「採用時に知れなかった事情が明らかになった場合」という枠組みで判断されます。採用から14日超の場合はどちらも解雇予告が必要です。
Q3. 「試用期間を延長する」とだけ伝えれば問題ありませんか?
就業規則に延長の根拠があること、延長の理由と期間を本人に書面で伝えること、の両方が必要です。口頭で「もう少し見させてほしい」と伝えるだけでは、後に「延長は無効だった」「その後の解雇も無効だ」という主張を受けるリスクがあります。
Q4. 試用期間中に問題が発覚したら、すぐに解雇してもいいですか?
即時解雇が認められるのは、重大な非違行為(経歴詐称・犯罪行為など)が判明した場合に限られます。業務能力や勤務態度の問題であれば、指導・改善の機会を与えたうえで判断することが原則です。手順を踏まずに即時解雇した場合、後の争いで不利になる可能性が高くなります。
当事務所が参考にした実務書
当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。
- 『労働契約法の実務』 — 岩出誠/民事法研究会/2016年/分類:条文逐条解説書
- 『解雇・退職をめぐる法律実務』 — 向井蘭/労働調査会/2020年/分類:Q&A形式の実務解説書
- 『問題社員への法的対応の実務』 — 石井妙子 編著/新日本法規出版/2021年/分類:マニュアル・チェックリスト型
- 『採用・退職・解雇の法律実務ハンドブック』 — 岡芹健夫/日本法令/2022年/分類:Q&A形式の実務解説書
- 『就業規則の作り方・変え方』 — 吉田肇/中央経済社/2021年/分類:マニュアル・チェックリスト型
※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。
参考裁判例
当事務所では本テーマに関する最新の裁判例を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした裁判例を以下に紹介します。
- 最高裁昭和48年12月12日「三菱樹脂事件」(最大判昭和48年12月12日・民集27巻11号1536頁)
要旨: 試用期間中の留保解約権行使は、通常の解雇より広い範囲で認められるが、解約権の行使には客観的合理的理由が必要とされた。 - 最高裁昭和35年3月11日「日本鋼管事件」(最判昭和35年3月11日・民集14巻3号403頁)
要旨: 試用期間中は本採用後の解雇より緩やかな基準で解雇できるが、客観的・合理的根拠が必要とした。 - 東京地判平成13年8月10日「ブルームバーグ・エル・ピー事件」(東京地判平成13年8月10日・労判820号74頁)
要旨: 能力不足を理由とする本採用拒否について、指導・改善の機会を与えたかどうかが重要な考慮要素とされた。 - 東京高判平成8年7月31日「オープンプランニング事件」(東京高判平成8年7月31日・労判700号28頁)
要旨: 経歴詐称を理由とする試用期間中の解雇について、詐称内容が採用判断に重大な影響を与える場合に解雇を有効とした。 - 大阪地判平成19年3月30日「フォード・ジャパン・リミテッド事件」(大阪地判平成19年3月30日・労判944号69頁)
要旨: 試用期間延長について、就業規則の根拠と本人への事前告知がなければ無効と判断した。
※ 裁判例情報は公開情報をもとにした参照情報です。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。
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