顧問弁護士とM&A|買収前に確認すべき法務リスクと失敗しない進め方

顧問弁護士とM&A|買収前に確認すべき法務リスクと失敗しない進め方

「いい話が来ているけど、どこまで信じていいのかわからない」「買ってから問題が出てきたら怖い」——M&Aの話が持ち込まれたとき、社長の頭の中にはそんな言葉になりきっていない不安が広がります。仲介業者は「大丈夫です」と言う。相手方の社長も誠実そうに見える。でも、何かが引っかかる。その「引っかかり」を法務の視点から整理して、判断に変えるのが顧問弁護士の仕事です。

この記事では、M&Aをめぐる法務リスクの構造と、顧問弁護士が果たすべき役割を、実際の相談事例の構造を踏まえながら解説します。

M&Aで「買ってから後悔する」のはなぜ起きるのか

M&Aの失敗に共通するパターンがあります。それは、「問題が存在していたのに、買収前に発見できなかった」ということです。しかし、これは単なる情報不足の問題ではありません。

仲介業者は成約によって報酬を得る構造です。善意であっても、リスクを小さく見せるバイアスがかかりやすい。相手方の社長も、自社の問題をすべて正直に開示するインセンティブはありません。「言わなくても聞かれなければいい」という意識が働くことは珍しくない。

そして買い手である社長は、事業の可能性やシナジーに目が向きがちです。「この会社を買えば自社が強くなる」という期待の中で、足元のリスクを過小評価してしまう。これは経営者として間違いではなく、むしろ自然な心理です。

問題は、この「期待と現実のギャップ」を埋める仕組みが整っていないことです。その仕組みこそが、法的デューデリジェンス(DD)であり、顧問弁護士の役割です。

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M&Aで発覚しやすい法務リスクの四類型

買収後に発覚して問題になるリスクには、大きく四つの類型があります。顧問弁護士はこれらを買収前に洗い出す役割を担います。

① 労務リスク

未払い残業代、不適切な雇用契約、就業規則の未整備、問題社員の存在——こうした労務上の問題は、表面上の財務数字には現れません。特に中小企業では、勤怠管理がルーズだったり、雇用契約書が整備されていないケースが多くあります。買収後に元従業員や現従業員からの請求が来て初めて気づく、というケースは実際に相談として数多く寄せられています。

② 契約上のリスク

取引先との契約に「チェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)」が入っていて、株主が変わると契約が解除できる規定になっている場合があります。主要な取引先との契約がM&Aを機に打ち切られる、というリスクです。このほかにも、リース契約や保証契約の問題、知的財産権の帰属問題なども契約書の精査なしには発見できません。

③ 訴訟・紛争リスク

潜在的な訴訟リスクや未解決の紛争が存在することがあります。取引先との未解決の紛争、元役員との係争、許認可に関する行政上の問題なども含まれます。

④ 簿外債務・表明保証リスク

貸借対照表に現れない債務が存在することがあります。連帯保証、保証債務、偶発債務など。売主がこれらを「開示しなかった」場合、表明保証違反として損害賠償請求できる可能性がありますが、それでも買収後の混乱は避けられません。

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買収前にできること——顧問弁護士の予防的役割

M&Aにおける顧問弁護士の最大の価値は、問題が起きてから対処するのではなく、問題になりうる事実を買収前に発見し、交渉力に変えることです。

法的DDの実施が中心的な作業になります。対象会社の契約書類、登記情報、許認可、労務関係書類、訴訟履歴などを一通り確認し、リスクを洗い出す。発見されたリスクは「買収価格の引き下げ交渉材料」にもなりますし、「特定のリスクについて表明保証させる」「クロージング前に是正させる」という条件交渉にも使えます。

また、株式譲渡契約書(SPA)の作成・レビューも重要です。特に表明保証条項、補償条項(インデムニティ条項)、競業避止義務条項の設計は、買収後のトラブル対応の明暗を分けます。仲介業者が用意した雛形をそのまま使うのは危険です。誰の立場で作られた書類かを見極め、自社に有利な条件を織り込む必要があります。

さらに、現経営者が一定期間残る場合には、経営統合後の役割・報酬・退場条件を明確にしておくことも必要です。「任せる」と言ったはずが経営方針でぶつかる、という問題は少なくありません。

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問題発生時の対応フロー——証拠をどう残すか

それでも問題が発生することはあります。買収後に簿外債務が発覚した、労務問題が出てきた、相手方の表明保証に虚偽があった——そうした局面での対応フローと、証拠の残し方を整理します。

第一段階:事実の記録と証拠保全。問題が発覚した時点で、いつ・誰から・何の情報を受け取ったか、どのような事実を確認したかを時系列で記録します。「言った・言わない」の争いになったとき、後から証拠を作ることはできません。メール、チャット、契約書の交付履歴など、電子的な記録を保全してください。

第二段階:表明保証違反の通知。株式譲渡契約に補償請求の期限が設定されていることが多い(クロージングから1〜2年など)。この期限を過ぎると請求権を失う可能性があります。問題を発見したら、速やかに顧問弁護士に連絡し、通知期限の確認と補償請求の検討を始めます。

第三段階:交渉か法的手続かの選択。補償請求の交渉が成立するケースもあれば、訴訟に発展するケースもあります。いずれにせよ、「まず内部で解決しようとして時間が経過し、後で弁護士に相談したら手遅れだった」という構造が最も損害を大きくします。

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失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、証拠が残らなかったのか

M&Aに関する相談の中で、対応が遅れて損害が拡大したケースに共通する構造があります。

「弁護士を入れると相手が警戒する」という思い込み。「いい話が動いているときに弁護士を入れるとギクシャクする」と感じる社長は少なくありません。しかし実際には、買い手がしっかり法務を整えていることは相手方にとっても安心材料になります。プロ同士での交渉が整理されたプロセスを生みます。

「急いでいるから後でいい」という先送り。「来週には買収提案をしなければいけない」というタイムプレッシャーの中でDDを省略してしまうケースがあります。しかし、DDが不十分なまま強行した買い手は、後で表明保証違反を主張しても「知っていた可能性がある」として請求が制限される場合もあります。急いでいるときほど、最低限の法務確認を並行して進める必要があります。

「信頼できる相手だから書面にしなくてよい」という油断。口頭での合意、メッセージアプリでのやり取り——これらは後で「そんな話はしていない」と言われたとき、立証が困難になります。M&Aは金額が大きいほど、証拠の精度が争いの結果を決めます。

なお、事業譲渡が途中で撤回されたケースでは、経営者や従業員の立場が宙に浮き、誰の指揮命令に従うべきかすら不明確になる事態も起きています。そうした混乱を防ぐためにも、プロセスの各段階で書面を残すことが不可欠です。

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うちの会社ではどう考えればいいのか——規模別の整理

「大企業向けの話であって、うちには関係ない」と感じる社長もいるかもしれません。しかし、中小規模のM&Aほど、法務の整備がされていないまま進みやすく、むしろリスクは高い傾向があります。

売上数億〜十数億円規模の会社を買う場合。DDは最低限でも、登記確認・主要契約書の確認・労務関係書類の確認・訴訟履歴の確認は行うべきです。仲介業者が提供する情報シートだけでは不十分です。顧問弁護士に「最小限のDDをどこまでやれるか」を相談してください。

自社を売る立場の場合。買い手から表明保証を求められたとき、何を保証し何を保証しないかは、後の補償請求リスクに直結します。売り手側にも顧問弁護士のサポートが必要です。

事業譲渡(株式ではなく事業を売買する)の場合。株式譲渡と異なり、どの資産・契約・従業員を移すかを個別に決める必要があります。労働契約の承継、取引先への通知、許認可の引き継ぎなど手続きが複雑になります。

いずれの規模・スキームでも、「弁護士にいつ相談するか」の答えは、話が動き始めた段階です。契約書のレビューだけを依頼する、というやり方ではなく、交渉の初期段階から伴走する形が最もリスクを減らします。

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再発防止策——次のM&Aを「判断できる状態」で迎えるために

一度のM&Aを経験した社長が「次は同じ失敗をしない」と思っても、仕組みがなければ同じことが起きます。再発防止は「教訓を覚えておく」ことではなく、会社の意思決定プロセスの中にチェックポイントを埋め込むことです。

  • M&A検討の初期段階で顧問弁護士に連絡するルールを決める
  • 仲介業者・FA(ファイナンシャルアドバイザー)からの資料を受け取ったら、必ず弁護士と共有する
  • DDチェックリストを顧問弁護士と一緒に作成し、スキームごとに更新する
  • 株式譲渡契約・事業譲渡契約の雛形を自社用に整備しておく
  • クロージング後のPMI(統合プロセス)の段階でも法務確認のタイミングを設ける

M&Aは「一度やって終わり」ではなく、成長戦略として繰り返し活用していく手段です。その都度、最初から弁護士を探すのではなく、自社の状況をよく知っている顧問弁護士が最初から動ける体制を作っておくことが、判断の質と速度の両方を上げます。

M&Aは一件対応すれば終わりではなく、統合後の労務問題・契約トラブル・競業避止義務違反など、次々に新たな法務課題が発生します。重要なのは”その都度の対処”ではなく、M&A関連の社内規程やチェックリストを整備し、どの段階で誰が何を確認するかを仕組みとして持つこと。顧問弁護士がいれば、案件の初期相談からDD、契約書レビュー、統合後の継続フォローまで一貫して支えることができます。弁護士法人ブライトは顧問先130社以上に、弁護士歴平均14年以上のチームが「みんなの法務部」として、M&Aの各フェーズで経営者の判断を支えています。

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よくある質問

Q. 顧問弁護士がいなくてもM&Aはできますか?

A. 仕組みとしては可能ですが、リスクは高くなります。仲介業者が用意する契約書は中立でない場合があり、DDが不十分なまま進むと買収後に重大な問題が発覚することがあります。特に初めてのM&Aでは、顧問弁護士に早期から関与してもらうことで、リスクの見落としと交渉上の不利を防ぐことができます。

Q. M&Aの相談はいつ顧問弁護士に伝えればいいですか?

A. 話が動き始めた段階、できれば守秘義務契約(NDA)を締結する前後のタイミングが理想です。「契約書の最終レビューだけ依頼する」というやり方では、その前の交渉過程で生じたリスクに対処できません。早ければ早いほど、顧問弁護士が介入できる範囲が広がります。

Q. 小規模なM&A(数千万円〜1億円程度)でもDDは必要ですか?

A. 必要です。金額が小さいからこそ、問題が発覚したときの影響が会社全体に対して相対的に大きくなる可能性があります。全項目のDDが難しい場合でも、労務・主要契約・訴訟履歴の確認は最低限行うべきです。顧問弁護士と「どこまでやるか」を相談して優先順位をつけることが重要です。

Q. 事業譲渡が途中でトラブルになった場合、どうすればいいですか?

A. まず、現時点でどのような書面・合意があるかを整理することが先決です。口頭合意のみで進んでいるケースでは、証拠の保全が重要になります。相手方がすでに動き始めている場合(従業員を取り込む、顧客に接触するなど)には、仮処分など緊急の法的手続きが必要になることもあります。早急に顧問弁護士に状況を共有してください。

参考裁判例

当事務所では本テーマに関する最新の裁判例を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした裁判例を以下に紹介します。

  • 最高裁判所第三小法廷 平成24年2月29日「損害賠償請求事件」(平成23年(受)第693号)
    要旨: 交渉の一方当事者が信義則に反する方法で交渉を打ち切った場合に締約前責任として損害賠償責任を負う可能性がある。
  • 東京地方裁判所 平成25年3月14日「損害賠償請求事件」(平成23年(ワ)第36177号)
    要旨: 株式譲渡契約において売主が提示した財務情報に重要な誤りがあった場合に表明保証違反として損害賠償義務を負う。
  • 大阪高等裁判所 平成19年6月7日「損害賠償請求控訴事件」(平成18年(ネ)第2199号)
    要旨: デューデリジェンス不十分のまま株式取得を強行した買主は売主への表明保証違反の主張を制限される場合がある。
  • 東京地方裁判所 平成28年3月9日「株式売買代金請求等事件」(平成26年(ワ)第24499号)
    要旨: 買収後に発覚した簿外債務について、表明保証条項と損害賠償条項の解釈が問題となった事案。
  • 東京高等裁判所 令和4年2月10日「損害賠償請求控訴事件」(令和3年(ネ)第1509号)
    要旨: M&A後の簿外債務・未払賃金について売主の表明保証違反が認定され、損害賠償が認められた事案。

※ 裁判例情報は判例秘書INTERNETから取得した参照情報です。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。


和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士

弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒

専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生

M&Aに関わる法務リスクの管理・デューデリジェンス・契約書レビューなど、企業の成長判断を継続的にサポートできる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上に、弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00)

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本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
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